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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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ドワーフの剣の作り方 2

 翌朝、プヨンは朝一番でガンオーのところにいくと、お願いしていたクロムとチタンを手に入れた。


「朝一番から元気だな。まぁ、我々には朝も夜もないんだがな。これがそうだが、それだけで足りるのか。ところでそんなもの何に使うのだ?」


 そう言われると、西瓜サイズの丸い金属の塊が用意されていた。


「ちょっとほしい武器を作ろうと思って。まぁ、防具でもいいんですけど。ありがとうございます」

「そうか、まぁ、そういうのであれば何時でも言ってくれ。鉱物達に声をかけて呼び集めるだけだから、単体のものなら1、2日あればなんとでもなる。金とかは反抗的だからできないが、こいつらは数が少ないが素直だからな」


 そんなに簡単に集まるのか半信半疑ではあるが、今回のプヨンの目的は金銭ではない。目的のものが手に入ると、プヨンは礼もそこそこに作業場である廃坑道に移動する。


 坑道出口の前に積み上げられて山のようになっている廃鉱石、アルミナ鉱の山の前に立ち、頂上を見上げながら考えをまとめていた。


 赤茶色の粒がまじった岩石で、全体的には黄ばんだような色をしている。


 本来ほしいアルミナはその岩石のだいたい半分程度ということを知っている。このアルミナ鉱石は風化するとできやすいため、かつて熱帯雨林があった場所によくできる鉱石だ。


『バブルパルス』、『ブラストチラー』、そして、『セントリフュージ』


 液体中に入れ、凍結破砕を使用してそれぞれを遠心分離で重さ別に分離する。プヨン流物質分類の三大魔法を駆使する。


 延々と同じ作業を繰り返した結果、半日後には山とあった鉱石は純粋なアルミナ粉末に分離精製された。随分と時間がかかったが、プヨンのやる気のせいで集中できていたからか、あまり眠くもならずひたすら作り続けた。


 プヨンが作ったのは大きく2種類。


 1つはガンオーから手に入れたクロムとチタンを付け加えた、蒼玉と紅玉の一組二振りの剣だ。言い換えるとサファイアとルビーの単結晶の剣だ。練習も兼ねて三組作ってみた。


 これはプヨンが引き取られたときに持っていた品の中にあった紋章から着想を得ていた。その紋章の由来が何かは、この間からユコナが調べてくれている。


 そしてもう1つ。材料の金属を超高圧下、星が爆発する時に生じるくらいの超気圧下で押し固めた矮星の剣だ。


 1億気圧。1㎥の体積が、1㎤になったときの密度だ。


 こうしてできた金属はもうもとの物質とは異なる。陽子と電子の間がさらにつまり、超高密度のため物質の縮退圧でかろうじて支えられている状態だ。

 はじけ飛ばないように固めながら結局できあがったものは1㎤で5t近い重さになってしまった。


 本来なら高温になってしまうため白色となるのだが、プヨンは普段使えるようにひたすら冷却し続ける。黒色矮星ブラックドワーフの剣を作り上げ、きわめて期待通りのものができていた。


 こちらは見た目は単純にひたすら硬く重いだけの剣だ。あまりに重すぎたため、構造上の問題が発生して太い剣身にはできず、フェンシングやエストックに似た細い円形の刺突剣のような形状になっていた。 1本目は試行したこともあり、1㎝程度の太さで長さも60㎝程度で終わってしまった。


 ただ、この剣の重さを考えると刺突だけでなく、超重量のこん棒として使うほうが理にかなっていそうだ。


 材料がまだかなり余っているので、改善も兼ねて2本目に挑戦することにした。もう少し太くして、持ちやすく使いやすくしようとしたが、剣身は刃を作ることができず、太くはできても円形から変えることができなかった。


