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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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犬の戦い方 3


 ユコナを射出して身軽になったノミは、火がついたしっぽの完全消火を試みていた。


「キューバンエイド」


 ノミは一気に急降下しつつ速度を上げ、発生する突風で炎を消した。さらに最小半径で急旋回し、残ったトンボを引き離す。


 ノミ持参の毛生え薬で焦げたしっぽ部分の組織と羽毛を再生しながらプヨン達の位置を確認する。さすがにベテラン飛兵のノミは空中で激しく動き回っても自分の位置を見失うことはなかった。


「おぉ。プヨン殿、予想通りの見事な空中ダンプシュート。無事に受け取られるとは。意外に実戦派ですな」


 尻に火がついたこともあり、ノミらしく臨機応変三割増しのユコナ放出だったが、ノミなりにプヨンならサポートしてくれるという確信はあった。


 ノミが移動時に振り返り様子を見ていたが、プヨンは最初こそ高度に驚いたり気流にもまれてフラフラしていたが、すぐに歴戦飛行兵のような安定飛行が確認できたからだ。


 速度差はどうしようもなかったが、その分ノミは空路の露払いをしておけばいい。安心して先行できていた。


「むぅ。プヨン殿がいれば、飛兵の生存率が飛躍的に上がりそうですな」


 ついノミの口から独り言が漏れる。


 空中では軽症でもバランスを欠くとそのまま墜落モードになり、地面に激突することが多い。意識があっても無事に下りられる確率は低かった。


 そのため後方で自分の身を守りつつダメージを受けた味方の救護を担当できるストラップ兵が1人いるとその安心感は絶大だが、そのなり手はかなり限られていた。


 2人分を飛ばす能力がそもそも難しく、ストラップ兵がへまをした場合は、助けてくれる味方はまずいないためだ。


 ノミはプヨンの存在価値を目の当たりにして、一瞬ブルっと身震いした。飛兵隊に取って墜落死が減るとなったら喜ばないものはいない。ベイルアウト機能プヨンだ。


「プヨン殿、我らの飛兵部隊に入りませんか?」


 大声で言ってみたが、ノミの声はプヨンには届かなかった。




 その頃、ユコナはドラゴンフライに追っかけされていた。ごく自然に後ろにくっつかれてしまう。


「どうして、私にくっついてくるのよ。プヨン、もっとスピードアップ」

「ダメだ。誰かのお尻抵抗が予想以上に大きい。これ以上速度があがらない」

「むぅ」


 バシバシィ


 ユコナから腹いせの雷撃がプヨン目掛けて飛びまくるが、空中で狙いが定まらない。


 当てずっぽうなのか見当違いの方向にとんで行くが、流れ弾に当たった運の悪い一匹がやられて堕ちていった。


「おぉ。やるな。その調子だ。そのパワーをぶつけちゃえ」


 プヨンは大袈裟に笑いながら、得意の煽り魔法の効果でユコナの秘められた激怒パワーをさらに引き出していく。


「友釣りモード」


 プヨンは2人飛行に慣れてくると迎撃のためのおとり作戦に入った。


 ユコナがせっかくドラゴンフライに好かれているので、ユコナの速度を意図的に落とし引き付けてもらう。


「ちょ、ちょっとちょっと。もっとしっかり引っ張ってよ」


 ユコナの抗議を受けつつ、プヨンとユコナは二手に分かれ、ユコナに取りついたドラゴンフライを一体ずつ撃ち落としていく。


「サッチウィーブ」


 もともとそこまで集団に統率のないトンボの群れだ。


 プヨンは右からS字に、ユコナは左からƧのように進み、2人で8を描くように飛ぶ。そしてちょうど交点の位置で高度違いでお互いがすれ違うように飛び続けた。


 そうすると交点の位置で、3mほど下を飛ぶユコナを追尾するドラゴンフライがプヨンの真下を通る。そのたびにプヨンは小型の窒素魔法で一匹、また一匹と火だるまにしていった。


