回復魔法の使い方7
ユコナとプヨンは、部屋を出て、ロビーに戻って、椅子に座って一息ついていた。お互い、
予想外の事態に戸惑っていた。特に、プヨンは、ちょっとした大金を手に入れてしまったことに。
ユコナもそこそこ裕福ではあるだろうけど、それでも、小さい金額ではなかった。
「プヨン・・・・回復魔法、得意なの?」
「え?回復魔法?いや、そんなことはないけど、毎日メイサとかがしているの見てたから・・・」
と、返事した。もちろん、ほんとのことだし。
「で、でも、メイサ様とかよりもできるみたいなこと言われてましたよ?見てるだけだと、越えら
れないのでは?私は、なくなった指を治療で作り出すとか、見たことありません」
「骨折とか体の中を治すほうがわかってないと難しいんじゃないのかなぁ。指は、そんな難しくない
と思うよ。あれって、指を作ってるわけじゃないんだよ。中身がわかってるわけじゃないしね」
「え、そうなのですか?無いところから作り出しているようにしか見えませんでしたが・・・。世の中には、そういう治療ができる人がいるとは聞いた事がありますが・・・噂だけの存在かと思ってました。もしくは、もっとずっと高位の司教様とか」
(なるほど。自分としては、複製しているだけだから楽だと思っていたけど、横で見てると、無から作っているように見えるのか」
「違うよ、あれは作ってるんじゃないよ。反対の手にあるものを、そのまま複製していったというのか、なんというのか」
「複製ですか?どうやっているんですか?」
「中身がよくわかってないけど、同じ材料で同じものを作るってところ?料理をするとき、材料それぞれをわかっていなくても、料理はできちゃうみたいな」
なんか、いい例えがないかと考えてみたけど、あまりいいのが思い浮かばなかった。
「足は、切れたところをつないでるだけだよ。骨とか筋肉とか血管とかね」
「骨ですか?そういうのはあんまり詳しくないのですが・・・・」
「まぁ、俺も、大きな組織単位では意識してるけど、具体的な物質やこまかい構造を理解してるわけじゃないからなぁ。程度の違いだけなのかなぁ。俺からしたら、ユコナとかの治し方のほうが理解できないけど」
「は、はぁ・・・」
「ちょっと気が引けるかもしれないけど、怪我した人を治療するときは、じっくり観察するのがいいのかもな」
そんな話をしていると、ホイザーがもう一人女性の事務員を連れてやってきた。2人を探していたようで、
「いたいた」とか言っている。ホイザーは、そばまでくると、
「さっきの金だけど、どうする?直接渡してもいいんだけど、さすがに今後全部持って歩くのも大変だろうし、ドーテについて説明させようとパルミを連れてきたんだ」
それだけ言うと、ホイザーは帰っていった。パルミと呼ばれた女性は2人の向かいの席に座って説明してくれた。簡単にいうと、レスルがある程度の金を預かっておいて、管理してくれるシステムをドーテと呼んでいるようだ。レスル側からすると、毎回現金でやり取りする必要がなく、大きな金額でも帳簿上で差額のやり取りだけで決済できることと、準備する資金を少なくできるメリットがある。使用者からみると、大金を常に持ち運ぶ必要がないから、窃盗面だけでも、かなりメリットがある。少量だとそこまで大変ではないけど、町から町に移動するときに大きな金額を持って歩くのは襲われる心配もあるし、何より重い。ただ、遠くの町などで使いたい場合は、あらかじめ連絡しておかないといけなく、時間的な余裕がないと使いづらかった。まぁ、お金に余裕があるなら、いくつかの町のレスルにちょっとずつ預けておいてもいいのかもしれないが、万が一死んだりすると、回収が面倒だったりもする。そんな話を一通り聞いた。結局、ユコナともちょっと相談して、現金で200グランずつ受け取り、残りは、ドーテに預けることにした。
「なぁ、ユコナ。200グランって大金なんかなぁ。貴族だと違うのかもしれんけど」
プヨンは、あまりお金を使うようなことが今までなかったので、過去最大レベルの現金保有だった。まぁ、プラチナコインでもらったので、20グラムほどだから、ぜんぜん邪魔にならないけど。
「私も貴族とはいっても、お金持ちではないので、こんな金額は持ち歩かないですよ。もっとも、
そもそも、自由に買い物することもないのですが」
そう言ってきた。なるほど、買い物は、他の人にしてもらうのか、もしかしたら、出入りの商人とかがいるのかもしれない。
自分で買い物する機会が、年齢的にも、今まであまりなかったんだろうな。
と、一人納得した。
「なぁ、この金、何に使おうか。サラリスは内緒かなぁ?」
「そ、そうですね。まぁ、大金といっても、そこまでものすごいものも買えないですけど」
「うーむ。悩む」
「そうですねぇ」
そんな、たわいもない話をしていた。
「まぁ、しいていえば、ちょっと出かけたりするとき用の鞄とか、防具とかはほしいかなぁ」
「そうですねぇ」
ユコナは、これといってほしいものはなさそうだったが、きらきらしたコインを見てにやにやしている。
(まぁ、コインもきれいだしな。宝石みたいなもんか)
ちょっと面白くて、だまってみていた。
「あ、そういえば、ちょっと欲しかった魔法の本がありました。火や水はよくありますけど、その本は、自然に関する魔法
についてらしいんです。雨とか雷とか」
「へー、雨か。そんなの使えるの?」
「本があるからには使える人もいるんでしょうけど、ちょっと聞いたことがないですね。そんな広範囲に影響を及ぼせるのか・・・疑問です」
(俺の電気は、一応小さい雷になるのかな。風も?あれをでかくすると自然になるのかな?原理は簡単そうだけど、雨となると、少なくともkm単位とかになるのか)
とは思いつつも、それを言う必要もないので、適当に相槌をうっておく、
「やっぱ火を飛ばす程度からすると規模が違うからな。そんな簡単じゃないのか。でも、面白そうだね」
「じゃぁ、私は、本を見に行くので、今日はここまでで」
「うん、またね」
そういって、今日はさよならして、教会に戻ることにしたが、帰る途中にちょっと考えていた。
(今日は、足が切れただけだったから、治せたけど、もし、目みたいなもっと複雑なものだったら?あるいは、内臓とか?1つしかないものだったら、いつものようにコピーできるのかな?)
ないものを作り出して治療する方法は思いつきはするけど、それを実際にできるのかはよくわからなかった。




