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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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回復魔法の使い方 6-1


 突然のドーンという音がしたあと、小規模な破裂音が断続的に2度続いた。


 周辺の地図を暗記しているわけではないが、音の大きさと方向から町の広場や出口方向ではないことはわかる。


「なんなの?」


 ユコナが慌てるが、なぜかランカは落ち着いている。


 なんとなく悪い予感でもあったのだろうか。深刻そうな顔をしていたが、突然何か知っているような口調で告げる。


「深刻な事態であればもうすぐ連絡がくるでしょう。5分待って何もなければ大丈夫です」


 さすがに盗賊の集団が襲ってきたり、戦場になることはないだろう。


 だが、爆発音がしているし事故であり怪我人が出れば、診療場所でもあるここに連絡がくるのは間違いない。


 ランカの予言はごく当たり前のことだ。何もなければ、それは大丈夫に違いない。


「ふーん、慣れている?」


「ここは神様に最も近いところですので、それなりに経験を積みました」


 プヨンの呼びかけにも冷静に返事がある。


 経験の意味が今一つピンとこなかったが、簡易とはいえ礼拝所には神像もある。神様に近いといえば近い。


 それより気になったのはランカが妙に落ち着いて見えることだ。


 プヨンが知っているいつもの即席司祭レベルのランカなら、もっとオドオドして慌てている。だが今はどちらかというとユコナの方が落ちつきがなく、何かあったのかとそわそわしていた。


 4度目の音のあとはすぐに静かになった。


 何があったか正解はわからないが、ただ黙って待つのは苦痛だ。誰か何か話さないと不安になるため、精神リラックス魔法をかけて様子を見ていた。


「そのよだれはどういうこと?」


 ハッと気がついた。大して時間は経っていないがリラックス焼肉効果を狙った魔法効果が強すぎたようだ。


「お? ちょっと無言が苦痛でリラックスし過ぎたようだ。何かあったらしいな」


「リラックス? どうやって」


「……ちょっと今晩の晩飯などを」


「……ほう。そんな方法があるとは……」


 ユコナは呆れているが、ランカはメモを取り出し何やら書き込み始めた。本気でメモするなんてとさらに呆れるユコナ。ランカ、何を考えているのか。


 さりげなくメモを覗きながら、ユコナが呟く。


「静かになったわね? 5分は経った結局何もなさそうね」


 そう言うがプヨンには遠くから近づく足音が聞こえていた。


バタンッ


「ランカ様、事故で怪我人が発生したようです。治療者を募って確認に向かいます」


 勢いよく扉が開き、慌ただしく男性が1人飛び込んできた。ユコナはバツが悪そうにするが、ランカは慌てるでもなく淡々と返事する。


「わかりました。では初期判断をお任せします。今度はぬかりなきようにしてください」


「すぐに。では」


 ランカがそう言うとすぐに男は礼拝所から出て行った。部屋にはまた3人と氷漬けの男が残された。


 怪我人が出たということは治療が必要だ。


 治療自体は誰もが持つ基本能力の1つだが、他人、それも重傷者の治療となるとなかなか難しい。相手の基礎防御をぶちやぶって強制的に代謝を促進させるわけで、それができるとレスル認定のBBの技能資格を得られ、就業に有利になる。


「ねぇ、治療が必要なら手伝った方がいいのかしら? こいつどうしよ」


「命拾いしたな。大人しくしていればの話だが」


 ユコナがさりげなく目配せをする。いつも通り脅しをかけるようだ。


「今ここで極刑にしてもいいけど……、手足の氷を融かしたりしないで大人しくしているなら、酌量の余地はあるんだけど……」


 チラっとユコナが目くばせをすると、男はぶんぶんと首を縦に振る。特に反抗するつもりはないようだ。


「まぁ、大人しくしてるならいいんじゃないかな、解放すれば手伝ってもらえるかもしれないし」


 余計な手間をかけるくらいなら、さっさと解放した方がいいだろう。強引にではあるが、そう提案すると是非という気持ちが伝わってきた。それを受けてプヨンは氷を融かしてやると、男は手伝うとの意志を示し、すぐに扉を開けて出て行った。逃げたかもしれないが。



