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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
389/441

複製の仕方 5

366

 顔に向かって切り付けられ、咄嗟に出した腕を切り落された。


 同時に習慣というのはすごいのか、瞬時に冷静になった。まずは切れ味が素晴らしく、よく手入れされていると思い直しつつ痛み止め、続けてこのチャンスを最大限に活かす。


 切り飛ばされたらすることは決まっている。


「紐ステイシス」


 糸で血管を縛る要領で血止め、続いてあらぬ方向に飛んでいこうとする腕を捕まえ、肘の方向に押さえつける。


「な、なんでだ。なんで腕が飛んでいかないんだ? お前見ただろ? 明らかに剣が一回りしたよな?」


「さ、さぁ? どうだっけ? 切ったふりか?」


「だが、床には血痕があるぞ。腕が離れたように見えたが」


 男達は驚いている。もちろんさすがに瞬間では十分にくっつかないが、可能な限りそう見せている。切り離された部分が飛んでいかないように押さえつけているだけだが、傍から見たらどう見えるかを何度も確認した。


 一方でサラリスの目からはうろたえる感じがなく、何をしたかわかっている気がする。一瞬動きを止めたが、即座に打ち込みを再開し、それに合わせるようにプヨンも切られた左腕を右手で押さえつけながら避け続ける。


 もとの部材、それも新鮮切りたてがあるから治りが早い。断面の接合『スツレ』を使うだけでいいはずだが、それでも多少の時間は必要だ。接合強度が不完全で、ある程度治ったが激しく動かせるところまではいっていない。


 ズバッ


「しまった」「どうよ」


 ズバッ


 サラリスが得意げな顔に気を取られ、返す斬り筋で二度切りされた。


「うぉー、ま、また切られたぞ。おーい、大丈夫かー?」


 心配の声が上がるが本気でないのはすぐわかる。酒を片手にした見学者に言われると、何かの余興に思われてそうだ。どう考えても心配ではなくどうなるのかの好奇心に近い。


 何度かフェイントも入って技ありを取られた。おまけに片手でかばいながらでは反応が鈍く、数回避けたタイミングで右腕も切られた。


「サラリスはまったく遠慮がないひどい奴だ」


「そう? そんなにひどいなら、床に倒れちゃえば? そこで手打ちにしてあげる」


「そういうところは嫌いではないかな。どちらが床に倒れちゃうかは知らないが」


 いつの間にかサラリスはけっこう本気モードになっている。それでもサラリスなりに線を引いているはずと信じている。


 続けて右足も膝から下を切られた。切れ味がいいのか骨ごとスッパリだ。そこそこ痛いが、強く力を入れることで血止めと痛み止め作用が働き、いつもの訓練程度の痛みだ。


 もっとも耐えられはするが、いつまでも付き合う必要もなく、そろそろ次の展開に進もうと思った。 


 とりあえず思いつく方法は、以前に『シャツハン』と称して疑似兵士もどきを作ったがこの応用だ。浮遊剣操作と同様、自分の切られた手を一本、サラリスに向かわせた。


ビュン、「ひゃっ」


 見えない角度からではあったが、プヨンが繰り出したボディーブローはサラリスにうまく避けられたが、バランスを崩して手をついた。

 

「こ、これは?」


「ふ。フライブロー的な攻撃だ、もう一発喰らえ」


 片手を飛び回らせてサラリスの気を逸らす。その間に残りの手足の怪我を全力で治療するため一度大きく引いたが、そこを読まれていた。サラリスが大きく剣を振りかぶった。その視線の先にあるのがプヨンの首だ。


 まだやるのか? それともパフォーマンスなのか。さすがにプヨンでも首は切れたじゃすまないが、威嚇でここまでやるのはありなのか悩む。


 プヨンとサラリスの限界基準が違う。それに手首足首4つに加え、これ以上首を切られるわけにはいかない。


「どう? プヨン、もうこれ以上手足は出せないでしょ? 負けを認める?」


「え? 降服しろというのか? いつから勝負になったんだ?」


「勝てる時は一気に行くわよ。今までの借り、まとめて返すわ」


 サラリスが振りかぶり、ルビーの剣先が光る。


 だが同時にプヨンの左手治療は完了した。指も動く。背中に背負っていた棍、プラネット・ドワーフを掴んで前に引き寄せ、サラリスの剣をはじいた。驚くサラリスから一気に余裕が失われる」


