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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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夜戦の仕方 2

 一時的に強かった雨は小降りになっているが、空が光ってから音がなるまでの時間は3秒とない。おそらく真上に雷雲があるようだ。


 何もない地上や水上なら、どちらかと言うと空中に浮いている方が確率的には安全だろう。


 まあ直撃してたらどちらにしろ大火傷だろう。そうならないよう、傘代わりも兼ねて分子結合シールド『パイオン』を展開している。もっとも結合力の強い核力を利用したものだが、武器攻撃や大砲程度ならなんなく跳ね返せる。


 もちろん雨粒攻撃など恐るるに足らない。水がたまらないよう、壁を傾斜させて脇に流すように工夫もしていた。



「フィナツー、どのあたりかわかるか?」


「探知木の効果範囲は50m四方だから、結構いい加減よ。くっついたかどうかわかるって精度だし、地中は無理だから」


「まあ、埋まっていることはないだろう。湖面上も一緒か」


「うん。多分取れるし、水中に入ると洗われて浮いちゃうはず」


 フィナツーは簡単に手順を教えてくれ勉強になる。自分では使えなくても対抗策は考えておいた方がよい。


 相手方にもフィナツータイプがいることはあるはずだ。こうした相手の探知を撒くときは、一度水をかぶると軽減対策になるようだ。


 だが『オナモミ』がそれですべて取れるかはわからない。微粒子ならそっとファイヤーブローを用いて火砕粒で焼き尽くす方がいいのか。更なる追加検証が必要だ。


「この近くのはず……あっちかな。あの岩場の影あたりかも」


「岩場の? あれか?」


 フィナツーに導かれるまま、湖から森の入り口に向かう草地を歩く。目立たないよう『フォーティーン』で月明かり程度に全体を明るくしつつ探索をすると、横たわっている何かが見えた。


 いた。周りを警戒しながら近づいてみる。


「死んではいないわよ。それは『光合成チェック』で呼吸確認できたし」


 フィナツーに探知木が二酸化炭素でも確認したのだろう。生きているのはプヨンにもわかる。体が動いているし、冷えてはいるが体温もある。


「どうかしたの?」


「いや、もうちょっとダメージがあるかと思ったけど、こんなもんかなって。計算と一致していない」


「計算が合うことってあったの? 事実が全てでしょ。防御でもしたんじゃないの?」


 服装はまったく汚れやシワがなく、きれいなところを見ると、どうも擬態系のようだ。


 ひっくり返っていても、見た目を直せる余裕があるのかもしれない。元の姿ではなく気絶中でも維持できるところを見ると、本能のなせる技かもしれないが。


「フィナツー見ろよ。なんか治療痕がある。自分で治療して気絶したのか?」


「んー、よくわかんないよ」


 小声でフィナツーにだけ聞こえるように呟いたその時、少し離れた空中に何かいることに気づいた。磁気反応だ。そこだけ金属でもあるのか磁力線の流れが違う。


 もちろん気づかれないように、顔を上げて見たりはしないが、こちらが見られているのはわかる。確実に何かいるのは感じ取れた。


 近づくとドカンといくかもしれない。


 罠に掛けられている気もするが、どんな罠か興味を持ってしまうのがプヨンの悪い癖だ。


 なんのメリットもないのに自分から虎穴に入る。


 何も警戒していないふりをしつつ、何かあったら即座に対応できるように慎重に準備をする。


 このいつ仕掛けてくるかのドキドキ感が楽しい。ついスリルを楽しんでしまう。緊張しているわけではないが、不測の事態に対応できるよう準備した。


「フィナツー、探知木の反応はこれだけかな?」


「うん。目の前以外からは何もないわ。なぜ?」


 となると、後から現れたことになる。他にも仲間がいる可能性も高いが、それならなぜ助けようとしないのか。『ナカマワレ』か。


「いや。なんでもない。まずはこの人の傷を治して色々聞き出そう。っと、この顔は?」


「知り合い?」


「あぁ。顔に見覚えがある。確か自分は輸送、特に人を運ぶ『籠・ヘリ』と言っていたな」


「それならなぜこんな大怪我を? 誰か運んでいて襲われたのかな?」


 名前もなんとなく覚えている。確かノミと名乗っていたはずだ。



 前あった時は一緒に風変わりな女もいたはずだ。温厚なノミに対してやたら挑戦的だった記憶がある。


 ノミの手前、表立って彼女には敵対していないが、単独で会ったなら一度痛い目に遭わしてもいいかなと思うくらいだ。


「どういうこと? プヨン、運んでいた人がいるということ?」


「さぁなぁ。それでも味方なら放置して行くとも思えないから」


「まさか、拉致されたとか?」


 少し待ったが、空中の生命体は動く気配はないようだ。


 そちらにも意識を向けつつ、地面に横たわっている方に近づいた。


 敵か味方かはわからないが会話で仕掛けてこないよう誘導しておく。


「あぁそうだな。味方なら、いやたとえ敵だとしてもこんな怪我人がいたら放置しないはずだ。まともな感情をもった人間ならあり得ない。そんな奴がこの世にいるはずがない!」


