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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
388/441

複製の仕方 4

365

 フィナツーがサイドカバンに飛び込んできた。横を見るとノビターンの体が動いている。そろそろ目を覚ます頃合いだと思っていた。


「ふー、誰か聞こえますか? 誰か?」


 かぼそい声が聞こえたが、念のため確認する。


「あたま、正しく使えてます? あたま!」


 なんとか返事しようとする意志の力を感じ、ノビターンに異常がないと直感でわかる。ノビターンはプヨンに気付いているし、視線もまっすぐプヨンに向いている。


「もしもし、頭は無傷ですか? 使えそうですか? すぐに応答してください! 記憶は?」


「大丈夫、大丈夫です。顔も……大丈夫」


 声で誰か確認が取れたからか、プヨンの呼びかけに応じてノビターンの声に安心感が加わる。


「体調回復しています。万全です!」


 プヨンを見てそう叫んだノビターンだが、すぐにあることに気付く。なぜこうなったのか、直近の記憶がほとんどないはずだ。さっきまで2人で争っていた記憶があったとしても、最後が曖昧だろう。


 ツインノビターンで争って、ほぼ同じパターン、同じ方法で、最後も同士討ちになった。それなら両方無傷はないはずで、片方だけが消えてしまっている。


 仮にプヨンが一方に肩入れしたとしても、さすがに消滅させるのはやり過ぎだ。だがプヨンが何かやったと思われているはずで、変な誤解を避けるためにもその後を補足説明した。


「一応、ちょっと待てと言ったんだけどね。もう一方を治療したあと、ノミさんは止める間もなく連れ帰ったんだ」


 ほぼノミの言動についてだが、事実をそのまま話した。


「ノミめ! なんというすばらしい働き。今日は完璧、非の打ちどころがありません。これもわたくしの日ごろの行いが良いからでしょう。神様見ていただきありがとうございます」


 日頃の行いなら2人とも同じだろうと言いたいが、そこは指摘しないことにしておいた。



 よほどうまくはまったのだろう。終始ノビターンは満面の笑みだ。


「ノミには厳しい再教育を受けてもらいますが、この自由があれば私は秘密の目的のために動ける! ノミが無事でいればいいのですが」


 それはそうだろう。連れ帰った方からは2倍以上問い詰められるに違いない。ほぼ間違いなくノミは平穏無事ではすまないだろう。


「まぁ、自由行動というやつは思っているほど自由には動けないものだけどな。きっと監視役もいるんだろうし」


 そう呟いてみたが、ノミには何のサポートにもならなかった。無事を祈っていると、プヨンの前で突然勢いよくノビターンが立ち上がった。


 目的と言っていたが、何かやるべき計画があるのだろう。ノミとは異なるが、ノビターンもどこかに向かうようだ。無言の会釈のみでどこかに消えていった。



 それからは交代にあたって、準備活動や訓練の日々が続いた。内容もほぼ実戦活動、授業もあるが、手っ取り早くレスルで仕事すれば出席扱いはもらえ、自由度が高かった。


「メサル、これが新型なのか? type Cって言っていたが」


「あぁ、そうだ。全部で3ケース。今日中にキレイマスまで、あっちのケースは学校用だ」

 

 今日のプヨンはランカのところだ。メサルと共に新型回復薬、Cドリンクをオロナの民の2人から受け取る。本日は輜重訓練、従来より少量で効果のある回復薬の運搬作業で、無事それを街まで運ぶことが目的だ。


「今日も盗賊がくるかもしれない。気をつけろよ」


「任せとけ、今度は捕まえて警備に突き出してやる。盗賊団首領サラリスめ、食料を盗んだ罪は重い。念のため、唐辛子入りも用意した」


「よし、それは一番上に」


 普段は盗賊などそうそう出ない。おかげで街に近づいてからは完全に手抜き、ろくな警戒もせず完全に油断していた。あの時の様子は今でも鮮明に思い出せる。


「あっはっははー、回復薬はもらったわ! さよならー」


 その声を聞いたのは、荷台の荷物が水樽に入れ替わってからだ。すでに盗賊サラリス団に貴重な食材を奪われていた。完全に油断だ。おまけに盗賊団一味はそれぞれがバラバラの方向に逃げていく。


