レスル登録の仕方3
プヨンは11歳になり、体型も足の長さ以外はずいぶん大人に近づいていた。
魔法がそれなりに使えると素の状態でも肉体がある程度強化されるようで、全く魔法が使えないものに比べ、筋力、体力が高い者が多い。
そのためか魔法系だからという理由だけで戦いに向かないということはあまり聞かない。金属製の武器防具を上手に使ったり、平衡感覚の把握などが苦手なだけで、弓矢の代わりに魔法を使うという程度の違いに思われた。
年と共に自己責任と自由を得ると同時に、同年齢以上の者は町の教育所などでいろいろ学ぶ機会も増えていく。教育所は毎日開かれており、子供だけでなく大人でも興味があるものが集まる学び場になっている。
授業内容も様々で、字や計算の仕方などの一般生活のものから、法律や社会情勢、料理、建築など色々あり、講師は町の在住者や知見のあるものが交代で担当していた。
まぁ、そこまで専門的なものではなく、あくまで一般的な雑学知識レベルが大半だが、宗教的なものだと本職の聖職者が担当したり、兵士上がりが武器の使い方や簡単な護身術、狩人による罠の仕掛け方や見分け方など実戦的でマニアックなものもあった。
もちろん講師にもメリットがあり、多少の報酬と名誉欲が満たされ、一定期間務めると資格となっている。
昨日もドリスがダンスの授業に行ってきたらしく、女の子と踊ってきたと言っていた。
「ためしに、今度、一回いってみるか」
部屋の中で椅子にすわって天井を見ながらぼけっとしていると、背後から声がかけられた。
「こちらにおられたのですか?プヨン様」
突然声がかかったので、反射的に振り返って相手を確認した。もちろん、自分に気づかれず背後を取るやつはたくさんいる。
「お……」
とっさに名前がでてこず、なんと返事したらいいかわからず、しばし見つめあう。
「ユコナです。ご無沙汰ですね」
何かを察したのか、ユコナが名前を言ってくれた。人の心を読めるとはなかなかやる。
「うん、ひさしぶりだねー……。もちろん、覚えてるよ」
名前がわかり助かったと思ったためか、余計な言葉をつけてしまい、かえって嘘くさい。
「きょ、今日はどうしたの?何か用事があったとか?」
にこやかな笑顔を振りまき、愛想よくユコナに聞いたところ、
「プヨン様のことがずっと忘れられず……つい、会いにきてしまいました」
追い打ちをかけられた。もちろん……、目は笑っていないように……しか見えない。
「お、俺も、ユコナのことが忘れられなかったんだ。……ほんとだよ」
平常心でうそが付けない。慌てたせいか、さらに最後に余計なことを言ってしまった。減点2だ。
「どちらかに行こうとされていたのですか? お忙しかったですか?」
「あ、あぁ、ユコナが忘れられないという割には、なかなか会いに来てくれないから、こっちからユコナに会いに行こうとしていたとこだよ……」
そう返してみた。いい言い回しだ。ユコナ側にも非があるように解釈してくれると助かる。すると『えっ……』という声が返ってきた。どうやら意表を突かれたようだった。
クククと心の中で笑う。どうやら予想外だったようだ。戦いはまだ始まったばかりなのだ。
「同じタイミングで、会いたいと考えているとは気が合うよね」
「そ、そうですね」
「じゃぁ、再会を祝してぎゅーってする?」
一瞬意味がわからず考えたユコナであったがすぐに顔を赤らめる。ここが判断の難しいところだ。この赤みが照れか怒りか、素早く見極め次の行動に移らねばならない。
「えっ……、そ、それは……、また、あらためてお願いします」
まぁ当然の反応が返ってきた。これは照れ、ここは強く攻める。
「会いたくてきたのに今度なんだ? いいけどー」
「うぅぅ……」
よし攻守交替、五分に戻した。なんとか引き分けに持ち込めそうだ。ユコナの視線を受け止め、にっこり笑って余裕を見せることに成功した。
とりあえずの挨拶にこれ以上の攻守は不毛、ユコナは本題にうつることにしたようだ。
「実は私、回復魔法に以前から興味がありまして、しばらくこちらのほうに伺って勉強させていただくことになりました。サラリスも時々くるそうですのでご挨拶をと」
