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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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手紙の届け方 2

「こんなにすぐに智将殿に会えるとは。引き受けたはいいものの、どうやって探すか考えておりましたぞ。これで私は高難易度の任務をあっさりと達成ですな」


 クックック、俺はできる男だというノミの呟きが聞こえる。


 サラリスが言葉の意味を理解できず驚くなか、ノミは淡々と続ける。


 プヨンは思い出す。


 たしかノミは一度ウェスドナに戻ると言っていたはずだ。


 ウェスドナは北方の帝国の帝都だが、そこにある大神殿に手紙を届けてほしいとのことだった。


 手紙のあて先はパレス・アッテネだったはずだが、これがネタノ聖教の大神殿であることはプヨンでも知っていた。


「ウェスドナ帰りの男だな。覚えている」

「さすが智将に相応しい素晴らしい記憶ですな。私もお顔を覚えておりますぞ……」


 ノミは鳥属性だからか、獲物を狩るためにも目はいいようだ。ただ記憶力は今一つのようだ。

 それは何度もメモらしきものを見ていることでわかった。


「そう。プヨン殿。しかし、なぜここに?」

「わたしはほんの少しだが、未来がわかるのだ。今日ここで会うことはわかっていた」

「そ、それはまことですか。そんなことができる方がいるとは……まるでノビターン様のようだ」


 一瞬、まるでと他にも似たようなハッタリをかますやつがいるのか、ノビターンはヤバいなと思うが、もちろん顔には出さない。


 そのせいかあっさりとノミは信じてくれたようだ。プヨンはなぜかノミには多少盛って言うのが礼儀のような気がする。これもノミが発するスーパー野バカの仕業なのだろうか。


 もちろん横で見ているサラリスは2人の会話を聞いて呆れはてていた。


「して、こちらの方は?」

「こちらは、然る(さる)お方で、今日は特別に……」


 プヨンがサラリスを紹介しようとすると、


「わたくしは、炎神。名をマッタリ・シュバンと言います。今日はこの者の召喚に応じ、馳せ参じました」

「な、なんですと? 猿人ですと? このような方が猿人とは。キキッ」


 ノミはひどく驚き、何度もサラリスの顔を見ている。


 もちろんプヨンも驚いていた。プヨンは智将ではあったが所詮は人だ。まさかサラリスが人以外でくるとは予想外だ。そもそもシュバンって誰なんだと。


「しかし私でも何かを感じますぞ。そう華憐さのようなものを。マッタリ殿はよき美貌をお持ちのようだ。キキッ」


 ノミが最後にキキッとサルの物まねをしていることで、プヨンはピンときた。どうやらノミは誤解しているようだ。


 しかしここで下手に訂正すると藪蛇になりそうだ。ここは気づかないふりをする。


 その後もノミは調子に乗っているのか、ことごとく語尾に『キキ』をつけるため、プヨンは見ていてハラハラしていた。


 サラリスのいう炎神は、炎人はあっても、猿人はないだろうと。


 プヨンの懸念をよそに、サラリスも華憐と言われたことがまんざらではないようでご機嫌だ。サラリスのノミへの好感度は一気に跳ね上がっていた。


「でも、そのノビターン様ってどこにいるの? ウェスドナだっけ? そんなにすぐに行けるものなの?」


 サラリスがごく自然に疑問を口にすると、ノミはカバンから地図を取り出す。この学校からキレイマスの町あたりまでの地図のようだ。


 それをプヨンに手渡す。


「その地図を持っていてください。そう、その位置です。プヨン殿はここにいます」


 そう言って指で地図の学校のあたりを指さした。


 そしてノミはプヨンから離れ、北に向いて走っていく。何してるんだと思っていると、


「ほら、ノビターン様はこのあたりですな。ノビターン様は、ほら、ここ。この塔の3階ここ。ここが帝都で、このあたりにパレス・アッテネがあります」


 ノミの指が宙を動くたびにその建物について説明してくれた。この地図の縮尺でいくと、ウェスドナは10mくらいの位置らしい。


「ねぇ、プヨン。あれ、何がしたいの?」

「聞くな。俺もわからんが、ウェスドナはあのくらいの距離なのだろう」


 一生懸命なノミをよそにサラリスは返事に困ってしまい、そこで会話が途切れた。



 冗談はこのくらいにして本題に入ろうかと、プヨンは話を切り変える。


「それで、ノミ殿は、なぜこちらへ?」

