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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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そばの食べ方

 学校に戻って食堂で朝食を食べていると、サラリスが向かいにどかっと座った。朝からご立腹だ。もっともそれは自業自得。昨日の夕方から続いているが、意外にしつこい。


「ほら。この紙の裏をね、こうやって、すすーっと私の超よく切れる『さらっぴんナイフ』で一撫でするとね、あーら不思議、プヨンになるの」


 裏を切った物をひらひらと目の前で翻すサラ。言いたいことがあるようだが、プヨンの防御スキルは物理のみならず精神面も格段に向上している。とりわけ目覚ましい進化を遂げたものがスルースキル。サラリスの嫌味程度ではどこ吹く風で小動こゆるぎもしない。


 当然ガン無視だ。もう目も合わさないで、食に邁進する。



「智将プヨン。任務無事完了! 無事帰還しました。マヌケな捕虜2名も無事奪回済み。あのままだったら、きっと超恥ずかしい囚人服を着せられ飯炊き係になっていたでしょう。きっと二階級特進ものでしょう」

「ぐ、ぐぬぬ。え、援軍。援軍がいるわ。これ、この伏兵をつぶしてっと」

「あっ、俺の肉が!」


 サクッ、パクッ


目に止まらぬ速さで肉を奪われた。しかし黙ってやられるわけにはいかない。攻撃は物理だけではないことを見せてやる。


「あ、サラめ。乙女は決して食わない脂身ギトギト肉を食ったな。俺特製の超絶カロリードアップ肉は火球1000発相当だぞ。あとで無料労働2時間の刑だ。ちゃんとやらないとぷとるぞ」

「ぐっ。し、しまったわ。こ、こんな悪だくみに引っかかってしまうとは」

「さてと、じゃぁ、俺は隠しておいたこのプリンスぺシアルを食べようっと」

「あ、あぁ、これ以上食べるわけにはいかないわ」

「ふふふ。プリン王国の平和は守られた。また、智将の智謀が……」


 本日もプヨンは国防に成功した。



 あっという間の夕方。


 授業が滞りなく終わり、再び食堂だ。あっさりにしようとそばを運んでいた。プヨンはそば好きだ。 特に伝説のそば『リバーロード』。思い出すとよだれが出そうだ。


 一滴落ちそうになったのを拭こうとしたところで、ヘリオンとユコナ、メサルがそろってやってくるのが見えた。サラリスは朝の肉を消費するため、マウアーと一緒に女神像相手に火球を乱射しに行っていない。



「気付いているか? プヨン」


 わざわざ、もったいつけるように間を置くヘリオン。プヨンはそばを目の前にして大事なことを忘れているのを思い出した。


「あぁ、そうか。ワサビか」


 取りに行こうとしたところ、一瞬、3人からザワッとさざ波が立つような気配がした。


「どこで知った? ワサビ派ということでいいのか?」

「え? 俺はもちろんワサビ派だ。おろすなら鮫皮がいいけど、ここにはそんなものないしなぁ」

「さ、冷め側だと。そうか、そこまで知っているなら話は早い。ちょっと一緒に聞いてくれ」

「え? そばは?」

「食いながらでいい」


 いまひとつよくわからないながらも、言われたままにプヨンはそばを食べている。


 ユコナが切り出した。


「プヨンが先日助けた女の子のこと覚えてるでしょ。私、あの後付き添ったの。聞いた話では、国境北側、自治領国家の方から避難してきたらしいわよ。町が襲われたんだって。プヨンの技術に驚いてたし、すごい感謝していたわ。ほら、これがワサビさん、ガーンさんからの嘆願状よ」


 この手の国際情勢はマールス通信で配信されてレスルなどにも掲載されている。演習や外出制限にも関係する重大ニュースであり、学校の掲示板にも速報レベル記事が掲載されていた。


 ズルズル。そばを啜りながら思う。なぜ感謝状じゃないのかと。そこからはメサルが変わって話した。メサルが回復呪文の内容以外で率先して話すのは珍しい。ざるそばは伸びない。食事を中断して傾聴する。


「結論から言おう。 どうやら北側の帝国が周囲の自治領に侵攻したそうだ。おかげで、国境付近の警備も今後の侵攻に備えて大変らしい。しかも、ワサビ殿、テラー殿の話を聞く限りではまともな奴等ではないらしい」


