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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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会談の仕方 1-2

 ノビターンは少し作戦を考えていた。


 確かに心を開いて味方を増やすのはいい。だが主導権は握っておきたい。


 もちろん味方になってもらうにしても、足手まといにならないよう一定の水準は確保したい。


 あまりに好き勝手動かれても困るし、要求の反動で敵対されては元も子もない。


 ふとわがままかなと悩んだりもした。



 「さて、どうしたらいいかしら?」


 不安になると声に出してしまうが、パッと見たところ相手は年下だ。


 おまけにここが兵学校であることは、ノビターンも当然知っている。


 共学ではあるが、こういう施設では一般的に異性慣れしていない者が多い。年齢的な要素もあるだろうが、ノビターンの属する教会にも多くの男女がいるが、似たような者が多い。もちろん自分もそのうちの1人なのだが。



 焦らずゆっくりと、アサーネの言動を脳内再生する。繰り返し聞いたことだ。


「大丈夫ですよ。男は上手く使いましょう。最初にちょっと魅了してその気にしてやれば、あとは勝手に貢いでくれます。それはもう絞れるだけ絞れます」


 この辺りから多くのことを学んだ。たとえ宗教家といえど、お金もいるし繁栄は重要命題の1つなのだ。



 だが頭ではわかってもノビターンは今ひとつ気乗りしない。気が重く、行動に移せない。


「も、もしや、この男が何らかの影響を?」


 ふと精神魔法による、やる気減退効果が気になった。相手の発する言動で意欲や効果を減衰させるのはよくある。


 目の前のプヨンののほほんぶりは緊張感がない。気が抜けそうになるが、ここは気力をかき集めた。


 年下の男の子だ。ちょっと大人の誘惑を用いれば軽く籠絡できるだろう。いや、できねばならない。


 ノビターン自身の奥手さのせいも大きいが、気を引き締め、不慣れながらも一歩踏み出してみた。


「こ、こうやって見ると、お、思ったより可愛らしい男の子ね。だ、抱きしめちゃおうかな」


 言葉を選び、どもりながらも何とか言い切った。顔が赤い気がする。


「いいよ。ぎゅー」


 言った直後、突然プヨンが飛び込んできた。反射行動と言ってもいいくらいためらいがない。


「え?」


 ノビターンは顔を赤らめるプヨンを予測していたため完全に逃げ遅れ、しっかり抱きつかれた。


「!!!」


 声なき悲鳴をあげてノビターンは硬直している。動けない。


 ノミの目が笑っているのが辛うじてわかるが、睨み返す余裕もない。


「こんなもんでいい? もうちょっとする?」


 だが、そんなノビターンに向けてプヨンはこう言い放つ。


 しかもいつでもできるかのように『ポイっ』っと言いながら、ノビターンを解放する。


 ありえない。なによポイって。服についた髪の毛でも捨てるようにぞんざいに扱われるのがわかる。


 一瞬で経験値が違うことがわかってしまった。


 だが怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤のノビターンは、まだ体が麻痺し伏せ目になる。


 もう一度ぎゅーっとされてしまった。


 

 ノビターンの人生で数えるほどしかない経験、さらにぎゅー間隔最短記録更新の中、次の手が思いつかない。


 ノビターンは固まっている。続けてプヨンの攻撃がきた。


「悩んでることがあるんでしょ? 聞くだけ聞こうか?」


 何、その平然とした態度は。


 この心臓の鼓動がわからないのとノビターンは心の中で毒づくがプヨンは待ってくれた。このお陰で少し落ち着く時間が取れた。


 そっと深呼吸する。目の前ののほほんとしているが、無知の蛮勇、知らないが故の余裕と考えることにした。


 「奥義アイ・ビーム」


 ただ伏せ目でじっとみつめるだけだ。


 教会聖女ランキングで、ほっておいても上位にノミネートされるノビターンだ。絶世の美女というわけではないが、それなりの効果は見込める自信があった。


 ここで『サッカード』、得意の視覚封じを使う。視覚抑制で動く物を検知できなくする、言い換えると相手に気づかれずに動くことができる。


 ほーら、気づいたら3cmで見つめ合っているのよ! 熱々の視線で顔を真っ赤にしてあげるわ!


 そう思いつつ今度はこちらからと、ノビターンはプヨンの目の前に飛び込んだ。


 ガンッ


 目から火が出た。火球攻撃かと思ったがどうも違うようだ。


 飛び込んだ瞬間、プヨンも飛び込んできていた。それは気がついた。


 だが額がぶつかったのではない。ノビターンの頭はプヨンとぶつかる直前、空中にある異常に硬い何かにぶつかっていた。


 「な、何が……」


 めまいがするが、プヨンは平然としている。石頭というわけでもなさそうだ。


 「だ、大丈夫ですか? すいません。空気にぶつかってしまいましたね。ちょっと壁を作っていたもので」


 おまけに意味不明の説明が続く。


 いつもこの男に会うと理解できないことが起こるのだ。額をさすりながら次の手を考えた。



 「ノビターン様、遊ぶのはそのくらいにして、お悩みを相談してみたらどうですか?」


 ここで予想外のノミの発言がきた。支援とも攻撃とも取れないが、魔力電池マリブラが在庫切れ。すぐの応戦は避けねばならない。


 それに打算もあった。ここなら本音でしゃべっても影響はない。知っているのはノミだけになる。


 たしかにノミの言うように一度心の内を吐露して見て、自分がどうかなるかをみてみたい気もした。


 プヨンの目をじっと見る。先程とは違う。仕掛けるのではなく、話し合う価値があるかを見極めるためだ。

 

