掃除の仕方 2-3
相手が一体だと目の前に集中すればいいが、多対一は苦手なプヨンだ。体対応するのも時間もかかる。
プヨンは持久戦も苦手ではないが、ただ戦闘を長引かせても不利になるだけだ。ちょっとしたミスなどで危険になる確率も増えるし体力も消耗する。
「よし、俺ちょっとやるから」
「え? 何を?」
返事がダメでもやるつもりだ。ここは一気に大ダメージを与え状況の打開を図ることにした。
ちょうど試したかったことがある。空中に無尽蔵にある窒素を使った爆発がいいのではないかと思っていた。
原理はこうだ。空中にある窒素は、もっとも結合エネルギーが高い三重結合がある。
あらかじめエネルギーを注いでばらしたものを周りにまき散らし、そして瞬時に結合させれば、最大効率で火力を取り出せる。
これで空間そのものを爆発させると桁違いの火力になると期待する。
ここでならちょうど効果を見る条件がそろっていると、ちょっと笑みがこぼれてしまった。
「いやぁープヨンが笑ってる」
フィナが珍しく叫んでいる。
過去、この手のことを考えたあとフィナにほんの少しだけ怖い目にあわせたことがあったのをいまだに根に持っているのかもしれない。
「だ、大丈夫だから。ちゃんと計算してあるから」
「騙されないわよ!」
たしかに短時間で一気にいくほど、規模のコントロールが難しくなる。初回は控えめにして、予想外の威力でも大丈夫なようにする。
プヨンは意外に慎重派だった。
プヨンの動きが鈍くなり、何かよからぬことを考えいるのだろうと、プヨンが何かしらの魔法の準備体勢に入ったことに敏感に気付くフィナが距離を取る。
素早く動きつつ自前の棒切れを振り回す。周りのカルカスたちを牽制して距離を取ると、プヨンに注意を促してきた。
「プヨン、者間距離は大目に、威力は控えめにね」
「え? 威力は控えめにするの? 逆じゃないの?」
「そうよ。控えめに。自分で扱える範囲にして。前も周りを火の海にしたでしょ」
「え? そうだっけ。わかった。」
新規の魔法では力加減がわからず、同じエネルギー量でも、瞬間なのかじわっと広がるのか、反応速度の違いで効果も随分と変わってくる。
一度発動すると魔法の反応はごく短時間で行われ引き返せない。途中で止めるには相殺するしかない。間に合えばだが。
なるべく遠く離れたところ、カルカスを飛び越えた向こう側、100m程度離れた大岩のあたりに狙いを定める。
「右のほうで。よし、やるよ」
「え? わかった。右ね」
フィナがすぐに反応し走り出す。
「シュティックシュトッフ」
耳をふさぎながらわき目もふらず、右に走っていた。
「え? なんでだ?」
狙いを定めたところにフィナが駆け寄っていく。右だけが聞こえたのだろうか。
ピカッ、ドッゴーン
「うっ。きゃーー」
慌てて方向をそらしたから直撃ではなかったが、瞬間で発生した大火力の咆哮がこだまする。
最初に空間全体がまばゆく輝き、直後に激しい爆轟音が聞こえた。低音の長く続く爆発音だ。周囲が静かだからか、落雷のような音が周りに響き渡っていった。
その直後にプヨンにも衝撃波がぶわっと襲い掛かってきた。
「うそつきーー」
叫びながらフィナが吹き飛ばされて戻ってくる。
「え? うそっ。なんだこの重さは」
予想以上の衝撃があった。まるでプヨンの槍を落としたくらいの衝撃だ。それでもなんとか間一髪で受け止め、地面に落とさずにすんだ。
発動の範囲内に入り込んでいなくてよかった。通常の魔法爆発であれば、発動した地点を中心として、周囲に向かって爆発する。受ける衝撃波は一方通行だ。
だが今回の気体爆発は、サーモパリックに近い。周囲の物質が同時に熱を開放するため、爆圧は全方位から中心部に集まり桁違いの威力になる。
中央に入っていたらタダではすまなかったはずだ。
「こ、これは……」
「あいたっ」
今の火力を見ると、自分で予測してたものとはいえ、一瞬動きが固まってしまう。おかげフィナを地面に落としてしまい、ダブルで恐ろしくなっていた。
特にこれと同じ方法で攻撃されたらどうするか。自分の体の周りに密着させて防御壁を張り、衝撃波を防ぎ熱風を遮断するくらいしか思いつかない。
