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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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転生の仕方 3


 ノビターンはノミの背に乗って湖へ飛行中だった。


 「あと10分。間に合いそうね」


 急いでいるのは、もちろんプヨンと約束していたからだ。


「ノビターン様、魔力が空になったと言っていましたが、結局満タンだったんですか?」

「ま、まぁそうです。勘違いだった……のかもしれません。おかげで次の日には湖に潜れたし、もう一か所も回れましたし。これも私の敬虔な祈りの賜物でしょう」


 普段は本当に敬虔で控えめなのに、今日のノビターンは自画自賛している。ノミでも何かあったのだろうと気付くくらいだ。



 4日前、プヨンと係わった際に氷漬けにされそうになったとき、ノビターンは持っていた魔力電池マリブラの全残量を使い切って脱出したと認識していた。


 だが、体がフラフラになるまで全魔力を使い切ったと思っていたのに、気がついたら残量は復活していた。不思議でしかない。それもまだちょっと残っていたのねというような量ではない。満タンだ。


 使い切りを勘違いだったとは思えないが、事実は事実。そのおかげで助かったのだ。しかもその後はいつも通り使ってもいっこうにエネルギーの放出力、魔圧が落ちていかない。

 


「ねぇ、実はね、ノミ……プヨンという者にはいろいろ聞きたいことがあるの」


「むぅ。わかります。彼女の有無ですね? 極秘情報ですが、私がそれとなく聞いた限りではいないそうですぞ。年齢はノビターン様より数歳は若いと思われますが、年下もいいかもしれませんな。しかし、彼は智将。見た目は年下と思って侮ってはいけませんぞ!」


「あははは……、落ちろ、落ちろ!」


 ノビターンは顔中笑顔になった。


「あつつっ! ノビターン様、照れですか? 1回だけにしてくださいよ」


 顔にまとわりつくガガンボを焼き払うように、ノビターンが指先に出した火球をノミに押し付けたが、墜落を心配して出力を絞りすぎたようだ。


「んんんぅ、なんか負けた気がする」


 ちょっと熱を感じたくらいでノミは平然としている。帰りの心配がなかったらありあまる魔力で魔力電池が空になるまで火あぶりにしてやるのに、そう思いつつノビターンは冗談よと笑顔で応対した。


 ノミが不定期に繰り出す隠しスキル『大ぼけトーク』はタイミングがすべてだ。火遊びは安全なところでやらないと、大惨事を引き起こしてしまう。


 そういう意味ではノミはなかなか危機回避能力が高かった。安全が確保できていないところ、空中では発動は少ない。防御スキルは意外に高レベルで維持されていた。


「ノビターン様、あと5分で着きますぞ」

 

 ノミの絶妙のタイミングの逸らしでノビターンの怒りパワーは大きく減った。うまいと思う。頷きながらノビターンは頭を整理する。



 実際、プヨンとの初対面のときを振り返ると、ノビターンにはノミとプヨンに聞きたいことがいくつもあった。服装などからもプヨンがキレイマスの軍学校の学生なのはすぐにわかる。


 水中まで潜ってついてきたことはノビターンもできることだ。泳ぎが得意な人間ならできても不思議ではない。


 しかし、その後負わせた怪我のあたりからあやしくなり、理解できないところが増える。 



「ノミはまさか、彼と一緒に何かを企んでいる……とか?」


「え? 企むですか? なんのことですか?」


 本当に学生なのか?ノミのいう智将が本当なら、罠にはめられていたりはしないか。

 


 もしかしたら氷や魔力電池マリブラが好調なのも何か噛んでいるように思える。


 そうした不自然な能力のことを踏まえたうえで、最大の関心ごとは自分の悩みの理解者になってくれるかだ。


 付き合いが短い。聞いてみたいが聞きようがないし、仮に聞いても信じられる裏付けが何もない。騙されているとも思えないが、他人には知られずやりたいなと思った。

 



