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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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掃除の仕方 2―2


「では、いい子のわたしは夜遅いので帰ります。さよーならー。フィナツー脱出します。秘密魔法『たんぽぽの綿毛』」


 帰るってどこにとプヨンは思ったが、そういうとフィナツーは宙に浮き、そのまま漂って空に舞い上がろうとする。


「却下。プヨン、捕捉して!」

「了解。まかせろ『トービーム』」


 即座にフィナが反応し、プヨンに指示を出す。もちろん、言われるまでもなくプヨンは敵前逃亡を断固阻止する。

 

 フィナとフィナツーは一心同体かと思っていたが、まったく同一というわけでもないようだ。


「甘いな。フィナツー脱出作戦は失敗だ!」

「ひ、ひどい。私みたいな民間人がいるのに理不尽だ」

「ひどくない。フィナも許さないし神も許さない。そしてそんなやつは俺がお仕置きする」

 

 プヨンはとりあえず下降気流を起こしてフィナツーを地面に引き落とす。


「ダウンフォース」


 フィナツーを地面に不時着させたが、風に流され、プヨン達から少し離れたところにいたカルカスのそばに落ちてしまった。


「あっ、まずい。フィナツー急いで戻れ!」

「ひ、ひえぇ。ひどい、ひどすぎる」


 フィナツーは抗議の声をあげる。そこまでするつもりはなかった。


 フィナツーの体自体は生肉ではないから食べられはしないのかもしれないが、一体の死狼に飛びかかられ逃げ惑っていた。


 爪で抑えつけられそうになりながらもなんとか避けているが、なかなかプヨンのほうに戻ってこれない。


 さすがに危険と思ったプヨンが咄嗟にそのあたりに転がっていた大きめの石を投げつけ、フィナツーを追いかけていたカルカスにぶつけてよろめかせ、時間を稼いでやった


 前回レオン達とカルカス狩りをした時もそうだったが、死肉だからなのかあまりすばやい動きはできないようだ。


 対人戦闘に比べると動作が緩慢なぶん考える時間があり、囲まれない限りはまだ敏捷性には余裕があった。フィナツーもなんとか逃げ回っている。


 その代わり怪我や死ぬということをまったく恐れないで向かってくる。攻撃をするよりは自分がダメージを受けないようにする必要があった。


 フィナがいつのまにか片手に固そうな棍棒を握っている。


 フィナが危険を冒してまで攻撃性を出すのは珍しい。それでもプヨンはフィナの方を振り返り言うべきことは言っておく。


「危険があることなら、前もって言ってくれないとダメだよ。やるならやるで準備はしたい。けっこう唐突だ」


 プヨンはそう言いながら、先日作った黒色矮星素材の脳灰色の短槍、ブラックドワーフを構えなおした。


「はうっ。ごめん。さっき話をしていて、夕方に急に思いついたの」


「えぇ? 話をしていて急に戦闘したくなるとか危なすぎない? 性格的に」


「前からこのあたりの負性の雰囲気をなんとかしたかったのよ。なにか武器を作ったっていうから、ちょうどいいと思って。ほら、この辺りにいついた負の生き物のせいで、ふつうの生き物が生きられないでしょ。掃除しようと思っていたの」


 珍しくフィナがしどろもどろで理由を説明する。


 カルカスは地縛霊のようなもので、死んだところから遠く離れて動きまわることは少ないが、簡単に死なないだけに何も知らずに近づくととても危険だ。


 そして、単なる土地の高さで水捌けが良い悪い土地があるように、この辺りは生き物の負の感情などが強く集まりやすい土地柄ということだ。


 掃除したくなる気持ちはわかるが、もうちょっと準備させて欲しいところだ。



 あらためてうごめく者たちに向き合う。狼の群れに囲まれたような威圧感がある。


 そのうちの一匹がフィナに飛びかかる。一瞬驚いた顔をしたフィナだったが、後ろにステップを踏んでかわしていた。


「なぁ、こいつらってなんでこっちにくるの?」


「え? えっと。きっと告白よ。好きなんじゃないの? 食べちゃいたいくらいに。ほら、あそこに見えるあの子はきっとプヨンを食べたい・・・・・と思うな」


「同年代にしてくれぃ」


 こんな状態にもかかわらず茶化されてしまったが、たいていは死の間際に残っていた最後の欲求が残っていることが多い。


 食べたい、生きたい、助けて欲しいとかが多いと聞くが、真偽のほどは本人にしかわからない。


 フィナが指さす先を見ると半分骨が出ている。ミイラ化した大型の猪か何かの死骸だ。

 

