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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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神様の作り方 2-3


 プヨンとノミはしばらく雷神儀式の祭壇前でたたずんでいた。これといった予定がなくボーッとしている。


「プヨン殿は、この後はどうするので?」


「うーん、明日というかすでに今日だけど、雷神様の儀式の間は村の警備のお手伝いと護衛するよ。昨日すっぽかしたから、今日は頑張るつもり」


「プヨン殿は律儀ですな。しかし周りのメンバーがおかしい。先ほどの2人の木霊様もご神木といえる存在ですし、今度は雷神様とは。むむむ。さすがノビターン様が一目置かれるだけのことはある」


 ノミは高評価しかしないのだろうか。やたらと持ち上げられても困るので、ここは大人として礼儀上否定していると、それがまたノミポイント獲得につながる。


「そうなの? 雷神はネタだし、大木はそこら中にあるし、けっこう周りにいろいろいると思うんだけどなぁ。見ようとしてないだけで」


「はははぁ。ご謙遜を。プヨン殿は謙虚さも兼ね備えておられる」



 その後もノミの自問自答が続き、こちらの回答を待たず勝手に納得している。いちいち訂正せず、たまにさらに火に油を注いだ結果かもしれないが相当な過大評価だと思う。


 (俺ってもしかしたら、実力と謙虚さを兼ね備えた高潔な人物の演出でいけるかな?)


 プヨンはむず痒い気がするがしょせんあまりかかわりがない人物。実害はない。あまり褒められた経験がないプヨンがそれを楽しんでいた。



 ノミに受け取った手紙をもう一度読み直す。


 手紙の主がノビターンとなっていたが、何をそんなに気にしているのかよくわからなかった。


 ノミの雇用主だからか会話でも時折ノビターンの名と関連づけるような発言がある。思い込みレベルの評価な上にいい方向なのかもよくわからないが、プヨンが関心を持たれていることはわかった。


 

「なぜ、そんなに会いたいんだろう。ノビターンという方は何がしたいんだろうか」


「ノビターン様の縁者には偉大な指導者スイマール様がおられました。スイマール様は現在行方不明でして、今はノビターン様が代理として天啓を伝えられています。そして人類の永遠の平和な統治を模索される偉大な指導者の一人です」


 まあ宗教とはそんなものだろう。平和、人々の幸福を目指すのは一般的だ。そしてそれなりの地位にあるらしい。見た目は若そうだったが、筋肉強化で腹を引っ込めたり擬態魔法「スキャムメイク」などもある。特に女性は見たままで判断してはいけないことはよくわかっていた。


 プヨンは続きを促した。


「ノビターン様の考えはよくわかりませんが、何やら同じ匂いがすると言われていました。何か近いものを感じると」


 人類の平和とか天啓とか、正直ぶっ飛びすぎていてどう返したらいいかわからない。同じ匂いというのもわからず、ただ黙って聞いていた。



 ノミの説明はまだ続きそうだったが、早朝にもかかわらず人が見えた。


 まだ距離は離れているが何やら驚いている。ノミもノビターンの話を止め様子を見ていた。



「なんでこんなところに木が生えているんだ。いったいどういうことなんだ。雷神様の儀式の影響なのか?」

「さぁ? いくら作物が育つといっても、一晩でこれは……」

 

 よほど驚いているのか、大声で叫ぶため離れているプヨンにも声が聞こえてきた。


 まぁ、当たり前といえば当たり前の反応だ。昨日までなかった大木が一夜で現れたら、誰だって驚くだろう。一通り叫びつくすと村人は大慌てて引き返していった。



 再び静かになる。バイタもフィナ、フィナツーもどこかに行ってしまって戻る気配がないが、別の何かを感じた。どうやら風下から近づいてくるものがある。


「何かくるな。対磁気監視を全身にやらせよう」

「はい? プヨン殿? どうかされましたか?」

「何か変だな。殺気というほどでもないが……」

「たしかに。何か近づいてきますな」


 プヨンに言われ、動物的勘を有するノミも似たようなものを感じたらしい。


「なるほど。ノミガツクー粒子、緊急散布! プヨン殿、風上に至急退避願います!」


「え? な、なに?」


 言葉の意味はわからないがノミからただならぬ緊張感があふれる。反射的にプヨンが風上である左に飛び退くと、即座にノミが自身の羽毛を大量に散布させた。


 ブファー


 大量にばらまかれた羽毛はまわりの草木などにつくとぼやっと光り輝いている。そして、

もう一つ、何もないところに人型が浮かび上がっていた。


「ごほっごほっごほっ」


 突然、人型羽毛の中心部から激しくせき込む音がする。


 どうやら羽毛を吸い込んでむせているようだ。まもなく、集中が乱れてしまったのだろう。何もない場所からユコナが姿を現す。激しく咳き込んでいた。


「うっ。ユコナか……」


 何かが近づいているのはわかったが、ユコナだとは思わなかった。


「ふ。我らに風下から近づくなど、隠密行動の基本の基の字も知らぬ。我が背後は取れぬ。その羽毛はものにつくとぼんやりとひかり、吸い込むとアレルギー反応でしばらく咳き込むのだ」


