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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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回復魔法の使い方 6-4

「ちょっと外へ出よう。疲れた?」


「うん。へとへと。ランカさんはどうするの?」


「そのうち起きるだろ。ゆっくり寝かせてやろう。床で」


 それでいいのかという目で見られたが、ユコナも特訓後はいつも床に放置だ。ランカだけを特別扱いしないプヨンにかえって納得したようで、ユコナは特に何も言わなかった。



 外に出ると黒煙がまだ見える。


「大きな爆発だったようね、わたし消火を手伝ってこようかな」


「まだ、余力があるのか? やるな」

  

 おっと思わずユコナを見る。息は上がっているが乱れていない。終わった後の体力回復も予想以上に速い。もう患者も安定し、危険はない。ユコナもそれだけ言うと返事を待たずに煙に向かって走っていってしまった。



 プヨンもひと回りしたが火事現場には近づかず、そのまま礼拝所に戻った。


 入ろうと思って扉を手にかけたところで奥から声が聞こえてきた。


 浮かんだまま足跡を出さずに近づいてみた。声の雰囲気からどうやらランカが揉めているらしい。ランカが何やら弁明している。


「わ、私は何も知りません。ほんとですよ」


「いやいや、ご謙遜を! お見事です」


「すごい、ワンさんには2人とも死亡確定と言われていたのに」


 大きな声は2名。ランカと何か言い合いをしているようだ。


 立ち止まり、集音魔法で音を集めつつ、内容を探ってみた。


 どうやら色々とランカを誉めそやしている。3人以上いるようだが、1人を除いて賞賛の声をあげるだけのエキストラ役のようで、おぉーーなどという声が聞こえる程度だ。


 なんだか取り込み中らしい。


 大事な話のようだから邪魔をしてはいけない。音を立てないように地面から浮きあがったまま、そっと向きを変えた。


 だが突然走り寄る足音が聞こえた。


バタン


 扉が勢いよく開き壁にぶち当たる。そのまま飛び出してきたランカに激突するところだった。


「いたっ。いました!」


 ランカに手を掴まれ、プヨンは動きを封じられた。握った手が凍り付き、逃げられないようにされている。


 迂闊だった。浮かび上がったため、浮上力を上げた波動を感じ取られたのか。そういえば、以前の仕事柄か、ランカは周囲の感知能力が高く、隠れている敵や危険動物を察知するのが得意だった。



「さぁ、中へ。プヨンさん何が起こったのか教えてください!」


「ま、待った。待って」


「いいでしょう。待ちましょう。1秒、はい、終わり。次はプヨンさんが願いを聞く番です」


「な、なんですって?」


 なんという強引なランカだ。こんなランカ久しく見てない。慌てる間にそのままずるずると部屋に引き入れられた。


 寝かされていた2人の前に連れていかれる。物音が大きかったのか、そのうちの1人、火傷男が気がついたようだ。むせながらも、まだ口に残っていたゴミをぬぐっている。


「お、俺は……」


 周りも気づき喜んでいる。プヨンも一緒になって喜んでおいた。


 「あ、こ、これは」


 だがランカは油断していなかった。氷は溶かし切ったはずだが、離れようとした瞬間も自分の手にランカの腕がくっついてくる。力いっぱい手首を掴まれ、振り切れない。


 ランカはプヨンの逃げを見越していたのだろう。


 治療魔法の応用だ。自分の親指の皮膚をプヨンの掌に癒着させ、一体化させている。


 いつの間にこんな人を疑うようになってしまったのか。聖職者ならば性善説に基づいて、ここは大人しく信じるのが真の姿ではないのか。


 おまけに神聖な治療魔法を拘束に使っているとは、ランカはすっかり清らかではなくなっていた。


「さぁ、プヨンさん。何があったのか、皆さんに説明してください」


「なんのことかさっぱりですけど?」


「お二人はどうやって奇跡の回復をされたのですか?」


 自分も治療に参加していたくせに、なぜ説明させる。しかもどうやらお怒りのご様子だ。


 治療の中身について説明しろと言っているようだが、細かい説明は長くなる上、理解できない可能性が高い。


 どこかに行ってしまったユコナに相談するわけにもいかず、かといってのんびり考える時間もなかった。



 その間も『お前誰』というような目で3人+目覚めた男に見られる。いちいち説明も面倒なため、別の方法をとることにする。おそらく今来ている全員が望む回答のはずだ。


 まず演出だ。急に女神像が輝き出した。


 ちょっと窒素を加工してプラズマ化する。室内オーロラ状態にすると、背後から緑色の光のカーテンが現れる。ゆっくりと揺れる光の帯が厳かな雰囲気にさせた。


「おぉぉーー」「あっぁあー」


 プヨンが声を出すまでもなく周りの男たちがはしゃいでいる。ここでプヨンも男たちに調子を合わせる。魔法効果にはシンクロがとても有効なのだ。


「あぁ、女神像の目が!」


 そう言いつつ、女神像の目のあたりから、緑色のレーザー光を射出する。先日のギャンでは青色を作ったが、今回はアルゴン。大気中に3番目に多い材料だ。イオン化してやることで緑色のレーザーが取り出せる。


