かみの子の作り方2
空中に突如投げ出され大ピンチだったが、時間の流れはなぜかゆっくりと感じられた。なんとかして激突だけは避けたいと考えた。
(よけれんし、ちょっと無理じゃね?)
そう思ったそのとき、突如、ひらめいた。というか、現実逃避にはしった。
(そうだ、ここは、水中だと思うんだ。空気が水のように粘度が高くなれば、落下のスピードが落ちて、体はゆっくり地面に向かって沈むはずだ。そうだ。それで助かるはずだ。空気に粘り気を出せばいい。それだ)
かつて神社で神様にお願いした時の10倍くらいの強さで念じた。その結果、
バチーン
突如、音がした。そして、顔に痛みが走った。
なぜかわからないが、神様が願いを聞き届けてくれたのか、岩には叩きつけられず体が急停止した。空中で突如液体のようなものに顔から叩きつけられた。
「は、、、はらうちか、、、」
水に飛び込むイメージを想像していたこともあって、そうつぶやきが出た。実際に水が出たわけではないので、呼吸は特に問題なかったが、衝撃で意識がとんでしまう。
ぶくぶく
そして、粘り気のある空気の中を地面に向かってゆっくりと沈んでいった。
一方で、赤ん坊を抱えて走っていた女は、つまずき、投げ出してしまったあと、地面に手をついて倒れこんでしまった。
あわてて起き上がったが、投げ出した子供の先に岩があるのが見える。一直線に岩に向かって飛んでいく様子から、このままでは叩きつけられることがわかる。思わず茫然としてしまった。1秒とたたず、悲劇が起こる。
重症か、下手すると死んでしまうかもしれないと思い、動くこともできず、ただ見ているしかできなかった。
しかし、あと数mで岩にぶつかるとなった時点で、『バチン』と音がし、赤ん坊は急速に空中で停止する。そのまま、真下の地面に向かって、ゆっくりと降りていく。
ほどなく、地面にたどり着き、そのまま赤ん坊は地面に横たわった。
「あっ」
何が起こったのかわからないまま、はっとして、女は立ち上がって赤ん坊のもとに駆け寄ろうとしたが、先ほどつまづいたとき、片足をひねってしまったらしい。足首に激痛がはしった。
なんとか立ち上がり、足を引きずるようにして、赤ん坊のもとにたどり着いた。
赤ん坊は顔が少し赤くなっているように見えるが、見た目は特に怪我もなく、胸も上下し呼吸もしている。まるで何事もなく、ただ眠っているだけのように見えた。
気を取り直して、拾ったかごに赤ん坊を入れ、再び走り出そうとした。しかし、先ほどくじいた足がひどく痛むのか、走るというのは難しそうだ。かろうじて、びっこを引きながら歩けるだけだ。痛みを我慢しながら、なんとか進んでみた。
歩いて数分がたったころ、赤ん坊も意識が戻った。再びかごに入れられ運ばれているようだ。しかし、それも間もなく女は急に立ち止まり、うずくまってしまった。
少し何か考えていたようだったが、道沿いの大きな木の根元に俺を運んでいった。そこで、女は急に厚紙のようなものを荷物入れから取り出し小型の箱を作る。
そして、かごの中身の布団と赤ん坊自身、何やら布に包まれたものを底に押し込み、その箱を道沿いの大きな木の根元に隠れるように置いた。
女性は水を飲ませてくれたあと、10秒ほど自分を見つめ、意を決したような顔をして、からになったかごだけを持ち、再びゆっくりと足を引きずりながら歩いていってしまった。
(え、俺はこんなところに1人で残されたのか?いったいどういうこと・・・?)
と思う。とまどいながらもどうすることもできず、そのまま箱の中にいた。
大きく声を出してみようかとも思ったが、もし、うまく人に見つけてもらえるかもわからないのに、うかつに声を出すのもためらわれた。
数分ほどまわりの様子を伺う。時間帯なのか場所のせいなのか、木などが切りはらわれているから道路のようだけど、その間は誰も通りかからなかった。紙箱のなかからぼーっと外を眺める。
(日が暮れてきたかなぁ、このままって、まずくないか。)
そんなことを考えながら、さらに数分たつと、
ザシッ、ザシッ、
砂を蹴るような音が聞こえてきた。音がどんどん近づいてくる。
(これは、気づいてくれるか?どうしよう)
と、考えている間に、すぐそばで音が聞こえ、そして、そのまま通り過ぎていった。
(しまった。ま、待って・・・)
と思ったが、すでに遅く、遠ざかっていくのが見えるだけだった。
(なんか、馬?にのった人のように見えたけど・・・、あの速さじゃ気づかないか。)
行ってしまうと、再び静けさが戻ってきた。まわりは、鳥の鳴き声なども聞こえない。徐々暗くなってきて、不安もつのってきた。
(これは、どうにかしないといけないのでは?といって、どうしたものか)
と思い始めた。焦りが募るが時間が過ぎていくばかりだ。。
感覚で30分くらいか?ただひたすら、待つだけだったので長く感じたが、実際はもう少し短かったかもしれない。再び、かすかな音が聞こえてきた。
ザ、ザ、ザ、
音はゆっくりと近づいてくる。なにやら、話し声のようなものも聞こえる。その声はすぐそばまできた。
(ここで、気づいてほしい。こっちに気づけ)
そう強く念じてみたものの、特に何もなく、声はすぐ真横まできた。
人の姿が見えた。歩いている人が2人。この2人も女性のように見える。すぐ横を通り過ぎ、そのまま遠ざかっていこうとしていた。
「ま、まって、まってくれー」
さすがに、見過ごすこともできず、出せる限りの声を出してみた。そして、
(ここ、ここにいるから、何かめだつもの。光、光があたるとか)
と強く光を出そうと思い、気づいてくれるように期待した。