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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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死の呪い使い方 2


 改めてリトとミハイル達を見る。


「ミハイルがな。毒に当てられて思い詰めたところに、ライバル出現だ」


 アデルの説明でおおよそわかった。アデルはこのあとどうなるかもなんとなくわかっているように見えた。

 以前のご宿泊イベントから続いていたようだ。


「わかったわ。そこまで言うなら、熱意を聞くわ。私への思いがあるなら聞くわよ」

「思い? 思いってどうするんですか?」


 思い詰めたようなミハイルが、一瞬キョトンとする。どうしたらいいかわからないようだが、隣の青年は意図を察したようだ。


「リト、俺は初めて見た時、人生最大の衝撃を受けた。その美しさは不死蝶のように永遠に輝き続ける」


 青年が朗々と謳い文句を並べ始めた。容姿から声の美しさ、しかも上手くまとめられている。


 伝説の不死蝶、永遠の美を司る存在に絡めて褒め上げたあと、対になる自分の能力を混ぜる。あらかじめ用意していたのか、美しさは何かという詩だ。


 「……だから俺こそリトに相応しい。俺と付き合ってくれ」


 1分400字。綺麗にまとまった朗読が終わる。長くも短くもない、時間配分も完璧だ。プヨンも自分もここまではできないかもしれない。


 ミハイルには少し可哀想だが、表情は動揺しまくっているのが丸わかりだ。


 プヨンにはこれはちょっとミハイルには厳しいかもと思えるが、ミハイルを信じてリトの反応を待った。


 リトはにっこりと微笑みながら青年に向かって腕を伸ばすと、踊るかのようにゆっくりとステップを踏む。まるで蝶が舞うかのように美しく、思わず引き込まれそうになると、呟きが聞こえてプヨンは我に返った。


「リト技『詩蝶声』」


 そう言うと青年の足元の床がギシギシと軋む。

 

「あなたの想いを重さにすると200kgかな。まだまだ軽すぎるわ」

「お、ぉぉぉ、ぉ」


 声にならない声をあげながら、ゆっくりと歩いていく。足がしびれたときのようなおかしな歩き方だ。いや、リトの視線がずっと追っているところから見ると、リトが押して歩かせているのか。


「おい、通してやれ」

「あ、ああ。わかってる」


 自然と周りにいた人たちは左右に分かれて通路ができる。その中を死体化であるカルカスのように、左右に揺れながらゆっくりと歩いていく。


 抵抗しているのか汗ダラダラだが動きは止まるまではいかない。プヨンは初めて見る状況を理解しようとしていた。


 やがて休憩場所のテーブルを幾つか通り過ぎ、端っこにある壁際のテーブルの前に着いた。


ガバッ


 青年は両手を床についた。


 テーブルで食事をしていた女の子は事態が飲み込めず、食事をやめて青年を見ていた。


 突然青年の声が聞こえだした。一瞬声を出しているのかと思ったが、少し違う方向から声がする。


 「……なんて美しいんだ。お前は俺のもの。俺がお前を食ってやる。美味しそう美味しそう。パッくんちょーー!」


 

