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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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仲間との攻防の仕方 2

 レオンが立ち上がって詰所に向かうとプヨン達も後をついて行った。


 詰所は10m四方程度の小屋だ。いいとこ10人も入ればいっぱいだろうと思っていたが、予想を上回り使い古された板張りの床の上に粗末なテーブルとイスがあるだけだった。


「ここで何するの? 何もないじゃない?」


 サラリスが早速文句を言うが、その反応を待っていたとばかりにレオンはニヤっと笑う。


「ご安心ください。ありますよ。ふふふ」


 魔法で物を投げたり持ち上げるのと同じだ。浮遊魔法でテーブルのある位置を床事持ち上げるとその下に階段があらわれた。


 魔法だと取っ手がなくても力がバランスよく伝わればすっと持ち上がるところは便利だ。



「あっ。なんか、やられた気がする」


 レオンにやり返されブスッとしたサラリスが階段を下りていくが、なぜか階段を数段下りたところで振り返る。レオンは全員が降りきるまで持ち上げないといけないため、階段を降りられず耐えていた。


「は、早く下りてください。1分15秒が自己ベストなんです。あぁぁーーーお、落ちる」


「え? ま、待って。もう意地悪しないから。もうちょっと耐えて」


 タタタッ


 口とは裏腹にレオンがどこまで耐えられるか見極めるようにサラリスがゆっくりと下りていく。その後をレオンもゆっくりと階段を下りていく。そしてテーブルはそっと音もなく床に下ろされた。


 

 どうやらレオンの言う自己ベストというのはもっと長いのだろう。


 さらにレオンに上をいかれサラリスが渋い顔で見つめる中、テーブルは元の状態に戻った。



「結構深いね」


「そうだなぁ。建物で言えば3階はありそうだな」


 階段の隙間からさらに下に続いていくのが見える。下は暗くてはっきりと見えないが覗きながらユコナとボソボソと話す。


 地下に向かう通路は薄暗く、レオンとサラリスは小さい火球を、プヨンそれとなくプラズマを応用し、オーロラのように周囲をぼんやりと明るくしながら階段を降りていく。


 7、8回階段を折り返しただろうか。ちょっとした屋敷がまるまる一棟入っているくらい深く広そうな空間がありそうだ。


 やがて一番下についた。いくつか部屋があるが、階段を降りてすぐの一室に入ると、中央の大きめのテーブルとその奥の男性2人が目に入った。


 テーブルにはいくつかの貴金属、宝石類、美術品、装飾された短剣や儀仗などが未梱包のまま置かれている。一応グループには分けられているようだ。



 値踏みされるようでプヨン達はしばらく無言でいたが、最後に部屋に入ったレオンが前に出た。


「奥が責任者のリ・ウムさん、手前がウラビンさん。これらの貴重品輸送の責任者です」


 レオンが壮年の男性2人を紹介し、続いてサラリスが礼儀正しく会釈をした。


 リ・ウムはこのあたりの有力者でプヨンでも名前くらいは聞いたことがあった。このあたりの警備などから国境付近に至るまで、使われる武器弾薬の取りまとめをしているらしい。


 ウラビンはまだ若くプヨン達より少し上くらいにしか見えない。ただ、なかなかのやり手らしく、この一年ほど秘書として勤めているそうだ。


 リ・ウムはレオンがここにいることで計画がうまくいっていないことを理解したようだ。表情がどうなってるんだと言っている。あきらかに不満そうな顔に見えた。


 ウラビンは硬直していたが、レオンにそう言われて我に返ったようだ。事態を把握できていないようだが、それを悟られないようにか返礼をすると早口でまくし立てた。


「レ、レオン隊長か? お前さっき元気よく出ていったばっかりじゃないか? お前が陣頭で指揮をとります、お任せくださいと言っていた件はどうなったんだ?」


「す、すいません。いろいろと事情がありまして。最後の特殊品の輸送担当者を案内しました」


「馬車から落ちたのよね」


「な? なに? 落ちた?」


「ち、違います。作戦の変更がありまして」


 レオンがサラリスの呟きを慌てて訂正している。リ・ウムもウラビンも出て行ったと思ったレオンがまたすぐに戻ってきたため、驚くのは仕方ないところだった。


 

