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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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選抜の仕方 2

一部前話と重複していたところがありましたので、修正しました。



 あっという間に決着はついたようだ。ヘリオンの叫びが第二ラウンドの開始を告げる。戦いは新たな局面、いや今まさに本当の戦いが始まったと言えた。それをプヨンはのんびりと眺めていた。


「よし、みんな、今から正々堂々戦うぞ!」「おぉぉーー!」



「すごいな。みんな熱いなぁ。この暑いのによくがんばるなぁ」


「プヨンはいいの?」


「え? うん、まぁ、ヘリオンがやりたがるから、させとけば?」


 フィナツーに言われるが、プヨンは見学に徹する。誰もプヨンを参加者と思っていないのか、ガーンが倒れたあとは銘々手近なものに向かい、こちらには寄ってこなかった。


 ヘリオンも距離をとりつつ得意の威圧魔法を使い、タイミングを見て上空へうまく避難した。上空から無差別火炎弾を撃ちまくっている。


 もちろん下方の兵士たちも黙ってやられてはいない。


「アハアハ!」「アハアハ!」



 アハアハは高射系迎撃魔法『フラック』の代表格だ。数人が団結して大量の『岩石投げ』をしていたが、なかなか高度30mで命中させるものはいない。


「くくく、この距離で当たるわけないだろう」


 時折小さい氷を落としたり、上空に上がってきた石の軌道を変え、そのままお返し攻撃をする。ヘリオンの動きからも、今頃余裕の笑みを浮かべていることが想像できた。


「あ、おしい」「もうちょっと右だろ」


 プヨンはいつも負けそうな方の味方だが、なかなか当たらない兵士たちの弾岩攻撃が続く。応援して少し手を出そうとしたタイミングで、地上の兵士たちは2人でペアを組みだした。


 射出兵と迎撃兵のペア攻撃だ。組んだ者同士である程度の高度まで人を投げ上げ、滑空飛行できるものを数人打ち上げると、すぐに空中戦が始まった。


「あ、地上で2人大破。上空でも1人撃墜された」


 運と実力の積が小さい者から順にやられていく。身内同士だからゆえに遠慮がないのか。上空兵を投げ上げたあとは下は下で戦っている。


 その後も、地上、空中と乱戦が続いていた。こんな状態で今更参戦するのは愚行だ。プヨンは戦いの場から少し離れ、直接の戦闘には参加せず撃墜された兵士の救助のみに専念していた。


「ねぇ、プヨン護衛料っていくらくらい出るのかな?」


「さぁなぁ。知れてるんじゃないか? もっとも身の危険があるらしいから、それなりに出るのかなぁ。まあ、俺は救助役と思われてるみたいだしな。護衛はしたい奴がしたらいいよ」


 フィナツーの検討はずれの質問に一瞬いくらなのかと思ったが、逃亡の身のワサビからそもそもそんな金が出るのか怪しい。出世払いな気がする。ヘリオンの無償護衛のほうが気楽だろう。


 その後も直接の戦闘には参加せず、フィナツーと連携して墜落してくるものの受け止めと、地上で討ち果たされた者たちにかけつけては応急救助魔法『レス9』を施す。


「あ、プヨン。また墜落よ」「あー、彼はひどい一撃を受けたわね」


 フィナツーの実況があるたびにプヨンは走り回っていた。



 やがて地上兵はあらかた倒され、動かなくなった。ワサビの警護がそんなにいいのかはわからないが、体力が尽きる限界まで争っているようだ。抵抗力が落ちているから治療も楽に進む。


 ヘリオンはまだなんとか飛び回っていた。やはり上空からの攻撃はかなり得意なようだ。


「ぐぅーー、あいつを落としてやる。ワサビ様は渡さん」


かろうじて残った3人も疲労のせいで飛行状態を維持できなくなり、地面に降り立っていた。


 もう投げ上げることも浮かぶことすらできない状態だ。みんな最後の気力を振り絞り、緩慢な動きながら組み合っている。


迎撃火球も飛んでいるが拳大程度のしょぼいのがゆっくり飛ぶだけで、当たる頃には豆粒程度の大きさまで落ちている。


「ヘリオン、そろそろ危険だぞ。降りて来いよ」


「黙れ。お前も敵か? くらえ! ヘリオンきゅーきょーく……」


 何かセリフを言おうとしたが、もう頭が回っていないようだ。そろそろ潮時かもしれない。

 

「お、俺が最後の1人だー」


「絶対譲らんぞ」


 皆がそれぞれの思いを叫び合うと、残った力を振り絞って最後の攻撃に出ようとした。



 「モノオキシドジヒドロゲン」


 空気中の水分を分解し、水素と酸素をまわりに漂わせてあげた。


 ボ、ボボヒュン


 プヨンの手助けのかいもあり、それぞれが手の先に出した火球を中心にほどよい火力の爆発が起こる。タイミングがよかったのか全員吹き飛ぶ。ヘリオンも体力の限界を迎えていたのか、プヨンが受け止めるとそのまま快眠モードに入っていった。




