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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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レアメサルの探し方 3


 ふーふー。レアは木々の間を走り抜け、ようやく一息ついた。音がはっきりと聞こえ、目的の場所が近いことがわかる。


 最後まで離れませんと言っていた2人の付き人+兄のメサルの姿はとっくに見失い、すでに幾ばくかの時間が経っている。かえって都合がいい。兄は見張りに任せ、ここは自分の活躍を見せる時だ。


 レアがふと上空を見ると3人浮かんでいる。そのうちの2人は見た顔だ。ジーンズとスレンダー、たしかそう呼ばれていた。もう一人は明らかに味方ではない不審者、しかもおかしな仮面をかぶっている。


「あいつねー。ふふふ、悪く思わないでね」


 そう呟いて駆け寄ろうとしたが、味方と思った2人が下がり距離を取りつつある。遠距離攻撃が得意なのかもしれない。


「えい、やっ」

 

 脇のポケットに入った一枚のカードを確かめる。教区の実践護身術講座中級の終了証に恥じぬよう、この講座で身に付けた火柱を全力で地面から立ち上げる。圧倒的な火力、同級生の中で実力を示した高さ2mの火柱は、見たところ不審者の足元まで今一歩足りない。


「くっ。私の火柱をぎりぎりでかわすとは。できる。私の火柱の到達高度を即座に見抜くとは」


 おしかった。ほんのあと20mほどで届いたのにと思いつつ、レアは続けてもう一発。だがこれは先ほどの半分の高さが精いっぱい、そして荒い息をついた。一気に力を使い過ぎたようだ。しばし呼吸を整えつつ距離をつめる。


「ふー、着いたわ。いくわよ」


 ほぼ真下から上空を見上げるが、スレンダー達の姿は見えなかった。やられたとしたら不甲斐ない。


「ここは私の出番よ! そこのもの大人しく投降しなさい!」


 人差し指をビシッと突き出し名乗りをあげた。戦闘に加わることを告げると、不審者は北に向かって飛行していく。気迫に押され逃げたに違いない。慌てて防ぐ。


「逃げ足だけは速い! 逃がさないわよ! これでもくらえ!」


 さらなる難易度アップ、火水両方使えるレアのハイブリッド魔法が発動し、不審者に向かって勢いよく水流が走る。


 自身の水魔法をベースに、ヌーンが教えてくれた高圧放水魔法『ベルヌーイ』を真似てみた。大量の水しぶきが仮面の男に足元に襲いかかる。


「見たか! 少なくとも50発は直撃したわ!」


 今度は大丈夫。レアの口からも思わず出てしまったが、不審者の右足の靴は大小少なくとも100以上の水滴跡がついてまだら模様になっている。きっとあれだけ濡れたら動きも鈍り、見栄えも悪く乾くまで人前には出られないだろう。これなら逃走防止効果も期待できる。


「知ってるでしょ。偉大なるレア様からは逃げられないのよ!」


 レアの勝利宣言が届いたのか、仮面の男が後ろを振り返る。視線があったことから、こちらに気付いたことがわかった。目が見開くところから、明らかに動揺しているのがわかる。


 

「ふ。私を見て怯えているのね。今よ、敵を引きつける。えぇっと名前は確か……」


 あれよ、あれ。思い出そうとするが思い出せない。そしてあることにハッと気が付いた。


「こ、この者、即座にわたしの集中力を乱すとはこれは記憶操作? そんな魔法があるとは聞いたことあるけど、動きの速さといい知っている教官達以上かも?」


 記憶操作といっても頭にショックでも与える強引なものがあるだけで、そんな都合よくは操作できない。だがレアは真に受けたのか一瞬で背筋が寒くなった。予想外に強敵かもしれない。これは身に余るかもしれないと不安になるが、気を取り直し集中する。


「思い出した。コンバルシブ!」


 レア自身のこれまでの教区訓練が相手の攪乱術を上回ったはずだ。この実力も同期3人の中で随一。大抵のものとは対等以上に渡り合える自信がある。


 さらに応用火魔法『フレイムスパーク』で大量の火球を発生させる。無数に近い火球、大量の火の粉が襲い掛かり、包まれた相手が地面に落ちていく。


 きっと私の威圧で硬直した上に、火球で大ダメージを受けたに違いない。


 これで相手の戦力は大幅に低下しているが、気を抜かず最後の攻撃にうつる。足止めし注意を引き付け、一気にトドメに。教科書通りの惚れ惚れするような三段攻撃を仕掛ける。



「さあ、そこの仮面の男! もう一度言います。速やかに投降しなさい。大人しくすれば危害は加えませんよ!」


 パーフェクト! 慈悲の心まで見せる。聖女といえど、ここまでの気遣いはそうそうできないだろう。レアは自己満足で笑みが零れる。だが相手の不審者は一言も発しない。まだやるつもりだ。ならば手加減は無用だ。