「そうなのか、メサル。じゃぁ、あっちに行ってる兵士たちは当分戻ってこれないんだな」

「そうだ。まだこの付近は大軍が動くことはないだろうが、東や西の街道沿いなどは警戒しているらしい。実習どころではないようだ」


 ヘリオンが後を継ぐ。


「侵攻後にワサビ殿が危うく命を狙われたと言っていたが、おそらく主要な指導者達の生存は厳しいんじゃないかなぁ。もっとも国境には大きな山などもあるからこちらまでくることはないだろう。大軍の移動には不向きだろうし、しばらくは小競り合いだろうな」


 ヘリオンの言うことはよくわかる。


 この学校の北側もそうだが、無人の高原や砂漠、山脈などが数百キロ続く。南北を往復するにはこれらをぐるっと大きく迂回して、東または西の街道を数十日かけていく必要がある。または、細道をちまちまと進み、危険な野獣・害獣・自然災害をたくみにかわしつつ進む山越え、いわゆる実力者ルートしかない。悪条件を考えると気軽な侵攻はなさそうだ。


「そうだ。プヨンもわかっているだろうが、幸い、そう簡単にはお互い行き来ができない。問題は帝国側がいずれこっちまで侵攻してくる気があるかどうかだ」


 そこでヘリオンは頭の中を整理しているのか、いったん区切る。


「ただ伝令が言うには王国内はこちらに被害がない状態で助力すると呼び水になってしまうと冷め派が多く、ワサビ殿に表立って助力しないことになった。それで、なんというかニベロが代表で陰で『人道的に』支援をすることになったらしい」


「ていよく、押し付けられたのよ。ニベロはいまいちだから、実行部隊はヘリオンらしいわよ」


「ネタノ聖教も似たようなところだ。影ながら人道支援しますという状態だ。だが、多くの者達が傷つき、ひどい状態になった。俺も回復者のはしくれとして何かすべきなんだ。プヨンは一応、俺の護衛だしな」


「さぁ」「さぁ」「さぁ」


 机の上に一枚の連判状のような紙を出す。まだ書いてあるのは数人だが、ユコナ達のほか7人ほどが記載されていた。サラリスやターナはまだないようだがこれからあたるらしい。


 プヨンはざっと一瞥し、紙の右端に名前を書いた。それとなく遠慮したつもりだ。


 プヨンはにっこり微笑んでごまかした。もちろんさぼるつもりはない。大いに参加しようと思う。

ヘリオン達も喜んで受け入れてくれた。



 ヘリオンとユコナは相談があると戻っていったが、珍しくメサルが向かいに座って食事を始めた。そういえば、あまり今まで一緒に食べたことがなかった。


 また、レアのことだろうか。そう思って身構えていると、予想通りメサルからの相談ごとがはじまった。


「実はな、俺は危ないことをしたらダメらしいんだ。ヘリオンはしてるのにな」


「それは仕方ないんじゃ? もっとも学校にいれば安全ってわけでもないだろうけど」

  

「あぁ、そうだ。あの時もレアを治したという実績があったからだ。そもそもレアは身内以外受け入れない難治療体質なのだ。レアが自分でそう説明した。俺も言ったんだ。鳥籠の鳥では役に立たないと」


「高評価をいただきありがとうございます。おかげで楽しい学生生活を送っております」


「皮肉を言うなよ。そこでだ、俺はこの学校の治療関係の本をかなり読んで理解したつもりだ。先日の校内ニュースで大きな戦いのことがあっただろう。避難者なども見越してちょうどキレイマスの町の北側に治療院ができてるそうじゃないか。戦火にあった人を助けるんだ」


「結局なにがいいたいんだ?」


「俺は言ってやったんだ。俺には優秀な護衛がいる。お前らが束になっても敵わないだろう。試してもいいぞと」


「……そうか。だが資格で制限が」


 治療も戦闘も資格証は再取得していない。それを理由に辞退しようと思ったが、そんなことはお構いなしだった。



「おぉそんなこと気にするな。2人で実績を作ればいいじゃないか。気楽にやろうや。1人面談にくるらしいがどうせ形だけ。大したことはない。さぁ、プヨン、俺と困っている人たちを助けようじゃないか」


