系譜の調べ方 2
ガーン、ゴーン
ユコナとエクレアという変わった組み合わせだが、話をしたいという2人に身構えてしまう。そんなプヨンに一定の間隔で鐘の音が聞こえ始めた。
「サラリス、お互い生き延びたらまた会おう」
どうやらサラリスは逃げ切れなかったようだ。
サラリスの日ごろの行いを察したプヨンは屋上から鐘楼内の反省室を見下ろす。今頃、中で耳を押さえて耐えているであろうサラリスに激励の言葉を送った。
2時間後くらいには耳がおかしくなったサラリスの鼓膜をなおしてやろう。それくらいはしてやってもいいかなと思う。
サラリスのことはしばし頭から追い出し、あらためて目の前に意識を切り替える。
「で、大事な話ってなんだっけ?」
エクレアとユコナはなんとなくソワソワしているのがわかる。躊躇っているようにも見えたが、なにか早く言いたいことがありそうだ。
「そんな深刻な話なのか? ここで会ったのは偶然じゃない?」
「2人で人気のないとこに行こうってここにきたんだけど、プヨンもくるなら必然かもね」
そう言いながら、ユコナは空中に一枚の紙を取り出した。
「おっ!?」
「ふふふ、見た」
ストレージ、空間収納だ。少しいびつな動きだったが、ユコナもできるようになったのか。意志の力で4次元的に空間の奥行きに物を入れる、それなりに使える便利魔法だ。
エクレアの目の前にもかかわらず、ユコナは褒めて欲しそうだ。ここは乗ることにした。
ストレージ系はサラリスが得意だったが、真っ先に思ったことを口にする。
「おぉぉおーーストレージか? やるじゃないか。どのくらい入るようになったんだ?」
しばし沈黙が訪れる。
「え? ダメなのか」
あっという間にユコナの笑顔が消えていた。まずかったのか。勘違いされたかともう一度聞いてみた。
「何が入るようにな……」
「これよ。この紙が全部よ!」
しまった。まだ量は聞いてはいけなかったのだ。とてつもない冷気だ。エクレアが急速に冷える雰囲気に驚いている。ここは一気に巻き返すべく、賭けに出た。
「ごめん、なんとなく……ぷ」
意図せず、思わず心に吹き上がる何かのせいで笑いが生じ、さらに押し殺そうとして舌を噛んだ。ユコナ導火線に着火したことは直感でわかった。
「わ、私の努力をバカにするなー!」
ピシャ、ドーン
「この雷攻撃を身につけるときより、ストレージの方が苦労したのよ!」
乙女の気持ちを踏みにじった罪を償わせるべく、ユコナの全体重より重い一撃が襲い掛かる。
もちろんユコナが落雷を発動させることはわかっていた。
体の表面に水魔法で発生させた純水で絶縁層を作り防御の準備をしておいた。もちろん汗などが混じらないように純水を維持する。そしてプヨンが普段から発生させていた磁界で雷を曲げつつギリギリ足元の屋根に落とす。
バシバシッ、バキッ
屋根が衝撃で砕ける音をかき消すため、同時に予定していた悲鳴を出した。
「うわーー」
「あ、あれっ。避雷神、なんで避けないの?」
バタン
プヨンは倒れこむ。そしてしばらくじっとしていた。
晴天の霹靂だ。それなりの音がしたため、今頃地上からは何人かこちらを見ているはずだから、プヨンは気付かれないように身を隠す。
しかしユコナはここぞとばかり追撃を撃とうとしている。全神経を一点に集めはじめ、プヨンは頭の毛や腕の産毛が逆立ちはじめていた。
電荷がたまる気配、さらに数倍強力なやつを落とそうとしている。
しかし確実に頭上に落ちることがわかっていたら対応は簡単だ。
先ほどと同じように磁界の方向が一定方向になった空間、チャンバーを用意する。大電流を確実に曲げられるよう、プラズマでも封じ込められる超強力なものだ。中に入るとこれはこれで防御しないとタダではすまないかもしれない。
「デンジリョク」
当然、曲げた雷の行先は1つしかない。
バシィィィィ
「ひゃひゃあーーー」
先ほどより大きな落雷が落ち、同時にユコナの悲鳴があがる。自爆したユコナ。当然の結果だ。
ユコナは全力で撃ち込んできたが、プヨンは優しい。ユコナの足元には絶縁層を用意し、大きな抵抗を入れることで、流れる電流が致命傷にならないように制限しておいた。
感電して地面にくずれ落ちるユコナと何があったのかななどという顔をしながら立ち上がるプヨン。
「ぐっ。や、やったわね」