「プヨン流VTモード」


 窒素の結合エネルギーを利用した気体爆炎に、さらにVTモードで近接信管を試してみる。


 命中しなくてもある程度対象に近づいた時点でプヨンが遠隔で炸裂させ、各段に命中率が上がっている。


 瞬間的に1m四方程度の気体爆炎を発生させると、一度で1、2体を撃ち落とすことができた。


「なかなかの威力。申し分ない」

「うぅーー、わたしもスッキリしたい」


 プヨンがポコポコ撃墜していくのを横目にユコナがプンプン拗ねている。


 空中で飛びながら撃つためか、ユコナの雹弾ヘイルストンはことごとく軌道がずれてしまい、なかなか当たらなかった。


「そ、そんなことないよ。ドラゴンフライはユコナを高く評価してるよ。ほら、また、ユコナに取りついた」


「くっ。わたしにはおとり専門部隊になれっていうのね! 私は成長するのよ。グロウラーを目指すからね」


 窒素を利用したエネルギー抽出魔法『デルカタイ』や『ナイトライド』を使用して、まとめて全体を炸裂させることもプヨンには可能だ。


 ただ地上にいるならともかく空中での周りの動きが捕捉できていない。万一を考えると、味方機ユコナと連携しつつ適切な火力を使用するほうが安全で効率が良いと思われた。



 ほぼ決着がつきそうになっていた。


「よっし、これであらかた片付いたね」

「プヨン殿、お見事です」


 目の前のドラゴンフライは一掃でき、残りは散り散りに逃げていく。


 これまでプヨンは何度かドラゴンフライに遭遇したが、ずいぶんと慣れていた。群れで現れ次々に増えるため対応する時間がかかるだけで、そこまでの危険性はもう感じない。


「じゃぁ、ユトリナにいきましょう。メサルと待ち合わせがあるのでしょう?」


「まぁな。メサルの件は放置気味なんだけど、ちょっと妹レアのおかげで自由にさせてもらいすぎかも」


 本来メサルをプヨンは護衛する義務があったが、レアがくるなとばかりに近寄らせてもらえなかった。


「知ってる。レアさんが自分で守りますからって言われたんだっけ? まぁメサルもメサルだけど」


「ま、まぁな。メサルが襲われたときには、頑張って守るつもりはありますよ」


「じゃぁ、私はメサルシールドの後ろにいるようにするわね」


 ユコナの指摘で、プヨンの本職は学校ではなくメサル護衛だと思い出す。


 もっともメサル本人に言われているように、あれはどうみても親元を離れる口実に利用したのだろう。本気の護衛を求められたことは一度もなかった。


「私もプヨン殿をよく知る使命がありますが、今回はここまでで。胃袋燃料がそろそろなくなりそうですので、いったん報告に戻らねば」


 さっき2匹ほど空中給餌していたのをプヨンは見ていたが、ユコナを切り離したこともあり、ノミはそう言うと方向を変えた。


「このまま、『アブレスト』でユトリナまで並行しよう。バランス取り頑張ってね」

「ふぁーい」


 すでに精神的にかなり疲労しているユコナに最後の追い込みをかける。


 プヨン達2人と今頃のこのこ出てきたフィナツーは、そのままユトリナまで10分程度の飛行で無事到着した。




 その頃、ノビターンは一人ぶつぶつと呟いていた。つぶやきの95%はノミのことだ。今までノミのことで頭がいっぱいになることなどなかった。


「ノミは、無事手紙を渡せたのかしら? 今度しくじったら……どうしましょ。まぁ、実害はないと言えばないのだけど」


 だいたい過去の経験からも大きな期待をしてはいけない。まずは本当に無事なのか、そしてどの程度悪印象を持たれているかだ。


 露骨に敵対されては面倒なことになるが、表立ってコンタクトを取ることは、ノビターン単独では踏み切れないでいた。



「ノビターン様、そろそろ到着する時間ですが」


 ニードネンがそう告げた。今日はメレンゲ教授の研究報告を受けに、ソレムリン研究所にきている。



 うやうやしく出迎えるメレンゲ教授だが、ノビターンは、この教授があまり好きではない。


 純粋に研究に打ち込む姿は素晴らしいとも思うが、そのためには方法を厭わないところが共感できないでいた。


 それでも今日の教授はみるからにニコニコ顔だ。いい成果があったのがわかる。



 いくつかの魔法の威力効果や回復液の効果改善などの報告のあと、最後のとっておきがはじまった。


「これが今回の報告の、魔力増強薬『アルテプラーゼ』、飲むと2時間程度ですが体内の魔力路の通りをよくし、通常の数倍の威力で放出できるようになります。もちろん、必要魔力量も数倍になりますが」


