レスルの登録の仕方6
「では最後はプヨンさん。準備ができたらどうぞ。プヨンさんはどうされるので?」
「はい。えーっと、空気をぶつけます」
「え? 空気? 風ってことですか? へー珍しいですね」
名前を呼ばれて、とりあえずプヨンは宣言したが、ちょっと面食らってしまった。風はどうやら珍しいらしい。
「さて、どうやろうかなぁ。考えてはいたけど、実際に外でやるのは初めてだしな」
そう呟いてみたが、方法はまとまっている。風船に空気を入れるようにぎゅーーっと圧縮して気圧を高める。直後に一か所だけ緩めて噴出させれば、けっこうな勢いの突風がでるはずだ。簡単だ。
像のちょっと手前に狙いを定め、数m四方の大気中分子を内側にむかってかき集める。空気で空気を集めるイメージで内側に圧縮していく。
ある程度はできたはずだ。実際人前だと初めてだから、やりすぎ注意が気になる。
ちょっとばかり計算してみたが、強風になりすぎないよう、ほんの少し気圧を高めた。ほんの5%程度。これでも計算上はけっこうな風速の風が吹くはずだ。
圧力を高めた状態で、プヨンは指定線のところまで移動する。
「では。破裂、いきまーす。」
自分に言い聞かせるように返事して、手を前に突き出した。
ヒュウー
風の音がして、像が大きく揺れた後、
ガタン
予想通り像が倒れた。一応できたと安堵する。もうちょっと強い風が出るかと思ったが、このくらいの気圧差だとそこまでの突風ではないようだ。密閉したところから吹き出させたわけではないから、思った以上に風力が分散した。それとも空気による抵抗が大きいからか。
なかなか予想通りにはいかないなと思っていると、ケルンが叫んだ。
「あー、すいませーん、風で倒れてしまいましたー。ちょっとやり直しでーす」
「プヨン、やりなおーし」
サラリスがちゃちゃをいれてくる。せっかく風で倒したのにやりなおしなのかと思うが、今度は吹き飛ばしてやろうと仕切りなおす。
「じゃー、もう一回やりまーす」
さっきより、ちょっと強めに空気を集め、
「えいっ」
さっきより勢いよく噴出させた。風の音が違う。びゅうーーーとうなるような音だ。
ガタン
一息ならぬ一風で、飛んでいきそうな勢いで像が倒れた。
「あれっ、また、倒れた。なんでかな」
ケルンがまた駆け寄り、像を立て直す。別にバランスが悪いわけではないだろうが、なるべくまっすぐ立てようとしているようだ。
「すいません、じゃぁ、お願いします」
まだだめなようだ。ちゃんと声にだしたほうがいいのかと悩む。さらに強めにしてみる。
さっきよりもさらに空気を集める。試した中では限界に近づく。これ以上は怖くて試せない。
相当な気圧差が出ているとは思うが、精度のいい気圧計があるわけでもなく、このくらい程度の感覚では強さの程度はわからない。
「プレスリリース」
今度はしっかりと声にだして、風を吹かせてみた。
びゅびゅーーー、ガラガララン
かなりの強風が吹いた。それなりに重そうな像は吹き飛んで2、3mほど転がっていった。
ケルンは飛ばされた像をじっと見つめる。サラリスとユコナも。プヨンもどう反応したものか一緒になって見る。
「もう一回やりましょーか?」
声をかけたが、ケルンはビクっとした。急に雰囲気が変わり、へりくだるような声になる。
「い、いえ。だいじょうぶです。問題ありません。倒れました!」
そう言ってくれた。よっしゃとにこやかな笑顔になる。やはりあまり加減してもいいことはないようだ。これで無事に試験終了となった。
「で、では、ユコナさん。回復魔法も希望されていましたので、続きは屋内でお願いします」
そう言われて室内に案内される。おそらく適当な怪我の治療試験を課されるのだろう。そう思ってプヨンがサラリスのほうを見ると、サラリスはちょっと戸惑っているようだ。
「・・・プレスリリースってなんなの?」