「そ、そんな。ゴホゴホ。ルフトには風上からは……行くなと言われたのに……」


「しかし思ったほど吸い込まなかったようだな。慎重さがある。ド素人でもなさそうだ」


 雷神の儀式衣装に身を包んで着飾っているユコナは、隠密行動がばれた上にアレルギー反応で涙目になっている。


 それでも息を殺していたのだろうか、吸い込み量が少なくダメージは大したことはなさそうだ。


 背後から近づいて脅かそうとでもしたのだろうか。それならさして強くない殺気の理由も納得できるが、今日のノミは厳しかった。


「風下から行くのは基本だが、基本例題をそのまま使うなどありえない。戦いは非情だ。常に二手三手先を読むのだ。わたしにはさらに上級の隠密露見魔法ミノヘスキー粒子もあるぞ」


「それは弾数制限があるのではないか?」


「むぅ。プヨン殿この原理を一瞬で見抜くとはさすがですな。屁の散布量は調節が難しいのです」



 しばし沈黙が訪れる。


 そっちを食らっていたら、おそらくユコナのリミッターは解除されていただろう。状況を理解したのか、今後起こるかもしれない危険を未然に防止するためユコナが次の手を打つ。


「むぅーーーーん。雷神様を敵に回すとは、この身の程知らずめー!聖雷!」


ビシィィ


「ぴぎゃーー!」


 どこまでが、なりきり雷神ユコナのノリなのかわからないが、ノミは強烈な雷神様の一撃を受けていた。


「プヨン! 次はプヨンよ!」

「俺は無関係だ。単独犯だ!」


 ノミの羽毛が体にまとわりついて光っているユコナがにじり寄ってくる。


 一瞬慌てるが、最近のプヨンは癖で常時防御魔法を展開している。当然、磁気発生魔法『ヘブンホルツチャンバー』も発動中だ。常にプヨンの周囲は一定方向の有磁界になっている。


 バシィィ


 プヨンに直行した雷撃は、途中で曲げられて地面に落ちた。轟雷の音がこだまする。


「ま、待って。なんでさっきのノミより威力があるんだ」


「プヨンは手加減いらないでしょ。問答無用よ」


バシィ、バシィ


「むぅ。どうして避けるのよ。全方位出力、『ラウンドライジング』。あっ、プヨン、反対からの攻撃も避けたわね」


 地面に落ちたところに雷撃跡の黒点がどんどん大きくなっていく。


 もう、わざとくらって穏便にすますという選択肢は難しい。すでに15発以上避けきっていた。ユコナの持久力もなかなかだ。


「ふっ。俺の『マグネットシールディング』もずいぶん精度があがったな」


 プヨンが自分の防御効果に満足していると、いつのまにか遠巻きに村の人たちに囲まれていることに気づいた。


 早朝にもかかわらず、村から大勢の人たちが集まってユコナの雷乱舞を見ている。


 まぁ当たり前ではあるが、これだけ大きな音と光を出していたら、誰でも気が付くだろう。


 ユコナからの20発以上の雷撃を、すべて地面に落として避けきると、ユコナもさすがに気が済んだようだ。


 ふーふーと荒くなった呼吸を整えながら一息つくと、村長とレオンが駆け寄ってきた。村長が感激して叫ぶ。


「こ、これは。伝説の神成りの儀式ではありませんか? 雷を発動させる雷神様、そして、その雷を大地に導く避雷神様が2人そろってこそ成せる究極の儀式だと古文書『くわばらの書』に記されていました。おぉぉ、生きてこの目で見れるとは」


「ら、雷神様。後光がさしていますがどうされたのですか。プヨンさん、一晩姿が見えないとい思ったら、いつのまにこのような準備を。」


 レオンも村長の後ろで意味不明のことをつぶやいていた。ユコナも『え?』とつぶやいたあと、村の人たちに取り囲まれてしまう。


「雷神様の全身が光に包まれているぞ。なんて神秘的なんだ」


「雷神様と避雷神様が両方そろうなど、今年は豊作間違いなしだ」


「一夜のうちにあんな巨木が育っているぞ。あれは霊木に違いない」


「ほんとほんと。昨日までは小さな苗木が一本あっただけなのに。あれは村の守り神様の木ね」


「今年の夏はきっと何かあっても雷神様達が撃退してくださるに違いないわ」


 皆、口々にユコナを讃えている。面食らっているユコナも先ほどまでのことはすっかり忘れ、全力で戸惑っていた。もちろん、プヨンも避雷神などと勝手につけられて困惑していた。



 ないとはわかっているが、助けをもとめふとプヨンがバイタ本体の神木を見ると、フィナとバイタとフィナツーが雷後のノックス浴を楽しんでいるのが見えた。


 そして地面から倒れているノミのかすれた声が聞こえる。


「あれだけ雷を避けられるとは、神タイプ。本当に存在するのかもしれん。一方でわたしは初弾で大破……無念なり」


 ノミは気を失ったようだった。




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