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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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回復魔法の使い方 6-2

 ランカ達とプヨンはそれぞれ1人ずつ担当することになり、ランカ達はもう1人についている。


 チラッと見ただけだが、2人とも普段から組んでいるかのように、随分連携が取れており、

無言で作業を分担している。


 残っている左半身を見ながら右の手足を形作っていくが、ユコナのベース作りとランカの肉付けしていくが配分が絶妙だ。


 ユコナの方が余力があるようで、ランカの肉付けに合わせて骨格部分をつくっていく。血管部分などは本人の自己再生で勝手につながっていくが、ずいぶんと気配りできるようになっている。



 プヨンの頭の中ではユコナの治療分類はリサイクルタイプもしくは移植タイプだ。


 プヨンの『アイピーエス』のような自己増殖タイプとは異なり、使える部分を掻き集め、最低限動けるレベルにまで戻すタイプで、組織的な強度は当然もとの状態には戻らない。そのかわり時間あたりの回復速度は速く、応急手当てに向いていた。


「左手から大量に組織をもらったから、骨の強度が全然足りないわ。殴ったら折れそう」


「ユコナさん、それでもすごいです。見た目はわからないですよ。私は30㎝以上の組織移動ができませんので、左手から右手に移動させるのは厳しいです」


「そ、そんなことないわ。特訓、そう授業で学んだから。厳しい指導官もいたし……」


 ランカの問いにユコナが返す。


 


 チラッとユコナと目が合った。何か言いたそうだ。特に声をかけることはないが、以前教えたときのことを思い出す。

 

「うわー血、血を止めてくれー」


「ま、待って。どこから止めたらいいの?」


「ここ、ここだよ。ストローの水を止める練習をやりなおせ!」


「むぅ。ここかぁ!」


「うぉぉー逆流させるなぁー」


「そっか。こっちか」


「そうそう、成功だ。ふーふー、今日も無事生き延びた」


 何度もそんなやり取りがあった。実験台になった身としてはようやく成果が出てきたと思えるが、まだまだ先は長い。


 相手の治療を受け入れるように意識しておけば、無駄に意識が衝突して治療の邪魔をすることもない。つい1月前までは、ひたすら治す練習につきあっていたのだ。


 もちろんプヨンもただ付き合っていただけではなく、ちゃっかり自分も練習している。自分の血流を上手に止めたり、流したり。血止めが下手くそな時は塞栓の対応などもさせてもらい、時にはユコナ以外の相手をすることもあった。


 ユコナが治療した後は組織が薄いため、減った組織を復活させる『アイピーエス』の練習もずいぶんさせてもらった。なかなか自分一人だとそこまでできないが、誰かのついでなら億劫にもならなかった。


 連日、いくら治療を続けても細胞強度がいっこうに落ちる気配がないことに気づき、ユコナは不思議がっていたが、当然日頃の行いと主張し、偉大なる神様のご加護ということになっていた。



 ただ、腹部銃創で弾が内部に止まった練習はきつい。技術的には完全に授業外、魔法医レベルだ。


 上級生の実習のように、いきなり前線に派遣されたらどうなるのだろうかと考え、練習にも気合が入るが、ユコナは容赦なかった。


「ここですかぁ? 違う? こっちですかぁ? ぐりぐり」


「ぐりぐりって言うな! 金属を感じろ!」


「このユコナ、たとえ素手でも治療はやり遂げてみせます」


 もともと素手だから当たり前だが、口から出る言葉の強気な内容に比べ、手は震え、声も震えている。最初から不安で仕方ないくらいだ。


「もうちょっと優しく頼む。野戦病院仕様ならそこは気を使うべきだ」


「そう思うなら、もっと抵抗力を下げて。いっそ気絶したらいいのに」


「確かに意識が落ちるとかなり治療しやすいな」


 なるほど治療バカとはこんなヤツのことを言うのか。本当にバカだと困るが、ユコナは遠慮がなく、躊躇いなく手をお腹に突っ込んでくる。


「死にそうで死なない敵ってなんか頭にくることあるよね」


「ふっ。ダメだな、そんな気の短いことじゃ。ユコナの足くらいかな」


 ふふっと思う。少し勝った気がする。


「そう言えば、先日貸したレポートは10時間かかってるんだけど、プヨン流エネルギー保存則ではどのくらいのご奉仕時間かしら? 仲良し係数による補正は時間と共に増加するから、20から30%増しってところかしら?」


 なんという恐ろしい呪文だ。しかも溜めがなく即座に発動する。勝利の雰囲気は一瞬で吹き飛び、形勢はひっくり返された。


「うっ。そ、そんなこともありましたね。ごゆっくり、自分のペースで。仲良し割引はありませんか?」


「ないわよ!」


 一瞬言葉につまる。たしかに今回の治療はレポートのために素材を借りた際、お礼に治療させろと言われたからだ。予定時間はまだ半分近く残っていることになる。


 みんなどんな練習をしているのだろうか?