 黙ってしまったノビターンに、ノミが不安そうに確認する。


「ノビターン様、本当に0時から待つつもりなのですか?」


「そうです。不服があるのですか? ちゃんと時間通りに着いて出迎える。誠意です」


 ノビターンはお約束手帳をドタバタでなくしてしまって、待ち合わせ時間がわからない。ノミの指摘にドキリとした。


「そ、そうではありますが、程度ものでは? 時間通りとは何時に約束されたので?」


「何時など気にしなくてもよいのです。待ち人がいつこられてもいいように待つ、それが誠意というものです」

「は?」


 ノミの知る普段のノビターンは冷静で計算高いはずだ。意味のないことはしない。だから無駄に待つなどしたことがない。だが最近計算通りにいかないのかおかしな行動もある。今日は極めつけだ。


「もしや、待ち合わせ時間がわからないとか?」


「違います! 絶対違う! 誠意ですよ!」


 すごい反応速度で返されたノミは少し面食らうが、ここはノミもノビターンも大人の対応を取る。そうですかとノミは流そうとした。


「ノビターン様、誠意、お付き合い……ぷっ」


 しまったという顔のノミ。最後に笑いを我慢できなかった。詰めが甘いノミは、いつもの定め通り結局ノビターンの冷視線と八つ当たりを受けることになった。


 

 ノビターンと軽傷のノミは予定より少し早く待ち合わせ場所に着いた。


 ノビターンは時間通りに着いて気を抜いているが、ここからは敵地だ。戦いが始まる。いつも通りまずは防御陣を張るノミ。悠然と構えるノビターンの信頼は絶大だ。


「カーコレクション、さぁこい」


 バクバクバクッ


 血に飢えた群れが一斉にノビターン目掛けて襲いかかる。全方向からノビターンに襲いかかる蚊の大群。体力回復と防御を合わせたノミの複合スキルが炸裂する。


 無数の敵機をノミは全数喫食する。


「ふーー、いい仕事をした。もう食えんな」


 汗を拭うノミの目は月明かりを受けてキラキラ輝いていた。



 ノミが一息つくとほぼ同時に、


キーン

 

 と甲高い耳鳴り音が数秒間した。


「ノビターン様、0時の音響魔法ですね。時間ぴったりに待つ。お見事ですな。この辺りはすでに虫の子一匹おりませんぞ」

「そうですね。この点に関しては見事です」、


ノビターンの称賛に満足し、ノミの戦い第一陣は完了した。あまり待つと第二弾がくるかもしれないが、とりあえずプヨンを待つことにする。


 一方、ノビターンはノミの活躍はいったんおいて、プヨンと会ったときにどう話を持っていくかを整理する。


 過程はどうあれネックは一度殺めようとしたことだ。単純に頼めば、はいそうですかとはならないのはわかる。


 あの時もノビターンは好意魔法を展開していた。魔法効果を考えればノビターンに敵意を持っていることはなさそうに思う。獲物が自分から食べられるようにじっとしている、一部の蛇などが獲物のネズミなどの行動を封じる意識魔法と似ていた。


「ノミは、もし、一度命がけで戦ったとして、そのあと仲直りできると思いますか?」


 話を突然ふられたノミは少し驚いた。ノビターンがノミに相談してくるというのは滅多にない。背筋がピンとして、気が張る。


「お互いわだかまりや背負うものがある場合の戦いはやむを得ないですな。例えば、決闘。その結果が出たあとは、潔く相手を尊重する。それが礼儀ですな。お互い守るべきもののために戦った。対等な実力同士であれば、そうした敵意が敬意に変わることはまれにありますぞ。そ、そうですな。雨降って地固まるといいますしな。ここは作戦名『濡れ女作戦』で。びしょぬれならぬ美女濡れになって、同じところで雨宿りとかはいかがですか?」


 我ながらいい作戦名だとノミは笑みが零れる。


「そ、そうですか。ノミの涙が降るのですかね。試しますか? なんなら血の涙でも……」


 ぶんぶんと首を横に振るノミは無視する。

 