ふーふー荒い息をつきしびれている。ダメージはさして大きくはないようだが、ユコナは乱れた呼吸を整えていた。
「会話の前にはいつものこと。儀式は終わりました。かわいい子にはちょっと意地悪したくなる、そんな感じのお決まりだから気にしないでね」
もちろん、プヨンはユコナを念のためかわいいと言うことで心のサポートも忘れない。
「は、はい。そうなんですね。わかりました」
驚いたエクレアもそう呟くしかなかった。次こそは必ずなどと物騒なことを口にするユコナもいつものことだ。
しびれて動きが鈍くなったユコナを一通りくすぐって動きを回復させたあと、手に持つ紙を奪って確認した。なんだか見覚えがある指輪の絵だ。
「これって?」
「そう。そうです。その指輪の形が何かわかったのです」
もともと赤と青の剣が盾の前で交差している。プヨンが生まれたときに持っていたものらしいが、結局何かよくわからないままだった。
「それは、フレデフォート家の家紋だったものです」
「ふーん、そうなんだ」
「……き、期待していた反応と違います」
「そ、そう言われても」
エクレアはプヨンの無関心っぷりに、えぇっという顔をしている。もう少し驚いてほしかったようだ。
なんとなく家紋とか由来でも示しているんだろうと思っていたが、プヨンとしては特に思い入れがあるわけでもない。幼少期を過ごしたとかならともかく、知ったところでそこに行く気にもならなかった。
「も、もっと、なんか嬉しそうにしなさいよ」
しびれていたユコナが立ち上がって、やってきた。やられたとはいえ、特に根にはもっていないようだ。
「そうは言われてもなぁ。そもそも、どこそれ? こんにちはと言いに行けとでも言うのか?」
「そんなこと言わないけど、もうちょっと感激してよ。この地図でいうとここよ。20年前の古いものだけどね。場所は、帝国の南端。ちょうどこのあたりからしたら、ほら、国境の向かい側よ」
地図の南端はデザートアイランド、通称『お菓子の国』と呼ばれる砂漠地帯、ウェスドナ帝国とプヨン達のいるマルキア王国の間にある無人地帯だ。
ウェスドナ帝国は今回ワサビ達の町の侵攻を影で支援したともっぱらの噂だ。領土拡大とまではいかないが、周辺国には影響力を見せつける野心的な国だ。
そしてユコナが指で指し示す場所には平原があった。
「ふーん、ここが何か関係があるってことなのか? 遠いのかな?」
「距離的には、どうでしょ。高山地帯と砂漠地帯、2つの無人地帯を挟んで向かい合っている感じね。ここからだと500㎞はない感じかな」
直線距離で500㎞といっても土地的に難所でもあり、徒歩なら相当かかるだろう。馬などの動物が早くなるかというと、結局高山地帯や砂漠で足を取られ、かえって手間がかかったりもする。
「ここって有名なの? なぜ気付いたの?」
「決まってるわ! 私の素晴らしい記憶力のおかげよ!」
ユコナが断言する。そしてプヨンはエクレアを見た。エクレアの知識なのだろう。
バチッ
「おぉう」
よそ見したタイミングで、ユコナにデコ雷をくらわされた。
「私のいる領地の前領主がこのフレデフォートの人に戦場で討ち取られたらしいの。討ち取られた領主には跡継ぎもいなくて、うちの先祖が空白になった領地を買えたのよ」
「な、何? じゃぁ、俺とユコナは因縁のある敵ってことか?」
「前よ、前。私とは直接の関係はないわ。そして、もう1つ。この最新の地図を見て」
そう言われて地図を見る。2枚の地図の砂漠部分は同じだが、1つだけ違うところがあった。
「あれ? 町のあったところが湖になってるよ。しかもきれいに丸い、真円の湖。まんなかに島があるのか? なんかあったのかもしれないが、それにしても不思議だな」
「そうでしょ。地図の違いはエクレアが気付いたんだけど、家紋は私よ」
「この湖は15年ほど前に突然でき、中央に島が浮かび上がったと文献にあります。ただ、それ以上の情報は何も出てきませんでした」
これを整理すると、プヨンが受け取った体は、この土地フレデフォートに関わりがあることになる。そしてその土地は15年前プヨンが生まれた頃に湖に変わった。
由来があるのはわかったが、違う疑問が出てくる。といってもそれはすぐには確認できそうもない。
プヨンは感想を伝えつつも、どう反応してよいのかわからなかった。