 メサルがいきいきとしている。ずっと自由行動に憧れていたことは知っている。それでもプヨンも含め、目に見えない護衛がついているらしい。過保護なだけかもしれないが。もうちょっとちゃんと護衛しようとプヨンは思った。


「当たり前だよ。今までろくになにもしてなかったからな。任せて」

「おぉぉ、さすがだ。近いうちに試しにくるそうだが、プヨンなら大丈夫だ。ちょっと相手してやってくれ」

「え? レアとか?」

「あ、それは大丈夫だ。あいつは今試験の準備に忙しいらしい」


 そうかとプヨンは胸を撫で下ろす。いっそレアを打ち倒せたら楽だが、メサルとの関係でそれも難しい。だが、それ以外なら特段問題はないはずだ。


「あ、いつくるんだろう。まあ、いいか。いきなりはないだろうし、事前に連絡がくるだろうさ」


プヨンはメサルを笑顔で見送った。





 その夜。キレイマスの町でヌーンとマリー・ローバは言い合っていた。メサルの件だ。


「マリー様、ほんとにこんな時間から行かれるんですか?」

「あったりまえでしょ。あのメサルが手紙でかかってこいだってさ、えらくなったもんね」

「メサル様はそんなことは書いてませんよ。一度、確認にお越しくださいとなっていましたよ?」

「確認しにきてくれだって。誰が行くか言わなかったのは失敗だったよ。適当に相手したらいいと思ってるんだろ。じきじきに行って、リアル実力テストをやろうじゃないか。目にもの見せてくれよう」


 マリーは息まいていた。メサルが有志活動をしたいのはいい。そのへんの町で奉仕活動程度ならいい。だが、各国を回りたい、ましてやきな臭い動きの国境付近の支援に行きたいというのは受け入れがたい。立場と身の丈をわきまえよと、ここは一発かましてやろう。

そうマリーは思っていた。


「しかし、マリー様。前回はいつの間にかこっそり付いてきたのはいいですが、急に気分が悪くなって倒れたじゃないですか? そりゃ油断してる状態で試すほうが効果は高いでしょうが、こんな夜半から行くのは少しよろしくありませんよ?」


 ヌーンは、先日馬車上にこっそり付いてきたマリーが倒れ、町まで連れ帰ったことを持ち出してきた。メサルの護衛という者を試すのはいいとしても、


「こんな不意打ちのような形で、しかも夜半に行って準備して待ち伏せするのは、さすがに姑息すぎませんか?」


「うっさ。私にかかれば、学校に入るなど造作もないこと。そもそも護衛というのであれば、いつ襲われても文句あるまいよ。行くと言ったら、行くのじゃ」


「出れてから初めておっしゃってください。入るだけなら刑務所でも入れますよ。もちろん私は付いていきませんから、学校は正門方向からは近づかないようにしてください。回り込めば比較的なんとかなるでしょうから」


「ふんっ!」


「あ、あとリミットは24時間です。24時間連絡がなかった場合は、呼び名が老婆、ぶふっ」

 ヌーンは口の中で氷を作られ、口が閉じられなくなった。慌てて溶かしにかかっているあいだに、ぷんすかしながらマリーはどこかに行ってしまった。


 部屋を出たマリーは装備を整えていく。満月が出たばかり。夜は長い。キレイマスから大きく空を飛んで湖上を飛び越して学校の裏側に出れば、そう危険はないはずだ。飛行時間は、高度を上げる必要もある。


「まぁ、2kmも高く飛べば、いかに防御があろうと届くまい。戦闘ではないからのんびりマイペースで飛べばいいはずだな。7、8kmか。ゆっくり行っても30分はかからんじゃろ」


 最低限の荷物のみにしたマリーは助走を開始する。なかなか浮かび上がらず、ふーふーと息が切れる。旧式の魔法原理のため浮揚威力が弱いが年ではないと奮い立たせ、長い助走距離の末にようやく足が離れた。


「フォッカー」


マリーは200mほど走ってようやく浮かびあがり、ゆっくりと上空に高度をあげていった。




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