 プヨン達を値踏みする様にゆっくりとウラビンが近寄ってきた。



「こんなのに、ちゃんとした護衛ができるのかあ? なあレオンさんよぉ?」


 若いように見えるが、雇う側だからかレオンにはため口以上の言い方だ。


 そう言うとウラビンは1番手前にいたユコナに近づいた。肩に手を回し抱き寄せようとしたが、ユコナは姿写しをしているため見える位置には中身がない。


「あ? あれっ?」


 室内が薄暗いこともありわかりにくいのだろうが、スカッと音がする勢いで手は大きく空振りした。


 すぐ横の空間から「ぷっ」と空気が噴き出る音がする。


「立体映像化魔法『レンチキュラー』でございます。ふふふ」


 1mほど横、何もない空間からユコナの慇懃ブレイクな勝利宣言が放たれ、精神的なダメージも与える追加効果が発動する。


 ユコナがプヨンの方を見ているのがなんとなくわかった。教えた甲斐があるというものだ。



 おそらく1番驚いていたレオンは、数秒固まったあと我に戻る。


「ご、ご覧の通りです。ご安心を」


 姿写しや透明化はちらほら使うものがいる。


 レオンはユコナの元護衛のルフトの技術を見たことがあるだろう。


 ユコナが実際に使っているのは初めて見たとしても、レオンが状況を即座に理解した。戸惑いを隠しつつ、勝ち誇るように説明した。


「ち、違うわ。俺が言いたいのは運ぶ価値がわかっているかってことだ。この中で1番高価なものがどれかわかるか?」


 ウラビンはバツが悪そうに言い放つが苦しい言い訳だ。


悔し紛れだろうが、そう言われたサラリスやユコナはそれなりの生活レベルもあるのか、価値についても自信があるらしい。


それぞれに高価そうな宝飾品を1つ選んで『これです』と答えていく。それをウラビンは満足そうに見ていた。



 プヨンはふと少し離れたところによけて置かれた金属製の水差しが気になった。運搬対象とは違うようにも見えたが、一見古そうなわりに傷一つなく不思議な光沢を放っている。


 宝飾品に群がるユコナ達をおいて拡大して見る。


 ちょっと目に水の膜を張ってレンズを作っただけだ。水の形をきれいに維持するのは難しいため静かな場所で短時間しか使えないが、準備もさしていらずこっそり使えて便利な技術だ。



 気になる。ユコナ達を迂回してプヨンはそっと水差しに近づいてみた。


 角度によって光沢の色が変わり、繊細なギ・ヨーシェの彫り物が施されている。描かれた模様が光の当たり方で変わり、ホログラムのように浮き上がり立体的に見えた。



 プヨンはふっと振り返って背後から近づくリ・ウムと目があった。一瞬驚いたようだが、


「よくわかったな。それが一番貴重で高価なものだ。それに比べたら他は取るに足りない」


 ほとんど動かずやりとりを見ていたリ・ウムがそう教えてくれた。



「えぇ?」


 その声を聞き、大き目の宝飾品を手に取っていたユコナが慌てて寄ってきて水差しを覗き込む。

中には何か透明な液体が入っている。


「こ、この水が貴重なのですか?」


「それは、ただの俺が出した水だ。飲んでも特に珍しくはない」


 そう言うウラビンの満足そうな表情がユコナに向けられる。お前らにはわからんよなとユコナを見る一方、プヨンには興味を持ったようだ。


「じゃあこれの何が貴重かわかるか?」


 プヨンもそう言われて水差しを見てみる。一般的なティーポットのように見える。注ぎ口が細長い洒落た形状をしているが、中心部分はなんの変哲もない球体に見えた。


 形もだが材料も気になった。


 本体の金属はなんだろうか。単なる鉄などではなさそうだ。


 胴部分の彫り物も見れば見るほど細かい。ただ宝石や飾りはなく特に価値のありそうなものはついていない。リ・ウムは指で本体についた装飾を指でなぞりながら、値踏みするようにプヨン達を見ていた。


