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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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戦怜(洗礼)の仕方 3


「おい。そこのへなちょこ。私の傷ついた心を癒すため、有り金全部おいていきなさい」


 でたっ。こいつが相手だ。岩陰から現れた女が1人、ゆっくりと近づいてくる。意味不明な言いがかりが気になったが、ただの口上など気にしなくてもよい。


 チラッとアデルを見る。アデルの目に焦りは感じられない。それを見てプヨンは予定通りなんだなと安心した。


 ならばミハイルに衝撃を与えるためと最大限に煽る。ミハイルも当然相手を知らないはずだ。そして前を見て、プヨンは衝撃を受けた。


 サラリスだ。なんでこいつがここに。危うく声が出そうになった。もしかしたら自分も試されているのかもしれない。戦怜の対象はミハイルだけではないのかもと焦った。


 アデルが誰に頼むかと思っていたがまさかサラリスとは。完全に予想外だ。油断していた自分を戒めるが今さらだ。プヨンは戦う前から敗北感を感じていた。



 あらためて前を見るとサラリスの頭上には陽炎があがっている。熱でゆらぐ背景。自分で炎神というだけのことはあり、見ただけで思わず息を呑んでしまう。演技にしても上出来だ。


 アデルの説明からいくと相手は一人ではないはずだ。味方もいるはずだ。おそらく他にも潜んでいるのだろう。サラリスの連れならマウアーか。それに警戒しながら芝居に乗ってやる。


「ふっ。この辺りを荒らす盗賊の首領よ。いつもか弱きものから大事なものを奪うやつらに、今日こそ正義の鉄槌を食らわせてやる」

「な、何ですって?」

「ふっ」


 とうとう言ってやったとプヨンは大きく息を吐く。ずっと言いたかったセリフだ。


 『正義』の言葉には特に力がこもる。毎晩、食堂のデザートの何割かを脂肪税としてサラリスに徴収されるからだ。これこそ税金泥棒。身によくつく呪いをかけるだけの日々も今日までだ。まぁ食べすぎを気にするプヨンが応じていたのもあるが、今までやり返したことはたった1度。


 プヨンの好物を奪うサラリスに唐辛子をたっぷりねじ込んだケーキを食わせてやっただけだ。


 今思えばあの時口から火を吐いたのが、サラリスの炎神のはじまりかもしれない。そのあと倍返しされたから、まだまだやり返す権利があった。


 チラッとアデルの様子を見たが、じっとサラリスを見ている。続けろということだ。予定通りプヨンはアデルとミハイルに向け指示を出す。


「よし、じゃあ俺があいつを引き付ける。一人だけでくるとは思えない。俺たちにしかけてくるくらいだから他にもいる。ミハイル周りを警戒していてくれ。逃げ腰になるなよ!」


 ちょっと先輩風も吹かせつつ、プヨンが先陣を切ることにした。


 サラリスとの距離を慎重に詰めていく。今日はいつもと違って怒りの形相だ。芝居が上手だ。


「ふっ、今日はいつもと違って許さないわよ。女性をだますような男は敵よ! サラリス直属の親衛隊サラリストが徹底的にぼこぼこにするからね」

「なに? サラリスト? なんだそれは?」


 設定がよくわからないが、どうやらサラリス親衛隊が敵になっているらしい。マウアー以外にも最近仲がいい者がついているのかもしれない。


「だまされたことはあってもだましたことはないはずだ。たぶん」

「な、なんですって?」


 たぶんを付ければ嘘にならない法則にのっとりプヨンは挑発したが、案の定サラリスには油を得た炎神だ。爆発的に火力が上がるのを感じた。


 

 ここでプヨンは少し冷静になった。


 サラリスの怒りはわからないが、不意をつかれないよう周囲を警戒する。周りに他に誰も感じないが相当の手練れかもしれない。それがかえって不気味だった。



 アデルは動く気配がない。まだ、何かあるのだろうか。


 この言いがかりによる演出は盗賊だとありきたりだから、アデルは個人的な怨恨にしたのだろうか。事前に言ってくれてもいいのにと思う。


 それでもプヨンは相手にあわせるのが得意だ。流れに付き合い続ける。恐らくまもなく他に誰かが現れアデル達も戦闘状態になるはずだ。プヨンはミハイルが見学しやすいよう2人から距離を取り、サラリスと一定の距離を取りながら回り込んでいく。