それでも防ぎきれるか確証はない。もちろん間に合わなければアウトだから、相手の攻撃を待ってからの対応では遅いだろう。
もちろんそれは目の前の脅威、その前にフィナの攻撃を排除してからだ。
バンバンンバン
「ご、ごめんごめんって。そっちにいくと思わなくて」
「だから、聞いたでしょ。何度も。確認してからにして」
カルカスそっちのけでバンバンされながら、相手が同じを攻撃した場合を想定し独り言が漏れてしまった。
「これを常時防げるようにしておく訓練をする必要があるのかぁ」
これだけのエネルギー量からするとそうそう使われることはないだろうが、自分で自分に攻撃を仕掛ける自縄自爆訓練をする必要を感じていた。
かなり威力を抑えたつもりで、発動する場所からは十分な距離を取ったつもりだったが、それでも軽く50m程度の範囲で爆轟が生じていた。
瞬間的に発生した高熱による上昇気流のせいだろう。中心部は草なども中心に向かって倒れこんでいた。
ガンッ
そこまで考えると発動の反動なのか、一瞬意識が飛んだ。
作り出した窒素爆薬は期待通り爆発したが、短時間、広範囲発動の魔法であったこともあり予想以上の体力の消耗と、予想以上の頭への一撃をくらったようだ。
一気に現実に戻る。フィナもこれで気がすんだようだ。
「プヨン、爆発乱用ダメ。ゼッタイ。もっと加減して。ここは草地なのよ。このあたりは生き物は……ほとんどいないけど、もうダメだからね」
「ごめんよ。わかってたんだけどね。あー、もしかしたら、村の方でも気付かれてしまったかなぁ」
フィナ得意の粒子カッターでなく木刀の一撃で許してくれたフィナには素直にごめんと言っておいた。
村からも数キロしか離れていない。今更だが村には光も音も届いているだろう。今頃騒ぎになっているかもしれなかった。
爆発後の上昇気流が落ち着く。
十数体のカルカスは周りの石や草木と一緒に大半がふきとばされ、爆発の中心付近にいた数体は身体が千切れ飛び、すでに死体だがさらに瀕死のカルカスとなっていた。
「上に気を付けて!」
フィナが上を指さして叫ぶ。
ボテッ、ボテボテッ
慌てて上を見ると、少し遅れて近くにも飛び散った破片や舞い上がった草木が落ちてくる。
「うわっと。こ、これは。危なすぎる」
自分で出しておきながら、違う意味での危険性にも気付いた。下手すると飛ばされた相手の肉片を浴びたりもしそうだ。
やはりこの威力はどこでも使えなさそうだ。間違っても、そのままでは屋内での使用禁止にしておくべきだ。
下手すると自分や周りの味方も危険にさらすし、建物も崩壊してしまうだろう。
使う場所やタイミングも神経を使いそうだし、密室などで使うと想像するだけでもひどい結果になることがわかる。
気圧変化や爆発後の酸欠なども気を付けよう。課題はいろいろとありそうだった。
フィナツーも姿勢を低くし、逆浮遊魔法を浮遊ではなく地面に向けて逆向きに使い、体を地面に押し付けて飛ばされないように踏ん張っていた。
ガサガサッ
少し離れたところで音がする。
さすがにすべてを範囲内には入れられず、爆圧の中心から外れてしまい、損傷を負いつつもまだ動いているカルカスがいた。
そのうちの一体に向き合うと、さっそく欠陥克服を試す。
今度は爆風が外に漏れないように、対象のカルカスをパイオンによる防御壁で覆った。そして防御壁の中に閉じ込めた状態で、先ほどの爆発魔法を使う。同時に防御壁の効果も確かめられるというものだ。
敵を防御壁で覆うのは逆のようにも見えるが、周りへの心配をする必要がなくなる。さらに密閉された空間だとすべての圧力が外に逃げないため威力が激増した。
カッ、ドッゴーン
先ほどと同じ現象が防御壁内で起こる。
「プヨンって、けっこう鬼よね」
「あ、あはは」
フィナからありがたいお言葉をいただく。
行き場のない爆圧をまともに受けたカルカスは、もともと体組織が腐敗している。
柔い部分は粉々になり、大半が消し炭になっていた。
この魔法は防御壁とセットで使う方が使い勝手がよさそうだ。
「思った以上に防御壁は強いんだな。あのくらいじゃビクともしないのか」
防御壁の限界も未知の部分が多く思わず感想が漏れた。
もう中途半端な火球よりは、こちらの方が使い勝手がよさそうだ。今日はとても有意義だった。




