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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
302/441

置換の仕方 2

7/4-7/7の間、302の内容が303と入れ変わってしまいました。



 落下地点に着いたプヨンとフィナツーが見たものは、思った通り鳥のようだ。


 不用意に近づくとまずいかと一瞬戸惑ったが、どこか見覚えがある気がする。


 プヨンが落下中に消火しつつ落下速度を緩めたので、地面に激突はしていない。


 というかわりと元気そうにもがいている。ただ、火はすでに完全に消えているが、火傷を負っているようだ。



 プヨンは一応見張り中である。侵入者には誰何すいかしろという決まりではあるが、大きな鳥は対象外と判断する。


「ぐぅぅぅ、あっつつぅ」


 言葉が通じるか気にしていると、友好的な意識が直接頭の中で広がった。



「おぉぉ、これはもしやプヨン殿では? 私ですぞ。ほら、以前あったノミです」


 もやもやしていたものがすっきりした。なるほど、どこかで見覚えがあるはずだ。


 とりあえず捕縛や戦闘はしなくてもいいと安心する。火がついていたから皮膚の火傷はしているはずだ。


 いちいち説明しないでさっさと治療してやったが、羽毛部分は難しいようだ。


 皮膚の火傷が治っていくのに気づいて、ノミがおおぉーと呟いている。その間に羽毛を再生させてみたが、連続した皮膚と違い膨大な羽毛を一本一本再生するのは時間がかかる。


 面倒になり100本程度でやめて、あとはそのままにしておいた。


 人の髪の毛もなかなか治療してもらえないのと一緒だ。


 そう思っているとノミは人の姿になった。だからというわけではないが、フィナツーはサイドカバンに入り様子を伺っている。


「おぉぉ、さすが智将殿。回復もなされるとは万能タイプですな」


 ノミは以前も学校北側、旧校舎付近で会っている。親しいというわけではないが、裏がないようで、騙したりするタイプではない気がした。


 フィナツーのような植物が擬態化するように、知能のある動物が擬態化して人のように見せることができるタイプだ。よく覚えている。



 ノミはこうも簡単にプヨンに無事再会できたことがよほど嬉しかったようだ。プヨンの治療速度が最高レベル、競技会なら1位に違いないと褒め続けていた。

  


ガバッ、「えっ、なに?」


 突然ノミが飛びついてきた。慌てて避け、かろうじて抱きつかれることはさけた。


「プヨン殿、聞いてください! 今日はひどいことがあったんです」


 だがそんなことはお構いなしにノミは語りだす。


 ノミが言うには、ノミの身内が闇の勢力に見入られたらしい。


 ノミが意を決して手助けしたが、それをあだで返され、さらにお礼代わりと火をつけられたのだと言う。


 さっきの炎はそれだったのか。火が付いていたのは事実だ。ノミがそんなことでプヨンを騙しても何の得もないはずだが、信じていいものか悩む。


 プヨンは歩哨の時間を気にしつつも、ノミの話をもう少し聞いてやろうと思った。30分後に規定位置に戻ればいい。まだ時間はある。



「プヨン殿、こんなことってありますか?」


「いや、初めて聞いたな。うんうん」


「なぜあんなことをされたのか、納得いきませんな。きっと何かに取り憑かれているに違いない」


 どんなことをされたのか、今一つ要領を得ない説明。しかし、どこまで本気かわからないが、ノミは泣きそうになっていた。


 プヨンとしても何とかしてやりたい気もするが、断片的な説明が続く。順番も何もあったものではなく、登場人物もよくわからない。当たり障りのない返事をするしかなかった。


「まぁ、すんだことだし仕方ないんじゃないかな。その相手にも立場があるだろうし」


「仕方ないですと? 見てください。自慢のしっぽをやかれたのですぞ。きっと邪悪な死霊にでもとりつかれているに違いない。一度天罰をくだしてやりたいくらいだ」


「そうか。遠慮はいらないと思うよ。やるときは全力で」


「おぉ、なんという心強いお言葉。見ておれ、今に目にもの見せてくれる。ふっふっふ」


 たしかに焼かれたのは間違いないだろうが、経緯の説明が感情的過ぎる。顔色だけならノミも十分闇の勢力に見える。深入りするとまずそうだ。励ましてはやりたいがなかなか難しく、適当に打ち切ることにした。