 一方、プヨンはランカが言った『今度』が気になった。ということは前回もあることになる。だが深く考える前に連絡者がやってくる。



「どうやら、爆発があったようです。警備用か花火用の火薬に引火したらしいです」

「少し離れていた商人と傭兵団が負傷した」

「そばにいた商人が重症で周りも受傷したものがいるらしい」


 少しずつ詳細情報が増えていく。数人が伝えてきたことをまとめるとそんな内容になっていた。


 火薬は警備や鉱山でも使う。貴重品と言えなくもないが一定量は流通しており、魔力と並行して使用されている。


 安定した威力で砲撃などにも使用するが、サラリスがよく粉塵爆弾に混ぜているのを知っていた。


 校内訓練でも次年度からは武器、魔法、兵器の融合訓練などもある。魔法や筋力強化も限界があり、それを補うための道具の使用方法も知っておかねばならないからだ。



 火薬に引火したというなら一般的な黒色火薬だろう。


 プヨンはいつもの癖で、火薬1kgの爆燃なら一般的な爆炎魔法の10倍、火球なら1000発くらいかなどと当たりをつける。


 直近で喰らったら致命傷だろうが、プヨン全力なら1Gトン、そう考えると大したことないとも思う。


「ねぇ、プヨン、私達も治療の手伝いに行く?」


 さっき連絡してきた男は治療者を募っていると言っていた。不足なら目立たぬように手伝う意志はある。


 ふと見るとランカが礼拝所の椅子を並べ替えていた。今まで気にしたこともなかったが、はめ込みで即席のベッドになるようだ。


「なるほどな、ランカのいう意味がわかった。怪我人がここに運ばれてくるのか」


「そうよね。この町には他に診療所とかもないもんね」


「まぁ、そうですね。では、プヨンさんお願いします」


 一瞬何のことかと思ったが、いつものアンプ魔法の催促のようだ。


 通りをよくしてやることで一時的に出力が上がる。


 自分自身で集中力を高めると魔法の威力、効果があがるが、それを外から強制的にする。血管のつまりを取るようなものだ。


「今回は失敗したくありません。限界までお願いします」


「え? 限界? 限界って試したことないが大丈夫なのか?」


「かまいませんよ。限界までお願いします」


 いろいろと初めてのことが起こり、ランカは何やら思いつめた表情だが、とりあえず言われたようにアンプ魔法で通りをよくしてやる。血管の老廃物を取り除いてつまりをなくすようなものだ。



 準備が終わった。寝台でいつでもこいと身構えていると、こちらに近づく足音が聞こえてきた。


「ランカ、2人頼む。俺はまだ現場に戻らないといけないからな」


 

 勢いよく扉が開く。ヴァクストがやってきたようで扉を開けるとタンカに乗せられた2人が入ってきた。


 プヨン達には目もくれず、ランカが作った簡易ベッドにタンカごと置く。怪我人は生きているが意識がなかった。


 運搬者がいなくなると、ランカ、ユコナ、プヨンの3人はあらためて目の前の様子を見る。


「こ、これは!」


 ひどいという言葉を飲み込むユコナ。治療の訓練時のような作られた怪我とは違う。それだけ言うと黙ってしまう。


「治せる人たちは基本その場で治療されます。逆にここにくる人たちは、一言で言うなら選ばれる人達です」


「選ばれる? 誰に」


「苦しみから解放され安らぎを得るのか、それともまだ続くのか?」


 チラッと神像を見るランカ。プヨンにも意味がわかった。


「なるほど、治療がおぼつかないものには心の安らぎがいると言うことか。初めてではないんだな」


 無言で頷くランカ。なすすべがない時にどうすればいいのか悩んでいたのかもしれない。急にランカが聖職者に見えてきた。


「はい。場所柄なのか時々あります。でもこの人たちはもしかしたら天に愛されているかもしれません。そうではありませんか?」


 ランカは多くを語らないが、まっすぐにプヨンを見る。強い期待を感じ、ランカの気持ちはよくかった。


「わかったわ。最善を尽くしましょう。突然治療の実践ね」


 突発の怪我ではいちいち準備などしてられない。経験と勘も大事だ。ユコナとランカは重傷者の治療に当たり出した。


 プヨンもざっと様子を見る。片方は手足がちぎれている。爆風をまともにくらってしまったのだろう。もう1人は見た目は火傷がひどそうだった。


 人体は意外にもろく、鼓膜なんかちょっとした圧力変化で簡単に破れてしまう。特に何もしなければ急激に2、3気圧も変化すると、余裕で手足がダメージを受けたり、体組織が破壊される。


 完全に爆散していないところから、どの程度の爆発なのかはおおよそわかった。手足の怪我の方は気を失っているが、とりあえずの血止めがされている。吐血などもなさそうで、そこまで致命的ではない。


 問題はもう一人の方か。運ばれてきたもう1人は手足は無事だが、髪の毛が縮れ顔がずいぶん紫色になっていた。顔も火傷しているが、鼻の辺りがすすだらけだ。


 おそらく、岩壁の裏にでもいたのか、爆風の直撃は避けたのだろうが回りが高温の熱気に包まれたのだろう。気道熱傷、熱風を吸い込んで喉か肺の内側でも火傷したのかもしれない。

完全に酸欠状態になっていた。ヒューヒューと呼吸音はするが急いだほうがいいだろう。


「重傷者の容態は変わらないからしら?」


 ユコナとランカはうまく連携しているが、呼吸の方には気が回らないようだ。


 容体が著しく悪化している酸欠状態が考慮されておらず、思わずえっとなる。


 だがユコナとプヨンで作業分担をすると考えれば妥当かもしれない。手足についてはユコナ達だけで任せて応急対応してもらえば、後から何とでもできる気がする。



 プヨンはまずは呼吸をさせることにした。喉が火傷で塞がって肺と外との空気の出入りができなくなっているのをなんとかしないといけない。喉を切り開くのは少しリスクが高く、安全な方法をとることにした。


 とりあえず肺の水分を気化させると増えた体積があふれ出し、くっついていた気道が開いた。壁を作りつつ、そこを丁寧に修復していく。あわせて古い部分は、食細胞の活性化で対応した。徐々に分解されていく。


 組織の再生にあわせて、呼吸も安定していく。肌の血色も戻りだし、容体は安定してきた。いつも通り、このくらいの治療は問題なくこなすことができた。

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