表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の使い方教えます  作者: のろろん
367/441

レアメサルの探し方 1

 交代戦前の最後の土日、プヨンとメサルは再びキレイマスにやってきていた。


 プヨンはヴァクスト絡みで依頼のあった『アレ』の案内、メサルは交代戦を観にくると言っていた『レア』の引き取りだ。


プヨンは嫌いなおかずから先に食べる主義、まずはメサルに付き合ってレアだ。


受付で要件を言うと、すでに相手は待っていたのか、レスルのすぐ脇にある打ち合わせ部屋に通された。


 「お兄様〜ずっとお会いしとうございました。レアは寂しさで毎日死んでおりました」


「すごいなー。蘇生魔法はAAAAのレア資格らしいよ」


 プヨンが棒読みの呟きはレアのひとにらみでかき消され、お返しとばかりに、レアの独演、いや毒演がはじまった。慣れたメサルがまぁまぁと宥めながら熱心な聴衆となる。これ以上の面倒さ回避と身内かわいさが半々といったところか。


 その後方にヌーンと身の回りのお世話をする女性が1人だけ。予想以上に軽装備だ。いったいどうやったのか。今までの経験からするとこの2人の付き人で出られるということはありえず、よほどの交渉力が必要だったはずだ。おそらく強度の強情力が発動したに違いない。プヨンの見立てでは後者の可能性がほぼ100%になった。


 もちろんプヨンは長々とした演説を聞くつもりはない。


「そういえばお兄様にお伝えしないといけない重要事項がありまして」


「それはいい。俺たちは席を外すとしよう。そんじゃ」


「お、おい。プヨンちょっと待てよ」


 メサルが呼び止めるが、プヨンは速やかに席を立つ。珍しくヌーンも何も言わずについてきたが、渡りに船といったところだろうか。


 レアがメサルと2人で話したいとの希望もあり、プヨンはもう一つの案件、本来の目的『アレ』なる人物の観光案内の依頼を聞きに行く。


 タイミングでも図っていたのか、プヨンが出てくると、今やキレイマスのレスル取りまとめ役にすっかり馴染んだタダンがあっちから急いで近寄ってきた。ずっと意外と重要案件なのだろうか。


「なぁ、タダン。先日聞いた依頼の件だが……」


「プヨン。待っていたよ。それなら奥の応接室だ。突き当たりの左だ」


「次はレスルの重要案件もあるんで、よろしくお願いします」


「や、厄介ごとなら引き受けないぞ」


「まぁまぁ、まずはお話を聞いてもらってからで」


 取りまとめ役の威厳を保ちつつ、下手に出てくるところが不自然だが、言われるままにプヨンは後ろについて移動する。


 指示された扉の前に立ち、ドアをノックして入った部屋に入る。後ろ手に扉を閉めたところで、先程別行動となったヌーンがいることに気付いた。部屋を間違えたかと反射的に扉を開けて出ようとしたが、扉は押さえつけられていた。


「お、おいっ」


 タダンに呼びかけたが返事がない。予想外なこともあり、考えがまとまらない。


 扉をあけようとした手がヌーンに引っ張られ、この声を絞り出すのが精一杯だ。ヌーンは言葉を発していないところを見ると、身構えていたに違いない。プヨンは油断していたこともあり、抵抗するタイミングを失い、そのまま椅子に座る。


「よくきた。依頼を引き受けてくれてありがたい」


とりあえず話を聞いてからだと言いたいが、まだ硬直が解けず返事ができない。それを了承と取ったのか、ヌーンが一方的な説明が始まる。


 プヨンへの暴言や意味不明な妬みらしきもの、ヌーン自身の行動制約に対する恨み節が混じる。なかなかの語彙力を伴った執拗な口撃が続くが、プヨンは話を聞かざるを得ない立場上、完全に無効化はできなかった。



 どのくらい時間が経っただろう。時間の進み方を変える魔法を使われた気がする。光速で移動すれば時間の進み方は遅くなるが、そんなものはもちろん使えず、多分10分と経っていないはずだ。


