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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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報告の仕方 1

 ウラビン達の捕縛をあきらめたわけではないが、もともとの主目的は物資、貴重品の運搬だ。


 逃がしたことをリ・ウムに伝えることは心苦しいが、身内だと思っていた人物、ウラビンが糸を引いていたのであればやむを得ないところだろう。


 事前にレオンが聞いていた通り、ウラビンが横流しにかかわっていたことを考えると、被害なく運搬できたことで十分及第点と判断できそうだ。


 レオンは最低限のノルマは果たしたことであまり落ち込んだ様子もなかった。



 プヨン達は集合場所に着いた。


 他のルート経由の物資もほぼ損傷なく届いているようだ。レオンも無事に運べたことをリ・ウムに誇らしげに報告した。


 取り逃した点については特にこれといったお小言もなく、よくやったとのねぎらいの言葉をもらっていた。プヨンとしても無事に守り切れたことで達成感がある。


 簡単な報告と共に荷物を引き渡す。プヨンがストレージから取り出した水差しを見て、リ・ウムが満足そうにうなずいていた。


 ここで割ったら最悪だとのプヨンの緊張をよそに、レオンとプヨンを交互に見るリ・ウム。


「うむ。本物だ。よくやってくれた」


 たしかにリ・ウムの声は嬉しそうだ。レオンとサラリスも釣られて喜んでいるが、プヨンと目が合ったがユコナは落ち着いていた。


 見えない角度を意識しつつユコナがすばやく数回瞬きをする。瞬き回数で意思疎通をする。この符号は『距離を置け』の意味、ユコナは何か裏があるとでも思っているようだ。


 距離を置けといっても別に遠くに行くわけではなく、安易にのるなという意味だ。ユコナの意図を探る。


「レオンは浮かれすぎ。他のルートで運んだ者も含めて全員に言ってるんじゃないの?」


「そうかもしれないな。でも相手の気持ちを受け入れるのも大事だ」


 ユコナの問いに一緒に喜んだふりをしようと返す。


「うわぁーーやった!」


「ふー、へたれめ」


 あきらかに白けてしまう。もっと本心から喜ばないと不自然すぎる。プヨンから見てユコナは本心を偽るのが下手だった。


 期待に対しての成果アピールをうまくやれば、失点はなかったことにでき、成果はかさ上げできる。


 ヘリオンあたりは頻繁に使うが、レオンもわかった上でうまく立ち回っているのだと思える。


 リ・ウムもせっかく運び終えた相手の気分をわざわざ落とす必要はなく、お前が運んだものは偽物だと言うこともないだろう。

 

 

 プヨンはあらためて隅に置かれていた水差しを見直した。


 先ほどリ・ウムに引き渡す前にも試してみたが、この水差しが洗浄機能を持っていることは間違いない。段々と構造がわかってきたが特徴がある。


 今もちょっと指輪を洗ってみる。以前にエクレアが由来を調べてくれようとした指輪だが、最近は身に付けていることが多い。ずいぶん汚れていたからちょうどよかった。


「な、何してんのよ?」


「い、いや、ちょっと汚れているから洗おうかと思って」


「え? でもこれとっても高いんでしょ? いいの?」


「え? だめなのか? 洗う道具なんだから、使ってもいいのでは?」


「バレなければどうということはない」


 ユコナがぼそぼそと言う。もちろん普通に考えたら非常識な気もするが、そこは興味が勝る。使い方は電気の応用で使えた。


 容器が傷つくわけでもなく、プヨン流独自解釈で問題ないと判断した。


 洗うための力の加え方もこつが掴めてきた気がする。


 プヨンが入れ物に水を入れて少し制御すると、まわりから中心に向かってきれいなさざ波が立つ。


 両端に電極があり、この独特の金属構造にうまく電気を流すと振動するようで、状況からも超音波を利用した洗浄器で間違いない。


 施された装飾に特徴がある。これは振動板かもしれない。どういう経緯でできたかはわからないが、適当に作った、ただのきれいな入れ物というわけではなかった。


 時間にして1分ほど。中に入れたものは細部まで洗浄できていた。


「わ、私のも1つ……洗いたいものが。これは私の持ち物ではあるけど……なんというか邪気から守ってくれる気がするんだけど、同時に無念さのようなものも感じるの。秘密の腕輪なんだけどね」


「じゃ、邪気を吸いとってきたということか? それでそれだけまだ残っているのか? 一体どれだけあるんだ。それはまさか……」


 後半はひっそりと心の中だけで呟き、1人で納得する。


「そう。私の母親が身に付けていたという腕輪なの。何かつらいことがあったときは、この腕輪に向かって解き放ってきたの。せめて汚れだけは取りたいなと……」


 そういうことか。たしかに守ってくれるような何かを感じるが、同時に溜め込んだものなのか、よくない雰囲気もある。


 ユコナの腕輪は何かの装飾品のようだが、すでにすり減っており貴金属のくすんだ光沢が少しある程度だ。外見も随分汚れていた。古いものなのかいろいろな汚れが付着している。


「そう。夜中にお腹が減った時とか、試験の点が悪かったときとか……」


 かなり邪悪な怨念もまとった腕輪のようだ。腕輪から漂う邪気はこれか。わかる気がした。


「特にプヨンにへこまされたときは、ここにすべてを注ぎ込むの……」


 ユコナの目が怪しく光る。かろうじて直視は避けた。


「お、おう。それは、洗った方がいいかもしれないな。ど、どうぞ」


 どこまで言っていることが本当なのかはわからないが、プヨンはユコナと目をあわさずに返事をする。


 こっそりと水差しを手元によせ、水も新しいものに変えてやった。


 だがユコナが言うように、腕輪には良からぬものと良いものと両方が絡み合っているような気がした。

 

 一つは死体化したカルカスなども纏っているような、強い邪気、死の間際の強い執着のようなものが感じられた。もう一つはなんだろう。ちょうどプラスマイナスゼロなのか、全体では特に何も感じなかった。


 母親が身に付けていたということは何か特殊なものだろうか? 


