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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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独立の仕方

 プヨンの歩哨から、2日経っていた。教官が審議官になり、マリーを尋問する。


「わたしは、その、マリー・ローバだ。ここにいるメサルの身内じゃ。ちょっと面会にきたら道に迷ったのじゃ」


 マリーはかなり落ち込んでいた。正直に話すなど言語道断。そこを隠しつつなんとかつじつまのあう説明をしなければならなかった。マリーが表面上一生懸命説明するが、なまじ試験などと称して身元のわかりそうなものを持ってこなかったためすごく嘘くさい。


「視認したときは、怪しげな服装だったと聞いていたがどうなのだ。何をたくらでいたのか?」


 当然、疑わしく質問が止まらない。もちろん、信用度は0のままだ。


「そんなものはない。ほんとうじゃ、道に迷って気付いたら夜中になったのじゃ。学校の敷地内だとは知らなかった」


 答えれば答えるほど嘘っぽい。


 ブチ切れそうになり、これでも食らえとばかりに教官は大量のハケーラ放出で自白を強要しようとするが、マリーにはどこ吹く風、何の効き目もなかった。


 教官が「むむむぅ」とうなり声を上げるが、この程度の威圧ではないに等しい。



 取り調べの教官とマリーの堂々巡りが続いているところに、偵察にでていた別の教官がやってきて耳打ちをした。


「どうやら、その者の言っていることは事実のようです。ネタノ聖教関連の方で、初年生メサルの身内のようです。今、聖教の使いで、ヌーン様という方がいらっしゃってます。確認したところ、先日から探していたと……」


「ほ、ほんとうか。まぁ、紳士的に振る舞ったし、よしとしよう」


力ずくにしなくてよかったとホッとする教官。マリーへの尋問は終わった。




 歩哨から数日、プヨンは特段何事もなく過ごしていた。例の営倉の件があれからどうだったかの報告もない。教官が担当し処置するとだけ連絡があっただけだ。


「なあ、プヨン。俺ってわがまま言ったのかな? できるかどうか見極めるため、面接するんだってさ。ただ、あれから連絡がないんだよな」


「もういいって。メサルが屋外活動したいって言ったら危ないからやめろって言われたんだろ? わざわざ言わずにすればいいものを。しっかり面接受けてきたら?」


 メサルはこいつ何もわかってないなという顔でプヨンを見る。お前が面接されるんだぞと。



 この2日ほどメサルは身内がくると緊張気味だった。面接が理由だが、その発端はプヨンが聞いた限りではヘリオンらしい。

 

 最近周りで小規模ながら災害があったことや、伝え聞くきな臭い情勢もあって、ヘリオンは積極的に国内活動に参画する機会を作ろうとしていた。奉仕精神というよりは、周りの大きな動きに関わりたいのが本音のようだ。


「プヨン、俺は大きな流れを作るぞ! 今のままじゃダメだ。もっと改革が必要だ。行動が伴わない政策など無意味だ」


 ヘリオンは最近よくそんなことを言う。二ベロはあまり表立った行動はしないが、ヘリオンは何かを成し遂げたい、そんな気持ちをことあるごとに口にしている。


 ヘリオンの気持ちは、プヨンの実験熱に通じ共感できるものだ。プヨンもできることは協力すると約束する。プヨンの目的はマジノでどこまで制御できるのか、あらゆる物質を制御するマジノマスター(プヨン命名)を目指す。その実験の舞台や課題をヘリオンは与えてくれそうだ。