 結局できあがったものは物干し竿のような丸い円柱の棒、百歩譲っても槍としか呼べないものになった。長さはプヨンの背よりは少し低い、150㎝くらいか。短槍だ。



 出来上がったものは2つとも尋常じゃない重さで、地面に落とすと軽く地震のように揺れる。持ち運びに難儀しそうだ。プヨンは、試しに持ち上げてみようとしたが、


「ぐぉっ。お、重い。なんて重さだ。この短めの剣でも、どのくらいの重さがあるのかわからないな」


 予測される密度から考えると剣でも200トンくらいはあるはずだ。そうすると、この槍はその10倍程度はあるのだろうか。


 プヨンは筋力強化した体で全力で持ち上げようとしたが、筋力強化程度ではまともに持ち上がらない。これまた全力に近い浮遊魔法を併用してかろうじて振り回すことができたが、ちょっと気を抜くと剣の動きを止められず身体がもっていかれてしまう。当面は持ち運ぶだけで精一杯のようだ。


 使いこなすまでにはずいぶん時間がかかりそうだったが、不思議とプヨンはこの灰色の物干し竿がいたく気に入っていた。




「それが、お前が作った剣なのか? その蒼と紅の剣は材料がわかるが、もう1つはなんだそれは。そんなものは見たことないぞ、どうやって作ったのだ」


 報告と自慢がてら、プヨンはできたものをガンオーに見せた。一応の特徴は説明したが作り方の説明はうまくできそうにない。とにかくぎゅーっと押しつぶして作ったとだけ説明する。


 そしてそのまま作業場だった廃坑に戻ると力尽き爆睡していた。寝不足もあって体力を使い切っていたこともあり、次に目を覚ますと丸一日近く経っていた。


 作業時間と加工を合わせると、いつのまにか種まき休暇も半分が過ぎていた。



 その頃、ノミは再びノビターンに面会を求めていた。居並ぶ他の予約者をさしおいて、真っ先に名前が呼ばれるノミ。

 ノビターンから強く要望され、当てもなく行くことになるから気をつけるように言われていた依頼を、たったの4日で片付けてしまった。


 我ながら今回はうまくいったとノミは自分で自分を誉めてやりたいところだ。


 これで心おきなく再来週からの『種まき休暇』に入れると満足していた。このあたりはプヨンのいるところよりも北方に位置するため、時期として2、3週間の違いがある。


 意気揚々と扉を開け中に入ると、これまたノミに引けを取らないくらい機嫌のよいノビターンが出迎えてくれた。


「お疲れさまでした。とても戻りが早かったですね。私の予測はいい意味で裏切られてしまいました。さすがはノミ高速機動隊というところでしょうか」

「お言葉ありがとうございます」


 そう言われつつ、『立ち話もなんなので』と示されたところに腰かける。ノミはノビターンと向かい合った。


「実は早かった理由は、先方のプヨン殿もこうなることを予測されておられたからです。わざわざ出迎えを受けまして、探す時間が大幅に減り速やかに戻ってくることができました」


「え? こちらがくることがわかっていたのですか? それは侮れませんが、して、手紙をお見せしたときの様子はどうでしたか?」


「は、このような様子でした。ごらんください」


 そういうと、ノミは懐から手紙を取り出した。折皺一つついていない。


 それを見たノビターンはぎょっとした。なぜならノミに手渡した時の封蝋がそのまま残っているからだ。どう見ても開封した形跡がない。

 だがノミの自信満々の顔を見ていると何か理由があるのだろうと、続きを待つことにした。


 ノミは手紙を手に取るとなんども空中を漂わせ、プヨンに見せた時と同じように何度もひらめかせる。時には目の前まで持ってきては遠ざけたりする。


 さすがに不審に思い、


「いったい何をしているのです?」


「は。プヨン殿に見せた時の様子をこうやって再現しております。もう、それはそれは丁寧に何度も見せましたよ。なんと言ってもノビターン様直筆の逢瀬の恋文ですからな?」


「恋文とは何やらよくわかりませんが、それで読んでいただいた感想は?」


 そこでノミの動きがとまる。もちろんノビターンの動きもとまる。


 手紙の内容はごく簡単なものだ。ノビターンが勘違いして危害を加えようとしたことを詫び、自分達を狙う者たちがいることを伝え、そして今後は友好的な関係を築きたいことに同意してほしい。そのことを伝える機会がほしいということをしたためてあった。