 もちろん攻撃するわけじゃないから出力は制限する。


「よわよわレーザー、発光」


 なんとか見える程度の弱い緑色の光がランカの胸あたりを照らし出した。



「あぁ、見ろ。ランカ……様の胸のところに女神の力が宿っている」


「え? え? えぇ?」


 ランカの驚きではっと気がついた。さすが神にお仕えするランカ、するどい指摘だ。


 うっかり呼び捨てにするところで危なかった。当然、膝をついて、ランカを仰ぎ見る。



 ここで紫の光が欲しかったが、オーロラ効果が不十分だ。手近にカリウムもなく、炎色反応が使えない。室内で火も厳しい。やむを得ない。ここは水魔法を利用して薄く霧をだし、その中に火球を20個ほど浮かべてみた。火球がおぼろげに浮かび上がり、ランカを優しく幻想的に照らし出す。


「おぉぉ、女神……様の力がランカ様に宿っている」


 プヨンが呟きというには大きめの声を出すが、皆だまって聞き入れている。何を言い出すんだというランカの焦る顔が想像できるが、ここは霧のおかげでプヨンはまったく心理的後ろめたさを受けることはなかった。


 これで、最初は女神の方に様をつけるのを忘れた失態をなんとかカバーする。誰も気づかなかった。


「背光信号あげぃ」


 フィナツーの呟きにそうだと気付いた。ナイスアドバイスフィナツー。


 おまけとばかりに、女神像側の光を消し、ランカの周りを明るく照らす。これは微小火球を大量発生させて対応した。そしてタイミングを図る。はずさないように慎重に、プヨンはここぞとばかりに声を張り上げる。


「女神様が降臨された。ランカ様、おめでとうございます!」


 ランカが呆然とし、周りにいた数人の男たちは恍惚とした表情をしている。


「おい、そこの者、ヴァクストに報告だ」


「お、おおぉう」「は、はい!」


 皆、一斉に扉に向かって駆け出す。さっきまで瀕死の火傷男すら立ち上がり、ふらつきながらも歩いていく。治療してはいるが組織の定着度合いがまだなんともいえない。そんな状態で駆け出す気持ちになっているだけでも大したものだ。


 バゴ、ゴトゴトン


「お、お前ら、邪魔するな、俺がお伝えするんだ」


「だまれ、お前引っ込んでろ。そこで寝とけ」


「おい、腕を掴むな。こら!」


 礼拝所の扉はそんなに狭くないが、我先に出ようとする上、お互い足の引っ張り合いをしている。何度も地面に転がりながら、3人、少し遅れて火傷男は礼拝所を飛び出していった。



 ランカににやっと笑いかけてみたが、思うような反応がない。ランカは完全に固まっている。俺にも行動停止魔法が使えるようになったようだ。この隙に脱出しようと思う。


「おい、お前ら待て。抜け駆けはダメだぞ」


 そう叫びながらプヨンは4人に続いて走り出そうとしたが、即座に足を引っぱられすっころんだ。宙に浮いているため、きわめて足払いに弱い。


 もちろんランカの仕業だ。手を引くことができるランカなら、当然足も掴める。わかってはいるが、恐る恐る振り返ってみる。もちろんできる限りの笑顔で祝辞を述べる。



「女神様代行ご就任おめでとうございます」


「おめでとうじゃないです。どういうことか詳しく聞きましょう」


「仕方ない、教えましょう。ランカに女神様の力が宿ったんじゃないのかな? なんとすばらしいことでしょう」


 ランカは喜んでいるようには見えなかった。


「あ、ははは。ダメ?」


「『ははは』、ではない。ですが、さて、困りました」


 ふざけているのは許容できないようだが、だからといって怒っているわけでもなさそうだ。あえていうなら不安気に見えた。


「お困りですか。たいへんですね」


 他人事のふりをして、小さく呟いてみたが事態は改善しない。しばし無言で見つめ合う。さぁどうしようかとプヨンは考える。逃げるタイミングはもうない。


「人を導くのは選ばれた聖女様のお仕事です。なんと素晴らしいことでしょう」


 ランカの目が怪しく光る。ついでに毛が逆立つようにも見えた。これは、怒りなのか。ユコナのパターンでお馴染みではあるが、ここはあえて無視する。


「プヨンさんがしたのですか? 女神像に誓って答えてください。ご存知ですか? 私の『ポリグラフ』というのを」


「いえ、ご存じないです」


「私がなぜここにいるかお教えしましょう」


 結構ですと言おうとして、ビクッと勝手に体が反応する。何か作用しているのは間違いない。一瞬、警戒する。


そう言えばランカは使われていたとはいえ元商人だ。虚々実々の駆け引きは十分見てきただろう。


 まさかとは思うが嘘発見機能か。そんなことができるのだろうか。そんな方法は考えたこともなかったが、ここは慎重に考える。バレてもいいが無駄に警戒させる必要もない。事実を話す。


