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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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飛行の仕方

 ノビターンは今日も憮然としていた。先ほど、週末の礼拝日の儀式をすべて終え今週の託宣を告げてきたが、自分でも集中できていないことは明白だった。


 ノミの言う影の智将とやらが気になっていたが、バタバタとしている間にもう10日以上経っている。ノビターンとしてはすぐに調査にとりかかりたかったが、集めた接着剤『グルーオン』を持ってノミと帝都であるウェスドナに戻る必要があった。


 いったいどうやってこちらの動きを知っていたのか。まったくの想定外だ。


 しかも、あの者は岩山の中に入り、例のパーティションルームで通行料としての魔力を吸い取られてもなお行動し、そのあとも魔法も使えていた。ノビターンでも魔力電池マリブラがなければ難儀する。


 一般人の精神力では通り過ぎる時点で大半を使い果たしてしまうはずだ。というか、足りないはずだ。


 しかし、現実にはマリブラを使用するノビターンと平然と打ち合ってきた。なんとか最後は押し切って、無事に来世に旅立たせたつもりだったが、跡形もなく消えてその後は行方知れずだ。


 最初は夢かとも思ったが、ノミの証言もあるから現実で間違いない。ノミが散々絶賛することが嘘でないことはわかっている。早急に事実を確認したくて気ばかりが焦っていた。



 急ぎ智将についての情報を集めたが、国状に詳しいものに聞いてもそんな情報はないと言われ、手詰まり状態だ。


 一度はゴミ箱に捨てた似顔絵を取り出して見比べる。一つはノミでもう一つは自作だ。人相書をノミに書かせたが幼児の落書きレベルであてにはならず、それは自分が描いてゴミ箱に捨てたものと大差なかった。


「記憶を書き出す魔法があればいいのに……。次の接着剤グルーオンの回収は3週間後。もう一度私が回収に行こうかな」


 せめて相手の姿を正確に伝えられれば任せることもできるが、口で説明するのは無理だ。


 そして、ノビターンは事あるごとに帰還が遅れた理由を説明させられることに辟易していた。説明は完全に練り上げられ、過不足なく仕上がっている。暗唱できるくらい上手くなったが、その度に食べた虫を思い出してしまう。


「クッ、ノミ。あの弁当事件さえなければ、他の者を使って大々的に調査できるのに」


 あのウェアリーベア飲食事件の衝撃波はすさまじい威力を放ち、いまだにノビターンの精神全域に及んでいる。すべてなかったことにするためにも証拠を消すべきで、取り調べからの逃避も兼ね、もう一度出向いて自分で調べようと思っていた。もちろん帰還が遅れたこともあり外出制限令を出されているが、


「ノミ。今度の大戦では人が必要なのです」

「わたくしにプヨン殿のもとへ行けというのですね」

「言わぬ先からよくわかりましたね。なぜ私があなたをプヨン殿のもとにやるかわかりますか?」


 そういうと、封書を一つ取り出した。封蝋してある親書扱いのものだ。ノミはそれを受け取ると意味ありげににやりとした。少し上目遣いでノビターンを見る。


「もちろんですぞ。恋、ですな。その恋文を。フフフ。このノミ決して口外などいたしませぬ」


 背筋を伸ばし、意味ありげにつぶやくノミ。


「どうやら、その身を亡ぼすときがきたようですね」


 ノビターンはこぶしを握り締め、わなわなと震えるがここは落ち着いた対応をとる。


「そこに特注の風防ワロスが用意してあります。きっと風の抵抗を弱めてくれるでしょう。与圧機能付きの最新式です」


 そういうと奥から透明なクリスタル製の風防を取り出す。


「なんとかもう一度その智将プヨンに接触し、この親書をお見せするのです。しっかりと見ていただくのですよ。彼の顔を知っているのは、我ら2人しかいないのですから。それから余計なことはくれぐれもしないように」

「お任せください。ノビターン様。我が智謀も彼に負けはしません。必ずやお見せしてきますぞ。もう、落としたりはいたしませぬ」


 過去にも落としたことがあるのか、そう言うとノミは封筒をレターバッグに入れ、すぐに鳥の姿になると大空に舞い上がっていった。




 今日からプヨンの学校では飛行訓練が始まる。


「とりゃ、食らいなさい。燃える男プヨン!そなたの命はマイナス3秒」

「あっつ。何するんだよ」

「火葬」


 プヨンの服から炎が漏れる。気が昂っているのか、サラリスがじっとしていられないようだ。


「いっつも思うけど、私の火孔魔法をくらってどうしてそんな程度なのよ? これでも結構本気なんですけど?」


最近よくサラリスにやられるが、手加減がなくなってきているのか、いつも以上に威力が上がってきている気がする。


「他の人にもやってるのかよ?」

「ううん。あ・な・た・だ・け。いっぺんマウアーにやって大やけどさせてユコナに怒られたの」


あっさりと物騒なことをカワイーラを出しつつ言うサラリス。やはり甘やかしてはいけないとお仕置きすべく、


「お・か・え・し」

「つ、冷たいっ! お腹が冷える」


 氷降魔法で、お腹にドライアイスの腹巻を入れてやった。



 飛行魔法も治療や筋力強化に近く、誰でもできる初級の魔法だ。使えないものはほぼいない。ある意味火水よりも簡単だ。どんなに魔法の素養がない人でも、健康な人であれば1秒くらいは飛べる。


 ただ難点は長くできないことだ。短時間あたりでも消耗が激しい。


 その先も飛び続けようと思うと、最低限の体重を支えるだけでも1秒ごとに火球1、2発のエネルギーがいる。それも着陸までの体力を残しつつだ。逆に万が一、高い位置で魔力を使い果たすと、当然墜落してしまう。