 しかしサラリスは不思議としかけてこない。


 まぁ3対1でいきなり突っ込んできたら相当おばかだが、わざわざあっちからやってきたのだ。避けた先に伏兵がいるとか、何かしらしてくるはずだ。


 そうプヨンが思っていると、いきなりスイカ程度の適当な大きさの火球が連続で10発、プヨン目掛けて放たれた。無言のままのサラリスが指先を動かすたびに軌道が変わる。


「は、はやい」


 いつのまにこんなにうまく操れるようになったのか。


 バシバシッ、バシッ


 かろうじてプヨンが避けたあと火球が地面に当たって砕け散る。


 火球の当たった草が燃えていた。プヨンは以前のフィナの言葉を思い出す。サラリスは戦闘中に無関係の生き物に配慮がない。これはお仕置きすべきかもしれない。


「おっ、いきなりとはずるいぞ。だが甘い!」


 慌てて避けていくがそれにあわせて追尾してくる。誘導火球弾がひたすら追いかけてくる。最初は数も多くて制御も甘かったが、残り2つはプヨンの回避にあわせて何度も角度が急にかわり、完全誘導になっていた。


 これは避けて地面に落とすのは難しそうだ。


「オフセットフローズン」

 

 サラリスの火球の大きさから熱量を計算し冷気で相殺する。サラリスの火球には慣れている。温度や密度などからエネルギー量はばっちり把握している。完全に相殺し目の前で消し去ってみせた。


 「ふふふ。そんなもんか」


 煽りまくる。サラリスはしばらく仁王立ちしてプルプルと震えていたがプヨンを指さす。ビシッと音が聞こえそうだ。


「今のはほんの挨拶よ! さぁ隠し事があるでしょ? 今なら許してあげるから……」


 そういえばたしかにあった。これはたしかに謝ったほうがいいことだった。


「す、すまない。サラ。お前があれを知っているとは思わなかったんだ」

「ふふ、そうよ。素直に認めなさい。もちろんタダではすまさないけどね」

「わ、わかった。ユコナ著、寝言記録『サラリス、王子様と出会う』に笑ったのは確かだ。正直に言ったから許してくれ」

「は?」


 サラリスの動きが止まった。プヨンの言葉を何度も反芻する。そして意味を理解した。


「そういうこと? ユコナが秘密のノートを付けているのは知っていたけど、まさかそんなものだったとは。共犯なのね?」

「え? やっぱ怒るよね。でも寝言がうるさいって言ってたよ」

「プヨン、あなたの判決は火刑よ! 食らえ『アイギス2』」


 アイギスはサラリスの得意な火球の撃墜魔法だ。サラリスの陽炎がさらに数倍立ち上り、予想通り怒りモード全開だ。


 ババババッ


 火球がプヨンを取り囲むように出現するが、記憶にあるサラリスのアイギスとは数が違った。ぱっと浮かんだだけでも50以上ある。


「インターセプター」

「あ、やばっ」


 ビュー


 火球に気を取られたタイミングでサラリスが全力ダッシュで突っ込んでくる。


 浮遊魔法の一種だが上に飛ばずに横に急加速する。サラリスの直進速度がプヨンの知る限り一番早い。そのぶん曲がれないのか横に動けば避けられた。プヨンは避けながら次の手を考えていた。


 


 固まっていたアデルとミハイルが動き出した。


「ア、アデルさん。支援しなくていいのですか?」

「え? あ、あぁ、あれはちょっと想定外だ。どうもプヨンの個人的問題のようだ。下手にかかわると危険だ」

「そうなのですか? 仲間ではないので?」


 いつものサラリスなら百発打つと弾切れする。

 

「よし! 100発。サラ、お前は弾切れだ!」


 いつもならここで一息つく。サラリスの弾幕が途切れた瞬間を狙い、振り返って反撃しようとしたが、そこにさらに数十発の火球の連射が飛んできた。プヨンが反撃しようとした瞬間を狙われ体制を崩す。


「あ、危ない!」

 

 ミハイルの叫びと同時にプヨンは直撃を受けた。


「あっ、まずい。 油断した!」


 弾の補充が速いのはサラリスの手にする小瓶でわかった。魔力補充と怒りモードによる限界越えの状態になっている。


「あまいわ、プヨン。我が怒りのすべてを受けよ! 『ボウワーアンカー』」


 アンカーとアンガーの複合攻撃でプヨンの脳処理能力の大半は奪われた。動きが止まる。


「グッ、しまった」


 足がふらついたところに、サラリスの爆炎が襲い掛かる。


 全身が炎に包まれる前提で、同時にプヨンも身構える。


「フラッシュオーバー」

「フレームリタルダント・ゼロ」


 プヨンの周りが一気に灼熱の熱気と閃光に包まれた。プヨンの『デルカタイ』のような気化爆発に近い。一瞬で高温に包まれるが、同時にプヨンは熱の伝達を防ぐ。高温はプヨンに著しく伝わりにくくなった。



