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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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歓迎の仕方

 会談当日。早朝からガーンが見回りをしている。追手も侵入者も一度も見ないが念のためだ。表面上は単なる食事会で気楽なものではある。それでも無様なところは見せられない。


 他国でもあり直接襲われることはないだろうが、密偵や暗殺などは十分考えられる。警戒を怠るわけにはいかなかった。



 ここにきて5日。途中ではぐれたり別ルートで町を逃げ出した者達がどこかで噂を聞いたのだろう。あれからぼつぼつ人数が増えている。なんだかんだで50人近くになっている。


「おい、お前ら、対空、対地監視をさぼるなよ。今日は客人をお迎えするからな」

「は、はい、ガーン隊長。ここは空気が澄んでいて見晴らしがいいです。視界300m全方位敵影なし」


 この辺りは住戸はない。周りの目が少ない分入りやすさもある。まずないだろうが万が一大軍で襲われたら太刀打ちできない。少しでも早く察知して逃げる必要もある。偵察目的であれば、擬態などを使うものもいるためわずかな違和感も見逃せない。


 最寄り町のキレイマスは1㎞以上離れているからさすがに見えないが、小山のふもとの高台でもあり監視するには条件のいいところだった。


 

『見つけても迎撃できんよなぁ。届かないし』という呟きがガーンにも届いたようだ。10mほど離れたところにいた兵士が一人、ガーンの前に向かってはじけ飛んだ。すぐ目の前に着地させられる。


 兵士の言っていることは正しい。実際一般兵ではせいぜい飛ばせる火球や石弾は50m。100mの炎投ができるものはこの中で1割、そして届いたとしても致命傷にはならず、近寄らせないよう時間を稼ぐのがせいぜいだろう。


「あほー、なんとかするんだ。できるという信念がなければ飛ぶものも飛ばんわ!何が何でもやるんだよ!」


 声を張り上げるガーンの目にも、皆の気力が回復してきているのがわかった。交代でもゆっくり寝れているのだろう。


「敵機襲来。距離100m。対空班迎撃しろ」「おぉぉ!」


 言われて空を見る。何も知らない大型の鳥、岩鳥がまっすぐに飛んでくるのが見えた。50mを切るとかなりの大きさだ。だが、そこに向かって一斉に火球が放たれる。


「ふむ。昼飯は焼き鳥かな」


 30球以上の火球が放たれ、何発か着弾したようだ。羽が燃えて落ちていく岩鳥を見るガーンの腹が鳴っていた。



 ヘリオンたちは町の広場の隅で準備していた。


「さてと……どうやって行くか、いい案はないかな?」

「え? 行き方? あーわかった。手ぶらじゃね。お土産に美味しいケーキでも持って行くとか?」


パシィ、パシッ。「あ、いたっ」


 ハンズフリーの空気弾でユコナの頬が両側から押しつぶされておかしな顔になった。ヘリオンの方が反応が早く、プヨン弾はカウンターになる。ヘリオンと目が合ったところを見ると同じ感想をもったようだ。


「飛んでいくといっているんだから飛び方だ」


 ヘリオンの苦言に、ユコナは『乙女をはたくなんて』と返しているが、ヘリオンはもちろん『今日は突風が吹くなぁ』などと返していた。



ユコナはしゃんがんでぶつぶつ言い出した。


「あそこのケーキはみんな美味しいって言うのにもう教えてあげない。今度機会があったら持って行くって言ったのに」


 いつの間にかユコナはワサビと食料提供の密約を交わしたらしい。拗ねているがもちろん無視する。


 もっともそうは言いながらもヘリオンは何かしら考えているようだ。反射的にユコナをはたいてしまったヘリオンだが、交渉に当たってどう有利に進めるか考えているようだ。


「む。食料援助か。お土産というのは盲点だったな。さすが……」

「でしょ、でしょー」

「食い気……」


 プヨンのささやかなつぶやきはユコナの無効化スキルでかき消され、勝ち誇るユコナをヘリオンはさらに褒めあげていた。


 嫌味にならないようにこちらが頼りになることを見せつつ、どう信用を勝ち取るか。そして当然支援する自分たちにもメリットがあるように話をもっていきたい。もちろん恩義も感じてもらわねばならない。


「よし。じゃぁ、ここはプヨンに先行して連絡を頼む。俺はユコナに案内してもらい食料支援の準備だ。そのケーキとやらを買ってくれ」

「え? 私が買うの? 何人分かしら。 経費でお願いするわよ」


 そんな予算は組んでいないが30人分ほどいると告げるヘリオンに、『えー』と返すユコナ。しかし言い出した手前、やっぱりやめるとは言えないようで、ぶつぶつ言いながらも2人で繁華街の方に向かって歩き去った。