 死に際しての気持ちが残ったりするのかもしれない。


 ユコナがそれをわかって洗浄したいのかはわからないが、ユコナは腕輪を取り外し容器の中に入れる。腕輪は少し緩めのようですんなりと外れた。


 この振動子に電気を流すとなぜ動作するか、説明するのは難しいだろう。


 面倒なのでプヨンは何も言わず洗浄をする。


 バブルパルスによる洗浄とともに、うっすらと白い煙のようなものがあがり、表面の異物が取れていく。


 同時にプヨンがちょっとお試しで洗ったときと違い、明らかに水が黄色く濁っていく。


「あ、なんか、汚れが減っていっている気がする」


「あぁ、まぁ、これも電気魔法の一種だからな」


「え? そうなの? これも雷の応用なの?」


 汚れが取れていく腕輪を見ながら、ユコナが何やらぶつぶつとつぶやきだした。


 理解できないと出る定番の行動だ。


 『説明がなってない』とか『またいつものが出たわ』などと、わざと聞こえるように呪いの言葉を吐いている。


 だがこの程度の罵倒口撃では防御能力が向上したプヨンにダメージを与えることはなかった。



 ユコナを横目で見ながら、プヨンはさらに力を追加する。どこまで洗えばいいのかはわからないが、邪な何かは綺麗にしたい。さっきよりしっかりと力を注ぎ込み電気振動を起こして長めに洗浄した。



 洗浄が終わった。ユコナの黒く汚れていた腕輪はきれいになっている。


 そのままよかったなと告げようとした瞬間、ユコナが手にした腕輪を見て、あっと小さな声が出た。思わずもう一度見返す。


 先ほどまでのユコナの腕輪から出ていた黒い影がなくなっている。邪気がまったく感じられなくなっている。


 一方で緑っぽい変わった輝きがまとわりついているのはそのままだった。


そうなのか? ほんとにきれいになったのか? だが中途半端だ。


 しばし呆然とし、水差しと腕輪を交互に見る。半信半疑だが、この水差しは単なる汚れ以外の汚れも落とせるのか?


 だがその考えはユコナの声で中断された。周りに聞こえないようにする配慮はあったが、


「あぁぁ、き、キズが……、いつから?」


 何やら呆然と腕輪を見つめている。

 

 ひょいと肩越しに腕輪を見てみるとリング部分に沿って大きなスジが見える。確かに大きな傷がついていた。


 おそらく汚れで見えにくくなっていただけで、以前からついていた傷だろう。


「あぁ、隠れていたんだな。洗浄のキズなのかな?」


「つっ! キズなんとかして!」


 せっかく洗浄してやったのにユコナはご立腹なようだが、プヨンは腕輪から剥がれた、もう1つの汚れが気になっていた。



 考え事をしながらも、容器の中も洗浄し水を気化させて空にする。


 何食わぬ顔でしれっとするつもりだったが、リ・ウムの目線がこちらを向いていることに気づいた。


 プヨンがこっそり洗浄していたことはリ・ウムに見抜かれていたようだ。チラチラと見られている。目は優しそうだが、それだけにかえって不気味だった。


 やはり高価な品物には違いなく、それを勝手に使ったのはまずかったかもしれない。


 もちろんリ・ウムは表立った反応はしていない。リ・ウムからしたら、下手になぜ使っているのかを聞いてたら、正解を教えることになってしまう。おそらくリ・ウムは何も言ってこないだろうという読みもプヨンにはあった。


 ここは何も知らないふりをして、プヨンもリ・ウムに微笑み返す。


 気になることもあったが、色々なルートで運んでリスクを分散させているとレオンは言っていた。これが本物かどうかはわからない。



 リ・ウムの考えるところはどうなのか。プヨンはリ・ウムの目を見ながら探りを入れてみたが、残念ながらその表情から意図を読み取れるほどの経験はなかった。


 結局わからないものを考えても仕方がない。とにかく笑顔を振りまいておいた。


 

 振り返るとけっこう大変だったとは思うが、終わってしまえばそうでもないのはいつものことだ。これもヘリオンの言う『今後校外で活動していく』ためには必要なことと思う。


 ヘリオンの言いなりになるわけではないが、大きなことを学ぶには行動の自由もいるし、最低限の条件作りもいる。幸いにもヘリオンが前に立ってくれるなら目立たなくはできるが、最低限の実績作りは付き合わないといけない。

 

 いくら表に出ないようにしようと思っても限度はある。急がばまわれだ。


 とりあえず行動範囲を広げ、こうした実績ポイントを積み重ねていけば、周りの見る目も変わっていくだろう。その第一歩にはなった。


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