ドワーフの剣の作り方 3
プヨンは疲れ果ててはいたが、久しぶりに心地よさを感じていた。
気になったことはとことん試す。その間は不思議と疲れを感じず、もちろん徹夜も問題ない。
そしてもうこれ以上は難しいと思う諦めとの境界ギリギリで、天啓に導かれるかのように正解を見つける。過去、何度もそうやって新しい課題に挑戦し達成してきた。
そのあとは泥のように眠るだけだ。達成感の後の心地よい眠りだった。
今回の成果は超重量の物干し竿。ちょっと思っていたものとは違ってしまったが、大いに役に立ちそうなものができていた。次は使い方をいろいろと試していきたい。
しかし、そんな幸福なプヨンに魔の手が迫る。
「プヨン、ねぇ、こんなところで寝てると化石になるわよ。宿舎のほうに戻れば?」
「うるさぃ。もうちょっと寝かせて」
何度も体を揺すられる。
「うるさい蚊だな。これでもくらえ」
いやいや目を覚ますが、まぶたが持ち上がらない。見慣れたような人影のような気もするが頭が回らない。
バシッ
「あ、いたっ」
何度も揺さぶられて無理やり起こされイラッとして、反射的に手で払いのけてしまった。どうやら、相手のほほに一発決めてしまったようだ。
同時にあたりに立ち込めた殺気に一瞬で目が覚めた。慌てて飛びのいたが、当然時すでに遅い。おかげでプヨンは手の平に一発で目が覚める雷撃を頂戴した。
「悪い手よね。どう? 目が覚めたでしょう。こんな地面でよく寝れるわね。それにちょっと汗臭すぎ。何日お風呂に入ってないのよ。まったく、夜は食事に戻ってくるのかと思ったら、いつまでたっても戻ってこないし。様子を見にきたら案の定ボロボロね」
一瞬で眠気が消し飛び、あらためて前を見ると、デポンを伴ったユコナが立っていた。
そういえばユコナも隠密の手ほどきをルフトとレヒトに受けていたはずだ。プヨンもついでだからとユコナ館の隅にある守備隊の宿泊先を借りることになっていた。
「それで、目当てのものはできたの? これ剣? キレイね。まるでガラスみたい。でもすぐ割れそう」
「ははっ、割れるもんなら試してみなよ。腰の鉄剣を擦り付けたくらいじゃ傷もつかないと思うよ」
この硬さを知らないのかと鼻で笑ってやった。
ユコナは興味深げに眺めていたが、そのうち床に何本か転がっている剣の一本を手に取って軽く振ってみたりいろいろと試し始めた。
「これ赤青でセット? 3組あるなら、1つはわたし用ってことなのかな? もう一つはサラ?」
「ユコナは剣なんか使うのかい? まあ練習ついでに何本か作ったものだから欲しければあげるよ。ついでに小さいけど盾もあるよ。ほら、この組み合わせっていいでしょ。この剣が比較的ひずみなくできたつもり」
盾はただの五角形の形で、一般的などこにでもある形の盾だ。アルミナ鉱でできた硬いことは硬いが、ただの一枚板にちょっと取っ手があるだけだ。重さも鉄製などに比べると扱いやすそうだ。
まぁ、いくつもあっても仕方ないので、プヨンは作ったうちできのよさそうなものを1組ユコナに渡した。まぁ、どれもそこそこちゃんとできているから大差はない。これも鋭い切れ味というよりは、硬さと靭性(柔軟性)の両方を兼ね備えていて、折れやすいダイヤよりはベストだと思えた。
女の子だと赤だろうかと思ったが、ユコナはそういうところは無頓着なようで、
「わたし、こっちがいいわ。青い方。なんとなくわたし冷気使いだし青のイメージがいいかな」
自分の冷気のイメージにあったのだろうか、蒼玉の剣と盾の方を手にし、剣術と呼ぶには程遠いレベルでぶんぶんと振り回していた。
デポンにも礼をいい、ついでで作ったあまりの鉄やアルミなどはデポンに渡した。デポンは大喜びで、運搬準備にどこかへ行ってしまった。
わずかに残ったアルミナのインゴット(延べ棒)と作った剣と盾は、ユコナにあげた分を除き、プヨンはストレージに収納する。残りはプヨンが持って帰ることになった。
「こっちの灰色の剣とか棒はなんなの? これも作ったの?」
「あーうん、そっちが本命だよ。柄がまだないから持ちにくいけどね」
どんなものかしらとつぶやきながらユコナは手に取ってみようとしたが、
バシッ
掴もうとしたが剣の柄部分と地面の間に手が入らず掴むことすらできない。結局、微動だにしなかった。
「な、何これ。全く動かないんだけど」
「うん。ちょっと重くなった」
「ちょっと? ちょっとなのこれ? そもそもプヨンは持てるの?」
「当然ですよ。もうモテモテ」
ひょいと持ち上げては見せるが、プヨンも持ち上げるのは結構きつい。
