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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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接着の仕方 2-1


「この小屋は気にするな。一夜で大きな木が生えて、ランカが大騒ぎしているだけだ。御神木だとか霊樹に違いないとかだが、まれにあること。それで教会をここに移動させたいと言っているんだ」


 それはそうなのかもしれない。状況を知っているプヨンからしたらフィナが引っ越しただけだが、世間には一夜で育ったように見えるのだろう。


「それで呼び出して、ここで待っていたのか? 引っ越しを手伝ってくれとか?」


「いや。それは別に害はないし、ランカとその取り巻きが勝手にやるはずだ。大したことない」


 そこで一旦区切るヴァクスト。大きく息を吸い込んでいる。そんなに気合いを入れないといけないことなのか。


「実はキレイマスのタダンさんからだ。おかしな依頼があるから相談してきてくれとあったんだが」


「おかしな依頼? 俺に相談してもいい依頼なのか?」


「あぁ、同じ人物を対象にして、同じ日に2つ。そして一つはなんとプヨン宛なのだ。だからこれは依頼の伝達であって、情報の漏えいではない」


 たしかに顔馴染みだからといって、ペラペラと他人の依頼の中身を教えていたら信用に関わる。だが当人への伝達なら問題ない。呼び出された理由もわかった。


「『アレ』って人が対象者だ。1週間後に行きますからよろしくと。キレイマスじゃないところからの依頼だ」


「アレ? だれ? 護衛なのに単独なのか?」


「心当たりがないのか? 護衛というよりは案内目的じゃないのか? 名指しだと間違いなく九分九厘顔見知りだよ」


「観光で? ますますわからない」


 手渡された書類を読む。アレが誰かまったく検討がつかない。


「街についてから半日、観光しながら町外れの古城跡まで護衛してほしいでいいのか?」


「そうだ。それでいいはずだ」


 古城といえば孤児院に使われ、町外れの災害倉庫も兼ねているが、救助隊くらいしか近づかない。


 一体だれなのか? メイサやアデルあたりの知り合いとかかもしれない。


 そして報酬に目がいった。


「やっす。名指しのくせに安すぎない?」


「まぁ、観光の付き添いならそんなもんだろ。忘れてるだけでもたいがいだが、きっと知り合いだろ。会った瞬間言うんだよ。『あぁーあのときの』とか。綺麗な人なら『忘れるはずないでしょ』とかつけてな」


 「そうかな。普通、身内なら安く使ったりしないで、出すんじゃないのか? そんなもんか?」


 

 もう一つは、依頼の内容そのものが不明だ。


 だが詳しく聞くと、直接口頭で頼んでいるが、もともと条件として攻撃系能力が必須、武器か魔法は問わずAAA希望で3-4人となっている。腕の立つものを募集するということだろう。