 もし敵意を持たず、自分の力になってくれたら、自分の悩みも和らぐかもしれない。


 ノビターンの悩み、それは自分の祖父が始めた転生を利用した永遠の統治が本当に正しいのかだ。


 統治が安定するのはいいが、他人の命を奪ってまでそれを進めていいのか、それを尊い犠牲と言う周りの人間を信じていいのか。


 この悩みは誰にも話をしたことがない。もちろんノミなど口が軽すぎて言えない。その転生を拒むにしても、今の自分にはまったく頼る伝手がなかった。



 ガサガサガサッ


 湖岸の大岩の上、2mくらいの高さに座っていた2人に草が揺れる音が聞こえた。2人は音のする方を注目する。きっとプヨンだろう。そう思っていると、ノビターンは急に背中を押された。



「ひゃひゃーー、なになに」

「すきあり」


 そのまま勢いがついたノビターンは、咄嗟に止まることができず岩の上から滑り、地面に向かって落ちる。なんとか浮遊で衝撃は低減したため、足をくじいたりはしなかったが、擦った尻をさすりながら慌てて上を振り返る。


 青年が一人立っていた。顔に記憶がある。プヨンだ。けたけたと笑っているが、わざと背中を押したのだろう。


 音は攪乱のため、石でも投げこんだのだろうか。プヨンは音とは正反対の方向から現れた。


「少し遅れましたが、ほぼ時間通りです。お待たせしました」


 しれっというプヨン。気配に全く気が付かなかったノビターンだが、0時に来てよかったと安堵した。そして待ち時間が最小ですんだことも。



「お、お、お待たせしていません」


 ノビターンはとりあえず言葉を選びつつも、考えていたことを伝える。ノビターンも侵入者に見えるかもしれないが、ここは魔法の力も借りて強引に説明する。管理者として撃退しようとしたことを詫び、その後の怪我を心配していたことを伝える。どうやって戻ったのかも聞いてみたがよく覚えてないとはぐらかされた。


 ノビターンはそれでも冷や汗をかきながら、なんとか過去の経緯について説明を終えた。


「うーん、事情はわかりました。学校の警備要領では、池のまわりは学校管理外で安易に行くなとなってました。行方不明者がいるから注意しろと。危険な場所らしいですね」


 恐る恐るノビターンはプヨンを上目遣いで

見る。恐怖や不信の表情はなく、笑顔に見える。ほっと一息ついた。さらに10秒見つめる。プヨンが気づいて照れたように視線を外したところで確信した。うまく丸め込めたようだ。

 

 問題は次、今後の話だ。安心はしたが、まだ信頼しきれてもいない。いろいろ考えたが最適解はない。切り出せず、モジモジしているとノミが口を開いた。


「プヨン殿、仲直りの印に、手を握りあってもらえませんか? 熱い握手などいかがか」


 ノビターンは照れている。そう判断したノミは2人を手を繋がせてやろうと思いついた。口元がニヤっとしている。笑みを浮かべているのをノビターンは見逃さなかった。


 ノビターンはノミの提案にどうしたものかと悩んでいたが、プヨンも同じようだ。これをきっかけにもしかしたら話がしやすくなるかもしれない。そう思うと、ノビターンは意を決して、手を差し出してみた。女から手を差し伸べられて拒む者はまずいない。


 プヨンが手を握りにきてくれて、ノビターンはほっとした。


 

 握手したはいいがノビターンはふと気になった。ノミが言った熱い握手ってなんだろうと思った。


 そう思ったとき、ノビターンは手のひらに熱を感じた。男の人は体温高いんだったかと、冷え気味の自分と比べてしまう。


 その間も手のひらはどんどん熱くなる。どういうことかと思ったが、ノミの言葉でピンときた。熱いってのは熱意じゃなくて、熱さ勝負をしろってことね。


 ノビターンはノミが気を利かせて、予想外に頭を使ったことに驚いた。恐らくプヨンも同じことを考えて仕掛けてきたのだろう。いきなり爆炎にしないのは、怪我をさせることが目的じゃないからだ。


 今日のノビターンは体調が絶好調だ。おまけに魔力電池マリブラも十分にある。負ける気がしなかった。


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