「したとは何をでしょう?」


「先ほどの方の治療です」


「それはランカ様が女神さまの力でなされました。自分でもしてただろ?」


「た、たしかに。途中までは私もしておりましたが、プヨンさんがなされたのですか?」


「そうだろう。ランカがしたのだ。もちろん俺がしたのではない。」


 なぜならユコナと2人でしたからだ。だがランカだけでしたとは無理があるか。よし、主はユコナにしよう。俺は避雷神、ユコナは雷神。主役は雷神に決まっている。これも嘘ではない。


 面倒ごとの犯人は全てユコナ、ホシユコナ作戦を決行する。ユコナがいてくれてよかった。だが笑ってはいけない。じっと目を見る。


「もし私が聖女なら、プヨンさんは御神体ですか?」


 ランカがおかしなことを言い出した。もっと目も笑ってよと思いながら見つめ返す。理屈も屁理屈も苦手ではない。この程度は余裕だ。


「知らないなら教えてやろう。御神体はユコナだよ」


 しまった。ここはユコナ様にすべきか。一瞬冷や汗が出たが、そのまま続ける。


「ユコナはとある町では御神体として崇められているのだ」


「本当ですか?」


「あぁ本当だ。俺が嘘を言っているように見えるか?」


 例のレオン達と行った村祭りのことなどを含め、効果を3倍増しくらいに誇張する。もちろん嘘ではない。少し誇張しただけだ。


「た、たしかに。ウソーラは感じられません」


「そして俺は、えーっと」

 

 何にしようか考える。いい役職が思いつかない。


「俺は学生、真の法則を求め教習中の身だ。ユコナ様から多くを学んでいる身だ。ほんとだよ」


 すべて嘘はない。歩く時はユコナはいつも俺の前を歩く。ユコナを実験台にして多くのことを学んでいるのも嘘ではない。


「むむむ。なるほど、教主中。やはりそういうお立場なのですね。確かに嘘ではなさそうですが。信じるものは救われますか?」


「疑問形じゃ、信じても掬われるぞ。相手を信じることから始めるんだ。それでこそ真理に辿り着ける道ができるのだ」


「た、たしかに。さすが教主中ですね。恐れ入ります」


「うんうん。自分も謙虚な心で教習中なんだ」


 ダメ押しでしっかりと目を見て力強くうなづいた。これでランカは何とかなりそうだ。


「分かりました。プヨンさんを信じます。では時折夢に出てくる『マジノ神』のお告げとやらは本当のことなのでしょうか。プヨンさんが教主中とは。それは、やはり。そうなのですか?」


「え? お告げ?」


 ランカは何やら1人で問答を始めた。教習をやたら口に出すが、ランカも法則に興味があるのだろうか。


 少しずつ距離をとり、脱出のタイミングを図る。さらに魅了されないように、ランカと目線を合わさず地面を見ていると、ランカがしゃがんで視線を合わせてきた。


 それは反則だ。立ち位置が振り出しに戻ってしまった。


「ですが、私が女神様の代理などと、恐れ多いです。無理です」


「大丈夫大丈夫。すべてを救おうなどと思わないことだよ。神は救える者のみを救う。それで十分」


「なるほど。今日の2人も救われる定めだったということですね。夢のお告げではこうも言われました。『1人でする必要はない、そばに御使いがいるから』と。やりたいことは天命で誰かにやらせればよいのだと」


 夢のお告げか知らないが、何やらランカには成したいことがあるようだ。そのまま続きを促す。


「今回の2人も私だけでは無理でした。あんなことができると知られると、これからもできて当然と思われてしまうんじゃないかと。もし死なせてしまったらどうしようとずっと心配でした。しかもいつもいてくれたオロナの民も、ちょっとした暴動で先日怪我をして療養中です」


 あの超筋肉マン、オロナの民が怪我をするとは、よほどのことがあったのか。荒くれものが多いとそんなものなのかもしれない。だが、それはおいておく。


「大丈夫大丈夫、何でも救うのでは逆におかしい。そしてきっとランカの周りにはできる人が集まってくるはずだ。女神様の代行者としてできそうな人にお願いすればいいんじゃないかな。きっと何とかなるはず」


 確かに一度できてしまうと次からはそれ以上を期待される。その気持ちはよくわかった。そしてできる人にはみんな頼ってくることも。


「例えばユコナに頼めばきっと引き受けてもらえるだろう」



 その瞬間、ふっと気がついた。まさに天啓だ。自分で言っておきながらことの重大さにまったく気づいていなかった。


 大急ぎで『ノイズキャンセラー』をランカの口元に向かって発動する。相手の発する音を逆位相で相殺する無音魔法だ。


 ランカの声を聞こえなくして効果は大きく減衰させ、同時に出口に向かってダッシュする。


 ランカは何か言おうとしたようだが、音もなく口がぱくぱくと動くだけだ。何が起こったか分からず、キョロキョロとしている。


 プヨンの扉ダッシュを見つけて原因はわかったようだ。


「聞こえませーん。何も聞こえなーい」


『天命は心に届きます。プヨンさんにも天命を下しますから』


 ランカの口パクはそんなふうに見えたが、発声が打ち消されたランカの声は走り去るプヨンには届かなかった。


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