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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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準備の仕方

 先程受けた強烈な光で目がうまく見えないままだが、プヨンは慎重に塔から飛び降りた。せっかくだからと邪光の剣はもらったておいたが、いざ使うとなると副作用が大きすぎる気がする。

 

 エネルギーの供給で制御するしかないが、効果の高い武器はこうしたデメリットを併せ持つことがよくある。呪いがあるといわれる理由だが、実際にこれがないと困るようなことはあまりない気がした。



 塔を降りてすぐ不審者が目に入った。というか明らかに挙動不審で嫌でも目についた。ユコナだが本人はもっと前方の何かを気にしているようだ。完全に自分のことも見られているとは認識できていない。追跡者失格だ。


 ユコナに罠にはめられるとは思わないが、釣られたわけではないと言い聞かせながら視線の先を見る。どうやらその視線の先にいるのはサラリスだ。ユコナがサラリスを追尾していた。


 2人はそろそろと動くだけだ。何をしているのか気になった。



 空中移動で真上からそっとユコナに近づき、耳にふっと風を当ててみる。風魔法の基本中の基本、そよ風だ。


「ひっ」


 慌ててはいるが、かろうじて声を押し殺すユコナ。おそるおそる横を見るユコナはプヨンの顔を確認して安堵している。落ち着いたところで小声で尋ねた。


「何やってるの?」


「しっ。静かに!」


 静かにしろと声を出す矛盾を指摘したくなるが、そんな思いにユコナは気付かない。どうやら真剣に何かに取り組んでいるようだ。


「て、偵察よ。不自然なところがないか調査してるのよ。極秘事項だから公にはできないんだけど」


「不自然ってどこに? サラリスがか?」


ユコナの剣幕に少し押されつつも、より多くを聞き出すため話を合わせる。


 校長とノビターンの件もあり、今後の調査のためにも、相手から上手に話を聞き出す練習台にちょうどいい。まぁユコナのことだから、あえて急かさずほっておいた方が自分から本音を話そうとする気がする。手ごたえがないがそのまま付き合うことにした。


「そうよ。あ、ほら、もうすぐよ。ほら姿勢を低くして。腰まわりと胸をよく見るのよ?」


 ユコナに引っ張られ、茂みの陰に押しやられた。サラリスまで20m、普通に考えるとこちらにも気づきそうなものだ。


 サラリスが気付いた様子はないが、気づいていないふりをしているだけかもしれない。本気で隠れようと思うと思った以上に胃が痛く精神にくる。


 そのまま見守ること10秒ほど。


「今よ。ほら、あれ」


 指さす先を見る。サラリスが腰を揺すっている。服の上からではあるが、注意していると徐々に体型が変わっていくように見えた。


「あれ? 形が変わっているように見える。あれは擬態ではないのか?」


「それが見た目だけじゃなく中身もあるから違うわよ。お風呂でも見たわ。ちゃんと本物だった。一体どうやっているのかしら」


「そうなのか。ならば実際に体型が変わったということか。ピタッとした服のせいかと思ったが、腰まわりが細くなり胸が出たように見えたが」


「やはり。一体どうやっているのかしら。情報がまったく入ってこないのよ」



 諜報、いかに密かにかつ重要な情報を入手するかが決め手の活動だ。


 プヨンからしたらまったくの畑違い。知見などない。地道に探るのもなんとなく性に合わない。密かには省略し、一気に調査することにした。


「任せろ。俺もチャレンジする。成功したら情報料199グラン」


 ズバリ直球勝負でいく。


「あ、ちょっと。待ちなさい」


 ユコナがマールス通信で呼びかけてきた。


 最近のプヨン達は近距離しか使えないが、小型化の信号機のものを手に入れ、耳たぶの中に仕込んでしまっている。


 さわやかな笑顔でもう一度任せろをアピールした。


 そばまで近づいても気づくそぶりがない。もちろんプヨンは空中浮揚で足音を消し、影や匂いにも気をつけているが、どうやらそういうのとは違うようだ。


 プヨンが1mまで近づく。またそよ風を起こしてもよかったが、今度はささやきにしてみた。


「なぁ、サラリス、さっき体型変わったように見えたが……あれは何だ? 擬態でもないようだが」


背後から声をかける。突然の声にサラリスは慌てふためいた。


「い、いつの間に背後に」


「神型神隠しで近づきました。で、さっきのは?」


「え? あれね。聞いて驚いて、『神型』燃焼魔法よ」


 プヨンのふざけに、サラリスも神型で返してくる。


「おぉ、なるほど。そういうことか」


「何よ。何やったかわかるの?」


「脂肪を燃焼させたな。腰まわりがくびれたのはそういうことか」


「まだ一言しか言ってないのに、なぜわかるの?」


「神型とはそういうものだ。脂肪燃焼とは斬新な発想だな。燃やしても安全なのかな。脂肪だけを死亡させるとはな」


「でもいいことばっかりじゃないのよね。何かわかる?」


 やはりデメリットもあるようだ。説明を思い返し、何だろうと考える。


「うーん、保持期限か? 次の日には戻ってしまうとか?」

 