「では結論を言おう。レア様の身の安全を守りたいということだ」


 なんのことはない。ヌーンの目的はやはりレアの暴走を止めたいということらしい。ようやく頭が回り始めたがまだ万全ではなく、まずは状況再確認を兼ねて当たり障りのない会話を選ぶ。


「ローバ様はご健在ですか?」


「ローバ様は大変元気です。ショックなことがあったのですが、それをバネに気力充実されました」


 唐突に話題が変わりヌーンは『えっ』とした顔をするが、この話題にのってきた。


 老人に生きがいを与えられたようでよかったが、この話題はさして続かず、思ったほどの時間稼ぎにはならなかった。次のステップに進む。


「それで俺に何を?」


「メサル様が何とかしろとおっしゃるので」


「どうゆうこと?」


「メサル様がおっしゃるには、メサル様は広い世界に旅立たねばならず、レアは連れて行けない。うまく取り計らうようにと」


「もう少し具体的に」


「レア様はこれから数日メサル様と視察という名目で行動をともにされます。もちろん何が起こるかはわからないのが世の常。もし大変危険な目に遭うことがあれば、以降の同行を遠慮なさるのではないかと。もちろん怪我などはなりません」


 うーんと悩んでしまう。怪我をさせずに怖い目に遭わす。2日後にヘリオン達と交代戦があることを考えるとメサルにも無理はさせにくい。


「怖い目か。ふーん、みんな聖職者とは思えない極悪っぷりだ」


 ヌーンに念を押す。


「だが、俺は金だけでは動かないぞ」


「うむ、ここはなんとか真意を汲んでいただいて、助力を頼みたい」


「では、レスルの契約書を出してもらえるかな?」


「さすがだ。感謝する。さぁ、ここに署名してもらえればいい。不備があれば確認しよう。お友達価格ってのでいいか?」


 そう言いながら紙面の文章と金額を素早く確認した。紙面はレスルの透かし入り、金額は500グラン。少し数字を眺めた。もちろんだといいながら考える。


「うん? 何か問題でもあるのか?」


「あぁ、まぁな。ちょっとな」


 この紙は契約書である。スペースはそうない。何をするべきかだいたい見当はついている。


 迷っているのは2つ。位置と数字。1つ目は9か0、もう一つは前からか後ろからか。悟られないように前を見、氷鏡で周りをさぐると、机の隅に一本のペンがあった。投石魔法の応用投げペン。手繰り寄せるとペン先を確認する。もちろんインクは消せない。


「あぁっ。そ、それは!」


 散々悩んだが結論はでた。500の後ろに0を足す。


「買い叩くような奴はこうなるのだ。だが俺に任せておけ。最低限のことはするつもりだ」


 ぐぬぬっと歯ぎしりするヌーンだが、このくらいは当然だ。もっと抗議するかと思ったが意外にヌーンはあっさり引き下がった。もしかしたらヌーンも計算の範囲だったのか。あれは失敗か。ゼロが一個足りなかったかもしれない。