そう聞いてくる。そんなこと決まっている、説明するまでもないと簡潔に答える。
「え・・?あぁ、報道発表だろ。気にしないでよ?」
「???。・・・は?」
だがよくわかっていないようだ。何かぶつぶつ言っているようだったが、能力をぺらぺらと話すのはよくないと無視しておいた。
「じゃぁ、俺らはそこらへんで待ってようかな。サラリスは他の魔法の試験は受けないの?」
と話題を変える。はぐらかしたのは見え見えだが、サラリスもそれ以上の追及はしてこなかった。少し考えていたが、それも長くはない。
「うーん、私は火以外はこれっていうのがないのよね。水をちょっと出したりか。明かりを灯したりはできるんだけど、これも火だしね」
「ふーん、他は勉強しないの? なんで火なの?」
「え、火は前から使えたから。勉強はしてるんでおおよそはわかるんだけど、今一つなのは相性が悪いのかなぁ。そういうプヨンはどうなのよ?」
「え。俺かぁ?火、水ってなんかありきたりな気がして」
「じゃぁ、さっきの風? どうやってるのよ」
「あれは、こう空気をぎゅっと集めて気圧を上げてから、一方向に吹きださせるんだよ。風船の入口から風入れて、そのあと噴出させるみたいな」
ざっと説明してやったが、おかしな顔をしている。笑うのを我慢するのが大変なくらいだ。
そういえば、火、水も多少できたけど他はどうなのだろう。物質の粘度を変えられるんだから、気体液体三態を変えるのはエネルギー的な辻褄さえあえばできそうだ。電気も雷や魚や鳥が使うくらいだからできるんだろうし、毒を消したりもできるのだろうか。他にどんなのがあるのかと思いを巡らす。
そんな疑問を以前から何度となく考えたことがある。
サラリスはそれを聞いていたが、どうも納得がいかないようだ。
「風が出ているのはわかるけど、相変わらず準備なしでいきなり風がでるし、わけわかんないよ。なんとかしなさいよ」
「なんとかって。ははは」
返しようがない。これを一から話すとなるととても面倒そうで、笑ってごまかすしかなかった。
しばらくするとユコナが笑顔で帰ってきた。どうやらうまくいったようだ。すぐ後ろにいるケルンも無事試験が終了したと言ってくれた。
「おつかれさまでした。では登録証を発行します。ロビーのほうでお待ちください」
それだけ言うとすぐに立ち去って行った。
3人もぞろぞろと受付のほうに戻っていく。
「ユコナ、無事治療できた?指先とかをちょっと治すやつだよね?」
「はい。うまくなおりました。よかったです」
ユコナは聞かれることで再認識できるのか、何度聞いてもうれしそうだった。
受付に戻ると、プヨンは呼び止められた。
「プヨンさーん、登録証を出してください。刻印打つんで」
そう言われ首からはずした登録証を呼び止めた子に渡す。と、横からサラリスがひったくろうとしてくる。慌てて引っ込めた。
「プヨンの登録証みせてよー、どんなの?」
「魔法系の資格は、重要事項だから、見せたらだめらしいよ。秘密でーす。だめでーす」
「けちっ」
別に見せてもいいが、笑いながらちょっと意地悪をする。おかげでサラリスは拗ねてしまった。拗ねたサラリスはちょっとかわいいかったが、特段のフォローはしない。
「まぁ、サラリスも、すぐ自分のものをもらえるから」
登録証を渡して10分もしないうちに、ヒルマがやってきて先ほど渡した登録証を返してくれた。
攻撃系の魔法で風Aがついている。新しくなった登録証を見てにやにやしてしまった。ユコナとサラリスも、登録証を見ながらにやけている。一人だと気持ち悪いとか言われそうだが、今は3人同時、お互いににっこりできるのがいい。
しばらくそう褒めあったところで、頃合いと見たのかヒルマは2人に向き直る。
「サラリスさんとユコナさんは、登録が初めてなので、ちょっと説明させてもらいますね。こちらのほうにきてください」
そう告げると、2人を連れて部屋から出て行った。




