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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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仲間との攻防の仕方

 プヨンやヘリオンが校外学習で単位を取得する方向で話し合い、今後はグループ活動に力を入れていってもいいとなって数日が経った。


「ちょっと話があるんだけど、ここじゃなんだから、何か摘まみながら話しましょう」


 どうするのかなと思っていたプヨンは、サラリスにそう誘われて校内食堂に連れて行かれた。調理させられるのか、サラリスが繊細な火魔法で調理した生煮えまたは黒焦げを食べさせられるのか、少し気になったがいつものことだ。胃薬を用意しつつ付き合った。


「プヨン、好きなものを食べてよ」


 サラリスに唐突に言われる。


 いつもならありえないことで、えっと驚いて固まってしまう。エクレアではないが、脳みそ強化を用いて最大速度でサラリスの意図を探るべく解析処理をする。


 サラリスからこのような申し出があるとしたら新魔法のお試しのようなやっかいごとに決まってる。もちろん災厄は食べても食べなくても降り掛かる確率は変わらないことも熟知していた。


「で、では遠慮なく」


 少なくとも食堂にある材料はサラリスの手が加わってなく安全だ。見た目も味も問題ない。


 たまには仕返しとばかりに高いものを頼んでもよかったが、無理して口に合わないものを食べても意味がない。


戦時携行食『青苔』などのドライ系フードを代わりに調達しておいた。


 ストレージの使用目的の第一位はこの手の食料や貴重品の運搬だ。美味しくて日持ちするものをなるべく入れたいが、無駄に食べ過ぎないようあえて不味くしたものも多かった。


 あっさりとして日持ちするしほのかな甘さで飽きがこない。こういうものなら食べたいときに食べられる。作る手間に対する価格を別にすれば。



「サラ、ごちそうさまでした。はい、これ」


 プヨンが明朗会計後に受け取った請求書をサラリスに渡す。数字を見ると同時に『うぇうぇ』とうめき声をあげていたが、キッと目元が吊り上がる。


「値段分元を取るまで死んでも働かす!」


「ひょえ」


 プヨンは甘い覚悟のままサラリスとの間で口(苦血)約束が結ばされた。

 



 数日後。


 今日はその契約を履行するためとプヨンはある屋敷に向かっていた。別にサラリスやユコナの無理難題は初めてではない。


 強制課題がないとなかなか行動に移せないプヨンにとっては、怖いもの見たさと新しい取り組みへの興味もあり、それなりのメリットがあった。



「プヨン着いたわよ。今日は先払いで食べたエネルギー分、利息もつけて動いてもらうから! 頼むわよ!」


「えー、そうなの? そんな話は聞いてないけど?」


「ほほほ、エネルギー保存の法則です。プヨンが自分で言っていたでしょ?」


「うんうん。勝手に増えたりはしない。これで利息とやらはチャラだな。食った分だけ働こう」


「ぐっ。まっ、まぁいいわ」


 元はヘリオンの計画した校外学習だったが、手頃なものから取り組むはずが、サラリスの口利きのせいで急遽厄介なものを引き受ける。


 小声でいつも通り折り合いをつけつつ、サラリスからの説明はこうなっていた。 



「ほら、レオン知ってるでしょ。学校前にいたユトリナの町警備してる」


「ははは、何を今さら。ちょくちょくかかわっているよな」


 日々人や獣との戦いが任務のレオンは、若いがゆえの度胸もあり最近町の警備主任がすっかり板についてきていた。


 もとからユコナやサラリス達の側近みたいなものだが、今は経験を積むという名目で町警備をしていた。それがサラリスが引き受けた理由だろう。



 プヨンに何度も『ちょっと聞いてるの?』と確認しながらサラリスは説明する。どうやら一言で言うと荷物運びのようだ。


「どこまで本気なのかわからないんだけど、『盗難予防』とやらで保管管理を厳重とするらしいのよ」


「することはわかったけど、そんな緊急なのか?」


「どうやら強奪される事件が続けてあったそうで、リスク軽減のためだそうよ。人が少ない町はずれの邸宅の貴重品や、街道沿いの備えの武器弾薬類は警備しやすいようにするらしいわ」