「そうそう。大事な要件があります。こちらをお見せするように言付かってきました」


 そう言うとノミはレターバッグから封書を1つ取り出した。


 ほのかに香水の匂いがし、封蝋で封じられている。一目見ただけでわかる高級そうな紙だ。


「これは? プヨン宛なの?」

「さようです。プヨン殿のことはまだ未知の部分が多いのです。差出人と中身については口頭では申し上げられませんが、もっともっと知りたいご様子です」


 ただ、ノミはなにやら困ったような表情をしている。


 手紙を持ってきておいて、誰かを言わないのも不自然だが、封蝋のマークはネタノ聖教の司教印だ。


 それも印のまわりの模様からすると上位の司教印に見えた。


「これはネタノ聖教の司教殿からか。たしか、ノビターン様と言っていたな」

「え? ノビターン様から手紙? あのネタノ聖教の大司教の一人の? いったいプヨン宛に何を?」


 サラリスが差出人の名を聞き驚いている。


「へぇ。サラリス知っているんだ? 入信案内とかだったりして」

「当たり前でしょ。その辺の貴族よりよっぽど有名よ。国王名と変わらないわ。なんでわざわざ入信?」


 よく知っているなとプヨンが感心していると、ノミが固まっていることに気づいた。


「な、なぜ、極秘情報の差出人名がわかったのですか?」


 あれだけノビターンの名前が出ていたら他にいないだろうとプヨンは思うが、


「え? 言っただろ。少し未来が読めると。この手紙がくることはわかっていた。読めばいいのかな?」


 えっへんとばかりに踏ん反りかえるプヨンに、ノミは本気で驚いていた。


 プヨンが手紙を受取ろうとすると、ノミはそれをサッとかわし、急に手紙を持つ手を動かして表裏を何度もひっくり返し、そして、繰り返しひらひらと左右に蝶がはばたくように見せびらかしていた。


「な、何してるの?」


 意図がわからずサラリスが聞くと、


「はっ。ノビターン様からは、よく手紙を見せるように言われました。さぁ、じっくり見ていただけましたでしょうか? では、これで、わたくしは急ぎ任務完了の報告に戻ります。失礼します」


「失礼って、えっ? 帰るの? 封筒を見せるだけで?」

「はい。ノビターン様は余計なことをするな。私に頼むことは、ただ手紙だけをお見せしてこいと言われました」


 はぁっとため息をつくサラリス。気持ちがよくわかるプヨンだったが、説得してもそうそう変わらないだろうし、無理に見るものでもない。


 プヨンはどうしたものかと考えていた。


 ノミの意図はわからないが、サラリスが言うように、褒美をもらう心当たりがないなら、偉い人からの手紙なんてろくなものじゃない気がした。


 これは後回しにするに越したことはないと判断した。


 そこでストレージから紙を取り出すと、これから2週間ほどの予定をざっと書く。


「その予定ってなに? 『種まき休暇』の間の予定?」

「そうそう。来週から、全地域で作物の種まき休暇になるからここにいないだろ。だから予定を書いておこうと思って」


 どこも同じだが、農業メインの地域では春から夏にかけて一斉に畑に種をまく必要がある。


 それには国民総動員であたる必要があり、兵士や学校、一般的な商店も可能な限り休みになる。これを世間一般では、『種まき休暇』と呼んでいた。


 その予定表をノミに渡す。


「これは、きっと近いうちに必要になると思うよ。もっていってくれ。もし、もう一度会う必要があったら、これを目安に探してくれたらいいよ」


「ははは。ご心配いただかなくても、私は来週より2週間休暇です。当分お会いすることはないでしょう。ははは」


 そういうとノミは帰り支度を始め、カバンを閉じて鳥の姿になった。おかしな風防もつけている。


「これはノビターン様からお借りした風防ワロス。風の抵抗がなくなりとても快適なのです。では」


 そう言うとノミは夜空に飛び立ち、やってきた方向へと戻っていった。



 プヨン達も歩哨の交代のため、校舎の方に引き上げながら話していた。


「いいの? ほんとうに? 手紙見なくてよかったの?」

「またくるでしょ。たぶん」

「まぁね。だから、予定表を渡したんだもんね」


 ふつうは返事をもらって帰るだろう。もう一度くるのは容易に想像できた。


「そういえば、『種まき休暇』予定入っているんだね」

「まぁな。メサルを送り届けて、そのあとはちょっとした実験をしたいんだ」

「そっか。じゃぁ、10日ほどは会わないね」


 そんな話をしていると歩哨の交代時間になった。


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