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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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掃除の仕方 2―1


 夜、プヨンが指定された時間に食堂へ行くとユコナが先にきていた。かなり疲れているように見える。


「ど、どうかしたのか?」

「な、なんでもない」


 どうやら戻ってからずっと訓練をしていたらしい。食事もそこそこに、再びユコナはルフトに頼みこんで姿隠しの特訓に行くと言って出て行った。


 付き合うルフトも大変だが、ユコナがそこまで気合を入れているとは、何かよほどのきっかけがあったのだろうか。



 そして夜になった。


 プヨンは今晩は泊めてもらえることになっているので、寝る前の散策をしていた。


 夜の闇の中を歩くのは、周囲の観察魔法のいい練習になる。それも兼ねてなるべく遠回りして、予測がつかない初めて通るところを選んで宿舎に向かっていた。


 すると向こうから一体何かがやってくるのに気づいた。プヨンが光源魔法で窒素をうっすらと光らせると、どうやら鎧を着こんだ女性のようだ。


 しかしよく見ると膝下と首から上がない。闇夜の中、両手と胴体のみが浮かんでいる。


 ザッザッザ


 膝下がないのに足音をさせながら、突然こちらに走り寄ってくる。


 首のない見知らぬ鎧が宙をすべるように走り寄ってくる。最初は何かと思いそのあとギョッと固まってしまったプヨンは、完全に逃げ遅れた。


 得たいが知れないもので恐れを感じているからか、足も思うように動かない。必死に逃げようとするが、おいかけてくる胴体はものすごい勢いで距離を詰めてきた


 「うゎったっ。じょ、除霊魔法ってどうやるんだっけ?」


 メサルからちょっとだけ聞いたことがあるが、プヨンは真面目に聞いていなかった。除霊魔法があるのは知っているが、こればっかりは原理がまったくわからない。

 以前メサルが言っていたことをもっとしっかり聞いておけばよかった。激しく後悔していると、


「プ~ヨ~ン~」


 名前を呼ばれた。脳内でも読み取ることができるのか。


 なぜ知っているのかなど考える余裕もなく、心臓が一気に強く打つのがわかるが、その声もどこから響いてくるのかわからない。


 さらに足音が近づく。


 ダメだ、もう5mと離れていない。鳥肌が出て、暑くもないのに、汗をかいていた。



 プヨンはこうした精神力の生命体は苦手だ。そもそも普段は出会うこともない。


 メサルあたりならなんらかの手段があるのだろうが、こうなったらいちいち悩むよりは、手っ取り早く周り一体吹き飛ばすしかないとの結論にいたった。もっとも吹っ飛ぶ確証はないが。


 方法はすぐに思いつく。光学レーザーを乱れうちするか、高温高圧化で生成させたポリ窒素を爆発させる『ポリナイトライド』で、このあたりを焦土にしてやろうか。


 今まで試す機会がなかっただけで、お試しアイデアは多数取り揃えてある。



「この世から失せろ。成仏しろ!」

「どう? 頭と足が消せるようになったの」

 

 プヨンが相手を撃墜しようと光子砲を撃つ準備に入る。炭酸ガスの励起光が集まり、手のひらを中心に周りが熱を帯びる。漏れた光でぼんやりと明るくなると同時に、ユコナがあらわれた。声もいつもの声に戻り、残りの部分も見えるようになる。


「紛らわしいことはやめぃ。ここがほっぺか」

「ひぁっ、なんでなんでよ。ここはすごいねって褒めるところでしょ」


 ほっぺをぎゅーとひっぱる。お仕置きされてほほが赤くなったユコナが抗議の声をあげる。もちろん、プヨンは両側に引っ張り続けた。




 翌朝、プヨンは今回作った槍を持って待ち合わせに行くと、わざわざレオン小隊長が出迎えにきていた。プヨンとは会わなかったが、彼も巡視の都合などで昨日こちらに立ち寄っていたらしい。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 久しぶりに見たがレオンは変わらず元気そうだ。


「今も引き続き街の守備隊にいるんですよ。小隊長になったといっても、結局やることは大差ないんです」


 そう言いながらも、新人が下に入ったので、雑用係からは脱却したと喜んでいた。


 レオンは戦闘目的ではない軽装備で体型がわかりやすい。前回会った時より体格がガッシリした印象を受け、腕回りも太くなっていた。


 さすが小隊長になるだけあって訓練に余念がないようだ。

 

