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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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測定の仕方 2

「プヨン、湖の縁のとこ見える? 何かが1ついるわよ」


「おぉ、ほんとか? 生き物か? よく見えるな。じゃああとはサラに任せた」


「またまたぁ、ここはプヨンの出番でしょ」


 シェアしなくてもいいのにと思いつつ、無言で引き受ける。


 ピースメーカーでゆっくりと浮遊し、プヨンはサラリスと前方の不審者を観察していた。


 サラリスの視認範囲は思ったより広く褒めておいた。もちろんプヨンも確認しているが、さっきまで2人いたはずだが、一瞬目を離した間に1人になっていた。



 どこかでみた光景のような気もする。湖にでも潜ったか? 


 プヨンがそう思っていると、湖岸で黒い影が空に浮かぶのが見えた。サラリスに声をかける。


「逃げるかもよ。俺が隠れて追尾しようか?」


 すでに面倒モードになり、ここで引いてくれたらと強気に提案してみた。深追いはしないと言われたら学校に戻るだけだ。というかそれが狙いだ。


「あ、まずいぞ。北からかなりの雲帯が接近している。危険じゃないか?」


 さらに悪条件を提示する。


 サラリスが空を見上げたが、もともと暗い。雨雲レーダーでもないと見えないだろうが、しっかりと豪雨前の独特の臭いがしている。プヨンの雨雲検知では分厚い雨雲だった。


「豪雨に入るのかな?」


「あぁ、一気に入りそうだ」


「だったら尚更じゃない。電撃作戦よ。晴れてる間に捕まえるわよ。突破口を封じるわ! あっ?」


 一瞬空が雷光で明るくなった。


「し、照明弾?」


「雷撃ね。まだ遠いわ。前にやった雨天飛行訓練だね」


 裏目に出た。突っ込むつもりのようだ。


「じゃあ、相手から発見されるのを極力避ける為、無駄な動きをすべて停止する。その間に敵の動きを掴んで追跡を」


 プヨンはサラリスに指示する。夜間の雨天飛行はなかなか機会がない。ちょうどいいタイミングだ。


「プヨン、賛成よ。きっと捕まえられるわ、サポートよろしくね」

 

 そういうとサラリスはそっと浮かび上がった。



 相手の残った1人は浮かんだまま動かない。じっとしていると眠くなるが、サラリスに眠気覚まし効果のある『サラの目にも玉ねぎ』をされる。目元が濡れていると眠れない目覚まし魔法でなんとか耐え、2人で相手の動きを待ち続けた。