 直接攻撃だけが攻撃ではない。


 仮想の相手を思い浮かべつつ、舌を使った毒攻撃を展開し、相手の選択肢を封じていく。


 さらに音の拡声魔法を使い、なるべく周り、といってもプヨンには1人しか見えていないが、皆様に聞いてもらえるよう配慮した。


 耳に届けばしっかりと心に突き刺さるよう、慎重に言葉を選ぶ。一度聞こえてしまえば、おそらく魔法では防御できない。強い意志か聞き流しで抵抗しない限り、大きく意欲を削ぐことができた。

 


 一方で目の前のノミの怪我は深刻ではないにしても、完治しているわけではない。


「よし、じゃぁ、とりあえず、彼の怪我を確認して、治療してしまおう」


 誰に言うでもなく宣言してノミの治療にあたると、フィナツーから『頑張って』との相槌が返ってきた。



 もちろん毒舌攻撃は散発的に並行している。


 治療自体には影響はないが、内心はいつ火球なり氷塊なりが飛んでくるか、上方の存在に気を配る。


 野戦病院を想定したことがあるが、そんなドキドキしながらの治療だ。


 何かが起こっても左右に避けられるように、猫足立ちで身構えている。訓練では得られない緊張感があった。


「状況はどうなの?」


「ほとんど治ってる。というかわざと外側だけ治してないように見える」


「なんのために?」


 治療を始めてすぐに気がついたが、ノミの火傷はかなり手が加えられていた。これでノミの身内なのはほぼ確定だ。それもそれなりに温情家だろう。逆にもし敵なら囮にここまでの治療はしない。


 おそらく味方、それも比較的親しい者と確信する。


 ならばそれなりの反応があるだろうと、毒舌にも気合が入る。ひとつひとつ言葉を選び、心に突き刺していく。精神攻撃はなかなか難しいのだ。


「いつも思うんだけど、こういうときだけボキャブラリーが豊富よね」


「普段も多いと思うけどなぁ。まぁ時間だけならフィナツーに比べたら1%くらいしかないが、人生経験の中身が濃いもので」


「誉め言葉と受け取るんだね」


 フィナツーが鼻で笑っている間にノミの治療はほぼ終わった。表面的な火傷だが、痕が残らないように丁寧に皮膚を張ったためそれなりに時間がかかった。5分ほどだ。


ガバッ


「うわっと」


 その時を待っていたわけではないだろうが、治療が終わるのとほぼ同時にノミが跳ね起きてきた。


 周りをキョロキョロと確認している。明らかに状況の理解が追いついていないようだが、プヨンの顔を見た瞬間、はっとしたようだ。


「こ、これは、プヨン殿。私はいったい……」


「さぁな。 虫の知らせかな。 ふと気になって様子を見にきたら倒れていた。落雷でもあったんじゃないか?」


「そ、そういえば思い当たることが……」


 何があったのかはわからないが、何かあったのは間違いない。何やらノミは記憶を絞りだそうとしているが、なかなかすっきりしないようだ。


 魔法とはいえ、プヨンの治療は細胞分裂型だ。治療時の細胞の成長にあわせて栄養分を頂戴したからか、それともここまでくる間の疲れでも出ているのか、動きが辿々しい。


 しかし急にハッと何かを思い出したかのように、『約束の時間が……』と呟くとゆっくりと立ち上がりフラフラと歩き出す。


 声をかけようか迷うが、なんとなく彼の使命感を邪魔してはいけない気がしてしばらく見守る。


 そのままよちよちと歩くが危なっかしい。20mほど歩いたところで、


バタっ


 ノミは倒れた。


 プヨンは一瞬びっくりしてかたまったが、すぐに次の行動をすべきことに気づいた。


「堕ちろ!」


 グエッ


 プヨンが上空の不明機体を地上に引き摺り下ろそうとするのと、プヨンの体が引っ張られるのが同時だった。


 今がチャンスだと確信したが、びっくりした分わずかに遅れが生じ、完全に油断していた。攻撃する瞬間が1番無防備になる。それを体現してしまったようだ。


 プヨンは背中に『プラネット・ドワーフ』、高密度重量棍を背負っている。プヨン自身で浮かべているため自分での移動には問題ないが、動かすには質量に見合った力が必要になる。


