仲間との攻防の仕方8
フィナツーのことが一段落してユコナやレオンの状況を確認する。
レオンは渡した剣をうまく使えているだろうか。そう思ってレオンを探してみたが、姿が見当たらない。
方向違いだったかなと思って全周囲を見回してみたが見つからない。
もう一度プヨンが剣を投げた場所を見るが誰もいない。そういえばユコナとサラリスも見当たらない。どのあたりにいるのだろうか。もちろん敵方もだ。
今なら飛び上がっても狙い撃ちされることはないか?
そう思い目立ちすぎない程度に少し飛び上がってみた。同時に周囲の確認のための全方位にピンを打つ。
熱衝撃波だ。といっても風呂よりちょっと高い程度の温度の温風を吹かせて、周りの温度変化を見てやる。空気ならすぐ温度が上がるが、木々や岩、そして人は温度がすぐには上がらない。
いた。あそこだ。すぐに見つかった。
プヨンが剣を投げつけた場所から少し離れた地点の周りに腰よりは浅い程度溝がいくつもできている。こんな魔法は見たことがなかった。地中攻撃用か、それとも塹壕魔法といったものがあるのだろうか。
丘の中腹辺りだったはずだが、よく見ると何やらレオンとアルミナは2人でぐるぐると同じところを回っていた。
レオンもアルミナも手元には武器や剣の類は見当たらない。アルミナの叫ぶ声が聞こえ、レオンもアルミナの反対側にいた。中央に何かある。
「ぬぉー、あの剣、刺さりすぎだー。抜けん! お前も手伝え! そして俺によこせ!」
「一時休戦だと、寝ぼけるな! あれは俺のだ!」
レオンもアルミナも剣を中心に、衛星のようにぐるぐると走り回っている。時折相手を攻撃したり、筋力強化の蹴りや弾岩攻撃で岩を投げ飛ばし周りの土を削っているようだ。周りの溝はそのせいか。
しまった。少しでも早くと、投げる速度のことを考えていなかった。勢いあまってどうやら剣が深く刺さりすぎたようだ。
抜けないとも思わないが、2人はお互い牽制しあいながらの中途半端な力だからだろう、頑張って抜こうとしているのだろうが剣が抜ける気配はなかった。
「よこせ!」「渡さん!」
別に無理に抜かずに他の手段で攻撃すればいいのにと思うが、レオンとしては味方のものをみすみす敵方に渡すわけにはいかないのだろう。
だがほぼ互角の様相だ。決め手にかけたまま牽制しあっている。レオンはド素人ではない。しばらくは持ちこたえるだろう。
そうするとユコナ・サラリスが気になった。
先ほどの様子だと1対2、2人がかりで数では優勢だが、経験値がそこまで多くないため無理をしてしまわないか少し心配だ。サラリスは特に危険だ。この間も森の中から信号弾がわりの大火球を撃って、危うく山火事に起こすところだった。
後先考えず周りの環境大破壊を引き起こす危険性がある。
いた。ユコナとサラリスが目に入った。
ちょっと遠い。2つ隣の丘で動き回っているのがかろうじて見える。ユコナの手元が太陽の光を受けてキラキラと赤く光っている。以前プヨンが譲った紅玉の剣を手に持っているからだろう。
とりあえずレオンはおいて、ユコナとサラリスの方に向かう。
少し近づくと男を挟んでユコナとサラリスが両側を挟み込み、ヒット&アウェイで連携攻撃しているのがわかった。
目立たないようにしながらも高速移動のため浮上走行だ。なるべく姿勢を低くし、寝そべって移動した。
ある程度近づくと集音魔法の効果もあって声が聞こえてきた。
「ユコナ、わかっているわね? この純度は超貴重品よ! 貨幣に使っているような安物プラチナとは違うわ、女性なら貴金属は一瞬で見分けないとダメよ!」
「わかった。これが本物の高純度プラチナなのね? 貨幣の棒とは輝きが違うわ」
「そうよ、ユコナ。それだけじゃないわ。冬にはカイロにも使えるのよ!」
「なるほど。プヨンも言っていたわ。解毒にも使えると。なんとしても手に入れるわ!」