「きっと、たぶん、照れ屋じゃないのかなぁ。あまりに礼を言うのもためらわれると、本心と真逆の行動をとることがあるでしょ。こう、かわいい子に意地悪するみたいな」


「おぉ? おぉぉ」


 はっと気が付くノミ。適当に言った言葉に対し、何やら思い当たるところがあるのか、ノミは何やら考え出した。自問自答している。


「照れ屋。そうだ。きっとそうに違いない。さすが智将殿。一瞬にして真実を見抜くとは。照れ屋とはわたくしでは一生かかってもたどり着けない境地」


 パッと顔が晴れやかになる。ノミの悩みは晴れたようだ。それを見てプヨンも安心した。これで、戻っても気分を害さないだろう。


「なんか思い当たるところがあるんだね。仲いいとそういうこともあるでしょ。ちょっと気晴らしに一回りしてきたらどうかな?自分ももう少ししたら交代時間なので戻らないと」


「お言葉ありがたく受けます。今度照れ屋をやり返してやろうと思います。ではどうせ次の仕事までは間があることだし、ちょっとバトイシュルあたりまで1時間ほど散歩して、一風呂浴びてきます」


「え? バトイシュル?」


 プヨンは予想外のノミの能力発言に驚いた。


 バトイシュルと言えばここから50㎞以上ある、以前メサル達と行った温泉地だ。


 そこまで行って風呂も入って往復1時間で戻ってくるとしたら、相当な速度と航続距離だ。本当ならば、飛ぶのがと言うだけのことはある。


 プヨンが感心してみていると、ノミは姿を変えつつ飛び上がっていく。


「プヨン殿、今度、是非一緒に仕返ししてやりましょう。甘え方を教えてあげねば……だが、そうそう甘えさせてやらない」


 そう言うとノミは治ったばかりの体で飛び上がり、あっという間に夜空に消えた。


 見えなくなった後もプヨンは黙って見上げていた。あの速度なら、確かにノミの言う時間で戻ってこれそうだ。 



 「たしか、さっきのノミは1時間後に戻ってくると言っていたな」


 今日のプヨンの歩哨は墓場シフトの午前2-4時、もう少し寝れなくはないが起きているほうが楽だったりする。

 歩哨も終わり、朝までの暇つぶしにはもってこいだ。1時間後にきてもいいかなと思った。



 プヨンは再び見回りをはじめた。歩き出すとすぐに湖岸に出た。


 ノミを見送って一息つく暇もなくプヨンはもう一つの反応に気づいた。フィナツーがカバンから飛び出してくる。


「プヨン、あっちから熱を感じるよ。なんか燃えてるんじゃない?」


「おぉ、俺も気が付いた。あれだろ。でもそこまで熱くない。燃えてるようには見えないが」


 フィナツーに言われるのと同時に気付く。湖水を跨いだ向こう岸に熱源がある。


 ここから1kmくらいあるだろうか。ずいぶん離れているが、闇夜のランプのようなものだ。


 湖岸沿いの波打ち際にいると遮るものもなく、夏の夜の冷気に対してかなり高い温度ではっきりと区別できた。


 一瞬何かの動物かと思ったが体温にしては高すぎる温度だ。炎というほど高くもないがボヤかもしれない。


 湖岸の砂浜で燃え広がりはしないだろう。歩哨中でなければそのまま放置したかも知れないが、今回は役目を果たしてポイントを稼ぐべきと判断した。


 まずは温度は下げておくため、波打ち際に立って消火活動をする。鎮火させたら後で報告だ。


「マグロノミ」


 前方の湖面を押し上げ手頃な津波を発生させる。5mくらいの大波を1つ起こしておけば周りの影響も少なく即座に火は消せるだろう。このあたりは生き物もほとんどいないから被害も最小限だ。