「もう! また、あくびが出てきたの?」


「いえ、まだです。あいつめ、何を画策しているのか?」


 動きがないので気が抜けてしまいそうだが、口を開けると石を突っ込まれる。頑張って集中すると少し目が覚めてきた。



「こうなったら近づいて問いただすしかないわ」


「まあ待て。そういうことなら、俺がこっそりと反対側に回り込んでみよう」


「それはいいけど寝落ちしないでよ?」


「任せろ。水音がしたら撤収の合図だ」


「まあいいわ。それでいきましょう」


 サラリスは喜んでいる。


 なぜか急に胸を強調するが、これはサービスのつもりか。おまけに腰をくねくねさせているが、一体どこで学んだのか。


「効果ある?」


 どちらかと言うと恐怖をもたらす闇属性の動きだがここは乗ってやることにした。


「当たり前だろう。だがもちろんこいつはサラの武勲だ」


 気晴らしも兼ねた実験ができれば面倒はサラリスに。いつものプヨンルールだ。


「だが功を焦るのはよくない。落ち着くんだ」


 プヨンに指摘され、サラリスは少し思いかえす。


 最近ユコナやエクレアの方が目立っている気がする。


 ユコナは水と冷気と雷、天候系が得意になりつつある。エクレアは記憶操作や豊富な知識で文官になれそうだ。その点自分は火力一辺倒。威力は上がるが応用力がない。


「……任せるわ」


「あぁ、任されましょう」 


「私は焦っているわけじゃないわよ。熱すれば熱するほどパワーが出るのよ」


「知ってる。冷静なサラリスはおかしいしな」


 毒づくサラリスをさらに茶化したが、緊張感は伝わってくる。


「じゃあ、挟み撃ちのタイミングでうまく知らせて。即、仕留めてみせるから。編み出した神技があるの」


 気軽に言ってくれるが、さてどうやって知らせるか。これもプヨンなりに楽しんでいた。


「ふーん、毎度の神技の創作には感嘆するよ。今回もどんなのか期待する。引き受けたよ、ノルマ」


「頼んだわよ。じゃあ」



 サラリスは徒歩で回り込もうとしているのか、一旦地面に降り立った。そして胸を気にしつつ、腰を振りつつ走り出す。


 どうも今日のサラリスは服装もそうだが、何かを狙っているのか、艶かしい動きを意識しているように見える。


 プヨンはサラリスの悩みを察し、陰ながら応援する。


「食事の栄養を胸に!」


 聞こえてない聞こえてない。ニヤリと笑うプヨンだった。



 その瞬間、戦慄が走った。全力でサラリスが駆け戻ってきた。


 まさか、聞こえたのか? 集音でもしていたのか。


「照明不可! 山下の柵に沿っていくわ。まっすぐ向こうの森に向かうみたい」


 よかった。独り言が聞こえたわけではなかったらしい。


 速やかに話を理解して反応する。空中に待機していた追跡中の相手に動きがあった。まっすぐ湖に沿って移動していくが思った以上に速い。


「プヨン。さっきの戦術はなしよ。できたら相手の真意が確認できるまで泳がしてみましょう。それから一気に叩く! 作戦名は『松竹梅』」


「待つだけ胸、了解」


「じゃぁ、抱っこいきまーす!」


「へ?」


 サラリスは何を言っているのだろうか。理解できない。そう思っている間に飛びついてきた。遠ざかりつつある機影を追いかけろということらしい。


 みるみる小さくなっていく。


「くっ、なんて速いのかしら。あの速度で飛行したら、私1人じゃ10分ともたないわ」


 確かに相手の速度はかなりの速さだ。ゆっくり離れていく。さてどうしたものかと思っていると、


「さあ私を引っ張って? ほらほら急いで。でもお胸とか触っちゃダメよ」


 手を触れずに抱き上げて運べと言っているようだ。


「しかし俺の軽量化魔法はサラリスに効くかどうか」


「あー、そうね。最近実りつつあるから」


 まさかこのために派手めの服装をしてきたわけではないだろうが、また揺らす仕草で胸を強調している。普段のサラリスはプヨン相手にこんなことはしない。いつものサラリスではない不自然な動きだ。


「わかった。じゃあ牽引するからしっかりバランスを取って」


「さすがプヨン。よろしく」


 追跡しなくてもよかったが、先程の暴言となによりも不審者サラリスの動きが気になる。この意図を暴かねばならなかった。


 「どうも、味方の動きを疑うというのは性に合わないんだが、気づいてしまったからな。サラはどうやら特殊スーツをきているようだ」


 サラの秘密に探りを入れつつ浮かび上がる。牽引飛行はユコナで慣れている。急いで追いかけ始めた。





 ノミは地上を観察していた。


「ククク、見つけたぞ、クリケット共、地上スレスレ喫食モード」


 大型のコオロギが複数見える。


 ツバメモードのノミは一気に捕食体勢に入る。左、右、2回の蛇行で5匹をゲットした。残りは逃げ散ってしまったようだ。


 「よし次は山のほうに行くぞ。この私の『ノミさんだいたいレーダー』が、あのあたりに虫の大群を検知している」


 過去の経験とひらめきを駆使した動体検知魔法を駆使するノミ。そう言うと再び高速飛行モードに入り飛び始めた。





 プヨンは前方の動きが少しおかしいことに気づいた。


「速いわね。追いつける? なんかフラフラしてるけど何か意図があるに違いないわ」


「そうなのか? 攪乱しようとしてるにしては動きがおかしいが。ただ、1人ならいいが、2人だからかバランスが悪い」


 すぐ右に並んで並行飛行しているが、重い荷物を片腕で持つと歩きにくいのと同じで、サラリスのいる右に引っ張られていた。


「余裕があるなら両手で均等に持つといいらしいわよ」


飛行はほどほどでもバランス知識はあるらしい。


「均等か。なるほど」


 プヨンの目が怪しく光ると同時に、サラリスは慌てだした。


「ま、待って。カラダを真っ二つにしてあとでくっつけるとかダメよ」


「おぉ。その発想はなかった」


 自分の考えだけでは狭いことがよくわかる。そこまでは考えていなかった。真っ二つにして両方治療したらどうなるのだろうか。これは大いに疑問だ。


サラリスなら半分にしてもいい気がする。今回はあまりの剣幕に実際にするかどうかは断念するしかなかったが、対策はすぐに気づいた。


 そうだ。同じ重さを左右で持ってバランスを取ればいいんだ。プヨンはそっと水分を集めて氷結魔法で四角い氷を作る。もう1人分同じ重さがあればバランスが取れるんだ。

 

 予想以上に相手の動きが速かったが、一度地面に降りたようだ。地上付近を飛び回っていると再び上昇してきた。


「見つけた。妙な動きだが一気に敵に近づいた」


「ああっと! あれに見つかる訳にはいかない」

 

