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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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会談の仕方

 ワサビから、是非お越しくださいとの手紙がきたらしい。


「俺が代表でいくぞ」

「私にもちゃんとお礼の招待状がきてるわ」


 ヘリオンが息巻いている横でユコナも救世主宣言しメインゲストの取り合いをしている。


 先日の件でユコナへお礼状が届いている。それは差出人ガーンの名前で記されたお茶会という名の面談依頼だった。


 北方のきな臭い動きは前から情報が入っているが、大半は伝聞形式だ。基本的なことは間違っていないが、多分に政治的に脚色されたものや主観的な情報ばかりだった。



 面談依頼の目的はワサビたちが置かれた事情を知ってもらい、少し脚色した分も含めて勘違いされることなく、うまく立場のある人たちにも伝えてほしいからだ。

 

 本音はきっとそうだろう。もちろんワサビたちもユコナへのお礼が主目的だ。ただ、その機会がなんらかの支援につながればいいという裏の思惑があるのはわかりきっていた。



「だから俺がメインを務めるべきだ。それとなく影で立ち回れる有能な人材が情報収集するべきなんだ」

「失敗しても致命的にならない、影響度が少ない人ってことね」

 

 ヘリオンが選ばれたことについては、ユコナが思い付きで伝えた『ヘリオン直属の神タイプ部隊』の影響があるみたいだ。


 勘違い部分も多分にありそうだが、手紙には『部隊長様も是非ご同席いただきたく』などと書かれていた。それをユコナが話したところ、へリオンが『よし、俺が代表として行ってやろう』と強引に宣言した。


「みんなでいこうや。表立ってはワサビ達には簡単に肩入れできないだろうけど、きっと困っているんでしょ。ここは是非、人道的立場から話を聞きにいこう。せっかくの公用外出のチャンスをつぶすべきではない」


 プヨンの一言には誰も反対はなかった。



 そうと決まると、ヘリオンは動きが早かった。


 ユコナへの封蝋付きの手紙が学校経由で届いている時点で、学校側も事態を把握している。なぜ、そんな話が直接くるのかと説明を求められたところを、ヘリオンが以前からの知り合いでなどとうまく説明して乗り切っていた。


 それもあって、本当にお茶会に行けるのかプヨンは半信半疑だったが、その日のうちにあっさりと外出許可がでていた。


「私が彼女達を助けたのよ。あのあと同行していつでも力になりますよとアピールしたからよ。プヨンの名前はなかったけど連れて行ってあげるわね」

「そうなんだね。ありがとうありがとう」


 なぜかユコナは妙に恩着せがましいが、プヨンとしてもワサビのリングの仕組みなど色々と気になる。調査のためにもここは下手に出て、連れて行ってもらうことを優先した。


 

 翌日になると、少し話が大きくなっていた。半公式で、遊びではなくなりそうだ。


「あー、でも、記録官がついてくるってなると、堅苦しくなりそうだな。その場で決めず公式な記録として報告しろだってさ」


 内容によっては交渉ごとや大事な話もあるはずだから、念のため記録官が同行するとの連絡もあったようだ。


「このあたり、オレヤルーラがえらく濃いな。ヘリオンが放出しているのか?」

「そうみたいよ。面倒なことも全部やってくれてるわ。私も同行するんだけどヘリオンが全部話をしたあと、お礼のお茶菓子を食べるだけですむみたい」


 最近のヘリオンの大きな物事にかかわりたいという気持ちの表れか、誰に使命を授けられたわけでもないが、メサルが外部活動をやりたいと言い出したとき以上のやる気を感じる。


 いつのまにかヘリオン部隊長とそのお付きのユコナ、プヨンという形が完成していた。



「差出人のガーンって誰のことだろう?」

「あー、あのハンマー振り回してた人のことね、自分でハンマー・ガーンって言ってたわ。プヨンは面識なかったかもね」


 ガーンが誰かはユコナがすぐに説明してくれた。先日、ワサビの『死リング』を取り外した際に、ワサビのそばに一緒にいた護衛の一人だそうだ。




 翌日、ヘリオンのオレヤルーラをプヨンは測定できなかった。完全に計測限界を超えオーバーフローだ。ありえないくらいやる気満々のヘリオンが、うれしそうにこっそり書類を見せてくれた。見たい振りをしてやるが、見せたいに決まっている。