「運ぶってどこによ?」


「城塞都市内よ。レンガ造りの保管庫に移すのを手伝ってほしいらしいの」

 

「運び手が欲しいだけならレオンがわざわざ頼んでくるはずもないし、本来なら武器はすぐ使えるよう随所に配置すべきとも思うが?」


「敵が使うくらいならない方がましよ!」


 そういうことだそうだ。


 もしかしたらワサビ達の件で見られるような、きなくさい情報も影響しているのかも知れない。どこかで需要が高まっているのかも知れない。



 1つ2つ滞りなく運び終えた。次の待ち合わせ場所は警備や災害対策の備品置き場兼駐屯場所だ。その少し手前で先行したサラリスと合流予定になっていた。


 そこにユコナと2人で向かっている。ペアを組み、編隊飛行『ロッテ』でユコナを補助しながらゆっくりと飛行していた。

 

 やはり直線で移動できる空からの移動は速い。風任せのようなゆっくりな飛行でも校内から15分程度で着く。


 もっとも浮かぶだけでも2秒ごとに火球1発程度。5分飛べれば十分な航続距離があるとみなされるなか、15分はそうそう飛べない。ユコナはつらそうだ。


 そう距離はないがそれでも湖を横断して休みなく無着陸で飛び続けることはなかなか難しい距離だ。



 飛びながらユコナの様子を伺うが口数が少ない。まだ先日の透明魔法に対抗した際、ユコナの姿を使用した件で怒っているのがわかった。


「プリプリと怒りながらだとちょっと変態飛行だな」


「人の姿を勝手に使うのはルール違反でしょー?」


「うん。そうかもしれないが、仕掛けられたことに対してお仕置きしただけでは?」


「仮にそうだとして、なんであんなにそっくりに再現できているのよ!」


 そこは答えてはいけない。もちろん見たことがあるなどとは言えるはずもなかった。



 よほど頭にきたのか、ユコナの怒りの火に空中補給で油が注がれ、燃料を加えたユコナが加速しプヨンを引き離そうとする。


 ユコナと少し距離をあけて縦列に飛行しつつ、女性に対する気配りもアピールしておいた。


「ユコナ、悪かったよ。機嫌を直せよ。ちゃんとかわいいのにしておいたからさ。ほら、お胸もかわいいサイズに……」


「こ、こ、こ、」


 先手を取ってユコナの言葉を封じる。 


「コケコッコー」


 間髪おかずに目の前が光る。ユコナの動きが速い。


 ビシャン


「燃えつきてしまえー!」


 鶏の鳴き真似と同時に湖上に巨大な落雷が落ち、轟音とともに空気が震える。


 もちろん落雷前は産毛が逆立つ感覚でユコナの攻撃準備行動はお見通しだ。避け方も慣れてしまえばプヨンにはどうということはなかった。もっとも、


「こんなものの直撃を食らう奴はたまったものじゃないな」


 そう声にでてしまうくらい威力が高まった雷撃が見え、ユコナの著しい成長を実感した。



 プヨンは高度が下がりはじめると燃料の補給を手伝う。


『ゆるせーん』と何度か言われたが、先日のちょっとした自己訓練の際、心が傷ついたことがいい燃料になっている。


 それでもそろそろ限界のようだ。対岸について待ち合わせ場所まであと少しというところで息が切れて限界だ。


 疲労による意識喪失や墜落を避けるため、地上に降り立ちユコナと地上を歩き出した。


「ふぅふぅ。待ち合わせ場所は街から離れている小さな待機所よね。あと少しか」


「サラからはそう聞いてる。他にそれらしい場所はないし、警備隊の旗がはためいてるからすぐわかると言ってたな。あの道を外れて向こうの方に見えているやつかな」



 2人は道を外れ、見え始めた建物に向かってまっすぐ草原を歩いていく。


 最初プヨンはユコナのすぐ横を並んで歩いていたが、さきほどから今のユコナ本体の位置が少しずつずれいていくことに気づいた。容姿の悪質利用のお詫びにプヨンがユコナにだけ伝授した映像投影法の改良版のようだ。


