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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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甘いお菓子の作り方 2

「とりあえず腹が減った。グラコロでも食べようか。グラコロ1つ」


 ミハイルとユコナは美味しいかは別にして食事を済ませている。自分もお腹が空いていた。カウンター越しに頼むと、奥から店員さんの『はーい』という声がする。注文してから作ってくれる分美味しいが、その分待たないといけないのがネックだ。


 グーグー


「出てくるなら、早く出てくれよ」


 腹の虫がなるが、なかなか出てこない。さすが手作りが売りなだけある。ミハイル達の様子が気になったが、大人しく待つしかなかった。


 

「いい加減にしなさい」 


 プヨンが食べ始めると同時にリトとミハイルの声が聞こえてきた。何やら言い合いのようだ。


「ミハイル。情けないぞ。このリトさんがそこらの媚びる女と違うところを見せてあげるわ!」


「うわぁ〜、カ、カレーなんだ。カレーで華麗に勝ったんだー」


 ミハイルの声が響く。何事かと何人か周りに集まっている。


「勝ったんだって? 確かめてやる!」


 どうやら軟棘の結果で揉めているようだ。まああれで勝ちましたも無理があるか。2個目のグラコロを食べながら、プヨンはうなずいていた。


「ユコナ、ユコナさんはどちらに?」


 キョロキョロと周りを見回すミハイルはなかなかユコナを見つけられないらしい。ようやく観葉樹の裏で、こっそり唇を冷やしているユコナを見つけたようだ。


「何かしら?」


 ユコナは唇を隠しながら返事をする。


「勝利はどちらに? リトさんに軟棘の結果を見せてください」


 その言い方はまずい。ユコナに腫れた唇を見せろと言っているように聞こえる。プヨンがそう思うと同時にリトもそれを遮った。どうやら受け入れられないようだ。


「甘いわ。戦闘できっちりと叩きのめさねば勝ったことにならないわ」


 ミハイルが無事にリトを納得させられるか。


 プヨンは少し心配になってきた。


 何やらミハイルの説明が続いているが、お互いの価値観の違いから折り合わない。リトの意図は強い男になれだから仕方ない部分もある。


 どちらも譲らないようだ。


 プヨンが3個目のグラコロを食べ終えた時、見かねたのかユコナがやってきた。たらこ唇の成果を無駄にしたくないようだ。


「プヨン、いつまで食べてるのよ」


「やっぱりダメか。まあ、仕方ないか」


 グラコロを明らかに食べすぎたプヨンが、ミハイルへの遅すぎる援軍に向かうことにした。早く早くとユコナが袖を引く。


「ミハイルの助けてシグナルじゃない?」



 近づくにつれ、怪しげな雰囲気が漂っている。殺気や威圧とは違う。かといって媚びているのではない。この子なら多少理不尽なことでも受け入れてしまう独特の雰囲気だ。これは経験がある。見たところでは、周囲は濃厚なグラマスキー粒子に包まれていた。