 暗い湖面が盛り上がり、熱源に向かって覆いかぶさっていくのが見えた。


 ザザザっという波の音も聞こえる。と思ったら、プヨンに向かっても水しぶきがとんできた。


「な、なんでだ。 こっちにも水がくる。うわっぷぷぷ」

「うひぃぃーー」

 

 フィナツーが叫んでいるが、プヨンにもホースの水のような細く勢いのある水が飛んできた。


「つ、つめた、ぃ。こ、凍っていくじゃないか」


 自分への水はまったく予測していなかったため、驚きもあり完全に出遅れてしまう。降りかかった水は勢いを増し、プヨンを濡らしながら凍らせていく。

 

 慌てて溶かそうとしていくが、あらかじめ準備していたのか相手が水を浴びせて凍らせる速度が速く、プヨンが氷を融かす速度は追いつけない。


「プヨン、これってまずくない?」


 フィナツーが叫んでいるが、プヨンは足元から凍りはじめ、徐々に大きくなる氷の中に閉じ込められてしまった。

 

 とりあえず自分の周り1m程度は凍らないように液体の水を維持する。


 呼吸もなんとかなるが、氷は5mあるいはもっと大きいかもしれない。


 熱量にしたら相当なものだ。しかもまだびしゃびしゃと水音がするところを見るとうかつに動くわけにもいかない。


「俺たちの周り、どのくらいの大きさの氷だと思う?いったん様子を見るか」

「わかんないわよ。どうするの?」


 相手の氷を溶融させてもいいが、相殺しあいになると相手の魔力が尽きるまで相手にすることになる。


 最悪力尽きると出れなくなる可能性もある。氷に押しつぶされることはないようだからしばらく様子を見ることにした。


 フィナツーの思念が届くが、まだ水音は止まらない。このままでは巨大な氷塊の中に閉じ込められてしまう。


 予想以上の魔力量、すでに相当な氷になっているはずで、だんだんと心配になってきた。

 

「くっ、さっきの温度は火事かと思ったが、これは魔法なのか? なぜか知らないがやられっぱなしも癪に障る。相手も同じ目にあわせてやるべきかな」

「余力があるの?」


 ここの湖は不思議と純水が湧き出るため中に何も含んでおらず生き物も少ない。多少派手にやっても生き物への影響は極めて少ない。


「くっくっく。方向はだいたいこっちで距離もたぶんこんなもんだな、くらえ『アイスバーグ』」


 おおよその方角と距離を定め、湖水を凍らせて氷山化する。むかついていたこともあっていつもより怒りの炎が湧き上がったが氷塊魔法なら影響は少ないはずだ。


 ガーン 


 プヨンが発動するのと同時に突然何か音がした。ミシミシと氷がきしむ音がする。しまった。制御がずれてしまったかもしれない。


 ビシィィィー


 プヨンの氷山化魔法はうまく発動したのかよくわからない。何か亀裂の入る音がしただけで、静かになってしまった。


「水音が止んだわね……」

「あぁ、そうだな。相手はどうしたかわからないが、とりあえず出るか。『ケルンシュメルツ』


 氷山内部を融かして水にし、氷穴を掘る。プヨンを囲っている氷は思ったより厚かった。念のため慎重に溶かしながら10m歩く。時間にして5秒ほどだが、


バキバキッ、ザバーーン


 「うわっぷぷぷ」


 貫通し、内部で溶けていた水が一気に外に溢れ出る。背中に重量棍を構えてはいたが、プヨンは水と一緒に押し流されて地面を転がり出てしまった。



 「な、なんか、ちょっと外寒くない?」


 フィナツーがつぶやいてくる。たしかに氷水の中から出てきたのだから寒くて当たり前だ。手っ取り早く体の表面のまわりをごく低温火球で包み温める。低温といっても50℃くらいはあるだろう。


「あったまったかな? じゃぁ、時間に間に合うように一度戻ろうか」


「うん。あったかくなった。水は根から吸収しとくから大丈夫」


 そういうとプヨンは間に合うように急いで歩哨の待機場所に戻っていった。

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