 一方のヘリオンは小さい頃から身内が貴族系や富豪系だ。大きく状況を動かせる身内を見てきただろう。末端とはいえ負けられないという気概があふれていた。


 そして今回このやっかいな病気が伝染したのはメサルだ。何かを成し遂げたい病、治療薬はまだなかった。


「メサルならできるよー。こないだも洪水で多くの人が怪我したとき治してただろ」

「おぉ、そうだ。ヘリオンが世界を動かすなら、俺は世界の苦痛を治療するんだ。治療こそ我が目標。困った時はお互い様だ」


 そんなメサルをちゃかす2人の獅子身中の虫。


「医師道というは癒すことと見つけたり」

「むぅ。意志道というは試すことと見つけたりではないのか?」

「医師道というは稼ぐことと見つけたりでは?」


 プヨン、ユコナ、メサルの3人が、三者三様それぞれの持論を展開する。プヨンはマジノだから意志道を目指す。それにマウアーとサラリスが参戦してきた。


「菓子道は食べることでは?」

「たしかに、医療部隊の女性衛生兵の服装には、癒しのオプション効果があるな。パンツァー服とは異なる方式だが、あぁいう複雑な防御効果はどうなっているんだろうか」


 マウアーの制服の形状がもたらす癒し効果から、崇高な大儀、理想の話は脱線しはじめた。そんなやり取りが一段落した頃、


「初年兵 メサル、面会だそうだ。面会者はヌーン様と聞いている。すぐに行くように」


 呼び出しの二年生の当番生が呼び出しにきた。それを受けメサルが焦りとも納得も言えないが、覚悟を決めたような表情になった。


「プヨン、面接の時間だ。どうやらきたようだ」

「おう、がんばってこいよ」


 笑顔で手を振るプヨンにメサルが駆け寄ってくる。


「ほら。プヨン。護衛の時間だ。しっかり務めを果たしてくれ。我らは一心同体」

「え? ちょっと待って。 どういうこと? 面接されてくるのに護衛がいるのか?」

「あぁ、そうなんだよ。 デポーテイション」

「う、うぉぉっ。ま、待ってくれ。自分で歩く」


 メサルが珍しくけん引魔法でプヨンを拘束し、ズルズルと引きずっていく。普段のメサルではない超強力なパワーを感じる。油断していてがっちり取り込まれてしまったプヨンは、抵抗を諦めて地面から浮いたまま部屋から連れ出されていった。




 メサルはまったく他人ごとのようなプヨンに少しイライラしていた。立って歩いているが緊張感のかけらもない。


「プヨン、行きがけに言っておくけど面接のときは注意しろよ? 試してやろうとか言われたらうまく乗り切ってほしい」

「え? 何言ってるの?」


 ある程度プヨンのことは知っているメサルでも心配顔だ。そして理由を聞いて驚愕した。


「え? 俺が面接なの?」

「うん。俺が言ってやったんだ。俺の護衛は完璧だ。絶対に俺を守ってくれるってさ。軽いでしょ? 実技もあるかもな」

「ま、待った。 じゃぁ、面接ってそういうやつなのか?」

「あぁ、そうだよ。ほら、ついた」

「も、もっと早く言え……」


 逃げたのにというプヨンの呟きは小さく、メサルには届かなかった。


 応接室の扉は開いていた。中にはいるのはヌーンとマリーだ。他は誰もいない。立ち合いの教官くらいいそうなもんだが、不思議と席を外していた。いやな空気だ。


「ご無沙汰です。予定では2日前だったと聞いてましたけど? ヌーンさんがくるだろうことは予想していましたが、マリー様が来るとはおもっていなかったです」


 メサルの挨拶で始まる。


 ヌーンはマリーを心配そうに見ており、そのマリーは目を伏せている。そんな状態を不思議に思ったが、プヨンはのんびりと傍観者を決め込み、面接のため笑顔を振りまいていた。


 プヨンが見たところ、マリーは外見は元気そうに見えたが、精神的に疲労したのか感じ取れる気力がとても少ない。なんというか、無気力でやる気がない状態だ。


 突然、そのないと思った気力が復活したのか、目がカッと見開かれた。


「うきゃーーー、メサル。友達を選べ。良い友達を持つのじゃ。何が護衛じゃー」

 

 突然マリーが顔をあげ、プヨンに走り寄る。勢いはあったものの、体がついてきていないのか動きが弱く、慌てたヌーンにすぐに止められる。


「メサル殿、マリー様はお帰りの挨拶をされるため、あなたを呼び出されました」

「え? ヌーンさんが面接するためにきたんじゃなかったんですか?」



 メサルも慌てて問いただす。ヌーンはメサルにかいつまんで状況を説明した。道に迷ったら捕縛されたマリーが、なぜか心折れた状態で発見された。今日は急いで連れ帰ると言う。


「面接は延期になりました。マリー様は、危険なことをしなければ多少のことは大目に見るそうです。気をつけなさいと」

「は、はぁ? いったいなにが? あれだけ絶対ダメだと言い張っておられたのに」

「メサル様、ちょっと事情を説明しますのでお付き合いを」


 ヌーンは小声でメサルに面接は延期で必ずすると念押しをする。そして少し説明したいことがあると、メサルだけできてほしいと頼んでいた。

 ヌーンはマリーの歩行を支えつつすぐに退室し、そのあとメサルもついていく。


 残されたプヨンは廊下に出て2人が去っていくのを無言で見送り、部屋に戻ろうとする。廊下の角を曲がるところで、メサルの『なにー、なんですって』という叫び声が聞こえてきた。



 プヨンが部屋に戻ると、ヘリオンとユコナが駆け寄ってきた。


「おい、プヨン。ちょっと付き合ってくれ。例のガーン殿から面談の要請だ。くっくっく。これぞ神より与えられし機会。この件に関われてっていうことだ」

「プヨン、本当よ。 ほら先日の件よ。お茶でもしましょうと」


 何やら2人して興奮している。単純に外出できるとかお茶ができるとかそういうレベルではないらしいことは、言い方からわかったが、


「学校から出て行くの? ガーンって誰だ?」


プヨンは事態が飲み込めず、興奮した2人に少し引き気味だった。

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