「見ろ、プヨン。辞令と外出許可証だ。俺はなんて仕事が早いんだ。お前らも見習え」

「気をつけろよ。全方位に注意しておかないと、よそ見してる間にお茶菓子を食われるぞ」


 バシッ


 ヘリオンに冗談で返したプヨンは、どこからか飛んできた氷粒で額をデコピンされた。


 「いったい、どこで聞いているんだ」


 バシッ


 2度目だ。きょろきょろをあたりを見回すプヨンだが、容疑者は見つからない。


 360度全方位対応できていなかった。たっぷり30秒はかかり、浮遊魔法で天井に浮かんでいるユコナがいることに気付いた。ヘリオンの位置からはよく見えたようだ。知ってたら言えよと思う。



 最初の1か月は公用私用とも原則禁止だったが、3か月も経つと身内の面談や自主訓練と称した慈善活動やレスルなどでの小遣い稼ぎでも、それなりの理由があれば日帰りで学校から出してもらえるようになっていた。


 ヘリオンの会談はその趣旨からも気軽に構えるつもりだったが、どんどん面倒ごとが増えていく。


「プヨン、あっちでは何があったんだと思う? 這う這うの体で逃げてきたのなら大変だよな」

「きっと何らかの支援がいるって言われるんだろうけど、俺じゃ金も人も大して動かせないからなぁ」


 などと、プヨンは暇があれば意見を求められた。プヨンも自分がワサビの立場ならどうするか考えるいい経験になっている。


「プヨン、ほら。外出許可証だぞ。人数4人分。国や学校もみんなお互いの情報が欲しいんだろうな。それから国からもお手当てが出るそうだ。俺の久しぶりの成果だな。まぁレスルの荷運びよりはマシ程度の報酬だし、もちろん記録官立ち合いで報告書にまとめないといけないんだけどな」


 クククと不敵な笑みを浮かべながらヘリオンが話す。よほどうれしいのだろう。


「この面談には危険はほとんどなく成果が見込めるから学校も協力的だ。きな臭くなってる国境付近では、警備などを担っている上級生の前倒し帰還なども検討されているらしいが」

「ふーん、そうなんだね。まぁ、実績作りにはちょうどいいってことか」


 この学校の生徒は兵士ではないが、国益に貢献するためにある。そのため一定の成果が見込めるとわりと融通がきいた。その一つに無人の地域では警備と野生生物の管理名目で、学校は多くの生徒たちを実習と称して送り出していた。


 大量難民が学校にくることはないだろうが、細いながらも国境間の街道があり、物資や人の往来がある。近くにある学校としては、無視できないというところだろう。


「そういうことだ。まぁ、今回は国対国でもないし、偵察ですらないタダのお茶会だよな。プヨンも実績作りになるんじゃないのか」


 ヘリオンがそれぞれの立場を推測しつつ解説する。学校としては特に不測の事態に備えたり、水際で防ぎつついろいろと存在価値を示したいのはわかる。


 もちろん富裕層も一定数いる。万が一にも死亡者を出さないためにも、人材的損失も考慮しているはずだ。


 ヘリオンの説明にプヨンも同意する。


 国としても直接侵略を受ける以外にも、避難民などの増加や経済的な影響を気にしている。学校は実習活動も含めて生態系の破壊を心配していた。そうしたこともそれとなく聞き出すつもりのようだ。


「よっし、じゃぁ次の休養日。9時出発で10時着な。場所はこのへんらしい。二度は言わないからな。覚えてくれい」


 そう言うとヘリオンは『テキトーマッピング』と呟き、微小な氷を多数出して、宙に浮かべて絵を描く。簡易の地図を作って要所を示した。


「これ、なに?」

「ここが学校で、ここが集合場所……」

「わかんないわよ。ちゃんとエスコートして!」

「お、おう。まかしといて」


 最後の『レディーだけ』というヘリオンの負け惜しみは、聴覚を研ぎ澄ませていたプヨンにしか聞き取れなかった。




 その頃、自由都市フリードから脱出できたワサビは敷地内を歩き回っていた。たまたまテラー(レプリカ)の地縁者を通じて提供された仮住まいの敷地だ。


  山のふもとにある建物で、山上の城が遠いため待機所のように使われていた建物だ。出城のようなもので、心もとないが防壁や防御設備もあり、少々の兵站も置けそうだ。


 しかし、気晴らしに歩きながら今後のことを話そうと思っていたが、状況のまずさにテラーとガーンも無言のままだ。


「テラー、あれから追いついてきた者たちはいますか?」

「おるにはおりますが、知れてますね。一緒にきた10人も無傷の者はおりませんな。ここ最近は数えるほどです。他の場所に移動している可能性もあるでしょうが、大半は……きびしいでしょうな」