 かといって残りを放置して追いかけると、盗人に追い銭になる。


 荷物を守りながらメサルが手近な1人を、それを助けにきたもう1人の身の程知らずをユコナがボコボコにしたのが精いっぱいの反撃、この2人は捕まえはしたが、首魁を含んだ残りには結局逃げられた。


 あとから確認すると物資の半分以上は奪われていた。


 その後は散々だった。


「お前戦場で食い物取られて、のこのこ帰ってくるやつがあるか!」


「もう一回行って奪い返してこい!」


 お陰で学校に戻ってからの報告でも、たっぷり懲戒と罵声をいただいた。



 何度か学校から出たが、あれから数日経ってもノビターンの姿は見ていない。サラリスもだ。警戒しながら進む。前回は町が見えたところで襲われたが、今日は何事もない。


 キレイマスに着いた。すぐに回復薬の運搬完了手続きのため、レスルの納品場に向かう。納品自体は簡単だ。


 今回は運んでいるものはダミー。実物は別にある。メサルとマウアーの3人で分担してストレージに収納していた瓶詰を取り出し、本数を数えて完了だ。そして受領書を受け取ると、メサルがホッとしたのか話しかけてきた。


「おい、プヨン。盗賊の首領がいるぞ。神様は言われた。『種を蒔けば、その刈り取りもしなさい』と。さぁ狩をしよう」


 小声だが、はっきりと聞こえた。えっと思って振り返るとメサルの指差す先に見えたのはサラリスだ。珍しくメサルが好戦的に見える。


「プヨン、やるぞ。背後を押さえろ。絶対逃さないぞ。天の怒りを受けるがいい」


 面白い。普段は非戦派のメサルが正面から、それもゆっくりと歩いて近づいていく。食料喪失の減点が相当堪えたのだろうか。


「お? なんだ?」


「ちょ、ちょっと待て。何か様子がおかしい」


よく見るとサラリスは1人で男2人と揉めている。


「それはちびっこには無理だ。悪いことは言わねぇ。俺たちに譲っとけ」


「いやですー。美味しい仕事だし実戦向きで私たちにピッタリよ」


「むーりー。お前程度じゃ、ぼひゅー、一瞬で燃え尽きるぞ。それとも凍るかな? 繁殖期のドラゴン狩はきついぞ」


「街道のはずれで発見されたらしい。ほっとくと大型化する。ドラゴンフライ、ドラゴンブラブラッド、ドラゴンデカイ、ドラゴンアツイ、サムイ、オモイ。いろんなものを捕食して、真のドラゴンブラブラッドになると手がつけられん」


 仕事の取り合いか。ちょうどドラゴンブラブラッドの繁殖時期らしい。食虫植物の一種だが、大量のドラゴンフライを捕食すると凶暴化一直線。街道沿いなどで繁殖された場合は駆除するのも大変だ。


 そのかわり重症化率が高いことによる実入りが良い。おまけに相手が植物なのでほとんど動かないから、あほになって突っ込まなければ、緊急時にも比較的離脱しやすいため、倒せるのであれば、良い対戦相手でもある。


