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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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交代の仕方 5

 エクレアとのタンデム飛行は初めてだ。バランスが違うが、おかげでおおよそのgg量がわかる。あえて言うなら、サラリスやユコナより軽い。


 ユコナとはよくやっていたが、それは低い高度での水平飛行で、今回のような高角度での上昇性能を活かした経験が少ない。横に飛ぶといつのまにかエリア外に出る危険もあるし、何より目立つ。


 すぐに高さ2000mくらいまで上昇した。10mほど空けて後ろにエクレアを縦列で並ばせる。プヨンの姿が消えていれば、エクレアだけが見えているはずだ。もう少し引っ張りたい。


「プヨンさん、いい感じです。ちょっと距離が空いてきました。このまま逃げ切りましょう」


「え? ほんと? 距離あいた?」


 そう言われて慌てて後ろを振り返ると思った以上に他の上昇が弱い。ユコナやサラリスならもっとしっかりついてくる。


 対戦相手の3人は全員男性のようだが、すでに50m以上引き離している。深追いしての待ち伏せを避けるため、斥候は見失ってもいいと思っているのか、後々のために体力を温存しようとしているのか。


「もしかしたら飛行は苦手なのか? これではまずい」


 だが対策は簡単だ。今日のエクレアは斥候ということで、動きやすさのためか軽装スカートを身に付けている。これを最大限に利用する。


「え? 距離近づいていますよ? いや私がプヨンさんと離れた?、え?、え?」


 エクレアを敵方に近づけ、距離を詰める。発動者から対象までの距離が離れると、その分牽引に必要な魔力が増加し、制御も甘くなるが致し方ない。


「エクレア、作戦通りあっちいけするんだ。手でシッシッと虫を追い払って! そうそう、それを何回もやるんだ!」


「わかりました。わかってくれるといいんですけど。シッシッシッシッ」


 それで煽ったら火がつくと思ったら、案の定うまくやっている。エクレアの手招きは逆効果になるのだ。

 

 エクレアはこの辺りがわかっていないが、意図的にやっているワルかもしれない。童顔のワルの心理作用は絶大だ。


 見ようによってはこっちにこいと手招きしているように見える。


「プ、プヨンさん、『ついてこい?!』『捕まえろ』『尋問だ』だそうです。速度を上げて迫ってきます!」


『それはまずい! 捕まったら酷い目に遭うぞ。頑張って逃げよう」


 キリッとした真面目顔でのこっちおいでが相当効いたようだ。これもエクレアの顔を有効利用した、特殊挑発効果の成せる技かもしれない。

 

 周りに霧を発生させ視界を悪くする。


 エクレアの1人挑発を目立たせ、後々の恨みももっていただくため、相手がついてこれるようさらに上昇速度を遅くして、範囲から出ないよう周回飛行に入った。


 エクレアは追いかけ回される。捕捉が目的だからうまく誘導しないといけない。


「プヨンさんどこですか? 1人にしないでください!」


 名を呼ぶなと言いたい。俺がいるのがバレるだろう。教育が必要だ。エクレアも最初は焦ってそう叫んでいたが、自分がギリギリで引っ張られているのはわかるようだ。


 徐々に『つ、捕まります。もう少し距離を』『右、もっと右』と具体的な指示がくるようになってきた。


「いいぞエクレア。その言い方は捕まえたくなる」


 1人呟き、そろそろ次の行動に移る。


 数分かけてゆっくりと高度をあげた。空気が薄くなり、加圧魔法で呼吸に配慮しないと一気に体力が低下する。


 さすが上級生、まだついてくるが、ここでさらに体力の消耗を狙う。初年生なら平均航続時間は5分程度だが、上級生はまだついてきているのだろうか。誘導しつつ高高度を数分飛び回った。


 さらに数分後、プヨンの残り航続距離はまだまだあるが、世間一般だとそろそろ燃料が空になるころだ。ふと気付くとさっきまであった声がなくなり、周りは風切り音しか聞こえなくなっている。


 理由はエクレアが大人しいからだ。追われる様子の報告がほとんど拾えない。予測だがエクレアは低酸素慣れしていない。


「あ、まずい。通信する気力がなくなったか? 発動! 緊急脱出、ポイルアウト!」


 ぽいっと一度上空に放り投げ、直後に連携の切り離し成功。


「え? プヨンさん!? きゃーーぁぁーー」


 酸欠を心配して急遽エクレアの高度を下げたが、その瞬間に意識が戻ったのかエクレアは大声を出しながらすぐプヨンの横を通り過ぎていった。


「大丈夫。俺もすぐ後ろにいるからなー」


 安心の気配りのためにも、すれ違い様に声をかけた。上手く届いたかはわからないが、これで安心して落下してもらえる。エクレアの声は落下していくにつれ、すぐに小さくなっていった。


 プヨンは誰にも相手方に見つからないよう、自由落下状態のエクレアを遠回しに追いかける。

急がなくても大丈夫だ。エクレアには余裕があることはすれ違いざまにわかった。きゃーなどと叫びがかわいらしく聞こえる間はまだ余裕がある証拠だ。


 それにエクレアが地上に激突することはまずない。着地訓練は治療、身体操作などと並んで最重要訓練の1つ、当然エクレアも嗜んでいる。何度もひたすら練習、それこそこけた時に反射的に手がつけるくらい自然にできる。


 高さも一定以上は落下速度も飽和するため、最期に減速滑空のコツさえ掴めば、まず問題なかった。


 