「え? 手は? いつもより早すぎない? まだ10秒ほどでしょ」


 向こうから『なんだそりゃ』『ありえねー』という男達の声も聞こえる。


 プヨンの持つ超重量棍は、ちょっとものが当たったくらいでは質量差でびくともしない。だが知らない者には理由がわからず、プヨンが封じているように見える。


 サラリスが不意におかしな動きをした。


「ちょっと、これでも受け取りなさいな」


「うぁっと、また火球かよ」


「ま、股って言った? ねぇ、股っていったの? なんて品性のない」


「???」


 意味不明な発言だが、何故だかサラリスの火球の温度が上がる。しかも連射。


 危ないことこの上ない。周りに迷惑をかけないよう、丁寧に熱をひき低温処理を施していく。


「ムーキー、なんでいつも炎が消えるー、あたれー」


「そんなこと言っても当たると熱いよ」


 そう言いつつ気づいた。さっきからかなり本気になっていたせいかかなり酷使した反動で火球の温度が下がりだす。


「ほらほら、どうした? 限界?」


 プヨンが煽るが、サラリスはふーふー言うだけ。攻撃はしてくるが限界が近づいているのか反論がない。


 浮遊移動していれば、たとえ手足がダメージを受けていても実質的な問題はない。手足も同時に同速度で動かし、少し押し付けているだけで治療が続けられる。 


 もう一度霧を出し、時間を稼ごうかとも思ったが、その必要もなかった。さらに息が切れたのか、サラリスの動きが急激に鈍くなっていく。


「い、息が。そろそろやばい」


 油断を誘う作戦ではなさそうだ。わざわざそんなことを言う必要はないと思うが、無意識に出るのだろう。サラリスの浮遊も限界で時々足が地についている。


「わかった。じゃぁ、俺が助ける」


「うひ。つ、捕まら……ない、わよ」


 サラリスの動きを助けるべく、着地点を狙って氷を作る。床に這いつくばるのを手伝ってやりたいが、意外に粘る。


 足を滑らせてもらいたいが、うまくタイミングを外してかわされていく。だがサラリスからほとんど仕掛けてこなくなった。こうなったら時間の問題だ。


 サラリスの呼吸のタイミングを見る。排気のリサイクルを続けて無酸素行動をしていたようだが、口周りが煤で黒くなった。二酸化炭素を分解したときの排気炭素が処理しきれていない。


「……今だ!」


「はぶっ、あっつっ」


 大きく息を吸おうとしたタイミングで空気を一気に昇温する。対応しきれなかったようで、プヨンが作った熱気を一気に吸い込み、気道熱傷、喉を火傷した。ちょっと酷い気もするが、サラリスならありだ。


 ズザザッ


 とどめの一撃、右足を手前に一気に引き寄せる。意外に体が柔らかいが、踏み締めることができずサラリスは地面に寝そべった。



 サラリスは気力が抜けたようだ。そのまま起き上がろうとしてこない。

 よく見ると寝ているように見える。


 2人の様子を観察していた男たちから声があがった。


「うぉーけっこうやるじゃねーか! 見せ場もあって悪くないが、もうちょっと血くらいは出さないと現実味がないぞ」


「まあまあだな。結局、逃げ切りか。まあ芝居にしたら悪くはない」


 サラリスは途中から結構本気で向かってきてはいたが、たしかに血飛沫も見応えのある魔法の発動もなく、じゃれているように見えたかもしれない。


 ふと見るとサラリスは意識はある。完全に息が上がっていたが、寝そべったままギャザリングをし、回復のためにエネルギーをかき集めている。


 

 少し時間を稼ぐ。おちょくったような褒め言葉に、適当な返しをしつつサラリスを見ている。疲労自体は魔法ではうまく解決できない。待つしかない。やがて荒い息の振りをしているが、少し休んだサラリスはかなり心拍がが落ち着いてきたと音でわかった。


 一見力尽きたように見えているが、本当に動けなくなるまで突っ込むサラリスではない。限界と見せかけて疲労回復しているのはプヨンにはわかりきっている。授業だとこの後隙を見て何か仕掛けてきたこともある。


 だが周りや2人組にはそう見えなかったようだ。


「よーし、じゃぁ、へたったところで、あとのことはまかしとけー。この依頼は俺達でやってやるよ」


 サラリスのこめかみがピクッとする。プヨンがサラリスを慰める。


「やっぱりそうなるか。かわいそうなサラリス。けっこう頑張ったと思ったが、あれではダメだったらしい」


 プヨンは黙って放置しようと思ったが、サラリスは飛び起きてきた。やはり『フォックスリープ』、予想通り寝たふりだ。


「ちょっと待ちなさい! 今の勇戦を見ていなかったの? さっきのじゃ不満だとでもいうの?」


 ギョッとする男達。へばったと思っていたサラリスが飛び起きて糾弾してきたため驚きはしたが、やはりベテラン、すぐに落ち着きを取り戻す。


「だってよ、お前やられてたじゃないか? しかもへばってるし」


「あれは、演技よ。ふり。戦えるんだけど、華を持たせたのよ。私にやられるなんてかわいそうでしょ。彼にもプライドがあるし」


 どうやらそうらしい。


 サラリスは演技、負けた振りだと言い張り、男たちはそれを揚げ足取りして、無様、無能と罵る。


 プヨンはサラリスが言葉のやりとりで怒りゲージを上げていることを知っている。さして長い時間がかかるわけでもないが、次の言葉を出すまでは他人事として眺めていた。この時間もサラリスは体力を回復させているのがわかっていたからだ。


