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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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夜戦の仕方 3

 ノビターンはノミから少し離れ様子を伺っていた。上空30mくらいに浮かんでいると、意外に気づかれにくく同時に相手を監視しやすい。


 もちろんノビターン目の操作については得意だと自負していることもあり、相手をはっきり認識している。普段から遠くと近くを交互に見て、焦点を素早く合わせる鍛錬も欠かさない。


 今の設定はもちろん遠視モード。相手の服の模様や髪の毛まではっきりと見えていた。



 すでに雨は小降りになってきていた。雷は遠ざかりつつあるが、時折見える雷光で相手が歩いていることはわかる。その先にノミがいる。もちろん相手も気づいているのだろう。


 念のため魔電池『マリブラ』の安全弁を解除し、いつでも最大出力が出せるように開放した。


 これで相手が危害を加える素振りがあれば、即座に大氷塊を落とせるよう準備しておく。これでいつでも即応できる。幸い天気も雨だし、今は湖上にいる。材料である真水には事欠かない。


 今の天候状態なら、100m四方に大雹海攻撃『ダイヘイリング』を連発できそうだった。



 追撃者がゆっくりとノミに近づいていく。その様子をノビターンは上から目線で眺めている。自分自身に余裕があり、いつもの自分らしく気分がよかった。


「ふふふ。そうでしょう。本意ではないですが、ノミを囮にして正解でした。こちらには気付けていないでしょう」


 夜の雨の中ではそうそう気付かれない。もちろん自分に雨を当ててしまい、水の流れで姿が見えるなどという下手も打たない。



 だが自分から身をさらすような動きもできず、ノビターンは様子を見ながら仕掛けるタイミングを探っていた。


 もちろん仕掛けるなら全力で一撃だが、相手の警戒心も感じられる。単純に攻撃するだけならきっとかわされるだろう。音や光もなるべく出したくない。


 わずかな隙も見落としてはならないと細心の注意を払うが、そんな都合のいいタイミングはなかなか訪れなかった。


 

 雨が降り続いていた。


 そのうちうずくまって何やらやり始めた。やってきたのはプヨンだが、ノビターンが認識できたのはどうやら男らしいということだ。


 何をしているのだろうと聞き耳を立てる。雨が邪魔をしていたが、わずかな動きも音も見逃せない。


「……ヘッタクソ。何だこりゃ。ど素人の治療か」


 いきなり罵りの言葉がとんできた。治療の不手際を指摘しているのだろうか。


 たしかにノビターンは表面的に治しただけで、体の中身は中途半端だったかも知れない。致命傷がないことは確認したが、身内といえどノミに対していい加減だったかと、ノビターンは反省した。ほんのこのくらいだが。


「あ、あれは? 治療準備をしている? ノミの知り合いでもないのに何のために? 何か企んでいる?」


 考えながらだったので、つい声に出てしまった。


 念の為、頭で反芻して再確認する。何をしているか詳細はわからないが、どうもノミの被ダメ状態を調べているようだ。



「もしかしてこれ見よがしの是正治療でもするつもり? 手順を確認でもしているのかしら?」


 教会関係者としては治療行為は最も身近な魔法施術の1つ。個人差はあれど、実行中のエネルギーのやり取りから何をしてるかの当たりはついた。



「うわぁ、ひでー」「超どへた」


 聞こえてくるプヨンの独り言は明らかに煽り目的とわかるが、それでも言葉を選べと思う。口舌の刃でグサグサと胸を何度も貫かれた。


 ノビターンにわざと聞こえるようにしているのか、とりわけ治療に対する採点がひどい。技術的な点だけでなく、人格面も否定されている。


 苦痛を伴う治療だった。

 必要以上に長引かせた。

 根本が治療できてない。


 被験者に対するいたわりがないということで延々と罵られた。


 じゃあお前はどうなんだという気持ちもあるが、指摘の大半は確かに正しい。自分の中で納得せざるを得なかった。


 そして隠れてる身としては一切の反論ができない。これはつらい。やり場のないパワーが指数関数的に蓄積されていった。


 

 悶々としていると一気に感じる力が強くなった。本格的に治療が始まったようだ。


「あら? もう終わり?」


 と思ったら波動が止まった。時間を測ってやろうと思ったが、せいぜい5までしか数えられなかった。

 

 ノミはたしかに重症ではなかった。深層の怪我がなく、おまけにある程度自分が手を施していたとはいえ、様子を見ながらくるっと一周回っただけで、治療の波動は途絶えた。 ほんの数秒だ。