 ヘリオンとユコナがいなくなったあと、慌てたのは記録官の2人だ。


「わ、私たちは飛行は無理です。すぐに墜落してしまいます」

「そ、そうです。ジャンプが精一杯ですよ。武官ではないので」

「なるほど。ジャンプでもいいのでは? 初速、時速300㎞でジャンプができたら、粘りしだいで1㎞ジャンプいけますよ。ほら空気抵抗ありだから35度くらいかな。この角度で15秒耐えましょう」


 プヨンは弾丸起動の計算をする。空気抵抗はざっくりだが、35度くらいがもっとも遠くまで飛べるはずだ。35度はこのくらいですよと、目標角度も親切に指で示す。


「は? 時速300㎞? 筋力強化の達人でも100㎞も出ませんよ。垂直飛びで10m以上は見たことがないですよ」


「そういえば垂直飛びって見たことないな。一定以上の浮遊魔法があれば、体力の続く限り上昇できるもんな」


 ジャンプと飛行の違いは体勢の制御だ。


 瞬間的に物体を打ち出す射出魔法や筋力強化で地面を蹴って飛び上がるものは、速いがコントロールが難しい。紙飛行機を猛スピードで飛ばしても真っ直ぐ飛ばないのと同じだ。


 真上ならともかく遠くに飛ぼうとすると揚力のバランスが崩れた瞬間、急旋回や最悪地面に急降下することもある。一方で常時バランスを取りながらの飛行は自由が利く半面スピードを出しにくかった。


「じゃぁ、そろそろいきますか?」

「君は人の話を聞いていたのかね? 走って行こう」

「大丈夫ですよ。輸送しますから。じっとしていてください。暴れると落ちますよ」

「な、なに? 自分を入れて3人だぞ? そんなバカな?」


 まぁプヨンも口では飛んでけと言ったが、いくら意志の力でエネルギーを供給してもジャンプではちょっと無理かなとは思っている。もちろん限度を超えた力を加えると、部分的に体が壊れるだけだ。



「じゃぁ、準備ができたらいきますね」

「え? あ、あぁ、私たちは準備はできているが、本当にできるのかね?」


 あらためて見ると2人は荷物らしい荷物を持っていない。物質保管のストレージ技術は、次元の相間を利用する。


 魔法=意志の力で集めたエネルギーを供給し、こちらとあちらをつなぎ続ける限り、空間の位相ずれを起こしたまま物を運ぶことができる。小さい頃に見た機密文書の配達官などもよく使っていた。そうそう切れることはないが、途切れるとごくまれにロストすることもある。


「重要文書の配達官や公文の記録官だと、荷物はあまりもたれないんですね」

「君たちもそうだろ。当然だ。機密文書を目に見える形で運ぶなどありえないよ。もっとも死んだら持っていたものはどこかにあふれることもあるから絶対安全ではないが」


 プヨンもレスルに出入りするようになって、軟棘で実力の見せ合いをしなくても相手を見極めるときは荷物量が目安の1つになることに気付いた。


 レスル内で大荷物を持っているのは新人のすること、それだけで軽く扱われる。戦闘能力や技術力と比例するわけではないが、できるものほど目に見える荷物は少ない。

 

 もっともそれを逆手に取って、自称ベテラン煽りをするかまってちゃん(アデルとか)もけっこういるのだが。


 今回のような日帰りでは、武器などの装備品以外はヘリオンもプヨンも手ぶらだ。ユコナはカバンを持っていたが、これはお気に入りを見せたいかららしい。




「じゃぁ、いきましょうか。僕ひっぱりますので。ふー、今日の限界に挑戦はこれかな」

「え? ひっぱる? 限界に挑戦とは」


 いちいち返答せず、プヨンは意識を集中しだした。


「コンカラー」


 以前よりプヨンの飛行推力があがっている。ゆっくりと力を調節しながら徐々に後ろの2人を浮かび上がらせてみた。


「お、おぉぉ」「す、すごいな」


 たしかにプヨンも初めて意志の力で物に力が加わるのを知った時は驚いた。そういう発想がなかったからだが、魔法で氷や石を投げるのだからできて当然だ。


 街でも過半数は手を使わずにテーブルのコップを取ったり水を汲んだりする。ある程度の魔法、意志の力を発揮できるものなら簡単なことだ。カブリオレなどの資格持ちなら馬車ごと引っ張ったりもできる。