 両手を広げて落ちていくエクレアは、後を追っていた相手方とすぐに高度が入れ替わる。


 すでに10秒。500mほど落ちたエクレアを安心させるため、プヨンはエクレアに向かって信号を送る。


「生き延びたければ、自力で体重を支えるんだ!」


 事前のすり合わせでは俺が助ける予定だったが、時と共に状況は変わる。右の甲にレーザー光が当たり熱が加わると1、腕だと0で符号化し本人にだけメッセージを伝えた。


 近距離や遮蔽物がないなどの条件があるが、音や信号と違って指向性が強く、周囲の人に知られるリスクを低くできる。



 すでにエクレアは落下終端速度の時速200kmに達した。加速と空気抵抗と釣り合っている。


 落下開始がよほど刺激になったのか、高度が下がったからか、低酸素ボケからエクレアが回復しはじめ、再び報告が始まった。


「このままいけば予定通り大きめの池に落下するはずだ。次は水中を逃げ回るよ」


「わかってます。『逃すな』『絶対離されるな』だそうです」


 寝てたくせにとは言わず、優しくフォローする。


「いつのまにか暗号なしだな。余裕がなくなってそうだ」


 疲労がかさみ上級生は会話を暗号化する余裕がなくなったのか、基礎符号の会話になりプヨンにも内容がわかる。もう一押しだ。


 バッシャーン


 水といえどまともに落下すると硬さは地面とそう変わらなくなる。エクレアと自分自身を直前で減速させたが、それでも多少は音がする。



 池に着水した。エクレアの腹打ちはもう治っただろうか? プヨンは直前で停止してゆっくりと水に入る。



「潜るよ?」


「了解です」


 短く言葉を交わし、『ファイヤーフライ』を発動する。光魔法の一種で、エクレアの体の一部を中心に光らせる。潜っていくエクレアの一部が光、まわりの生き物を引き付けてくれるはずだ。


 もちろんエクレアには内緒だ。これで水中でも追いかけてもらいやすくなるはずだ。

ゆっくりと水中20mまで潜り、そのまま岸に向かって潜航する。


 少しするとひと際大きな着水音が3回した。あれはかなりやばい下り方だが、上級生チームも水面についたらしい。だが少し待ったが潜ってくる気配がない。あれも腹打ちか。そろそろみんな疲労の限界か、水面を移動している。


 水面からでも水中のエクレアの腰回りの光が目印となって見えるのだろう。せっかく水中移動で披露させるはずが、楽をさせてしまった。


 

 そう思っていると、突然エクレアがさらに潜り出した。先行して潜航させていたエクレアが突然仰向けになっている。


「どうした?」


 不自然すぎる行動だ。水中では光の輝線が見えやすく熱も伝わりにくいためさっきの通信は難しい。傍受されても仕方ないが、ゆっくり考える時間もなく、通常の方法で確認する。


 しかし反応がない。3度送ったところで無駄だと思う。おそらく呼吸だろう。これは潜っているのではなく沈んでいる。プヨンは慌てて後を追い、そして浮上する。


 水中での他人への呼吸補助は方法が少なく難しい。補助していたつもりだったが、上級生より体力のないエクレアが先に限界にきて溺れたようだ。


 慌てて引き寄せ腰の光は別方向に動かしつつ、上級生と鉢合わせしないよう水面に出た。水面は適度な波があり、人の頭はうまく隠してくれた。


「だ、大丈夫か?」


 エクレアの肺の水分は、水魔法の応用で気化させて取り除く。ついでに酸素も取り出せばいい。口から大量の水素を掃き出させる。火には最新の注意をしていると、エクレアはすぐに意識を取り戻した。


「す、すいません。ちょっと意識が」


「そ、そうか。意識が戻らなかったら、人工呼吸ができたんだけどな」


「だ、大丈夫です! もういりません!」

 

 そんな強く否定しなくてもいいのにと寂しくなる。せっかくの機会が活かせず残念だが、すぐに岸に向かって泳ぐ。そう大きくもない池だ。すぐに岸につき、茂みの1つに身を隠した。


 そうすれば次の手は決まっている。隠れてすぐ念の為池の水温を一気に冷やす。低水温で何もしなければかなり体力を削られる。もちろん視界に人がいないことを確認した。


「これは異常気象だ。繰り返す、これは異常気象だ」


 突然の冷気の放出。 誰にも言わずこっそり池の水温を急激に下げる。これでプヨンのすることは一旦終了だ。



 エクレアは肩で息をしているが少し落ち着いてきた。


「プヨンさん、待機できますか? 私の脱出は15分後で」


「今と言っている脱出とは避難の技か?」


 もう一度エクレアの様子を確認するが、少し雰囲気が変わっている。呼吸は落ち着いているが体力的には完全に限界、そのせいかテンションがあがっているようだ。上級生側の監視も兼ねてここで待機することにした。


「そうです。私たちが生き延びねば、勝利は失われます」


 ここまで相手を消耗させていれば十分だと思うが、確かに油断して挽回されないようにする必要がある。


「後退後、相手の身柄は?」


「主力登場の折に引き裂きよ」


 エクレアは疲労のせいか、思考が荒っぽくなっている。だがそろそろ潮時のはずだ。このくらいまで追い込んでおけば十分のはずだ。


バシュバシュ


 2発、火球を上空で炸裂させた。あらかじめ決めていた敵発見の合図だ。近くにいたらユコナ達も気づくだろう。プヨンは合図を送るとエクレアを連れて上空に避難する。


 プヨンが合図したが何も起こらないまま数分が経った。ユコナ達は気付いただろうか。対戦相手の上級生も披露しているのか、気付かれたのはわかっているはずだが、すぐに行動は起こさない。3人に岸にいるが地面に仰向けに寝そべったまま、きょろきょろと周りを警戒するだけだった。


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