「不審者め、なかなかやるわね」


 回り込むにしても、相手の索敵範囲が不明のため遠巻きに様子を見る。


「何をしているつもりだ。やたらフラフラしているが」


「我々をおびき出すつもりか。後ろは誰だ?」


「いい策があるのかしら? あ、動き出した」


 再び動き出した。今度は向こうの小山に向かっている。直線で2kmだ。迷いなく一直線だ。


「待っていられないわ。じゃあ、これを試してみましょう」


 そう言うとサラリスはストレージから何か金属の筒を取り出した。


「これが神農砲。この中で炭素粉を使って粉塵爆発を起こさせるの。弾は鉄球を使うわよ」


 そう言うとサラリスは一緒に鉄球を取り出す。先日にラグランジュ・バインドでユコナと遊んだ鉄球と同じか少し大きい物だ。サラリスは砲弾を先詰で入れる。


「不審者が逃げるわ! その先に目的の物があるはずよ。追える?」


「追えるぞ!」


「神農砲を開け。全弾、スタンバイ!」


「照明いるか? 敵の変速な動きに注意して」


「いらない。現在位置でロック。砲撃を掛けるわ」


「わ、わかった!」


 サラリスは金属の砲身を構える。どのくらい重さがあるのだろう。小さいとはいえ、数百キロはありそうだ。


「ほんとに撃ち落とすのか? 音と光はどうする?」


「あ! 気づかれる? プヨン、音と光をなんとかして。ついでに反動も手伝って!」


「無茶するな。早まるんじゃない。そもそも敵かどうかも不明だろう」


「照準合わせ。10秒後に一斉射撃!」


「おい、人の話を聞け!」


「10、0、撃つわっ!」


「うわーっ!」


 めちゃめちゃだ。なぜ10の次が0なのか。どうやら9-1には次元魔法でも使って転移させたらしい。一瞬でカウントダウンが終わった。


 時間を直接操作する魔法などないから計画的犯行だろう。発砲準備を完了してから手助けを依頼するなと言いたい。


 慌てて真空魔法と光のディフレクション魔法を駆使し、音の遮断と光の回析で発光元を正面から隠す。


 砲弾を通して音だけ防ぐのがテクニックだ。


 サラリスは一瞬何も音がしないことに驚いていたが、無音砲撃をプヨンがサポートしたことに気付き親指を立てる。


「グッジョブ!」


「違うだろ! そんなのに引っかからないぞ。サラにはあとでお仕置きする」


 そんな言葉をかき消すように、サラリスは立て続けに2発、3発目と続け、すぐに全弾打ち尽くしてしまった。飛行時に使える攻撃手段は制限され、弾倉はかなり小さい。その後は、ただ





ノミは飛行中の突然の風切り音に慌てて、右に旋回した。


 ピューーン


「うあっ!ど、どうした? 後方から音がしたぞ!」


 風切り音がすぐ横を通り抜けていく。弾音が聞こえるということは、弾速は音より遅い。ただ、音質からそれが小石のような小さなものではないことはわかった。


「うしろだと? この私が付けられたと言うのか。だが私はノミ。やるときにはやる男……」


 ノミは後方から何かが飛んできたことに気づき回避行動に入った。即座に『シャンデル』を使う。少し危険だが速度を落として高度を上げる方法だ。


 同時に飛行方向が180度変わったため、ちょうど通り過ぎたところを振り返ることができる。真下をもう一発飛んでいくのが見えた。


 慌てて前方を確認する。すでに池の上空は通り過ぎ、学校の敷地は出ているはずだが、何かの警戒網に引っかかったか。こんなことは過去なかった。


「砲撃か? 砲撃が後ろからだと? 上昇だ、上昇しよう」


 さらにインメルを満タンにし、上昇しつつ進行方向を方向を元に戻す。おかげでずいぶん距離が縮まってしまった。


 前方上空は雷雲がある。これ以上の不用意な上昇は危険だ。3回とんできた砲弾はその後とんでこない。


「よし、180ノットに加速。あいつらを雷雲にぶつけてやる!」


 そう言うとノミは不敵に笑った。



 

「プヨン、敵が逃げるわ。 気づかれたわね」


「当たり前だ。 2発目があると思うと当たるものも当たらない」


「もう砲弾がないわ。スーパーサポータープヨン、予備の砲丸を早く」


「あるわけがない、……いやちょっと待てよ」


 そう言うとストレージから丸い塊を3つ取り出した。


「あーあるじゃない。さすが! 今日は使えない男から少し使えない男に格上げよ!」


「そうなんだ。この砲丸代は重くつくぞ!」


「わかった。これもいただき。このプヨンの重い思い、必ずや相手に届けてあげるからね」


 そう言うとサービスのつもりなのか、ここでも胸を揺すっている。よほどアピールポイントなのだろう。


「発射!」


 ドン、ドン、ドン


「……ごめん」


「全弾ハズレか。そもそも届いてないんじゃないか? 別にいいけど、ぷっ」


「むぅ、返す言葉がない」


「じゃあ次は俺が少しやるよ。捕まえればいいんだよな?」


「で、できるの?」


 もちろんとうなずくとプヨンはすぐに準備行動に入った。


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