 リトが青年の声色を使って発生している。しかも、青年の顔のすぐそばから聞こえてくる徹底ぶりだ。


 発言の中身は先ほどからずいぶんと脚色されているが、抑揚もついてまるで陶酔した詩人か弁士が朗読しているかのように淀みなく声が流れていく。


 2分。最後の盛り上がり部分で、両手を上にあげて青年は叫んだ。


「パクっと食べちゃうぞー」


 違うんだとばかりにかろうじて首だけは横に振るが、青年は床に手をついたまま、女の子を見上げていた。


 女の子は食事を止めて見ていたが、椅子から立ち上がり、おずおずと青年の前を通り過ぎる。よく見ると5歳くらいだろうか。


「うぁーーーん、おとうさーん、食べられるー」


 大泣きしてレスルの奥に駆け込んでいった。



 あたりが喧騒を取り戻し、皆が動き始めた。青年を押さえつけていた力も弱まったのか恥ずかしそうにしながらゆっくりと立ち上がる。


 しかしそう甘くはなかった。ほぼ同時に筋肉隆々の男が飛び出してくる。


「きっさまー、ウチの娘を取って食うだとー。どう言うつもりだ。表へ出ろ!」


「え? いえ。 取って食うんじゃなくて、あの、愛が。食べちゃいたいくらいかわいいと」


「愛だとー。年齢わかっていってるのか。色目使うのはまだ早いわ。死にたいのかー!」


 飛び出してきたのはキレイマスの武芸教官フィジーク、バランスの取れた筋肉自慢の教官だ。


 青年の太ももより太い腕で青年をヒョイとつまみ上げた。もちろんプロテイン魔法などの筋肉強化は一切使っていない、素の力のようだ。

「ち、違うんだ。ひょえーー。ま、待ってくれぃ。リィトォォー」


ギィィィバタン


 2人が出て行って扉が閉まると静寂が訪れた。


 ミハイルは2人を見送ったあと固まっている。逃げも攻めもできないようだ。それを見越して反撃されないとたかをくくったリトが優雅に近づいていく。



「ふん。ダメだな。ミハイル。あんな無防備で近づいてくるんだ。捕まえるなら今だろうに」


 アデルは不肖の弟子を見守りながらもじれったそうにしている。


「今だ……なぜこのタイミングで踏み込まんのか馬鹿者が」


 押しが足りないようで、ぶつぶつ愚痴っている。それどころか、リトの歩みにあわせて後ずさりしている始末。ここは、ちょっと手助けをしてやることにした。


 アデルは不肖の弟子を見守りながらもじれったそうにしている。


「俺の想いは、えっと、とてつもなく重い」

「いいわよーさあ、お測りしますわよ」


 リトに突っ込まれるだけで黙ってしまうミハイル。


 ここは、ちょっと手助けをしてやることにした。


「どわわーー」

「え? え、え、え?」


 ビュン


プヨンは『プッシュ魔法』で後押しした。もちろん押すのはミハイルの背中だ。


 リトに向かって跳ね飛ばした。反射的にリトが手を伸ばし、カウンター気味に反撃したがそれも予測された動きだ。


グキッ、スカッ


 強引にミハイルの頭を動かして避けさせた。少し首の辺りからおかしな音がしたが、回避に成功したミハイルは、そのままリトを押し倒した。



「ぃ、ぃぃぞ」


 アデルは密かに応援を送っている。ミハイルが思い切った勝負に出たと思ったようだ。


 プヨンはそのままミハイルに抑え込みをさせ続けた。焦っているのかジタバタともがくのが精いっぱいで、しっかりと押し付けているため手足がわずかに動くだけだ。


「ま、待って」

「え? 待つの?」


 そう言われてミハイルが少し力を緩めたタイミングで、リトが反撃にでた。


「今よ。あなたの想いを冷ましてあげる。ヒエヒエーラ放出、『氷の微雹』」


 リトは急冷魔法を行使したが、かえってそれはミハイルの想いに火をつけたようだ。


「リト、そんな程度じゃ、俺の心は冷やせないぞ。おかえし、『炎の雄情』」


 男としての熱い情熱をリトにぶつけるミハイル。ここはミハイルの見せ場だ。プヨンもここぞとばかりにミハイルを支援し、さらに重さを加える。


「むぅぅー、あ、あちち、お、重い」

「あ、そこは……」


 リトは何やら呟いて抵抗していたが、やがて、


「ま、参った。参りました。お、重いよー。お胸が潰れちゃうよー」


 リトは降参したようだ。レスル内で周りを囲んでいた10人ほどの商人や使い手から、おぉぉーっといううなりが起こる。


「ふ。まぁ、合格としてやろう。やつは今日から押し倒しのミハイルだ」


 怪しげな通り名を与え、アデルも満足そうに頷いていた。


 ミハイルは何がなんだかわからない顔をしながらだが、リトの手を取り立ち上がらせてやる。リトは悔しそうな顔をしながらも、想いに押しつぶされたこともあり、渋々手を取っていた。


 一段落して解散モードに入る。当初の予定通りなら、このまま自由行動で戻ればいいだけだ。いつものようのランカに一言告げて戻ろうとした。


 ランカは納品に行ったはずだから、訓練所や納品所のある外にいるはずだ。アデルとも別れて外に出た。


 納品所はいつも通りだ。狩りで得た肉の解体、いろいろな材料や武器、薬の納品、それらを目当ての仲買人、運搬人などで混雑していた。


 ものがいたまないように冷気魔法を使っているものもおり、時折ひんやりした空気が流れてくる。


 そう思っていると、ランカが走り寄ってきた。


「プ、プヨンさん。探しました。ありがとうございます。ランカの試験を手伝ってくださるそうで……」


「え? 試験? 試験ってなんの?」


 突然のランカの発言にプヨンは戸惑う。基本的に試験などというものは苦手だ。しかも抜き打ちテストなどもっとも嫌いだ。


 プヨンが戸惑っている間も、ランカは目をうるうるさせている。


「わ、わかった。とりあえず、頭をあげて」


「あ、ありがとうございます。プヨンさんは手伝ってもらうだけですので」


 そうだ。手伝うだけなら、自分が緊張することはない。ほっと安心しなおして、ランカの頼みを聞くことにした。



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