サラリスと男2人は睨み合っている。だが、いつもなら見ているだけのメサルは立ち止まらない。サラリスもメサルに気づいたようだ。


「メサル、いいとこにきたわ、これで2対2ね。ほら、私じゃ実力不足らしいわよ」


「なんの話なんだ?」


「ほら、竜血樹流血呪化ってあるでしょ。大型龍飛を捕食して凶暴化したやつ」


 プヨンはサラリスの背後に回ったが、少し距離もあるせいか気づかれていない。目の前のメサルに意識が向いている。


「竜血樹? あの大型トンボを食って、自我を持つというやつか?」


「そうそう。様々種類のドラゴンフライの魔力を使える、厄介なやつよ。手伝ってくれたら、私もメサルの頼みを聞くわ」


 男2人組は新手の乱入で警戒したようだが、メサルの形相に少し面食らったこともあり、面白そうに成り行きをみている。


「本当か? じゃあ手伝ってやるから一昨日の輸送時に奪った食材を返して自首しろ。そうすれば神の御慈悲があるだろう」


「え? なんのことかしら? 証拠はあるの?」


「あぁ、あるぞ。目撃者がいる」


 サラリスは誤魔化したいのか、焦っているのか、口をパクパクさせている。


「どこの見習い兵士たちでしょ?」


「奪った獲物はどうしたんだ?」


「全携帯食の半数は、私の消化液によって、胃袋で……消えた」


 温厚なメサルの眉の角度が跳ね上がり、一瞬で顔つきが変わる。これはメサルが限界を越える時に使う『マッドフック』の兆候だ。


 サラリスはメサルが規約違反や背信行為に特に厳しいのを知らないのか。それとも男たちに見せつけるためにわざと挑発しているのか。プヨンは警戒しつつ、万一の時は逃げられるように退路を確保する。


「決定的打撃を受けろ。いかほどの食材が残っていようと、罪はすでに確定である!」


「あえて言おうか、美味でありましたと」


 2人は笑顔で見つめあう。サラリスはメサルをまっすぐ見つめ、少し離れた背後のプヨンには気付いていない。長く感じたが、実際はそう長くないはずだ。向こうの男たちも実力者たちなのだろうか、無駄にはやし立てなどせず、静かに様子を見ていた。

 


 先に動いたのはメサルだ。


「お腹をさがす!」


 「はぁ?」と声を出したサラリスだが、突然の行動に出遅れ、ハッと気がついた時メサルはサラリスの服の裾をめくりあげようとしている。


「へ、へんたい。そんなとこにはもうないわよ! 全部身についたわ」


「この目で確かめる。腹を開いて歯を食いしばれ」


 腹の中身を調べてやると叫ぶメサルに、結構本気でサラリスは逃げ回っているが、メサルではこれ以上は厳しそうだ。


「プヨン、あなたも見えているわよ! あなたの腕も鈍っているんでしょう?」


 サラリスの警告がプヨンに飛ぶが、たいした偽装もしていない。無駄に警戒しなくてもと思うが、ここはメサルを援護するため、わざとらしくサラリスと追いかけっこしているメサルに呼びかける。


「割腹を使ってみるか? 80パーセントしか成功しないんだが……」


「か、割腹? ま、待って。ちょっと待って」


 プヨンが以前よくやっていた治療再生の練習を思い出したようだ。あれはけっこうきつかった。自分でかっさばいて自分で治す。手足の練習とは難易度もしんどさも次元が違う。


「腹切りを練習したときにな。あのサイコパスを部分的に取り入れた特殊な治療方法なんだ。俺でもちょっと使いこなせない……」


「ま、待って、お待ちください。では、限界試験的な要素を持つ?」


「そうだよ。前に経験しているよね。やって見せようか? 俺はメサルの方につく」


「サラリスタイプ撃沈。敵のイビルスキルが極悪! 降伏します!」


「え? わろす。 メサル、うまくやれよ」


 プヨンがそう言うと、追いついたメサルがサラリスの手首をつかむ。これで教官に突き出せば、サラリスの得た盗人ポイントはそっくりそのままプヨン達が手に入れることができるはず。


「な、なんじゃそらー、俺らの楽しみを返せ!」


 問題はそれを見て、修羅場を楽しみにしていた男2人だ。あきらかに拍子抜けしている。


「ちょ、ちょっと待てよ。俺たちは男だけの舞踏集団、剣舞、魔舞、輸送舞で名を馳せている男性専門武闘団、『朴男出口』のメンバーだ」


「そうだ。落とし前として一差し舞ってもらおうかな」


 有名なメンバーなのか? どうすべきかメサルに視線を送ったが、メサルの目線は宙を舞う。サラリスも食料強奪バレのヤバいという顔のままだ。


 こうなっては仕方ない。穏便にすますには、何かしら相手の希望に近づけねばならない。サラリスと男2人組だとは仕事の取り合いをしていたはずだが、譲ればいいというものでもなさそうだ。


「おらーお前たちの実力を見せろー!」

 石つぶてがとんできた。本気さはないが、面白半分に煽ってくる。


 のってやってもいいが、何か舞を見せろと言われてもどうするか。あまり手の内を出さないで見栄えはよいものがないか考える。その時、突然頭に天の声が響いた。いい方法がある。