 ようやく終わったとプヨンは背中の棍をおろし草原の中央に立ち、フィナツーが生存確認するのを眺めていた。まったりと全員が腹を出して上下させているところをみると、みな無事なようだ。空もいつのまにか晴れつつあった。


 プヨンは時間もあるので暇つぶしに砂を取り出した。ガンオー直送の高純度の石英を含んだ硅砂だ。


 たまの暇つぶしを兼ねて、2000℃程度まで熱して一旦溶かし、ガラス瓶を作っていく。


「あぁーそれいいね。溶けていくのきれい。ぷっと膨らませて丸くしてよ」


「いいけど、熱いから気をつけろよ」


 フィナツーはガラス玉に空気を入れて中を空洞にして膨らませるのがお気に入りのようだ。


 熱するのは簡単だが一定温度にするのが難しいだけだ。うまくガラス玉を作ると、もちろん最大限の威力で熱を奪い急冷する。

 

 あまり複雑な形状はできないがコップや瓶くらいは強化ガラスで作ることができた。


 

 フィナツーはいつの間にかサイドカバンの中に入っている。


 すでに40本ほど作っただろうか。10本おきにストレージに収納するが、本日作成が50本を超えた頃、遠くに砂埃が舞うのに気付いた。


 目を凝らしてよく見るとクーシェフが引く馬車が走ってくるのが見える。


 どこか見覚えのあるワゴン。お供がついているが、馬車を走らせているのはどうやらガーンやワサビの取りまとめ役のテラーだ。


 テラーはまっすぐこちらに向かってくる。


 しかもやたらと速い。馬車を軽くしているのか。もしかしたら動物にも筋力強化が使えるのか。そんなことを考えている間にすぐに目の前までやってきた。



 この国境を外れた無国籍地帯にいて、しかも国外側から戻ってくるということは、国境を超えてどこかに行っていたのだろうか。ワサビを放置し過ぎなような気もしたが、テラーは馬車を降りるとすぐに横に回りワゴンの扉を開けた。


 手を取ってサポートされたワサビがすっと降りてくる。


 なるほど。だから護衛が留守にできるのかと納得した。


 

 もう一人続いて降りてきた女性がいる。年齢はメイサと同じくらいだろうか?


 

 プヨンの顔から察したのだろう、ワサビがこちらを向いて一言告げた。テラーも同時に紹介してくれる。


「母のゼナです」「クイーン、ゼナ様だ」



 見るからに効果はわかる。ボンキュッボンタイプ、滋養強壮効果があるに違いなかった。


 ワゴンの出口でゼナは周りを見渡している。威厳があるとも言えるが戸惑ってもいた。


「なぜ、迎えは寝ているのでしょうか?」


 当然の質問だが、さてどう答えたものかと悩みはしたが、取り繕うほどのことでもない。事実だけを淡々と述べた。


 単純に、『ワサビの護衛をかけて勝負した』、『最後まで立っていたものが勝者として次回おでかけ時の護衛ができる』、『ガーンが納得して始めたが、最初にやられたのはガーンだった』、そんなところだ。

 

テラーは渋い顔、ワサビとゼナはガーンならありえるが真っ先にやられるのも彼らしいとしばし笑いをこらえていた。


 そのうちゼナは真面目な顔をして宣言した。


「勝者、プヨン。次週の護衛に任命する。テラー、寝転がってるものを起こしますよ。とりゃ」


「は? 俺は非戦闘民ですが」


「かまいませぬ。そんな条件はなかったのでしょう?」


 確かに最後に立っていたものとなっていたので、細かい条件はない。


 そう言うとゼナは何やら精神統一をしている。プヨンに何かしら効果を与えているようだ。プヨンはわずかではあるが、心なしか気力が湧き上がってくる気がした。

 

 薬瓶のような直接的な回復とは違うが、筋力強化の精神版のようにやる気が出てくる。ふと横を見るとテラーがお肌テカテカになっている。一目見るだけでエネルギーがみなぎり力があふれているのがわかった。


「おぉぉー、ゼナ様。さすがの強壮パワーですな。プヨン殿、疲れが吹っ飛んだでしょう」


 テラーは効果てきめんなのか、元気いっぱいになっている。もっともプヨンにも多少は効果があったが、抵抗力のせいか効果は限定的だった。


「ふ。ならば寝ているものを元気にしてやりましょう。副作用があるので1日1回オトナだけですが」


「ははっ。では、さっそく。どりゃー」


 テラーがゼナから受け取った滋養強壮剤を手に持ち、順番に口に注いでいく。テラーが口に注ぐたびに、声にならない精神の悲鳴が聞こえる。ひどい気つけ薬のようだ。


 「お母様、どうなさいますか?」


 と語らうワサビとゼナを交互に見比べ、2人が家族ということを理解した。プヨンにはなぜかワサビの将来の姿が見えた気がする。

 その姿に恐れを感じ震えてしまったが、2人はプヨンの邪念に気づくことはなかった。




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