聞くと以前からこの町にあるサラリスの別宅に身内の療養できていたことがあったが、今回は魔法の勉強の一環で滞在することにしたそうだ。
「プヨン様……」
「プヨンでいいよ。呼び捨てがいいかな……」
「では、プ、プヨン……さん。プヨンさんも回復魔法は使えるのですか?」
「えーとね、ここで治療ってのはやらせてもらってないし、メイサも知らないんだけど、一応以前レスルに行ったときに回復の試験を受けたことはあるよ。実際自分の怪我くらいは治せるし」
もちろんどこまでできるか何が治るかは個性差はあるが、自分の治療自体は誰でも使える。
「す、すごいです。私もちょっと勉強したけど、全然ダメです……すっごい小さい切り傷くらいなら治せるのですが、ほんとそれだけ」
ユコナはすごい半分ちょっと悔しい半分の表情を浮かべている。ここはさりげないフォローをしておく。
「でもユコナは魔法の素質あるんでしょ。俺はまぁ毎日メイサの治療とか見てたし、何やってるかもわかるし。ユコナならあっという間に覚えるんじゃない? 人の体を使うのもあるからそうそう試すわけにもいかないだろうけど」
「プ、プヨンさんに頂きましたので……。頑張りたいです」
「えーー、あげてないって。あれは冗談でしょ。ユコナの実力では?」
「そ、そうなんでしょうか?でも、プヨンさんはできるんですよね。うらやましいです」
「じゃぁ、使う機会があったら見せてあげるよ。なかったら作ろう。時々、ちょっと町の外に行ったりするときもあるからついてくる?」
「町の外ですか?遠くまでいくんですか?」
「うーん、この町から歩いて1時間くらいだよ。この教会で使う、ミメモム草って材料取りに行ったり、そのついでに、思いついた魔法の練習をしたり、ちょっと動物狩ったりとかも……特に予定ないけど、時間あるなら行ってもいいよー。でも女の子なら危ないのかなぁ。一人でこの町にきてるわけじゃないよね?」
ユコナは興味をもっていそうではあったが、即OKとはならないようで、どうするか考えているようだ。
「プヨンさんの行くところは、危ないのですか?何か手続きとかがいるのですか?」
「そこまで危ないとは思わないんだけど、一応、町の外だからなぁ。手続き・・・・特にいらないとは思うけど。でも俺は一応レスルに登録してるんだよね」
「レ、レスルですか? 存在は知っていますが、今まで関わったことはなかったです。……サラもなかったはずですし。でも初めて会ったところあたりだと、町を出てすぐでしたし、大丈夫ではないのですか?」
「まぁそうだよね。俺はミメモム草っていう教会でよく使う草を取りにいくときにたまに寄るくらい。最近はほとんど行ってないしなぁ」
「レスルというのは、登録したほうがいいのですか?」
「さぁ? わかんないけど。未成年同士で俺が連れて行っていいのかな? 自分の時は、最初にアデルっていうここにくる剣士に連れて行ってもらったんだ。そのあとは勝手に行ってるけど、町の入口で一応聞かれるんだよ。そういう登録があると、きっと子供でも町の出入りとか楽になると思う。俺はもう顔見知りだから、今はそういうのは特にいらないんだけど」
状況を想定しながらそう説明してみた。
「プヨンさんは登録してるんですよね?」
「うん。回復ができるから、回復魔法使いってことになってるよ。回復資格は聞いた話だけど、指先ちょっと切ったくらいでも短時間で治せればいいらしいよ。ユコナもできると思うなぁ」
自分が試験したときやフィナに聞いた話なども思い出しながら、そんなに不安にならなくてもいいし、落ちたら落ちたでまた受ければいい。特に問題はないと言っておいた。
「そ、そうなんですか? それくらいならなんとかできる……かも」
まだユコナは悩んでいるみたいだったが、どうやら気持ちを決めたみたいだ。
「じゃぁ、明日、時間があったらお願いしますね」
「いいよ。いこーいこー。じゃぁ明日はレスル寄ってみよう。自分も久しぶりだし」
「そうですねー。サラと3人で行きましょー。お願いします」
「うん、サラリスにも言っておいてね。待ってるよ」
ユコナはそのあとも少し雑談してから帰っていった。