 そしてノミの体が動いていることに気付いた。


「あ? れ? なんだか早くないですか?」


 本当に今ので治療が終わったのだろうか? 自分よりあきらかに治療速度が早い。それも圧倒的な上に、ろくに触れもせず治療している。


 もしかしたら失敗したとか。それなら、まぁ、わからなくもない。


 心臓がドキドキして、思わず見入ってしまいそうになる。治療魔法に魅了を混ぜるとは考えられない手法だ。


 ノビターンも基本は学んだが、途切れも迷いもない滑らかさから、長い時間をかけて鍛錬した熟練さがかもし出されていた。



 

ガバッ


 突然ノミが起き上がり歩き出した。


「あっ、ノミ。大丈夫なのかしら?」


 普段はノミをぞんざいに扱うが、それはノミが元気な時の話だ。根が優しいと自認するノビターンはふらふらと歩き出すノミを気遣う。もちろん自主性を重んじるので、気遣うだけで手助けはしない。



 さっきノミの治療していた者はプヨンだが、ノビターンはまだ誰かは気づいていなかった。


 プヨンがそのままノミの状態を見ているが、もしかしたら何か企んでいるのかも知れないと警戒する。


 攻撃特化ではないノビターンとしては、相手が油断し防御力の落ちるチャンスを狙うのが常道だ。相手の動きを読み、わずかな隙も見逃さないよう、細心の注意を払う。


 ノミが何やら話しながら歩いていく。さすがに心配ではあるが手助けはできず、様子を見る。その間も時折繰り出されるプヨンからの心に刺さる口舌の刃の数々にじっと耐えていた。


「この評価のお礼はいかほどにしようかしら」


 脳内活性化魔法により、超高速処理を用いた様々な天罰シミュレーションをする。もうしませんと泣くプヨンに、まだ反省が足りませんとの神の声を伝える。


 聖職者の威厳を残しつつ、罵るプヨンへの天罰を天に祈っていたノビターンは、ふらふらと歩いていたノミが倒れるのを見た。


「あぁっ、ノミ! 大丈夫?」


 あっと思い思わず声が出たが、同時に迷わず行動に移す。ノビターンはもう1人のノミを治療していた者、プヨンを上空高く投げ飛ばした。


 タイミングは完璧だ。きっとノミに意識が向いて、頭がお留守になっているに違いない。


「ゴッドショット!」


 心の中で強く念じ、天に向かって打ち上げる。プヨンを上空に吹き飛ばすため、溜まりに溜まった罵りによるパワーを一気に解放した。


 体が激しく揺さぶられ、強い風を感じた。魔法の発動時の現象だが、急激に近づくプヨンを確認し内心ほくそ笑む。


「あら?」


 そして地面も近づいてきた。戸惑うノビターン。


「もしかして動いているのはわたし?」


 状況が把握できないが、地面に向かって急激に落下していることに気づく。まさか自分が仕掛けられるとは。


『なっ。あのタイミングで仕掛けるとは、なんて卑怯な!』


 きっと目の前の男だ。コイツがしたに違いない。


 ノミが倒れたのに助けもしないで攻撃をするなどなんて酷いやつなんでしょうと罵りつつ、慌てて自身の落下を阻止する。


 しかし止まらない。


 なぜ?


 プヨンはまだ地面にいた。


 ノビターンが本気でマリブラを解放し、臨界点を突破した怒りパワーを上乗せすれば、騎馬戦車や3000kgある攻城槌ですらなんなく投げ飛ばせる。


 なのになぜこの男は地面にいるのか。


 なぜ?


 もう目前に地面が迫る。激突は避けられない。


 受け身を取らなければ。そう思った時、自然とアサーネ直伝の受け身が発動した。


 無意識でも最悪の事態を回避するべく体が動く。日頃の鍛錬の賜物と言えた。


「きゃあぁ!」


 受け身が発動した。最優先は声だ。大満足のかわいい声が出た。


 『いついかなる時も乙女であることを忘れてはなりません。それでこそ殿方も命を賭して守ろうと思うのです』


 アサーネの言葉は至言だ。無意識に反芻しつつ地面に激突した。


 ビタン!


 ぐっと堪える。痛い。ここでぎゃーとかは最悪だが、アサーネが正しいかも疑問だ。


 頬を擦りむき、体の節々がいたい。今襲われたら避けられないだろう。


 もっと大事なことがあるのではないかと思いつつも、かわいく言えた誇らしさで笑みが出た。

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