 自分たちの移動ですら、何人も犠牲になっていた。おそらく他の者たちも半数以上は途中で脱落していると想像できた。



 視察というほどではないが、周りを見てまわる。人道的な支援という形で食料と寝る場所は確保できた。追っ手の可能性を考えると安全ではないが、持ち出せた食料はほぼなかったため不安のいくつかは解消されたことは大きい。


「まったく備えをしていなかったわけではないのに逃げ出すしかなく残念です。どちらかというとそうした動きを察知し備えていたくらいでしたのに」


 ワサビは少し後悔がある。そうした情報はいろいろな方向から聞こえていたが、皆たかをくくって、あまり本気にしていなかった。あっても威圧などなんらかの段階を踏むだろうと考えられていた。


「仕方ありません。本気にするほうがおかしいと思われる風潮でしたし。結局、大した抵抗はできませんでした」


 誰も抵抗しなかったという方がいいかもしれない。不思議ではあったが、一度は立ち向かおうとした者も、早々に武器を放り出し降服していた。



「町を襲われ多くの被害を出したことは不幸なことではありますが、今はどうするかを考えましょう。今さら後戻りはできません」

「テラー殿のおっしゃる通りです。過ぎたことは致し方ありませんが、前を見るしかありません。しかし、先日のあのおかしな神部隊とやら、会食に応じるそうですぞ。謎が多いですが、単なる素人とは思えません。早急に内容をまとめましょう」


 

 突然、大きな声が聞こえた。


「お、おい。しっかりしろ、意識をたもて。怪我はもう治っているはずだ。気力を維持するんだ!」


 いつの間にか、仮の兵舎、診療所のあたりに来ていたらしい。10人ほどしかいないため、緊迫した声が聞こえる。反射的にワサビは駆け出した。場所が場所だけに重傷者か何かだろう。ガーン達も後からついてくる。


「ど、どうしたのですか?」

「あっ。ワサビ様。急に容体が変わりまして」

「怪我ですか?」

「は、はい。今いる者たちでは内部の治療がなかなかできず、表面部分しか治療できていません。出血などは抑えられましたが、精神的なダメージが……おい、意識をしっかりもて」


 横に寝ている兵士は、血のにじみや骨折などもなく見た目は大丈夫そうだが、目が濁っている。あきらかに覇気がない。


「おい、しっかりしろ」

「お、俺はもう……ダメ……だ。あんな怖い思いは嫌だ」

「気力を振り絞れ……傷はふさがっているんだ。元気になったらもう一度できる!」

「あ、あぁぁぁあぁ」


どうも怪我以外の精神的ダメージが大きいように見えた。ワサビは駆け寄る。


「私に任せなさい。ワサビの得意は覚めです。『シャーク回転おろし』」


 ワサビはそういいつつ、指先を急速に『の』の字に回転させはじめた。指先の輝きが徐々に明るく、力強くなっていく。ガーンは周りの兵士達にそっと声をかけた。


「お前たち、耳をふさげ。ワサビ様、準備OKです」

「よろしい。口を開けなさい」

「は、はいっ!」


 今まさに気力が尽きようとしている兵士の口が開かれた。何が起こるのか、開けた兵士は固唾を飲んで見守っている。


「ミレバ家秘術、『ネレバワサビ・ツーン』。その者の体をしっかり押さえなさい」


 ワサビは指先の明るい部分を兵士の口に押し込み、


バクンッ


 口を魔法で抑え込み、しっかり閉じさせる。そして、カウントダウン10、9、……、1、0。ワサビの声が静かに響いた。


「う、うゎぉあぁーーあーーー」


 動けなくなっていた兵士の目がカッと見開かれる。背中が反りバンッと体が跳ね上がるが周りの者に必死に押さえつけられている。


「気付けの一発はいかがでしょうか? 活力を取り戻せましたか? もう一発できますけど?」

「め、目が覚めましたー! ばっちりです!」


 ついさっき死にそうといっていた兵士はバッと起き上がり、抱えていた兵士を押しのけて外に出て行ってしまった。


「さぁ、テラー、ガーン。早急に面談内容をまとめましょう」


 ワサビもやる気が出てきたのか、足早に診療所を出て行った。

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