「トドメよ。 私の必殺技を食らいなさい」


 必殺技の名前を決めていなかったことに気づき慌てて何かないかと考えるが、うっかりと相手から目を離してしまった。


「あれ? どこに逃げたの? おっ?」


 突然、目の前の地面に大きな木箱が現れ、背中を強く押され、そのまま箱の中に突っ込んだ。


 「え? え? え? ここは?」

 

 木箱の中に入ったのはわかる。バタンと音がして真っ暗になったが、直前不審者の仮面が隙間から見えた。してやられたのだ。もちろん、力いっぱい押してみたが開かないし、火をつけるのは危険だ。


 何が起こったか整理しようと思ったが、まわりは真っ暗だ。箱の中にいることは手探りでもわかる。


「ふ。捕まえた。さあどうしてやろうか」


 どこか聞き覚えのある声だ。もしかしたら知り合いなのか。どうして捕まったかはわからないが、ここで出してなどと叫ぶのは定番すぎ、そんなつまらないことはできない。捕まるにしても、見せ場が必要とレアは思う。


 ここは意識をしっかり保ち、逃げるチャンスを掴まねばならない。そう思うと同時に、急激に眠くなり意識が途切れてしまった。




 ジーンズを撃ち落としたプヨンは、落下点に向かおうとしたが別の気配に気づいた。


 空中に浮かんでいたが、足元に水飛沫がかかっている。その先の地面を見ると、女の子が立っていた。


「あれ? あそこに見えているのはレアか。メサルはどこだ?」


 思わず声が出た。メサルと決めた予定では、レアに実戦の緊迫感を体験させ恐怖感を植え付けることになっているはずだ。本来ならここにいるのはメサルでないといけない。


 だが、レアの周りには誰もいない。メサルに何かあったのか? レアがメサルを倒してきたのか? 心配だ。

 

 焦る中、再び下方から火の粉が飛んできた。大量の火の粉が舞ってくる。吸い込んだり、目に入るとダメージもある。すぐさま水蒸気のミストを発生させて防御したが、後れを取ったことは否めない。


「あぁっ、こ、これは?」


「プヨン? ど、どうかしたの?」


 フィナツーが驚きの声に反応して聞き返してくる。


「見ろ、胸のところに黒い焦げ跡が! これはお気に入りのシャツだ。 訓練でもよく着るし戦友なんだ!」


 シャツの左胸にできた2mmほどの黒い焦げ目を指差す。500℃程度まで耐えられる耐熱効果もあるはずなのに、


「えー、ヴァクストの店で買った耐熱抗刃服じゃない! 消耗品でしょ?」


「生産量が少ないんだぞ。この『アラミどん』は!」


 わけわかんないと言いつつ引っ込むフィナツー。一方で油断した自分が悪いとはいえ、

こんなに簡単に穴が開いてしまうとは。もしかしたら、最初から開いていたのかもしれないが、この矛先をどこかにぶつけたくなる。


 キッとレアを睨みつけるが、もちろん威圧効果はない。水蒸気ミストで降り掛かる火の粉を防ぎつつ地面に降りた。


メサルとの約束でレアには極力危害は加えないのは絶対順守事項だ。これを守りつつ最大限に恐怖体験をさせる予定になっている。


 レアが何やら叫ぶのが聞こえてきたが、無視しストレージから目の前に大きめの木箱を取り出した。荷物運搬に使おうと思って持ってきたコンテナだ。


 パッと眩い光を出し、慌てるレアの背後に素早く回ると、箱の中に蹴り入れた。そして閉じ込め直前に空気を薄める。これで少しするとしばらく気を失ってくれるはずだが、その間を利用して、計画通り最大限怖い目に合わせればいい。