「素晴らしい彫り物ですね、材料が希少な金属とか?」


「まぁ、希少といえば希少だ。ガリウムでできているからな。だがそれは本題ではない。もちろん彫り物でもない」


 その後も色、形、水が美味しくなるなどユコナが思い付いたものを順番に言っていくが、リ・ウムは首を横に振るだけだった。



「もしかして音色とか?」


 ユコナがネタがなくなった頃、プヨンがボソッとそう言うとギョッとするウラビン。どうやら正解に近いようだ。プヨンとリ・ウムを交互に見ながら慌てている。


「なぜそう思う?」


 そう言いながら、リ・ウムは指で先を弾く。とても甲高い澄んだ音がチィィィーンと鳴り響いた。


 鉄風鈴のような気持ちいい音だ。一瞬気持ちがそちらに持って行かれ、すべてを忘れてしまいそうになる。



「え? それはなんとなく。魂が引き寄せられる気がして」


 リ・ウムはプヨンの目をじっと見る。違うのか、正解なのかドキドキしながら待つ。正確に3秒だったがずいぶんと長く感じた。


「それは本当か? 一応教えてやるが、それは5000万グランだ。あ、そっちの宝石は全部ひっくるめて10万グランってところだ。そっちもまぁまぁ高いぞ」


「えーー?」


 見る目がないと言われたのがショックなのか、それとも10万でも高価値と見たらいいのか。


 ユコナが声を出した理由はわからないがそれで気を良くしたのか、リ・ウムはプヨンに対してさらに説明を続ける。


「いい値段だろ」


「えぇ。良い鋳物なのですか?」


「浴槽だな」


「は?」


 浴槽とは聞き間違いなのか? そう言われてよく見なおす。もちろん人間は入れないが、入れたものを洗浄する容器のようにも見えた。


 飲み物の注ぎ口のように見えたがこれも何か意味のある構造なのかもしれない。


 リ・ウムは興味深そうにプヨンの反応を待っている。見上げると目があった。


「なんだね?」


「さっきの音色からすると身も心も洗われそうです」


「な、なんだと。心が洗われるだと? そこまで見抜けるものなのか?」


「これが浴槽ならこの独特の形状も意味がありそうです。ランダム洗浄で超音波を最大限に伝えられそうですね。いますぐこの訓練で荒んだ心を洗浄したい」


 プヨンはふと手元の短剣の刃先が訓練時などの血糊で汚れているのを思い出した。もしこれが洗浄装置なら短剣なども綺麗にできそうだ。さすがに値段を考慮し試す気にはならなかったが、プヨンの説明にリ・ウムはいたく感心したようだ。



 わざと見えるように、リ・ウムは水差しを空に、空中から出した水を注ぐ。そして自分のカフスを外して入れた。


 しばらくつけていたのだろう。皮脂などで表面が黒ずんでいる。


 リ・ウムが浴槽に手を添えると水面が波打ちはじめた。そのまましばらく波打ち続けているとカフスの表面から何やら煙のようなものがでてきている。


「どうだ、これを見ろ。単にきれいになるだけじゃない。それを見たものの心もきれいにできるのだ」


 やがて取り出されたカフスは光沢が蘇っていた。


 

「よし、この運搬はプヨンだったか、お前に任せよう。お前が責任をもって運ぶのだ。その証としてこれを授けよう。美を知るものの証、ガ・リウム・メダルだ」


 リ・ウムが指で空中を一なですると、何やら手のひらサイズのメダルが現れた。ストレージで取り出されたメダルは、銀色に輝くが銀ではなさそうだ。


 以前ガンオーにも見せてもらったことがあるが、どうもこの色合いは金属ガリウムに見える。名前の通りガリウムでできたメダルのようだ。


 ピンと投げられたメダルを空中で受け止めて手元に引き寄せる。そしてあらためて浴槽を見た。


「これはやたら高いですけど、洗浄用の道具なんですか?」


「あぁ、そうだ。汚れならなんでもあらえるぞ。うまく魔力を注いでやると目に見えない細かい汚れが落とせる。戦場で汚れた武器も、汚れた目も、そしてすさんだ心も、すべてを洗ってくれるのだ」


「なるほど。心の洗浄もできるんですね」


 プヨンが言った心の洗浄というのもどうやら本当にそんな機能があるようだ。リ・ウムは自分の道具を褒められて気をよくしたのか、色々と特徴を教えてくれる。


 たしかにこうした美しいものを見ると心が癒される。プヨンにも特別な道具というのがわかる気がした。


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