「続けていいでしょう? 邪魔しないで素直に治療を受け入れないと血がたくさん出るわよ。あと20回、ささっと直すわよ」


『ぬぅ、そのあと俺も治療してやる。頭や性格を治療できたらいいのに』


 そう言おうと思ったが心の中に封印し、口から出たのは、


「俺を自分の体と思って任せて。さぁしっかり切って貼って治しましょう。次のレポートもよろしく」

 

 もちろん笑顔つきだ。練習で注射を打ち合う看護師の気分とはこんなものか? プヨンは奉仕精神に溢れていた。


「細胞が13421個、細胞が13422個」


 切られた細胞を数えながら時が経つのを待つ。


 多分俺の右手を切り刻んだ回数がもっとも多いのはユコナだろう。次はサラリスかメサルあたりか。


 内臓治療希望のメサルと切り裂き魔ユコナが二大治療好きだ。サラリスは爆殺系で治療はない。非行行為大好きのヘリオンは飛行マニアだ。


 雷撃の時もそうだったが練習は大事だ。失敗した場合の奇形治療の腕も上がる。


 『ユコナ・ザ・立派』と謎の呪文を唱えつつ、ユコナが納得するまで付き合った。


 


 プヨンの回想シーンは長いように思ったが20秒ほど。もちろん治療を続けながらだ。ユコナの腕の治療もそう進んでおらず、先程と見た目変わったようには見えない。


 肺の面積は70平方メートルほど、総肺胞の半数が失われたとしてすでに半時間。酸素濃度の低下で危険な状態だった体もなんとか峠は過ぎたが、思っていたほどうまくできていない。プヨンは自らの手際に憮然とした。


 ちなみに人の体表面積は2平方メートルもない。


 プヨンの診ていた火傷患者の呼吸機能回復は、いろいろと試してみたため悪化している可能性もあったが、今は落ち着いている。


 開いた軌道の確保を氷に変えたり、防御に使う『パイオン』を応用し、固定分子壁を気道の内壁に張り細めのパイプを作ったり。皮膚の表面の防御壁と同じだが、いかにうまく痛くないように作るか、ノウハウ獲得が必要だ。


 今回は口元から少しずつ奥に作り進めるが、時間も大きく短縮できてきた。患者には悪いが何度も練習させてもらう。


 気道熱傷の定番の酸素濃度調節も慣れがいる。


「フィナツー出番だ」


「はいはいーやっときた。どうすればいい?」


「室内だからな。俺の電気分解はやめておくのでフィナツー頼む。ほい光源はこれ」


 フィナツーに高圧縮したまぶしいくらいの光玉を引き渡すと、さっそく酸素を作り口元に放出し始めた。


 電気分解は+とーを意識し、水分を分解して酸素を作るがやっかいなのが水素だ。水中や屋外なら口元換気を徹底して爆発しないように気をつければいいが、屋内は万一を考えると危険でためらわれる。


「ありがたみあるでしょ」


「うんうん、あるある」


 おだてつつ、フィナツーの光合成で炭素分うまく体内に取り込んでいただき、酸素のみ供給いただく。その間にプヨンは体内の付着した煤を取り除いていった。


 金属クズはほとんど反応がないようだ。自分の体内ならストレージを使って取り除くこともできるが。他人だといっそ切り取ってしまうのもありだ。


 なかなか他人だと思うようにいかない。


 喉の煤は水洗いも含め丁寧に取り除く。魔法で作る水は超純水か蒸留水だが、こういう時は蒸留水だ。


 あとは多少残っても自浄作用でなんとかなる。下部からの細胞組織で底上げし、食細胞の活性化で壊れた細胞を老廃物のように取り除いた。


「こっちは終わった。フィナツーは?」


「終わったわよ。あとは寝てても大丈夫」


 そう言うとフィナツーはサイドカバンに戻り、プヨンも一息ついた。5分ちょっと。いつも通り、ふつうの代謝と同じ方法でできた。


 ここからは周回治療で様子を見ながらの療養に入る。プヨンは周りの状態を確認し、ユコナの治療の様子を見ることにした。


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