 そういうとサラリスは驚いていた。


「む。研究成果の超極秘情報をなぜ知ってるの?」


 即座に強烈な殺気が放たれる。どうやら図星のようだ。だがいつもなら秘密を知った者は抹殺するとか、火柱人柱にしてやるとか言われるところだが、今日のサラリスは違った。


「わかった。プヨンもやったことあるんでしょう? この後はどう改善すればいいのかしら?」


 今日は仲間とみなしたようだ。どう改善すればいいかに興味があるらしい。


「そりゃ簡単じゃないかな。消費できてないから戻るんだろ。分解した分を消費するまでは、必要以上に食わないようにしないとな」


「なるほど。そうだったんだ。それは考えなかったわ」


 そう言いながら、サラリスはおもむろにストレージから木剣を取り出し、プヨンに投げてきた。


 維持するための運動だ。運動を促した手前致し方ない。


「あ、おい。ちょっと待った。俺が相手をしてもいいけど、燃焼魔法を撃ち込むのなら手頃な相手がいる」


「へー誰のことなのかな?」


 サラリスに少し指示を出すと、サラリスはニッコリ微笑んだ。剣を一度戻すサラリスを待たせて、プヨンは引き返した。



「あ、戻ってきた。うまくいったの?」


ユコナが隠れている木の根元まで戻ると、すぐに食いつくように状況を聞いてきた。よほど興味があるのだろうか。


「あぁ、なんとなくわかった。使えるかも試してみた。サラリスほどうまくはないが」


「ほんとに? ちょっと試してみて」


「うん。任せてくれ。サラリスの説明だと、たしか、こうやると言っていた」


 あの時、サラは『リポリシス』とつぶやいていた。ここはしっかりトレースする。


 狙いはどこにしようか。サラのようにお腹にしてもよかったが、わかりやすそうな二の腕がいい気がした。あのあたりもたぷたぷで、減らすと喜びそうだ。しっかり狙いをつけ、ゆっくりと腕を伸ばす。


「とりゃ」


 「え? いきなり何?」


 だが、ゆっくりした動きのせいか避けられた。その避け方も中途半端だ。まるで事前にすり合わせしていたかのように、指先は二の腕から外れ右胸を指差していた。


 ぷしゅ


 実際に音がしたかはわからないがそんな気がした。脂肪が少し分解され、ほんの少し右胸が縮んだ。


「ど、どういうこと? どうしてくれるのよ」


 何が起こったかはユコナは理解したようだが、動きが固まっている。そこに急接近するものがあった。


「もらったユコナ! もちろん、こうしてやるわよ」


 ユコナの叫びと、サラリスが上空から急降下するのが同時だった。


「え?」


 いなくなったはずのサラリスの声が響き、ユコナは予想外の角度からの奇襲に完全に戸惑っている。続く矢継ぎ早の攻撃に翻弄され、かわしてはいるが防戦一方だ。


 ほぼ動かないまま、左胸に直撃をくらう。プヨンの時以上の大幅な体積減少が見られる。


「ふっ。スパイは乳殺。それがルール。銃殺でないだけ感謝しなさい!」


 分解された脂肪は再び蓄積され、翌日までには元に戻ってしまうらしいが、それは超極秘事項でユコナは知らない。


 もちろんサラリスは目一杯脅しをかけた説明で口撃効果を高める。


 動けずに左胸に何度か直撃をくらう。


 プヨンの時以上の大幅な体積減少が見られる。


「ふっ。乳殺はそう簡単には終わらないわよ。ほーら、小さくなーれ。ユコナに教訓を与えよ!」


「な、なんて凶悪な。でも、小さくなるなら大きくもできるの?」


「あるけど、つけまわすユコナには教えない! プヨンみたいに普通に聞けばいいのに!」


「うぅ、そ、それは。サラだけずるいから!」


 サラリスに突き放されるユコナだが一瞬戻せると聞いて安心したのか動きが止まる。慌てて逃げようとするが遅かった。


「くらえ。二の腕ぷるぷるぷるー!」


「ひゃー、そ、そんな! エビルプルプルめ!」


「対策なら腕立て伏せでもするがいいわ!」


 サラリスの逆魔法が発動し、ユコナの二の腕に大量に付着していく脂肪。


「腕を広げるとムササビのように空を飛べるかもね」


 ユコナの精神はほぼ死亡した。


 それなりに揺れが大きくなったところを見ると、さっきの分解したものを二の腕で再生したようだ。量は限定されているが、思った以上に反応が早かった。


 サラリスは振り返りもせずにそう吐き捨てると、さっと浮かび、そのまま練兵場に飛んで行ってしまう。

それを呆然と立ち尽くして見送るユコナ。プヨンは少しかわいそうになったため助け船を出す。


「治せなくはないが呪文が少し難しい」


「ほ、ほんと? お願い。でも呪文なんているの?」


「もちろんだ。『むねむねーん大きくなーれ』だ。サラが言うには大きな声ほど効果があるそうだ」


 もちろん適当だ。まあおいそれと言えないだろうが、悩んでいる間に元に戻っていくだろう。


「言えるようになったらいつでもいいよ」


 どう反応するのか楽しみだ。躊躇っているユコナを横目に見ながら、部屋に戻ろうと思った。

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