 普段から大隊長あたりにしごかれて、いや鍛えられているのがうかがい知れた。



「さあさあ、ユコナさん。ただの兵士用の護送馬車ですがこちらへどうぞ」


 兵士運搬用だから装飾などはまったくない、道路の状況がしっかりと伝わる軍用馬車に乗り込む。


 適当にボロ毛布を寄せ集めただけのクッションシートに、ニコニコしながら座るユコナ。


 雷神様お迎えの馬車とは思えない豪華さだが、形式などは気にしないユコナは、単純にエスコートされることが嬉しいらしい。機嫌がよかった。


 レオンの話では、今日も前回と同じ村の雷神祭りに呼ばれている。


 去年までは祭りの間の人出が増える。


 その見回りという名目で慰労されにいくだけだったが、今回はしっかりとした目的がある。秋口のユコナのご活躍により村長からの正式に依頼があったそうだ。


 雷が落ちると作物がよく実るところから、この時期はどこの農村でもこの手の祭りが催されていた。


「ユコナさん、今日はお酒は控えめにお願いしますね」

「え? わたしお酒を飲んだ記憶なんか一度もないわよ? 急にそんなこと言うなんてどうしたの?」


 レオンのおそるおそるの念押しをユコナは無邪気に返す。言い換えると毎回記憶がなくなるまで飲み過ぎるということを示していた。


 レオンは緩く言ったら逆効果と思ったのか、しばらくやり取りが続いたが、


「絶対禁酒ですからね! プヨンさんもよろしくお願いしますよ」

「うんうん。もちろんですよ」

「え? プヨンまでどうして? ひどーい」

「ひどくないですよ」「ひどくない」


 プヨンとレオンは即座に同時に返し、はもってしまう。とうとう絶対禁酒になってしまった。


 プヨンももちろん同意し、レオンとは認識が共有できている。


 その後もユコナは何度もレオンに念押しされていた。



 その後はお祭りを前に楽しい会話が続き、休憩を挟みながらも暗くなる前に村に着いていた。


 レオンは小隊長になったと聞いていたが、下についた2人の部下が村長代理を伴って出迎えていた。


「小隊長殿お疲れ様です」

「さぁさぁ雷神様はこちらへ。祭祀用にお着替えください。バシッと試し打ちもできますよ。もちろんお好きなだけどうぞ」


 祭りは明日だが前日は祭りの準備だ。レオン達も色々とやらないといけないことがあるらしい。


 レオンは見回り業務と慰労会の確認のため、そしてユコナは俗世の穢れを取り除くべく、身を清める儀式がある。


「わたし、あんまり穢れてないと思うんだけどなぁ」

「うんうん。そのちょっとが物凄いんだろう」


バシッ


 早速試し打ちが行われていた。



 当たり前だが村は人出が多かった。おそらく近隣の村からも集まってきているのだろう。


 プヨンが試食と称して屋台を見回ったり、村の人たちの往来を眺めていると、カバンからフィナツーが顔を出した。


「さぁさぁ、プヨンはこちらへ」

「え? なんだ?」


 フィナツーが前に立ちプヨンを導いていく。森に入ってもまだ進んでいくと、フィナ本体が待っていた。


「ささっ、プヨンはこちらへ」


 フィナがフィナツーの真似するのもおかしいが、プヨンは切り株に腰掛けるように促された。


 久しぶりな気はするが常時フィナの分身フィナツーがいるからか、あまり久しぶりという感じはしない。


 どうやらそれはフィナも同じようだ。しばらく適当に近況などを確認したが、すでにお互い知っていることが多く目新しいことはなかった。


「しかし、よくここにくるのがわかったね」

「連報もなかなかやりますので。フィナツーが見たこと聞いたことはだいたいわかるの」


 この『ちくりんぼう』めとフィナツーを見たが、どうやら経験したことを共有化しているのだろう。フィナツーはテヘへと誤魔化すとフィナと一体化してしまった。



「じゃぁ、ちょっとお願いしたことがあるから、こっちにきてね。ちょっと歩かないといけないけど、今日のプヨンは大活躍の予定になっているの」

「なんだそれ。お願いしたいことって? 大活躍するようなことなのか?」


 会話が一段落すると、再びフィナはプヨンを伴って足早に歩いていく。走っているといってもいいくらいの速度で、そのうち森を抜け広めの草原に出た。


 すでに暗くなってきている。月明かりの下を見ると膝下程度の草が一面に生えている。少しぬかるんでいるところもあるが、草の背丈はそう高くなくかなり広範囲が見渡せた。


「ここはたしかデキシサスだよなぁ。以前は牧草地だったらしいけど、10年ほど前に放置されて、今はただのあれ野原だっけか」


「このあたりは周りに比べて土地の高さが低くて、昔は湿地帯だったの。周りで雨が降ると水が集まってきてすぐに池になってしまうの。野生生物の繁殖地だったのよ」


 一時期観光や牧畜のために干拓されたが結局、水を汲み上げる風車、ウィンドミルーが思うように動かず、たびたびの洪水などで水没もするため、結局放置されてしまった土地だ。


 たしかに今立っている位置からは周囲がすべて丘のように高くなっている。水がたまるせいか、地面もぬかるんでいるところが多い。これで豪雨が降ったりするとここに向かって周りの雨水が流れ込んでくるのだろう。すぐに高台に上がらないと、確かに溺死してしまいそうだ。


「じゃぁ、もう少し奥に行きましょう」


 フィナに誘われるままに、奥に向かって歩いていく。途中から、プヨンは地面がぬかるむので、極力歩かず、体重を軽くして半分浮いていた。


 ふと首筋がゾクッとした。何やら触られたような気がする。そんなことが2度3度続いた。最初は気のせいだと思っていたが、やたらと背筋に寒いものを感じる。何がとは言えないが、何かがいるようだ。だが、何も見えない。


「ところで、お願いってなんなの? もう夜ではあるけど」

「それはね、お掃除よ。でもそんなに多くはないの。すぐ終わると思うけどなぁ」

「???」


 フィナのいうことが今一つピンとこなかった。それでも詳しい説明はなく、フィナは歩き続けた


「ついたわ。ここがこのあたりの底よ」


 突然立ち止まってそう言われた。たしかにこのあたりの最底なのだろう。もうこのあたりは地面ではなく、完全に湿地になっていて水面が見えている。


 プヨンは途中から浮遊で浮いていた。フィナも木製だから水の上に浮くのだが、おそらくフィナもなんらかの浮遊をしているのだろう。そう思っていると、


「さぁ、ぽつぽつと来たわよ。プヨン、聞くところによると、ちょっといいものを作ったんでしょ? どんなのか見せてよ」


「ぽつぽつ?」


 そう言われて周りを見ると、なにやらゆっくりとだが、うごめいているものがいる。いつのまにか完全に囲まれていた。


 よく見ると人ではあるが、まともな格好をしていない。どうやらこのあたりで溺死した人や動物の死体のようだ。

 半分腐っていて、けっこうグロい状態のものも多い。


 死んだあとも残った意思の力で動いている、カルカス化した死体のようだった。


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