「こ、これは危険だわ。耐性がないと一気にやられちゃうわよ。プヨン、鼻を摘まんでもダメよ」


「ノーズはダメ?」


 ユコナが少し焦っている。同性同士わかるところがあるのかもしれない。


「大量のフェロモンが射出されたものと思われるわ」


「遠隔操作して回収しよう」


 プヨンは邪な粒子を回収するべく、サイクロン魔法で粒子を掃除していく。ミハイルの周囲には空気の渦ができ、空気内の粒子を取り除いていった。


 だがかなりの量を吸い込んでしまったのだろう。もともと受け入れるつもりのミハイルは抵抗力が皆無だ。すでに目の焦点がぼやけてきている。


 ミハイルからは何やら特殊な気配が漂っている。


 ユコナはすぐに近寄らず、様子を見ようと腕を掴む。女性には効かないようだ。


「たいへん、フェロモンの戦いは深刻なようね」


「タイミングなど構わずにと言いたいが、生死を掛けた戦いにはうかつに飛び込めないな」


「様子見だわ。プヨン」


 この手の戦いはプヨンも経験が少ない。援軍をどうするか悩む。


「このような時、仲間が救出してくれると信じるような、人任せだけの一途では戦えないな」


「そういうものなのかしら」


「急がないと暴発圏内に出るな。生死を見極めろ!」


 一瞬プヨンはユコナを見てしまった。ユコナの顔もわかっていると告げている。


「わかった。フォローしよう」


「あぁ、よかった。助かったわね、ミハイル」


 プヨンは10人弱の聴衆を迂回し、ゆっくりと近づいた。



 ミハイルは当然押されているようだ。戦いに勝ったのは事実だが、リトが期待したであろう生死を賭けた勝負とは言い難い。


 リトは祇園一族の出身だと言っていた。命を託すに足る男かの見極めだ。それはプヨンにもわかっていた。


「うーむ。ミハイルが強壮なのかはわからないが、どうするかな」


「プヨンなら中央突破では?」


「え? 本気か」


 だが下手に繕ってもかえって悪化するかもしれない。さすがに実力行使になることはないだろう。


「ご武運を!」


「ユコナ、お前もこいよ!」


 ユコナに押し出されて、プヨンはさらに前に進む。


「早くしないとミハイルは暴発するかもしれないな」


「たいへんたいへん。そんなことになったらミハイルは大変よ。プヨンならきっとなんとかできるわ」


「ははは、ユコナはなんてお上手なんでしょ。でもおだてられても無理はしないよ」


 ユコナの意味不明なお世辞を軽く流して、集まっている者達を避けながらミハイルの元に向かった。



 近づいてみると、ミハイルはリトに説明していた。


「リトさんの印象は?」


「雑魚には用はないわ。トップよ、1位になってなんぼでしょ」


「リトさんは主力メンバーに特攻しろと? その前に脱出します!」


「は? それは禁止!」


 リトの厳しい指導に、ミハイルはなかなか反撃の糸口が掴めないようだ。


「プライドをずたずたにしすぎです。遺憾ながらリトさんを放置します!」


 思わずプヨンはミハイルを見た。まわりの男たちやレスルのスタッフの女性からも、おぉっとどよめきがあがる。ミハイルが切り札をだしたようだ。


「え? し、しかし……」


「無駄死にはしません。それに引いてしまいました」


「えー、そ、そんな」


 リトが弱気になっている。形勢逆転か。このままミハイルが押し切るならそれはそれでよい。プヨンは援軍に入るきっかけがつかめずにいた。


「ようし、薄幸信号をあげろ。リトさんは俺が預かる」


 薄幸で情に訴えようとしているが、リトに効くかはわからない。


「ふふふ、そう簡単にリトさんが落とせるかしら?」



「その2人、ちょっと待った!」


 その時、奥から声があがった。


 誰か知らないが、レスル内で見ていた傭兵っぽい男が名乗り出た。それなりの帷子を着こみ帯剣している。ライバル出現だ。ミハイルが明らかに動揺しているのがプヨンにもわかる。