 空を飛ぶには力の向きが横か上かの違い、そして油断すると落ちる罰則がついているだけだった。



「おぉ、ほら、手で風を調節すると角度を変えられますよ」

「ほら、動くな。調子に乗ってると落ちるぞ」


 一人は喜び、もう一人は慣れない高度にびくびくしている。



 物理戦闘時も相手の剣や盾にも程度の差こそあれ、様々な力が加わってくる。


 それを相殺しつつ戦うのだから、物理武器系だからといって魔法に無縁なわけではない。

打ち込んだ剣を空中で横に逸らされ隣の味方にあてたり、防御されそうな盾を横に吹きとばすなんてことも基本中の基本だった。



「私らも短時間なら飛べますが、3人同時とは珍しい」

「慣れてないので、うまく自分でもバランスを取ってください。ただ下には力を入れないでくださいよ。落ちますよ」


 2人の記録官は最初こそ不安そうだったがすでに慣れている。プヨンもいちいち気にせず3体同時で運ぶ。前回はユコナ1人だったが、磁力で引っ張るか、直接、体を引っ張るかは悩むところだ。


 一人で飛び上がるのは自分の位置が感覚でわかるし目でも見える。ただ他人は自分と違って直接の位置情報が感じられない。


『ぎゃー首引っ張っちゃダメ』、これが初めて飛行訓練した時のユコナの絶叫だ。ユコナの頭を引っ張ったときは一種の首吊りになっていた。実験台ユコナやサラリスの反撃による生傷を代償にプヨンは多くの経験を積んでいた。



「気分いいですね。優雅だー」「今日の会談の主題は…」「会談後の会食はなんですかな」


 皆、運動などでも高いところからの着地などは学校で習う。高度100m、人の顔が辛うじてわかる大きさだが、記録官は安心しきったのか雑談が始まっていた。


 牽引2人の3人飛行。プヨンは慎重だ。敵もいなく3人同方向で、高度もほどほど。それでも小走り程度の速さでゆっくり飛ぶ。


 おそらくいくら強化して重いものを持ち上げられたとしても、同時に多数を個別に動かすのはまた別だ。個別に認識して動かせる数はまだ3人は厳しそうだった。



「お、目的の建物が見えてきましたな。あの建物では?」

「あれ、どこにいかれるんですか? 間違ってますよ」

「すいません、ちょっと練習にお付き合いください」

「な、なるほど。ヘリオン殿もすぐは追いついてこないでしょうし、大丈夫です」


 縦に窓が3つ、3階建ての建物が遠目に見えてきたが、プヨンは人数がいる場合の飛行慣れのため、それを横目に少し大回りで迂回するように飛んでいく。


 それでも10分もするとぐるっと回って着陸態勢に入る。30人くらいの人がうろうろ走り回っているのが見える。


「お、おぉぉ、急に前方で整列が始まりましたぞ」

「おぉ、出迎えですかな。良きかな。さぁ、我々も笑顔で参りましょう」


 プヨンは徐々に高度を下げていった。 

 



ピーピー


 ワサビの滞在する建物の屋上で、監視班員が警戒音を鳴らす。特定の高い波長で、訓練している警備兵が意識しないと聞けない音域だ。


「北側から、不審物体接近中」

「今日は訪問者が来られると聞いているがこのタイミングでくるとは」


 キレイマスとはあきらかに異なる方向からの接近、プヨンはその辺りを全く考慮しないで迂回したため、相手からするとありえない方向から接近していた。


「整列しろ。迎撃班準備だ。いそげ」

「目視確認、翼獣類ではなく、人のように見えます。数は3で距離は700mほど。識別紋はありません」

「なんだと、識別紋はなく、北からなんだな? 丸見えでくるとは傲慢なやつらだが、まさか、フリードからの偵察隊か」


 国内の偵察なら自国の識別紋を発しているはずだ。そうでないと不明機として撃墜、捕獲されることもある。

 識別紋がないということは他国の者だ。ワサビたちが逃げ出してきたフリード、そこを襲った者達の偵察と考えられた。


「むぅ。飛行ができる偵察員で識別紋がないということはこの国の者ではない。俺たちを探しているのか?」

「しかし、フリードからはありえないです。距離がありすぎますよ」

「あぁ、普通は飛ぶことに特化しても20分程度だ。山岳地帯を抜けてからだろう」

「どうしますか? 他国での戦闘行為はまずいかもしれませんが」


 迎撃班長は部下の指摘に考える。自国ならともかく、他国で許可なく発砲はまずい。しかし偵察で見つかるのもまずい。すでにフリードの識別紋が探知されているかもしれず、できれば捕獲したい。うまくいけば匿ってくれている支援者への土産になるかもしれない。


「よし、祝砲だ。祝砲をあげよう」

「は? 祝砲ですか?」

「そうだ。本日は来賓があるだろう。祝砲だ。おい、お前。ガーン殿に報告にいけ」

「えぇ? 祝砲? それでどうするのですか?」

「もちろん、最初は威嚇のため空砲だ。祝砲にぴったりだ。そして、近づいてきたら実弾を混ぜていけばいい」

「む、言い訳にしても無理っすよ?」

「うるさい、だまれ。全員迎撃態勢で整列」


 全員に指示が出る。7人3列、近場にいた兵員が一列に並んだ。

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