「アデルさん、あれ助けられます?」


 ミハイルの問いかけに、アデルは首を横にふる。


「いや邪魔をしてはいけない。男には戦わねばならない時がある。あれは1:1の勝負だ」

「え? あの女性に見える人は男なんですか? わかりました」




 数秒後、静かになった状態でプヨンとサラリスは向かい合っていた。サラリスは全力を出したのだろう、ふーふーと完全に息が上がっている。顔が上がらない。


「グッ。いっつもいっつも。たまには燃えなさいよ」

「ほら燃えたよ、髪の毛が。サラリスも燃え尽きただろう」

「このぉ。なぜ呼吸が乱れないのよ。全部防いだの?」


 とぎれとぎれにサラリスが怒りの叫びをしている。


「なぁ、そもそも寝言で怒っているのか? 怒りのもとはなんなんだ?」


 サラリスが絶対許せんという顔をしながら睨む。


 だが、突撃はしてこない。呼吸を整えて次のタイミングを狙っているようだ。


「なんですって? まだわからないの? 一緒に学校から脱出しようねって約束したのになんであんた町にいたのよ」

「え? 約束?」


 そうだ。そうだった。入学した頃、サラリスとそんな約束をした気がする。いつの間にか、ユコナとかと気軽に出入りするようになっていて、すっかり忘れていた。


「え。いや、学校の用事でちょっと」

「嘘ね。風紀委員の私の許可なくあんたが出れるはずないでしょ。白状しなさい」

「え、そうなの? そんなルールあるの?」


 サラリスの目に炎が宿る。また火をつけてしまった。


「フエールエアー・フランメル」

「あっ。ヴァッサーヴァリエール」

 

 反射的に発動時間の短い水壁を作り出し火炎を防ぐ。


 プヨンのまわりを巨大な炎の嵐が吹き荒れる。直径20mはありそうだ。それが中心にいるプヨンに向かって押し寄せてくる。息を止め厚めの水壁で熱が伝わらないようにしながら耐えるが、そう長くはもちそうにない。



「アデルさん、あれ助けられませんよ。あんなのが相手になるんですか? 死にませんか?」


 アデルはしばらく考えていたがこう言うしかなかった。


「う、うむ。逃げるというのも時にはありだ。生きのこることが最大の目的だ」




「こうなったら、元凶をなんとかするしかない」


 プヨンはバターアップで自分を浮かせながら、弾丸のようにサラリスに放出した。


 炎の嵐を突き破りサラリス目掛けて突撃する。


「待っていたわ。プヨン。さぁ、私の愛を受け取りなさい! 熱湯風呂よ!」


 プヨンの目の前の岩が真っ赤な溶岩となり、小さな池ラバーポンドができる。さらにプヨンを池に向かって引きずり込もうとする力が加わる。


「う、この風呂に入れってか? 死んでしまうだろうが! ピースメーカー」


「あー、ここで浮遊する? ずるい!」


 プヨンのピースメーカーは速度こそ遅いものの抜群の飛行パワーがある。サラリスの撃ち落しに耐えつつ飛び越すことに成功した。

 ずるいと言われようがプヨンはそのまま浮揚し風呂の上空を通過し、そのままサラリスの肩口を掴むことに成功した。


 さすがに完全に息が上がりひざから落ちる。サラリスにはこれ以上の攻撃の意思はないようだ。ここでうまく手打ちにしたい。


「ごめんよ、サラリス。黙っていたのは君を危険な目にあわせたくなかったんだ。帰りにレスルで何か好物を奢ろう」

「ぐっ。食べ物で懐柔するとは……ま、今回はこのくらいで勘弁してあげるわ」


 大嘘であるが、サラリスもわかってて受け入れるようだ。今回のサラリスの攻撃はかなり危険なレベルだ。もし受けるとかなりの重症になる。


 ピースメーカーを使用していたおかげで池に落ちなかったが、池が飛んで来たら逃げ切れるかわからない。またあそこで仲間がいて下に撃ち落とされたら大打撃だっただろう。


 サラリスは敵に回さない方がいいかもと少し反省した。そう言えば仲間はどうしたんだろうか。



 戦闘は終結した。


 ほっとしたプヨンもサラリスのそばで座って休む。息は切れていないが、精神的に疲れた。



 少し離れたところで、ミハイルとアデルは何やら話し合っているのが聞こえる。引き際とか生き残りとか、再戦を期すとか、そんな言葉が聞こえてきた。



 サラリスは完全に疲れ果てているようで大地に寝そべっている。



 30分後


「おい、お前ら! こんなところで何寝てやがる!」


 ヘロンが現れアデルに駆け寄っていく。


「やぁ、ヘロン、遅かったな。もう今日は終わった」

「な、なんだそりゃ」


 アデルの目的は達成できたようだ。全員集まったところでレスルに戻る。



そして1時間後。


「え? 150グランも食ったの?」

「ご馳走様」


 サラリスはAAAAクラスの最高の笑みをたたえ、プヨンに食事の伝票を手渡していた。


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