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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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置換の仕方

 ノビターンはノミの背中に乗って移動中だ。いつもの聖地巡礼、精神を繋ぎ止める接着剤グルーオンの回収作業だ。


 これはプヨン達の学校のそばにある湖の底あたりでゆっくりとしみだしている。


 こうした場所は何か所かあり、頃合いを見て汲み出すだけだが、今回は山の北側にも寄らねばならない。その場所はちょうど高山地帯を挟んで対称の位置にあった。


 

 山の北側に着く。こちら湖の中央部から地中に向かって洞穴があいていた。湖に入る前にノビターンはいつものようにノミに告げた。


「ノミ、少し待っていてください。すぐ戻りますから」

「はい、ノビターン様、栄養補給のためドラゴンフライでも食ってます」


 そう言うと大型燕モードのノミは大空に舞い上がり、おやつモードに入ると、無数に飛び交うトンボの群れに向かっていった。



 ノビターンは急ぎ準備を整える。


 こちらも学校側と同じように円状の湖になっている。違いがあるとしたら中心にある中央丘が湖面状に出ていることくらいか。湖面の絶壁に開いた穴から入るようになっている。


 ここは15年ほど前にできた新採掘場所らしいが、純度が低いようで、精錬に時間がかかる上に出来上がって手に入る量が少ないのがネックだ。


「こちらはいちいち潜らなくていいから楽でいいわ」


 短時間ならノビターンもゆっくりではあるがある程度の浮遊ができる。岩壁に沿って横穴から入ると、あとはひたすら縦穴を深く降りていけばよかった。



 やがて底にある小屋につく。密室での火球は危険だ。腰に付けた魔力電池を使い、ニードネン直伝の雷撃魔法を応用した明かりを灯す。


 明るくなった室内にはノビターンにはよくわからない設備があり、中央の台座に劣化しないよう水上置換で半自動で集められた接着剤があった


「あれーこれだけなのか。なんか集まりが悪いわね。置換法が悪いのかしら?」


 普段より少なく、普段の3割減だ。水に溶けたわけではないだろうが、抽出がうまくいかなかったのだろうか。


 ひとしきり独り言を呟いたが、そんなことで量が増えるはずもない。新しい瓶に入れ替え、来月に向けて準備をすると小屋を後にした。




「ノビターン様遅かったですな。もう満腹です」

「おそくなりました。もうあと少しってところだったので」


 半時ほどか。さして長い時間はかかっていなかったが、ノミは十分な休息をとっていたようだ。


ノビターンが湖の中央丘に戻った時、ノミはすっかり腹が膨れ上がっていた。ところどころ火傷しているのは、おそらくドラゴンフライにやられたのだろう。いつものことだ。


 たしかにあともう一滴、接着剤が滴り落ちるのを待ったため、少し時間が経ってしまったようだ。慰労も兼ねてノビターン自ら、治せる範囲でノミの表皮部分を治療した。



 それが終わると再びノミの背に乗る。ここからは高山越えだ。ノミは風防ワロスを手に取ると、ノビターンを含めて覆いをかけた。




 ノミが飛び上がって少し経つが何も起こらず、今日も順調だ。


 風防をしても気温は下がり空気は薄くなる。ノミは慣れっこだが、ノビターンは自分で火球を応用した暖房と空気の濃縮調節をし続けていた。


 ノビターンの様子をみながら高度を調節していたノミは、少し様子がおかしいことに気づいた。


「液体が……。温度管理が悪いのかしら?」


 そんな呟きをしている。


「温度管理とは? 寒いですか? 高度を下げましょうか?」


「いえ。そうじゃないの。ここに立ち寄った目的の採取がね。置換方法が問題があるのかしらね。……とあなたに言っても仕方がないんですけど」


「ち、ちかん? ちかんの方法ですか?」


「そうよ? いつもの感じとなんか違ったの。なんのことかわかってるの?」


「そうですな。一応、種族は違えど興味はありますからな。上か下か、それが問題ですな」


 えっと小さく声を上げ、ノビターンは顔を上げた。


 ノミの首筋しか見えないが予想外の答えに驚く。たしかに上下があるが、まさかと思う。ノミが理解できている知識レベルを超えていると思ったからだ。



 接着剤の精製方法は極秘事項であり、ノビターンでも詳しく知らない、いや理解できない部分が多かった。


今は意思気体を水上置換で集め、それを高圧環境で液体化することにより接着剤になる。


「上と下だけですか?」


 ノミの知識を信じられないノビターンは念のためもう一度聞いてみる。それを受け、ノミは少し複雑な表情をした。答えることを躊躇っている。


 下は前と後ろがある。それをそれとなく聞いてみたのだ。


「3つと言うべきかとおもいますな」


「ま、まぁ」


 ノビターンは理解した。ノミは意外にも知識があるのだ。予想外だが、1人で考えが行き詰っていたため誰でもいいから意見を聞いてみたくなっていた。


「ノミに相談するのもどうかと思っていましたが、置換方法で悩んでいたのです。思っていたものと少し違っていたのです」


「な、何ですと? 痴漢方法で悩まれていたのですか?」


「そうです。成果が不十分で何か改善がないかと悩んでいたのです」


 むむむッと今度はノミが唸る番だった。


 まさかノビターンがそんなことで悩んでいたとは。しばし悩み無言になるノミ。


 しかしノビターンは清楚な淑女で通っている。周りの者もどこか距離を置いている。ノビターンが無尽蔵に放出するキョリオケーラを受けるとなかなか距離を縮めることができない。すると噂に聞くように欲求不満なのか。