「おぉ、それは素晴らしい。では、短時間であれば、従来の数倍の威力で魔力開放ができるのか」


 ニードネンは前回のもめごとのあと、戦力増強の必要性を感じており、威力数倍の説明に強く反応する。


「しかし、安易に威力のみを追求することをわたしは好みません。人は人がなせることをするほうがよいと考えます。弊害はないのですか?」


 ノビターンは、おそらく武力を背景にした勢力拡大には、あまり乗り気にはなれなかった。

 それを知っているメレンゲも、聞かれた弊害には答えず違う方向ではぐらかす。


「そこは使い方の問題ですな。大けが時の回復速度を高めることもできますし、災害時の復旧や土木工事でも使えるでしょう」


「おぉ。それは大いに役立ちそうだ。今後の改良もあれば、さらなる飛躍ができるのだろ?」


 ニードネンがメレンゲを持ち上げ、メレンゲも期待通りの反応で気をよくしている。しかしノビターンは肝心なところをはぐらかしている、いつものメレンゲのやり方を知っている。


「で、弊害はないのですか?」


 メレンゲの流暢な説明が停まる。顔にはでないが、答えにくそうなことはよくわかる。


「……現在改良中ではあるのですが、増やした魔力は、もっとも抵抗の低いところに流れ込んでしまうのが懸念されています」


「具体的には、どういうことですか?」


「もっとも精神的に抵抗が低い、そのとき一番強い精神面も同時に増幅されてしまう場合があります」


「どんな精神が増幅されるのですか? 一時的ですか? 戦闘をすると攻撃性や征服欲があがると、自身を制御できない者には副作用が大きそうですが」


「他には、食欲や性欲、睡眠欲などが確認されています。その時一番したいことを抑えられなくなるのが欠点でして……、そして一度強くなった感情は……数か月は残ります」


 一番答えたくないところをいろいろと聞かれ、メレンゲ教授は冷や汗をかいている。断片的に言葉を区切り、要領を得ないながらも副作用があることを伝えるメレンゲ教授。伏し目がちになっているところを、興味を示すニードネンがうまくサポートした。


「では、回復魔法を使う時には、人を慈しむ気持ちが大きくなるということですか?力作業であれば、働き甲斐を感じるとか? 要は使い方の問題では?」


そうニードネンが補足すると、メレンゲ教授は生き返ったように目を輝かし、


「そう。そうです。さすが、ニードネン卿。参謀をされておられるだけあって、正確に認識いただいておられますな」


そう言いながら、ノビターンをチラッと見ると、


「わかりました。現時点での採用は見合わせますが、効果のほどはありそうです。副作用を抑える方向で、引き続き研究をお願いします」


 ノビターンの研究継続の許可が出て、メレンゲはほっと胸をなでおろした。



ノビターンは次の案件があるといい、ニードネンを連れて戻っていった。それを黙って見送るしかないメレンゲ教授。


今回の報告はひさびさに画期的な成果と思っていたメレンゲ教授だったが、ノビターンの評価はかろうじて合格点だった。なんとか継続許可はもらえたものの少し落ち込んでいた。


今後は言われた通りに改良していくしかない、そう思っていると、今出ていったニードネンが再び戻っていることに気づいた。


「だいぶ落ち込んでいるようですね、教授。わたくしには画期的なものに見えましたが」

「ありがとうございます。しかし、副作用については把握していましたからな。ノビターン様は相変わらず厳しい」


 そこで少し沈黙が訪れたが、ニードネンはそっと距離をつめ、メレンゲ教授に囁いた。


「一つ聞くが、その副作用というのはどの程度か、十分に治験しているのかね?」


「え? いえ、それは、人に直接使いますので、少しずつしか……まだ、10人ほどですが全員何かしら出ておりまして……」


「そこでだ、ここで一発大きく研究データを取るというのはどうか? もちろんノビターン様には秘密ではあるが、近々、転生将軍のベッガース殿がライナール自治領から反乱を起こされるのは知っているだろう。そこで一般兵に使ってみようじゃないか? うん?」


「しかし、それは独断で実施されてもよろしいので?」


「わたしがライナール自治領の参謀本部付きになっているのは知っているだろう。なーに、前線兵のために人道的に支援された飲料水にまじってしまったのだ。事故だ。在庫は十分にあるのかね? できれば、濃縮された効果の高いものがいいな」


「1週間後であれば、1万人規模で用意できます」

「いいぞ。では、そういうことで」


 良い返事をもらえたニードネンは、ノビターンを追いかけるため、足早に立ち去っていった。


 

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