サラリスがメッシュの頭上に周り、動きを抑えにかかる。完全に狩りの獲物状態になっている。
「うあー、俺を触媒にするなー」
「安心して、中身には興味ないから。ユコナそっちに回り込んで! 身ぐるみはぐわよ!」
「りょ。上着だけ? 武器はどうする?」
動きが遅いメッシュが必死に剣を振るうが、かすりもしない。いつもとは比べ物にならない高速剣技だ。
逃げまわるメッシュから、玉ねぎを剥くように1枚ずつ切り取っていくサラリス。レオンやアデルとは別種ではあるが、薄皮一枚傷つけないで鎧だけを無効化する。これも匠の剣技だ。
「私の戦っていた相手が、女性だったとは……うかつ」
「よく覚えておきなさい。女に貴金属をちらつかせるということは、こういうことよ!」
キン、チチン
「うわーー」
メッシュの叫びが聞こえる。また一枚剥がされたようだ。
逃げようとしたメッシュの目の前に、サラリスが丸い球を何発か投げつけ、ユコナが氷塊を放つ。球体は砕けて中から黒い粉塵が舞った。そこにサラリスが火球を放つ。
ドゴ、ドゴ、ドゴン
火球が黒い粉末に触れると即座に着火し、大きな火柱が立ち上がった。下手な爆炎魔法よりもよほど強力だ。
これはサラリスお得意の粉塵爆弾だ。改良されたのか、実戦用なのか威力が学校の時と段違いだ。
2人の火と氷の合わせ技で退路を防ごうとしたが、メッシュはその威力を目の前にして、さらに怯えの表情が濃くなった。もう戦闘意欲は残っていないようだ。
プヨンの予想通り危険な状態のようだ。間にあえばいいが。プヨンは救援に向かう速度を上げる。
すでにメッシュの鎧は、網目部分がきれいに切り取られている。両腕、左太もも、両脇、背中の大半がなくなり、前掛けのようになっていた。わずかに残っている部分は腰から右足部分だけだ。
「逃げられないわよ。ほら、戻ってきて投降しなさい! 大人しく降伏するなら、穏便に計らうわよ」
そう叫ぶサラリス達にはまったく疲れが見えない。
サラリスの目を見てしまったプヨンも鳥肌が立つ、蛇の前のカエルのように動きが封じられそうだ。すでにそれなりの時間が経過しているだろうが、宝石類を目の前にしたサラリスからは気迫があふれ、疲労などまったく感じられなかった。
砂煙が上がる中、動きが止まったメッシュの背後にユコナが迫る。
ピンッ、ピンッ
ユコナの紅玉の剣はルビー製、プヨンのサファイヤと同じアルミナ系でかなり硬度が高い。剣の刃先で弾くだけでメッシュの鎧の糸を容赦なく解きほぐしていく。この剣技でこられたらまずいのがわかる。
研ぎ澄まされたときの技術力の向上はすさまじく、ユコナの集中度も格段に高まっているようだ。
「なんという見事な技だ、集中するとこんなに違うのか。急がねば。あと5秒耐えてくれ」
つい立ち止まって見入ってしまったが、慌てて救援に向かう。
サラリスの手先の器用さにプヨンは声が漏れる。手編みセーターを毛糸に戻すかの如くユコナの手に握られたチェーンの束が太くなった。その瞬間、ユコナの手元のものがなくなる。
「あっ、消えた。やるな」
プヨンはユコナがある程度溜まるとストレージに収納していることに気づいた。
ずいぶん応用が利くようになっているようだ。戦いながら戦利品を収納していく。
これはあれだ。食事中の生き物の邪魔をしてはいけないというやつだ。
ユコナ達に追われている男も危害を加えられているわけではない。ユコナの邪魔をしてはいけないと悟ったプヨンは、メッシュを救助する方針を変え、遠巻きに様子を見ることにした。何かあったら治療してやればいいと考えた。
救援の必要はないと中間地点で様子を見る。レオン達もまだ追いかけっこをしている。
いっそユコナ達は男を捕まえてからにしたらいいのに。
そう思ったとき先ほどダイヤを場外ホームランにした丘に別の男が現れたことに気づいた。4人目だ。