 それだけで確信できるわけでもないが、ここは大人しく心の声に従おうと思った。ダメなら最悪二度と会わなければすむ。



 ノビターンは心の内を淡々と語ることにした。


 最初は理解してもらえるか不安だったが、不思議と問題なく理解してくれる気がしてくる。

 かえって変に盛ったり、言葉を偽ったりしない方が良い気さえした。


 もちろん悩みは『生まれ変わり』のことについてだ。


 そもそもこんな話、まともに受け入れてくれるかすら怪しいとも思うが事実でもある。


 内容は少し背景から説明する必要があるが、すでに何度も自分で整理しているだけあって澱みなく説明できる。

 

 最近悩みがあること。それが人の欲、それも自分本位の欲に対するものと説明する。もちろんノビターン自身の欲ではないこともそれなりに盛り込んでいく


 その欲の目的はほぼ権力、金、そして色だ。


 プヨンの反応はあっさりしていた。『ふーんそうなんですね、欲しい人は欲しいでしょうけど、で俺にどうしろと?』とでも言いたげな薄い反応にしか見えない。



 ここからは少し説明するのが心理的に苦しい。いろいろと思い出してしまうからだ。


 「具体的に言っても信じてもらえないでしょうけど、この欲、特に生存欲のため犠牲になっている命があるんです」


「ふーん、多いの? 誰だろう」


「生まれたばかりの子供たちです」


「生存欲かぁ。たとえば、相手の体を乗っ取っちゃうとか?」


「え?」


 戦争や災害、事故などの犠牲を暗にほのめかすような言い方のつもりが、いきなりどストライクで正解を撃ち込まれた。


 黙って見つめ直す。たまたまなのか何か情報でも掴んでいるのか探りを入れてみる必要がある。


 数秒だが沈黙は長く感じられた。


「えーー、もしかしてあたりですか?」


 プヨンの表情が一気に楽しそうになる。


 思いっきり顔に出ている。知っていると言わんばかりだが、ノミが彼の知識はすごいなどと言っていた言葉が浮かぶ。


 ノミと目が合った。ノミはノビターンが動揺していることは意識しているようだ。ノミまで自信たっぷりに見える。


(*´∇`*)


 ほら言った通りでしょ。こんな顔をしている。


 ノビターンは聖女顔の維持に全能力をつぎ込む。


 もう少しで歯ぎしりが出そうだ。握りこぶしに力が入り、少し魔力残量が回復した。


 だが違いますよとも言いづらい。明言は避けるが、結局それに沿った説明、年寄りが権力と寿命を維持するため赤子を利用しているということを、回りくどく伝えてみた。


「……このように自我部分だけ移し替えるのです。私達はこれを、『ソウルハグ』とよんでいます」


「なるほど。すごいなぁ。できるの? 成功率は?」


 見た目、驚いているという様子が感じられない。成功率と聞いてくるところから、できるということは当たり前、どのくらいできるかを聞いているように感じた。



「おふざけが過ぎますよ。まったく参考にならない報告です」


 ついノミのいい加減な報告に毒づく。


 ノミの報告はあきらかに過少申告だ。まったく想像できない内容ではなく、プヨンはすべてを知った上でどの程度か見透かされているようにすら思う。


 これでは、話の持って行き方をかえねばならないくらいだ。非難眼でじっと見つめ動きを封じる。いつもの睨みの30倍くらいは凄みを効かせた。


「ノビターン様、見つめるのはプヨン殿では?」


「な、なんですって?」


 しかし普段は被弾しまくりのノミが、今日に限って華麗にかわす。攻めあぐねていい手が思いつかず、ノビターンはなんとか搾り出したが、しょぼい口撃を撃ち込むのが精一杯だ。


「義務を果たしましたか? 報連相の!」


「は、ははっ。すでにゆるりと報告すべく準備しております」


 鈍感なノミはビクッとしたがまったく動じない。これがおばかゆえのお気楽か。


「それじゃダメ、それじゃ! 何事ものんき厳禁です!」


 彼の国の知将と呼ばれ、魔法原理に詳しそうなものがいるというノミの情報はデタラメだと思っていた。確かにデタラメだ。この辺りまで踏み込めるなら、一般範囲を超えている可能性がある。


「人の延命治療ですよ? 驚かないのですか?」


 一瞬、どういう意味かわからなかったが、ここは驚くところのようだ。


「おぉ。そんなことができるのですか? 一体どうやって?」


「どうやってって、そ、それ……は」


 迂闊に話すと敵を利して不味いのではないかという気持ちと、これは話がはやい、詳しく話して頼ってもいいのではないかという2つの気持ちがせめぎ合っていた。


 明らかに想定外だ。もっと気楽な存在で思う時に動かせる存在が望ましいと思っていた。手足が好き勝手に動くと不味い気もする。


「とある研究施設で……」


「研究施設!?」


 あ、まずかった?


 研究施設といった瞬間、プヨンが食いついてきた。ここで反応するのか。何か気にするところが違う気がする。


「他にはどんな研究を?」


「え? そっち?」


 まさか違うテーマを求められるとは。悩み相談から外れつつある。


 さらにプヨンが距離を詰めてきたため、目と鼻の先でプヨンの目を見入ってしまう。年齢が若くみえることもあり、ヤング率がゼロ、ノビターンの男性係数がほとんど機能していない。


 まさかこの男、魅了能力でもあるのかしら?見つめ合い視線をかわせないままノビターンは動きを封じられる。そんな方法は聞いたことがない。


 一瞬身震いした。見透かされているようにも思う。怖さと期待の混じったような複雑な気持ちだ。


 このまま話をしてもいいのか、それともノミの言うようにゆだねてしまったほうがいいのか。しばし考えてしまった。

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