 性懲りもなくユコナが仕掛けてきた。飛べないくらい疲れているはずではないのかとユコナの頑張りに笑みがこぼれる。


 透明化との併用で自分の姿を消しつつ姿を別の位置に投影する。今の位置は実体から2mほど横にずれは止まった。もちろん本体の位置は触るとわかるのだろうが、そこには何もないように見える。見えるままの位置に攻撃すると、当然空振りに終わるだろう。



 もちろんプヨンはそのことに気づいていたが、知らないふりをして歩いていく。声を出すと位置がわかるからか、ユコナもそしてプヨンも無言のままだった。



 プヨンも自分自身は繊細に表示できるが、ユコナはこの点についても上達が早く、今ではプヨンと同程度、少なくとも水平方向ではほぼ完全に自己映像を表示できるようになっている。


 観察を続けるがなかなか欠点がない。上空から見ると気付かれるかもしれないが、地面からでは輪郭や移動時のブレもない。プヨンのチェックだけでなく鏡などでも相当練習したのだろう。


 プヨンは見える方を目で追うように振る舞い、ユコナの優越感を高めていった。




 向こうに待ちかねたサラリスが見えた。こちらに気づいたが、特に動かずくるのを待っている。


「そろそろ潮時かな……」


 プヨンは何もない空間を見る。もちろん本来のユコナのいる位置だ。


「おい。影を忘れてるぞ」


「え? あっ、しまった。いつから気が付いてたの?」


「ふ、最初からだ。それ以外はなかなか上手だったな」


 むむむと唸るユコナの反撃を封じた頃、レオンやサラリスとの待ち合わせ場所に着いた。ユコナは声を出すと位置がバレるからか無言の会釈だけだ。




 サラリスが遅いと文句を言いつつ、きょろきょろとしながらレオンを探している。何かあったんだろうか、そう思っているとそう大きくない納屋から数台の荷車が並んでやってきた。御者と護衛の兵士らしきものが数人、今まさに輸送隊が出立していくところのようだ。


「サラリスさまー、後は軽いものだけです。よろしくお願いしまーす。屋敷にいるウラビンさんに会ってください」


 プヨン達が見送る隊列の荷車の1つから、レオンが顔を出してサラリスに呼びかけた。その瞬間、レオンは当然宙を舞う。


 ザザザっと音がし、バランスを完全に崩してレオンが転げている。


 そこにサラリスが心配そうに駆け寄っていく。どう考えてもマッチポンプだ。


「あぁ、レオン大丈夫? 急に荷車から転げ落ちるなんて! レオン隊長が体調を崩されたわ。隊長不良よ。私がレオンを連れていくので、皆さん私に任せて先に行ってください」


「わかりました。隊長、後からゆっくり来てください」


「ま、みんな待ってくれ」


「まぁ、そう急がないで。レオン一緒にいきましょう」



 サラリスを知っているであろうレオン隊のメンバーは、あっさりとレオンをおいて行く方を選択したようだ。粛々と隊列は進んでいった。


 もちろんレオンはサラリスに上に乗られ、圧力に屈している。押し潰されて地面で手足をジタバタさせている。


「う、動けない。なんて重さだ」


「あっ?」


 レオンが意図せず死の呪文を口にしてしまったようだ。レオンの発言にプヨンは反射的に声が出たが遅かった。プヨンと目が合ったレオンが悟るのと同時だった。


 サラリスのさらなる重力魔法が発動する。


「ぐえっ」


「まあっ、レオン、大丈夫?」


 気遣いつつも数倍化した重さがレオンを襲ったため、それだけ言い残しレオンは力尽きた。



 レオンが目を覚ました時、輸送隊はとっくに見えなくなっていた。レオンも諦めたようだ。   

 


「少し休んでウラビンさんのところにいきましょう」


 サラリスから解放されて自由を得たレオンはそういうと休息をとりだした。プヨン達もそれにならい、小屋の前で銘々休息を取った。


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