 人ならまだしもフィナの説明が適当なのが丸わかりだった。


「年齢も重要だが、それ以前にせめて同族にしろ。もちろんフィナを食べたりもしない」


「ふーん、私が秋に作る木の実は絶品なのに。もうあげないよ」


 戦闘モードなのに、フィナが作る絶品木の実を思い出す。あれは言葉に表せない、得も言われぬ絶妙のバランスの果物だった。


「やっぱり、たまに食べてもいいと思う」


 プヨンはあっけなくフィナに降伏してしまった。



「そろそろマジメにいくわよ。一緒に死んでとか、子孫繁栄を願っているとかもあるから、気を許しちゃダメよ」


 何度か手に持つ棒切れを振り回し足などを狙っていたフィナが、サラッと恐ろしいことを口にする。


 そう言いながら、フィナは何やら黒い花粉を目の前のカルカスに振りまいていた。そして、


「シーデトネイション」


 近づいてきていた一体が軽く爆発したかと思うと、松明のように燃え上がり周りが明るくなった。


 フィナが自分の花粉を用い、炭素繊維の粉塵爆発を起こした。フィナが火魔法を使うのは珍しいが、やはり死体化したカルカス相手だと火葬がいいのだろうか。


「死体にやられるとか考えるだけで怖すぎる」


 ずいぶん前にレオン達と一緒に行動したときに、カルカス化した動く死体と出会ったことがあった。

 あの時は初めてであったこともあってずいぶん戸惑った記憶がある。


 気を引き締めてかかることにした。


「どうやるのがいいのかな?」

「バラバラにするのがいいかな。骨だけでも動くことがあるし、手加減しても意思が完全に分離されるまで動き続けるわよ」


 そう言っている間にも、プヨンにもゆっくりと一体近づいてくるものがあった。


 この槍も何か名前が欲しいなぁと思いながら、ブラックドワーフの槍で軽く振り払ってみた。


 超重量の槍だ。惰性で体が引っ張られないように気をつけながら、この重さを利用して振りぬくと、


ビュン、ドコーン


 相手は大きめの4つ足の獣のようだが100kg程度だろうか。軽く振ったつもりだが、重量差のせいか棍棒で小石を打ったように軽々と吹き飛んでいった。


「おっとっと」


 勢い余って体が槍に引っ張られる。やはり慣性をうまく制御しないとバランスが取りにくい。


グシャッ


 打ったカルカスは暗闇の中に消えていったあと、少なくとも5、6秒は経ってから地面に落ちる音が聞こえてきた。それなりの高さまで吹き飛んだようだ。


 計算した通りだが、巨大な質量による威力はやはり十分だろう。カルカスの撃ち抜かれたところは、バラバラに砕け散っていた。


「ええっ」


 フィナが吹っ飛んでいくのを見て驚いたようだ。墜落音がするまでの時間を見ると、かなりの距離を飛んでいったようだ。


「そ、それが連報の新兵器の威力なのね」

「新兵器って言っても特別な効果はないただの棒だよ?」


 予想通りの威力で笑みが溢れるが、プヨンはクールに決めてみたつもりだ。もちろん別になんの変哲もない棒だが、人知れず喜んでいた。


 さらにもう1体、寄ってきたものを同じように吹き飛ばす。


「おぉ。圧倒的じゃないか。我が棒は」


 長さも長すぎず、ちょうどいいできあがりだった。


 フィナはあまり疲れたようなそぶりを見せない。


 「フィナは疲れないのか?」


 「えぇ、大丈夫よ。私は月明りくらいでも十分に光合成ができるから」


 「なるほど、月明りで永久動作ができるのか。お腹が減らないのはすごいな」


 おそらく呼吸も自力調達しているのだろう。プヨンもさして疲れたわけではなかったが、フィナの体力は無尽蔵にあるようだ。


 そうして大して疲れもせず、プヨンもフィナも順に1体ずつ、各個撃破で確実にしとめていく。


 まわりにはところどころに打ち砕かれ、粉々になったり燃え尽きたカルカスの火葬体が積みあがっていった。



 時折動きが素早いものがいたり、倒したと思ってもいくらでも湧いてくる。なかなか終わりが見えないほどほどに激しい戦いが続く。


 時折かすり傷を負いながらも、プヨンもフィナもなんとかうまくかわしながら、うごめくカルカスの数を確実に減らしていった。


「あっ、しまった」


 しばらく順調に数を減らしていっていたが、フィナがステップを踏み損ねたのか、地面の凹凸に足を取られたようでバランスを崩す。


 そこにタイミング悪く、獣のカギ爪が腕にあたり、棍棒がはじけ飛んでいた。


「あ、まずい」


 プヨンは横合いから急いで空気弾を撃ち込み、フィナに飛びかかろうとしていたカルカスを風圧で地面に横倒しにする。


 同時に体勢を立て直したフィナ、自分の体の一部を使った硬質微粒子で腐肉を切り崩し、動けないようにしていた。


 危険な状態になった上に、カルカスの腐臭や見た目が愛らしくないこともあってフィナも容赦がない。


「これ、どこまでやるんだ? 一掃ってできるのか?」

「いなくなるまでやりたいけど、無理かな?」

「あっ、フィナあぶない」


 いつのまにかフィナの周りを囲もうとしていた10体ほどに向かって、『ゴールキーパー』で強力火球を連射する。


 フィナの前に立ち、カルカスがフィナに近づかないように気を付けていた。



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