 ノミは心を決めた。


「では、同時の3点痴漢はいかがでしょうか?」


「え? それは一体どういうもの?」


「むぅ。難しいですな。口頭での説明となるとここではなかなか。体験いただくとすぐになんとかできるのですが」


 ノミの説明は理にかなっている。方法や効果の説明をいくら口でされてもなかなか理解できるものではない。


「たしかにここでは難しいですね。でも実験はできるのですか? 是非経験してみたい」


「え? 本当によろしいのですか?」


 ノミは少し遠くを見る。長い時間ではない。ためらいを払拭するため、精神を統一した。


 もう山越えは終わり前方に目的地のキレイマスの湖が見えている。あと数㎞だ。


 ノミは飛行中にもかかわらずノビターンの目を見た。期待でキラキラと輝いている。これは重症だ。ノミの迷いは吹っ飛んだ。


「わかりました。もうすぐ着きますので、急いで説明しながらの実体験になりますぞ!」


 そう言うとノミは尾羽を曲げる。それをノビターンの正面、胸のあたりに持っていった。


「第一は胸です」


 羽で胸をサワサワとゆっくりと回すように撫でる。


「え?」


 ノビターンはノミの予想外の行動に動きが止まる。


「2つ目はお尻」


「こ、これは?」


サワサワ


「そして3つ目は前です!」


ノビターンは自分をゆっくり撫で回す尾羽に面食らい、完全に動きを封じられていた。まったく意味がわからない。かろうじて言葉を絞り出す。


「こ、これはどういうこと?」


「もちろん、痴漢方法ですぞ。ではいきますぞ。3つ同時の3点責め!」


 ボッ


 激しい音がして火がついた。


 ノビターンは理解した。突沸だ。一気に怒りのゲージが跳ね上がり、溢れ出た怒りの意識が最も強く出るのは炎の形を取る。


「ひぃまぁつぅりぃ、汝、焼き鳥になれぃ!」


「へ? ノビターン様、正気を保ってください。ぅうっきゃー、あっちちち」


「1番悪いのはここですね、やぁー!」


 それだけ言うと、先ほどの数倍の火球を放ち、ノビターンはノミから飛び降りた。


「ノ、ノビターン様、帰りはどうするのですかあぁぁぁぁ?」

「うっ」 


 そのまま墜落モードに入り遠ざかるノミの声。怒りにまかせて火をつけてしまったが、帰りのことをノビターンは考えていなかった。


「ぐぅぅぅ、ノミめ。何度も罪を重ねるものは重罪!」


 そう言いながらノビターンは降下速度を落とす。落火惨モードで赤い光を放ちながら墜落していくノミを睨みつけつつ、ノビターンは着地体勢に入った。






 その頃、今日もプヨンは夜間の歩哨をしていた。例のごとく学校すぐ北側の旧校舎の森を探索中だ。真夜中で星明りのみ、暗い空だったが、ぽっと明るい光が現れた。


「なんだ、あれ。フィナツー何かな? 流星?」

「え? ほんとだ。急いで願いを言わないと。あうぅ」

「しかし、流星にしたら近くに見えるし遅いよな」


 フィナツーは何かぶつぶつ言っているが、光は赤く輝きながら徐々に大きくなる。どうやらこちらに向かっているようだ。一瞬何か黒い影が分離して地面に向かって落ちるのが見えた。


 プヨンは何事かを調べるため、落下方向に向かって走り出すが、すぐに空中に浮かび上がり最短距離で移動した。今は明るいから見つけやすい間に近づかねばならない。


「ねー、後ろに煙が出てない? なんか動いているように見えるよ」


 フィナツーは熱を感知しているのだろうか。たしかに目を凝らしてよく見ると、大きな鳥のように見えた。しかも、時折羽ばたいている。


「何か生き物のようにも見えるけどなぁ。緊急消火!『ヴァッサーバリエール』」

 

 咄嗟に炭酸ガスで消火しようと思ったが、生き物だとまずいと気付く。


 森に落ちて木々に燃え移るとやっかいだ。延焼防止のためプヨンは落ちてくる火球に対して消火を試み、周りに水壁を作って一気にあびせかけた。直線距離で300m程度は離れているが、プヨンならこの程度は効果範囲内だ。


「さすが。一発で消えたわね。いこいこー」

「まぁな。火を消すのは得意だ」


 一般的には50mも届けば上出来だが、フィナツーは意志による魔法の効果範囲についてはあまり驚かないため助かる。ついでにサラリスに鍛えられてるからなどもフィナツー相手なら言える。


 プヨンとフィナツーは落下予測地点に向かった。

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