 抗議するかと思ったが、ヌーンはさっとサインをし、箱を一つ取り出した。


「では、これをご使用ください」


「なんだこれ。仮面? これで変装でもしろと?」


「メサル様にはこれが目印となっております。プヨンさんはレア様には顔が割れていますので」


 明らかにできそこないの道化の面だ。子供の落書きに近い。こんなものを身に付けろというのはヌーンのささやかな嫌がらせなのか。


 ヌーンをこっそり見たところどうやら笑いを堪えているようだ。サインした手前、雇用主は絶対だ。

プヨンは仮面を受け取るとヌーンに入れ物を返す。


「この装置は契約内容の伝達後、自動的に消滅します」


「え? ぶふっ」


 ヌーンの髪の毛が熱気で一瞬で縮れる。メッセージを受け取ったプヨンは、床に崩れ落ちたヌーンを椅子に座らせる。顔のすすを軽くぬぐうと、そっと部屋を後にした。




「プヨン、本日の結果は引き分けで満足しちゃうの?」


「まぁな。ちょっとやり返したかっただけだし。一時的に機能を停止させた」


 部屋を出てフィナツーと話しながらメサル達を探していると、タダンが寄ってきた。


「プヨン、話はついたのか?」


「ついたけど、なんかひどい気がする」


「あぁ、聞いた。『プヨンには借りがあるからさらに借りてやる。これも交渉術』と言っていたからな」


 タダンも曲者だが、やはりヌーンへの対応は間違ってはいなかった。あるべきところからはしっかりもらい経済を回す。重要なことだ。


「交渉は俺が勝った。俺の口上術により大幅に加増し、危険手当もやる気も増加した」


 勝利というほどではないが、まぁ、こんなものかもしれない。


「そうか。詳しくは聞いていないが貰えるものはもらう。これは基本だ。それからこれは言付けだ。作戦ポイントだそうだ。確かに渡したぞ」


 一枚の紙を受け取る。名前はないが、プヨンの呼び方や筆跡からメサルと確認できる。『ちょっとスリル系イベントをよろしく』とのメッセージと行動予定表だ。人数、移動時の乗り物の特徴、時間、町から少し離れた池の地図もついている。


「なるべく怪我のないように、見た目は派手という付箋付きだ。面白い依頼だが。あとでどういうことか教えてくれ」


 よくわからないオプションもついているようだ。地図を見る限り街からそう離れてはいないが、うっそうとした木々が多く見通しも悪い。主要街道として使われておらず、安全に配慮しつつ待ち伏せにもってこいの地形に見えた。ここで危険タイムを演出しろということだと理解した。


 

 

 下見も兼ねて、合流地点に早めについた。


バチン


 このダメージは1500V、雷撃と引き換えにターゲットを撃破。


 すでに指示場所に到着して半時間が過ぎている。それでも待ち合わせ時間までそこそこある。目印の巨木やその茂み、周りも3回は確認した。プヨンはそこでヤブを突き、追い出し、そして電撃を食らっていた。


 自給生活0079匹目、文化的生活からそこそこ遠い所外活動を想定し、プヨンは今夜の晩飯になるサンダーバードをゲットする。


「おぉーメシゲットか。やるなぁ。売ってくれないか?」


「えぇ。いいですよ」


 通りすがりに売るのもありだ。あれから通り過ぎたものは2組ほど、道というほどの道でもない。この先には景色の綺麗な湖畔があるが、野党や肉食系獣のリスクを冒すのは狩人か用事のあるものだけ。連れ込み目的の観光もないわけではないが、ごく稀だ。



「プヨン、きたわよ。150m先だけど、目標は6体いるわよ」


「やるな。俺も捕捉したが体温が高い生き物がいるだけで、人かは不明だった。のんびり歩いているようだな」


 林道ではプヨンの索敵範囲は大きく落ち、フィナツーの実機検索『隙機雷』の方が高性能で位置がわかる。プヨンはこっそり樹上にのぼり、気配を殺しつつ様子を探り続けた。




 そろそろプヨンに伝言した指定場所だ。メサルは少しそわそわしていた。レアを危険な目に遭わさないためとはいえ、ずいぶん手の込んだことをしていると思う。


「お兄様ーお昼はおいしかったですねー。次は何があるんですかー」


「次は綺麗な湖水地方にいくんだ。足は痛くないかー?」


「まだまだいけますよー。ちゃんと鍛えてますから」


 2人の四方には20mほど離れてそれぞれ1人ずつ、計4人が囲んでいる。この辺りではそこそこ高名な4人組だ。ヌーンはレアの希望もあってかずいぶん金をかけているようだが、その点は話はついている。プヨンはどのくらいうまくやるだろうか。


 自分が仕掛けたこととはいえ、メサルは完全に読み切れないまま流れに任せるしかなかった。


346

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