「お、ミハイルがガン無視か。あーいうのはやりづらいだろうな」


 ろくに準備もしていない状態でいきなりのライバル出現。見かねたユコナが横にきてミハイルを助けに援軍に行けと肘でつついてくる。


「ふふふ。なめないでよミハイル! このリトさんは、長時間干上がりなどということはないのよ!」


 リトは妖艶な笑みを浮かべながら、手招きでミハイルを挑発する。さすがに今現れたばかりのぽっとでの傭兵男よりはミハイルを選ぶようだ。



「強力な自尊心を発生させているわ!」

「ミハイル! ミハイルが大打撃だ」


 ユコナがミハイルを擁護しているが、面白がっているようにも見える。ミハイルショックを心配していると、プヨンは不意に押し出された。


「私より弱くてたんこぶ作ったプヨン。そんな男ちゃちゃっとやっちゃいなさい。ミハイル、あんたは私に勝ったんだからしっかりしなさい」


「い、一方的だ!」


 めちゃくちゃだ。そんなややこしいことしなくてもいいのに何を考えてるのか。


 だが傭兵男はむっとしつつ向かってくる。当然だろう、今一番美味しいタイミングだ。しかも相手からしたら、かっこうの見せ場を提供したようなもんだ。


「どりゃーー」


 速い。かなりの動きだ。油断していたこともあり、かけよってくる男をかろうじてかわす。そのまま走り抜け慌てて止まろうとする。プヨンは動きが止まったそのタイミングで剣の束部分に向けて青い一筋の光を放った。


 バババッ


 光は剣の束を半周ほど周り、しっかりとさやと束を溶接した。


 ゴンッ、ズダダン


「うぁわぁーー」


 そのタイミングでユコナが氷弾をぶつけたようだ。男はつんのめってこけそうになった。頭にきたのか振り返りざまに剣を抜こうとしたようだが、


「あれ? あれっ?」


「援軍プヨン参上!」


 剣が抜けない。必死に抜こうとしているがしっかりくっついてしまったようだ。1分ほどもがいていたが、呆然としながらどこかにいってしまった。


「要注意…私闘は禁物だよ。こんなところで刃傷はさせないよ。仕方ないけど、これ性癖なのよね」


 プヨンはミハイルに声援を送る。


「ミハイル ユコナとの華麗なる勝負の結果を教えてやれ!」


 ミハイルは元気を取り戻したようだ。プヨンがそう言うと周りの男たちがミハイルをはやし立て始めた。


「和解を狙っていけ」「接近してさっさとぶち込むしかない」


 様々な声援がかけられている。プヨンもミハイルの背中を押す。


「生死をかけるんだろ。しっかり突っ込め」


 だがリトは納得していないようだ。何やら身構えている。


「ぐっ。下ネタか? 貞操防御! まだよー!」

「えー? やってやるー!」


 ミハイルは強引にリトに近づく。リトは壁に追い詰められた。


「た、たかが1回のバトルに勝ったくらいで、このリトさんを落とせないわよ!」


 ミハイルがにじりよるが、リトは抵抗している。


「祇園一族のしきたり、この私のプライドにかけて、ミハイル相手に1回や2回じゃやらせはしない、やらせはしない、やらせはしないわ!」


 あと一歩だ。ミハイルはあと一歩のところまで追い込んでいる。今だ、まさに援軍プヨンの出番だ。

 

「リト、1回2回じゃない、今回は3回目だ。3回目で馴染みになることが祇園一族のしきたりだろう!」


「え? なぜ、それを」


 そのタイミングでミハイルの最後の口撃が放たれた。


「ははははっ、見ていてください。リトさんが良妻化の暁には、少子化などあっという間に解決してみせますよ!」


 そういいつつリトを抱きしめ、熱い口づけをするミハイル。


「やった!」


 ユコナがつぶやく声が聞こえた。カウンターからタダンの声も聞こえてくる。


「リトさんが落ちたな」


「あぁー」「そんなバカなー」


 見物していた男たちもまさか落ちると思っていなかったのだろう。嘆きの声が聞こえてきた。



 ユコナが満足気に近寄ってくる。カレー勝負の怒りの矛先はプヨンにだけ向いているようで、根にはもっていないようだ。


「今後の情報収集とミハイル警護を希望します」


「いいんじゃないか。納得してない男もいるだろうしな」


 ミハイルにとって代わろうとするやつがいるだろう。アデルの頼みもあり、しばらくはミハイルを気にすることにした。


 プヨンがそう心を決めたとき、サイドカバンのフィナツーの声が聞こえてきた。


「彼は、生き延びることができるか?」


 明日の朝陽をミハイルが見ることができるよう、プヨンはお祈りするのだった。


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