 まぁ一度は殺めようとしているわけで都合のいい内容ではあるが、自分の本意であるしどんな内容であれ読んでもらわなければ意味がない。


「は? 読んでいただくとは初めてお聞きしますな。お見せはしてきましたが……?」


「な、なんですって? で、では預かってきたものはないのですか?」


 そこで奇蹟的にノミはプヨンから預かったものがあることを思い出した。


「そうそう。忘れておりました。確かに預かったものがもう一つありますぞ、それここに」


 そういうと一枚の紙片を取り出し、ノビターンに差し出した。


 ノビターンも安堵の表情を浮かべている。一瞬悪い予感がしたが違ったようだ。手紙は封が切られていないように見えたけど、さすがにそこまではなかった。よかったと。


 しかし中身は日付と地名が記載されたリストだった。日付は今日から10日ほど先までだ。


 どうやら、何かの予定表らしい。


「はは。それは、智将殿の行動予定表だそうです。プヨン殿はこう言われていましたぞ。私が近日中に、私がもう一度くるとわかっていると。だが、私は明後日からお休みですからな、笑い飛ばしてやりました。プヨン殿と会うとしても来月以降ですぞと」


はっはっはと豪快に笑うノミを横目に、ノビターンは隣室に待機していたアサーネを呼び出した。


「アサーネいますか?」

「は、はい」


 ゴスイ配下のアサーネをノミに同行させ、これ以上おバカなことをしないよう監視させる必要があると判断した。確実に手紙を届けさせるにはこれしかない。


 内容は2つ。1つは手紙の通り友好的にするきっかけをつくってくること、そして、


「もう一つは、まだ、私は相手の力量が半信半疑なのです。なにか確かめるいいきっかけを作ってきてください。何ができるのかも含めて」


「承知しました。相手はプヨン殿ですね。わたしも人相がわかればいいのですが彼まかせでは」


 アサーネはふーとため息をつく。そして、明後日から休暇と浮かれているノミの方を振り返り、


「さすが智将殿です。未来予測能力をもつとはおそるべし。さぁ、ノミさん。あなたは今週中にもう一度プヨン殿に会う定めとなりました」


「え? どういうことですかな? 私は来週は休暇ですぞ? 明後日からですぞ?」


 嫌そうな顔をするノミにノビターンが追い打ちをかける。


「今すぐもう一回行ってくるのです! その予定表のところをしらみつぶしに探して、必ずやアサーネをプヨン殿に紹介してくるのです。言うだけじゃダメですよ。直接目の前につ入れて行って目通りさせ、会話させてくるのです」


「え、お待ちください。私の旅行の予定は? すでにキャンセルできませんぞ、こ、これは権利では?」


 いつもならここまではしないノビターンも今回は引かない。アサーネも仕方ないよねという顔をしている。


 ノビターンもキリっと凛々しい顔になり、


「もちろんです。私も休暇でもいいと思っております。ですが、これは、天のご意思。私の力ではなんともできません。『え? はい。 そうですか。大至急ノミに行かせないといけませんか。わかりました』」


 ノビターンは祭壇の神像を見つめながらよくわからない一人会話をしている。もちろん、そんな声など聞こえないが、天啓が聞こえるとなっているノビターンはたまにこの手を使う。


「今一度確認しました。偉大なる天主、ネタノ様はノミに天命をくだされました」


 ノミはジリジリと後ずさり、決定されたことに呆然とする。


「そんなバカなー。うぉぉぉーーー。ありえーーん」


 ノミは部屋から駆け出し、どこかに行ってしまった。


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