これ見よがしに持ち上げて、少し振り回してユコナにできますよアピールをしたが、油断すると腰がやられそうだった。
しかし作ったはいいが、ブラックドワーフのうち、重いほうの槍は収納の許容限界を超えたのか、ストレージにはどうしても入らなかった。
あまりに嵩張るものや数が多いもの、形状が不安定なものは入らないが、これはおそらく重すぎて入らないのだろう。結局プヨンが浮遊させながら持っていくしかなかった。
「お、ととと。どわったっ」
「大丈夫? プヨン、気を付けてよ」
一度うっかりと力を緩めたら、背中から地面にひっくり返ってしまった。重さにはしばらく慣れが必要そうで、何かにつけて振り回し、力加減に慣れていくしかなさそうだ。
試しにその辺の50㎝ほどの石を取る。重さ400㎏くらいだろうか。それを棒で打ち上げてみた。重量比だと5万倍くらいか。
「プラネットバースト」
ビュン、コィィーーーーン
軽く振ったつもりが甲高い音がして、100mくらいは飛んで行ってしまった。
「な、何今の? あれって、あんなに飛ぶもんだっけ?」
ビュンビュン
その後、ユコナも自分の剣でいろいろ試していたが、どうやら納得いかないようだった。
「それはそうと、ユコナの隠密行動の鍛錬はどうなの?」
先日ユコナはレヒト指導のもと気配遮断、サインレス魔法の訓練をしてもらうんだと意気込んでいた。特に入学早々サラリスがストレージを利用した暗殺系の小技を披露したのと、先日の美化委員のスタンプラリーの件で隠密行動の重要性に気付いたからだろう。
「が、頑張ってるわよ」
「なるほど、頑張ってるんだな。・・・・・・逃げてきたの?」
「うっ! 的確に弱点を突くとは。擬態とかできなくはないけど、たぶんバレバレかも。あれをやりながら動き回れるレヒトさんは、絶対普通じゃないわ」
確かにそうかもしれない。体温隠蔽や磁気による気配遮断は簡単だが、体表面の視覚的な変化は一部動物が使えるとはいえ、そう簡単にはできそうもなかった。それこそどの角度から見ても違和感ないようにしなければならない。
そして本気でやるなら、視覚や音だけではない。水をかけられたら水を通し、風が吹いたら反対にも風を流す。超複雑な工程のため、すべてに対応した隠密というのは非現実的だった。
「プヨンはできるの?」
「うーん、試しはしたことあるんだけどね」
そういうと腕を横に突き出して、ユコナに腕を見せる。
「エアリアルディスプレイ」
「あ、あぁ腕が消えた……それも真ん中だけ。何この手首だけ見えてますってのは」
プヨンは、腕の一部だけ景色に埋もれさせ、一見すると見えないようにしたが、
「消えてないよ。横に行ってみて」
そういうとユコナは数歩進んでプヨンの正面から横方向に移動した。
「えーなにこれ。普通に腕がある・・・・・・」
「景色をスクリーンに映しただけだからな。黒壁の前で夜中に黒布を持って立つ的な」
「さ、詐欺ね。でも正面からじゃ見分けられないかも」
ちょっとした余興だが、光学魔法を利用した背景描写だ。高等というほどでもないが、はったりには使えそうだった。
「そうそう。本題を忘れるところだったわ。ユトリナの街の警備兵やってるレオン覚えてる?今年部隊長になったらしいわよ。それでね。今年も例の雷神祭りがあるんだけど、雷を打ちにきてくださいだって。部隊長になってもやってることは変わらないみたい」
雷神祭りは雷が落ちると作物が育つという例のお祭りだ。種まき前にはそこらじゅうで行われている。
「あぁ、酔っ払いの神様のやつね。明日からは時間があるからお供しましょう。それで足は大丈夫なのか?」
「さすが。話ははやいわ。足もバッチリよ。毎日自分でも回復かけているし。脚線美見る?」
「え、いやいい。俺は後片付けがあるから先に戻ってて」
「わかったわ。夕方にはきてね。レヒトさんも待ってるから。なんかいっぱいクズ整理してくれたからお礼がしたいそうよ。今日は是非慰労させてほしいって。みんな待ってるからね。もちろん食事の前に風呂よ」
たしかにあの小山になっていたクズ鉱石はあらかた使い果たしてしまった。あれだけあった廃鉱石の山は3割ほどになっている。感謝の気持ちはありがたく受け取ることにした。
これで久しぶりにまともな食事が取れそうだ。プヨンは急に空腹を感じる。
「やった。今日はまともな食事が取れる。是非に」
「まぁ、パーティじゃないんだから、普通の食事だけどね。でも絶対お風呂が先だからね」
プヨンからの返事を受け取ると、ユコナな何か急ぐことでもできたのか足早に戻っていった。