 そのためプヨンの軽い体だけが引っ張られ、首を絞めらる形になり盛大にむせてしまった。相手を地面に叩きつけはしたが、そこまでダメージはないだろう。


 お互い地面にうずくまりながら次の手を考えた。





 プヨンがノミの治療をする少し前、


「ノミ、待ちなさい。ま、待ってと言ってるのに、聞こえてないの?」


 もちろん聞こえてないだろう。


 ノミを追いかけるノビターンは前方の光が気になっていた。


 だが、紙飛行機などと揶揄されるノビターンだけあって、向かい風の中だと必死な割になかなか前に進まない。


 ノミは食事に行くと言っていた。


 目の前の食事を目の前にすると、粗野なものほど食事に対する集中力を発揮する。振り返る気配すらなかった。


 追いかける理由は忘れ物だ。


 ノミと別れて湖底に向かうが、すぐに忘れ物に気づいて慌てて戻った。それでも間一髪で間に合わず、追いかける羽目になった。


 その後はあっという間に距離があいていた。


 ノビターンは飛行は極めて苦手、『三葉機』と呼ばれるほど低旋回、低高度、低速度と評価が低い。


「むーーん、鍵を忘れただけなら壁を崩しながら入るのに、入れ物を忘れてしまうとは。あぁ、神様。私がまだ完璧にちょっとだけ足りないということをお示しになる、これも試練の1つですか?」


 いつも通りノミとの連携により頻繁に発生する試練を甘受するしかない。


 『ノビターン様、今まで何もせず待っていたのですかー?』などとノミに言わせないように、ノビーンは追いつけないとわかっていても追いかけ続けた。

 今回は接着剤の輸送容器はなんでもいいわけではない。普通の容器なら溶けてしまうだろう。それをノミに預けたまま受け取っていなかった。



 前方で閃光が見える。雷光だろうか。暗くてよく見えないが、ノミのいるあたりのような気がする。


 このままでは普段の行いがよろしくないノミに直撃してしまうだろう。なかなか見えず気が焦るが、ノミはあぁ見えて速度だけは一流に近く、すぐには追いつけそうにない。


 万が一があると帰りに困ってしまう。ノビターンを乗せてここから国元まで一気に飛べる者はそうそういない。道中の追跡防止と安全確保も兼ねて、ここまでの搬送係に任命したのだ。



 ひときわ大きな輝きが起こったあと、周りは暗闇に戻った。その場所にゆっくりと近づいていく。これは飛行速度の問題ではなく、周囲を警戒しているからだとノビターンは言い聞かせる。


 たしかこの辺りのはずだ。


 最後の明かりは比較的広範囲だった上、空中だとざっくりとした位置しかわからず、何度か行ったりきたりしてしまったがなんとか見つけることができた。


「ふーふー、このぉ……やっと追いついた」


 少し前、ノビターンは岸部で倒れているノミを見つけた。


 地面に降り立ち、周りを警戒しながら近づいた。ノミは倒れ伏している。


 こちらを見ようとしないが、なんとか墜落を防いだあと気を失ったように見える。どうやらかなりの火傷を負っているようだ。落雷の影響でも受けたのだろうか。


「待ってって言っているのに飛びまくるからこういうことになるのです」


 そう言いつつも、ノビターンはノミの治療を施す。今回預かった魔力電池の『マリブラ』は、まだ満タンだ。このくらいの使用なら問題はない。


「いつも通り、悪運がいいこと。咄嗟に息を吸わなかったようですね。表面的なやけどだけ。中まで火傷してたら面倒なところでした」


 今回は少々重症なようだが、大半は燃えやすい羽毛や表面が照り焼きになっただけで、内部までは火が通っていない。これはドラゴンフライを普段から食べているノミならよくあることだ。


 治療に伴いボタボタと再生後に残った古い皮膚の角質が落ちていく。表面的なやけどの治療は割と楽だ。特にノミのような半分服がないタイプならなおさらだ。


 ひときわ大きな雷光が見えた。その時、遠くの方に黒い影が見えた。まだこの辺りを警戒しているのかもしれない。


 ノミの治療はいったん行ったから、もうほとんど怪我らしい怪我はないはずだ。ノビターンはゆっくりと上空に浮かび上がり姿を隠す。擬態の苦手なノビターンでも、真夜中の真っ暗な状態なら姿を隠すことができそうだ。自分自身を暗闇にするくらいならなんとかなる。

 

 こなければそれはそれでいい。万が一に備えて、少し離れたところから様子を伺うことにした。


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