「ふ。捕まえた。さあどうしてやろうか」


 計画とは変わっているが、違う方法でちょっと怖い目に合わせるのはOKだ。フィナツーがタイミングを見たのか、声色を変えつつ予定のセリフを吐いた。


「おぉ、うまく捕まえたな。こいつはレアものだ。高く売れそうだ」


 いい発言をする。そのまま即興対応で会話を続ける。


「そうだな。外国の好事家が喜びそうだ。大事に運ぼう」


 そんなことをフィナツーと話す間に、箱の中は静かになった。




 しばらく待ったが、メサル達は追いついてこない。ジーンズ達も戻る気配がない。一度キレイマスまで戻ろうと思い、箱を引き摺り移動し始めると、中から声がした。


「こ、ここは? どこへ行くの?」


レアが起きたようだ。中から声が聞こえるが、状況が把握できず混乱しているようだ。予想外に身柄を手に入れたが、今度は解放するタイミングも難しい。


「ふふ、どこに行くのかな。遠い異国だから楽しみにしておけ」


 プヨンは、そう言うとレアにもう一度眠ってもらった。



 すれ違いがないように大きく移動できず、上空に上がって、軽く一回りすると合流予定地点に戻ったが、メサルもヌーンもスレンダー達もこない。


 彼らもレアを探しているのだろうか。


「こ、これは。もしかして、空中では? お、おろしてください」


「嫌だね。お前はいい金になりそうだ」


「な、なんてひどい。人でなし! 人さらい! 警備兵に突き出しますよ」


「えー? 立場がわかってないようだな。『私は何もわかっていない世間知らずのぷー子です。寛大な御処置をお願いします』と言えたら、休憩してあげるんだけどな?」


 レアは言うわけないでしょと強気であったが、休憩の意味がわかったようだ。渋々セリフを言ってくれ、2回ほど『聞こえないよー大きな声で』と言ってから、トイレと食事休憩を取った。


 仮面をしつつ身バレは防ぎ、移動を再開。結局レアをつれたままメサル達には会わず、町外れの湖岸の船着場に着いた。


 ちょうど湖の定期船が荷積をしていたので、そこにこっそり紛れ込ませておいた。


 また起きたようだ。声が弱々しくなっている。レアの目覚めはこれで4回目。レアには2、3日経ったように感じているのだろうか。



 陽が傾いてきた。フィナツーが少し心配そうにしている。


 「どうするつもり?」


 「うーん、メサルを探してうまく引き渡すしかない」


 「その間、どうするのか考えてあるの?」


「もちろんだ。ここまでするつもりはなかったんだが、あらゆる事態を想定してある」


 レスルの事務所に行くとタダンがすぐに飛んできた。当たり前だが、開口一番詰問される。


「プヨン、護衛対象のレアさんが行方不明だそうだ。どうなっているか知らないか?」


「メサル達はまだ戻ってないのか?」


「2度ほど伝令があった。メサル本人は先程また探しに行った」


「もちろん身の安全は確保しているよ。安心してほしい。学校への連絡線乗り場で待つと伝えて」


 そう伝えると、タダンは落ち着きを取り戻す。


「当然だな。行き違いがあったようだ。のんびり波止場で待っていてくれ」


 さっきまでの悲壮感が嘘のように、何食わぬ顔で戻っていった。


 

 メサルが戻るまで待とう、そう思って戻ると連絡船が出港するところだが、レアものの木箱が元の場所になかった。


 短時間だったが、全荷物もさして多くない。レア木箱も積み込まれたようだ。


 うかつだった。タダンと話し込んだら大人しく待つつもりだったが、こうなっては致し方ない。船旅も経験してもらうしかない。


 急いで連絡船に乗り込むと、さして広くない船だ。


木箱のそばに移動して監視しつつ、レアにだけ聞こえるように近隣の国名を伝えて置いた。


「よーし、トオイカーナ地方船出発!」「荷物を積みかえろ。これは国外発送だ!」


 本人にどこまで聞こえているかはわからないが、これで益々外国に連れていかれるリアリティが増すはずだ。当時の心境は後で聞くとして、定期船を楽しんだ。


 

 ようやくメサルと連絡がついた時には、船は2往復していた。誤送として、出発地点のキレイマスの荷積場の片隅に置かれた木箱にメサルを連れて行く。


「レア、やっと見つけた。無事でよかった」


「こ、怖かったですぅ」


「勝手に1人で行っちゃダメだと言っただろう。もう付いて行きたいとか言っちゃだめだよ」


「はい。もうわがまま言いません」


 涙ぐんでいるレアには、ここがどこか視界が滲んでわからないだろう。


 2人の感動の再会を、プヨンは少し離れて見守っていた。




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