 相手をしなくてもよかったが、プヨンが黙って見ているとサラリスもその気になったのか駆け寄ってきた。間違ってもお詫びのフライング土下座などではない。突っ込んでくるが、背中に見えたのは見覚えがある。刀の柄、サラリスには珍しく物理併用だ。


「スペシャル目立ち技、キリキリマイ!」


 そう言いつつサラリスの両手に陽炎が見える。手のひらに火球を出したようだがよく見えない。だがプヨンには予測の範疇だ。


 プヨンの横を火球が通り過ぎていった。体温検知なら火球は余裕でわかる。見ている男たちからも『やれやれーもっとやれ』『暑いぞー、今度は冷やせ』との掛け声がかかる中、数度応酬が続いた。


「じゃあ俺は返舞、霧霧舞」


 プヨンは先ほどから地道に空中に水分を含ませていたが、サラリスは気付いているだろうか。現在の湿度は98%、気温も数度あがり35℃近く、1㎥あたり40gの水分を含んでいる。ふつうなら汗だらだらになっているはずだ。もちろんプヨンの周りはうまく冷気を調節し体感温度は問題ない。熱交換系魔法『ロスナシ』と熱分離系魔法『コンプレッサー』をうまく使う。


 そろそろ頃合いか。サラリスは十分に汗だくになっただろう。この冷気発生を拡大しこの高湿度空気の温度を一気に下げた。


 サラリスを中心に半径10m、約4000㎥の空気を15度ほど下げる。火球で1万発相当のエネルギーを一息で引き抜いた。あわせて気温の低下による飽和水蒸気量の減少で溢れた湿気による霧が発生し、視界にもやがかかった。


 サラリスとプヨンの周りは白いもやに包まれ、見ていた朴男出口の2人からおぉーっと声が上がる。だが、プヨンが普段から対処法を口にするからか、サラリスの対応は早かった。


「あー、もう。こんなのもう慣れたわ。対応も学んだ炎神様ですよ! 同じものばっかりなんて芸がないわ」


「同じことの繰り返しだとあれだから、そろそろキリがいいだろ?」


 そう言われ即座に大声をだして反論する。もちろん指向性と反射を利用し、後方から音が聞こえるようにしたが、足音を立てずサラリスの気配が近づくのがわかった。浮遊モードのようだ。


 こちらの位置を把握しているのか、目の前の白かったもやがオレンジ色に変わり、すぐそばを火球が2発通り過ぎていく。


「そこ、避けた。次はこっちでしょ」


「おわっ、あっつー」


 プヨンが複数の音を発生させ、見せかけの移動をしていたのは見抜かれ、さらに動いた先まで読まれていた。直後に続けて飛んできた火球は色がない、ただの熱気だった。火球ほどではないがかなり熱い。しかも温度を下げようとしたが、意外に持続力があって温度が下がらない。



 休まず相殺し続けている。下げ過ぎないように配慮し過ぎたか? もう少し下げるべきだったか。油断もあったかもしれないが、サラリスの持久力を読みそこなったため、気温があがり霧が晴れていく。人影が見えたと思ったときにはサラリスは目の前にいた。


「見つけた。そこっ」


 後手後手だ。サラリスが火球や爆発でくると思ってさらに出遅れる。右手に背中の刃物が握られている。


「そ、それは、なんでサラリスがその剣を?」


 ユコナの紅玉、ルビーの剣、超硬度が高い剣だ。なんでサラリスが持っているのかでさらに出遅れた。


「ユコナに借りた。さらに研ぎたて。今までの借り、まとめて返すわ」


 サラリスに借りたものなどあったかと考え、一瞬動きが止まった。そこにサラリスが斬り込む。


 スカッ


「え? いってー」


「ハズレじゃないわ。つ、ついにプヨンに一撃を。今までのお礼よ!」


 左腕が飛んだ。


「うぉー、ほんとに切りやがった。本気か?」


 さっきまで煽っていたくせに、真面目に驚いている。まぁ、それはそうか。自分たちは訓練と称してしょっちゅうやっているが、普通は仲間同士でそうそう切り合いはないだろう。明らかに動揺しているのがわかった。


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