「そこの2人、そこまで言うなら今度は私とやりましょうよ。当然受けるでしょ」


 2人組はお互い見合っている。サラリスの挑戦は無謀と取っているため、受けたものか悩んでいるようだ。それはそうかもしれない。サラリスはさっきまでへばっていたが、そんな相手をさら1:2で痛めつけるのは気が引けるだろう。


 もちろんやる気満々のサラリスにはそんな心配は不要だ。


しかも、サラリスは私たちと言わず心意気を感じた。1人でやる以上ここはサラリスの見せ場、ならば邪魔にならないよう脇に寄る。だがそんなプヨンにサラリスの声がかかった。

 

「プヨン、こんな2人、私一人で十分よ。あんたはそこで適当にサポートでもしてなさい」


 『えっ』とサラリスを見直した。なんと言うことだ。サラリスが頭を使っている。頼み方が下手なのではなく、相手に悟られないようにサポートをしてくださいとお願いしているのだ。


「そこまで言うなら相手してやるよ。中央に出て来いよ」


 男たちが渋々相手してやるよとばかりにサラリスを威嚇するが、言われるまでもないとサラリスは草地の1つに向かいさらに手招きして挑発した。


「そうよ。さっさとおいでなさいな。遅い! 遅すぎるわ。『グズデス』」


 グズは死ねとでも言わんばかりにサラリスが毒を吐きまくる。解毒作用は一切効かない強毒攻撃だ。


 そう言いつつサラリスはこちらを見る。これか? これは俺に対するメッセージなのか? プヨンが考えている間にも、『男達は捕まえてお仕置きしてやるわ』的なことを叫びながら駆け寄り、それを受けてサラリスは逃げに移る。


 プヨンはやれやれと、サラリスの裏の意図を汲んで行動に移した。『遅すぎる』から文字通り、相手の動きを遅くする。さらにまとわりつくような空気を作り、水の中を進むかのように動きを鈍らせた。


「ぐぉぉ、な、なんだ。今日は体が重いぞ。おまけに風がまとわりつくようだ!」


「へー、そんな貧弱な防具なのに重いの? 私の一撃はきついわよ? 耐えられないわよ?」


 遅くするのは簡単だ。地味に体重が増えるだけできつい。


 続いて貧弱な防具発言。男たちは軽装ではあるが、金属鎧を身に付けている。プヨンはサラリスの貧弱な防具発言を受けて対応した。


「貧弱鎧よ! すぐに壊れるひんじゃくー、ひんじゃくよろい」


「うるさい、だまれ!」


「イノカニ」


 サラリス達のやりとりは放置して方法を考える。サラリスの意味不明の言葉で、溶接部の破壊から屈曲試験で対応する。


 キィー


 鎧の端を掴んで折り曲げると音がするが、いい具合にサラリスが煽っていることもあり気付かれない。金属は何回か折り曲げると、折れ目のところで強度が大きく劣化する。


 キィーキィー


上記の屈曲作業を開始する。硬いものほど曲げるのは大変だが、片方に曲げ、反対に曲げを数回繰り返すとたいていの金属板は破断する。動き回っているため、折り曲げには難儀したが、着地や方向転換のタイミングをうまく利用して曲げていく。


 あと一回俺曲げたら破断、そこまでやって、次の部分に移る。サラリスが上手に逃げ回っている間に鎧の継ぎ目の大半は大幅に強度を低下させた。


 ふと目を向けると、サラリスが息が切れている。はぁはぁと肩で息をしている。


「きゅ、きゅーけー。寝て、寝てしまえ!」


「は? 何言ってんのお前。捕まえてお仕置きだ」


 まだ男達2人組の方が疲労が少ない。サラリスも回復したとはいえ全開ではなく、その差が出てきた。

「ラクホー」


 サラリスからの呼吸回復要請にプヨンは、酸欠『ノックス』で対応する。空中酸素を無駄消費させ、薄くなった酸素男たちに吸わせた。男たちも息が切れている。大きく吸い込むと同時にそのまま昏倒した。

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