「え? 何この高収入! 50倍以上違うじゃないか。俺もこっちがいいぞ」


「相当危険なのかもな。応募者が多いらしく、いつものように最も実績点の高いグループが選ばれるそうだ」


「自分は観光しつつ、本当の危険な仕事は腕のたつ者を募集し働かせる。とてつもなく危険な気がするけど。観光中も狙われるんじゃない?」


「まぁ、依頼してくる金持ちはそんなのが多い、気にするな。観光は引き受けるんだろ? うまいものが一緒に食えるか護衛中で見てるだけかはお前次第だが」


「そんなもんなのか。成敗しようかな?」


「おいおい。上手くやって、追加手当てもらっとけ」


 幸いにして、依頼日はちゃんと学校のない日になっていた。ヴァクストの言うように、こちらの事情を知っている可能性が高い。どこでその人と知り合ったのだろうか。


「そうだな。確かに不思議な依頼だし引き受けようかな。それで呼び出したのか、おかげで助かったのかな?」


 受諾の意思を示し要件は理解した。これで話は終わりと席を立とうとしたら、ヴァクストに腕を掴まれた。


「まあ、待てよ。まだ、聞きたいことがある。コイツが本命だ」


「本命? レスルの依頼より大事なことなのか?」


「あぁ、そうだ。コイツを知ってるだろう。これはどうなっている?」


 そう言いながら奥から盾を一つ持ってきた。先日ハニカム構造で作ったアルミナの盾だ。


「あぁ、それか。なかなかいいだろ。もうちょっと強度を落として軽くしてもいいけどな」


「おぉぉ、ぉぉお。やっぱりお前か。この軽量魔法はどうなっているんだ。こんなのないぞ!」


「軽量魔法? そんなのないぞ?」


「同じ鉄板やアルミ板と全然重さが違うぞ。かといって棍棒くらいじゃびくともしないし、適度にしなる。なぜだ?」


「そんな難しくないけどな」


 と思ったが、これを作るには協力者がいる。蜂さんとフィナだ。2人の作る接着剤が必須でこれがないと話にならない。さてどう話したものか、とても面倒そうだ。まして自分で作るというのはもっと難しい。


「ほんとか。どうするんだ? コイツはいいぞ。きっとここでしか作れないぞ。重さは半分どころか4分の1くらいじゃないか?」


 さっきまでのヴァクストとは食いつきが違う。この話題が本命か。掴まれた腕が痛いくらいだ。


 作り方は図で説明できた。接着剤で張り合わせていく。六角柱の作り方、メリットとデメリットなども教えてみた。


「接着剤は熱には弱いから、超高温魔法には気をつけろよー」


「そ、そしてその接着剤は? どうやるんだ?」


「ふ。他には秘密だが、ヴァクストにだけ教えてやろう。ランカのいう御神木からいただくのだ」


「な、なんだって? どう言うことだ? ランカは知っているのか?」


 あとでフィナに頼んでおこうと思う。そして、大鎧蜂ぶーさん。 彼の支援は不可欠だ。 喜ぶ方法も知っている。


「なんか神木のそばに、花畑でも作ってやると、そのうち薬剤が木の根元に落ちてるかもな?」


「??? 意味がわからん。本当なのか?」


「まあ、騙されたと思ってやってみろ。このあたりの花がおすすめらしい」


 いくつか花の名前を聞くと、ヴァクストは部屋を大急ぎで出ていく。


 そんなに急いでも花が咲くには時間がかかるだろうにと思いつつ、プヨンも部屋を出る。


 依頼してきたのが誰なのか調べないといけないと思いつつ、蜂の接着剤を一瓶、ヴァクストのために置いてやった。




「ベッガース将軍、お菓子を持参いたしました」


「お菓子とはなんだ?」


「黄金色のお菓子でございます。是非お納めを」


 ベッガースにうやうやしく箱を差し出したのは、占領地のアパレル業界を取りまとめる組合の長ノートンサンズだ。


 ずっしりと重たい箱だ。紙の底が抜けないか心配になるが、手近にいる兵士を呼んで運ぶせた。


 ノートンサンズがそれを見ながらつぶやく。


「将軍の制服征服には感服致しました。力任せではなく、経済的にも支配力を高めるとは。さらに作りたくても作れなかった服、この夢が叶えられた!」


「当然だ。制服による征服のための政策だ。ニードネンなどの転生による転生のためより現実的だろう」


 ベッガースも賞賛されて拒む理由はない。まんざらでもない様子だ。たしかに一部の熱狂的支持者もおり、新統治政策はそこそこ順調に進んでいた。


「ですが、1つだけお願いがあります。よろしいですか?」


「うん? そうか? 言うてみろ」


 ノートンサンズは慎重に伺いを立てる。


「……というわけで、魅力値の向上と布地面積の縮小は必ずしも一致しませんぞ」


「??? どういうことだ? だが皮膚は防御力向上に使える。 これは重要だろう?」


「ハゲット将軍は、まだツメが甘いですな。かろうじて回避できない限界を攻める、この醍醐味がわかっておられない」


「なるほど。その考えはわからなくもない。なかなか奥深いものだ。限界突破の瞬間はとても美しいものだ」


「その通りです。自然の不安定環境の中、コンマ1mm、時にはミクロン単位の駆け引きがスカート丈にはあるのです」


「わかった。上昇気流のシミュレーション精度を1桁あげ、慎重にするように伝えよう」


「ありがとうございます。我々も全力で新素材の開発の強力を強力に進めさせていただきます。次回は白魔法の成果物を報告できる予定です」


 伝えたいことを伝えきった満足感がノートンサンズからは溢れている。斜陽気味だった男から、新たなる野望が溢れ出していた。


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