 そのため3分間飛べる体力ができると飛行の称号、それにプラスで攻撃する能力があると『タイヤード』の名誉ある称号が与えられた。もちろん敬意を示すが、文字通り疲弊してヘトヘトになるからだ。



 すでに演習場には生徒と教官も集まっている。皆が見守る中、


「あ、見えたぞ」


 誰かが指差している。校舎のそばに黒い点が見えたかと思うと、こちらにゆっくりと飛んでくるのが見えた。


「湖を飛んでくるのかなって思ってたら、あんなところからかぁ。びみょー」


 ターナもこの実演に期待していたらしいがちょっと落胆していた。自由に飛び回る秘訣を学べると思っていたようだ。やはり教官クラスといえど、無制限に飛ぶのは予想以上に大変なようだ。


「でもこの間湖を横断してた人を見たよ」

「あぁ、知ってる。通勤で使ってる風紀のチプリン教官ね。先日、帰路の横断で魔法エネルギーが枯渇して湖に着水したらしいわよ。飛ぶ前にいっつもマフェイン入りのマッドフルドリンクを飲んでるわよね。あのドリンクの効果はなかなからしいけど、狂気の領域まで魔力を使い果たして後が大変らしいよ。


 ターナがいろいろ教えてくれる。対岸までの4km、5分間でも飛行はやはり大変なようだった。


 飛んできた指導員は模範演技も見せてくれたが、一言で言うと飛行というより数十秒程度のジャンプという程度に見える。それでも筋力強化の数mからは考えられない数十倍の高さからの火球弾攻撃は、下手すると一方的になりそうなくらいに見えた。


「いいわ。やっぱりいい気分。地表を這いずり回る下々の者たちを一方的に、こう、とりゃって感じ」


 ターナが着地のたびに報告してくるのをプヨンは流していた。


 ターナは回を重ねるごとに飛び上がる高さが高くなっていく。慣れているからか、ジャンプというよりはゆっくり浮かんで、ゆっくり降りてくる。飛んでいると言えなくもなかった。


 

 さらに練習して体験したことがない高さになってくると、プヨンも流石にビビリが入る


「でも、これ疲労が半端ないわね。もう無理かも」

 

 10回目の飛行を終えたターナは力尽きたのか足取りも怪しくヘロヘロで戻ってきた。


 50mの高さのジャンプ飛行で30秒。この小飛行で直径1mの大火球1個か、火薬1kgの爆発魔法程度に匹敵する。疲れてもそれは当たり前だ。


「まあ10回もやったら十分でしょ」


 慣れないスポーツと一緒で無駄も多いのだろう。慣れてくると洗練された動きになって消耗も減るだろうが疲れる訓練だった。


 授業は午後いっぱいあったが、最初の30分でみんなほぼ壊滅していた。メサルも軽く飛び跳ねたあとは、全身痙攣でひっくり返っている。


 そのせいか、しばらくすると教官達が集まれと号令がかかった。


「よーし、まだ生きてるやつ集まれ。今から撃墜ゲームをする」


 大半が疲弊して授業にならなくなることは予測の範囲だったのだろう。単純に空を飛ぶものと下から撃ち落とすものに分かれてゲームをするようだ。


「安心しろ。俺たちが、墜落してもネットで受け止めてやるから大丈夫だ」

「さぁ、王国兵を一方的に狙い撃ちにできるまたとない機会だぞ」

「もちろん、的側も随時募集だ」


 しばらく休憩していたこともあって、タイヤードの隊員達はずいぶん元気になっていた。


「よーし、ガンガン打ってこい」


 隊長含め3人が飛ぶところを好きに撃てという豪気さだ。皆、下から火球で狙いをつけているが、3人とも動きが速い。専用のゴーグルもつけており、さっきとはぜんぜん違う。


 さすがに撃てと言うだけあって、訓練された素早い動きで避け続けていた。落下速度を利用して高速で上下左右に移動し、最小限の軌道変更で避けている。


 皆、移動速度の速いものを狙った経験がないのだろう。1:1で対応しているから相手を囲むこともなかなかできず、完全に撃ち遅れだ。相手の移動速度についていけずに予測位置が遅れ、撃った弾はすでに通過した遥か後方を飛んでいった。


「弾幕薄いよ!」

「あー、おしい」


 直接やりあっていない生徒は、いい野次馬になって、見学しながら適当に声援を送っていた。

プヨンものんびり眺めていると、


「やった。あたったわ。直撃よ」


 見ると飛兵側の服の一部が燃えている。サラリスが使った火球の連射魔法『アイギス』だ。連続20発の烈火サラン弾の1発がかすめ、おぉーーっとどよめきがあがっていた。

 飛んでいたタイヤード隊の教官も慌てて「セルフクーリング」で、冷気を出して自動消火していた。


「どう、見た? 見た?」


 サラリス、あきらかに調子に乗っている。しかし、命中させた事実は事実。


「うん。見た。命中したね。やるね。面白そうだなぁ。俺もやってみたいが」

「じゃぁ、やってみたらどう? なんなら、バルーンファイトする?」


 バルーンファイトは学校内だけでなく一般や軍でも実施されている、ちょっとしたスポーツの一種だ。


 2人1組で空中に浮かびながら、木くずを固めた柔らかい剣で切りあってポイントを取り合う。使う魔法はいろいろ制約があるが、室温程度の水魔法も使用可能で、ぶつけるとこれも点数が入る仕組みになっていた。


 教官達も疲れてしまったようで、もう誰も授業の内容はまじめにやっていない。みんな授業から適当に抜け出して好き勝手していた。


「よーし、やってみようか。手加減はしなくていいよ」

「わかったわ。サラリス様が直々にけちょんけちょんにしてあげましょう」


 演習場の片隅で、サラリスの有り余る体力に付き合うことになった。


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