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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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真の敵の見つけ方

 プヨンは学校に無事戻り、普段の生活に戻っていた。


 あれからの平日は授業と夕方からのサラリスのいう訓練に付き合い、週末は石売りにヴァクストのところに行くサイクルの繰り返しだ。

 週に1回程度の歩哨当番も、寝坊もせず問題なくこなしている。まぁ、寝坊したら悲惨だから誰もすっぽかしをしたものがおらず、誰が最初かみんなカケをしつつ楽しみにしていた。


 そして1ヶ月弱。学校生活も日常化していた。


 相変わらずマウアーとサラリスは前庭攻略に励んでいるらしく、頻繁に独創的アイデアの派手な攻撃魔法を披露しているので何かと話題になっている。結局表立っては目立った成果がないが、周りからも主戦派と認知されていた。



「最近、プヨンは道にも迷わず、移動に慣れちゃったよね」

「まぁな。どこが危険かわかるようになってきたし、対応方法もそう変わらないからな」


 フィナツーが言うように、一度クリアしてしまうと出歩くための条件もさして苦にならない。


 プヨンは頻繁にヴァクストの店にいくのが毎週の楽しみになっていた。少しずつ変わる店の様子が楽しい。

 学校裏の森もモアナルア&フィナツー効果もあり、ほぼ危険なことも場慣れし、落ち着いて対応できるようになっていた。

 基本回避だから10回以上往復したプヨンは、直近では適度に走って片道30分ほどだった。


 この週末もショップヴァクストを訪問すると、いつの間にかランカ用の小さな小屋に気づく。

 例のオロナの民が入り口にいるから、一目でいるいないがわかってしまう。


 プヨンはライバルとなっていることもあり、オロナの民に絡まれることを警戒していたが、ランカの指示が行き届いているのか、それとも何度か勝負を挑まれて顔パスになったからなのか、コイツかみたいな顔をされつつも問題なく入れてもらえていた。


 

 今日もランカは元気そうだ。


「最近、町の教会の人がいろいろとお世話をしてくれるんですけど、ずっと付きっ切りでちょっと疲れちゃって。ヴァクストさんの店の薬類の仕入れや販売を手伝っているんです」


 逃げたり邪険にしてるわけじゃないですよ、と慌ててランカが言い訳していた。


 ここに来る前のランカはしばらく教会で回復薬を作ったりもしていたそうだ。


 できたばかりのランカの小屋にも小さな祭壇があり、ここにも回復薬が並べられている。在庫を切らした狩人や治安維持、そして、ならず者の利用者が多いらしい。


 プヨンも以前ユトリナではよくやっていた。ミメモム草を使った薬剤で、事前に蓄えておいて後で使う気力回復剤だ。これを飲んで体力回復魔法と併用することで怪我を治すことができる。


「これなぁ。俺もよくやったよ。魔力鍛錬にもいいらしいよね」


 結局プヨンは今日もランカに付き合って製作を手伝っていた。



 オロナの民も負けじと一生懸命ランカを手伝っている。ランカは当分結婚はする気がないと断っているらしいが、あちらも一度決めたからなのか頑固だ。


「これ、あっちに運んでください」

「あぁ」


 すっかりランカの護衛兼従者のように居座り、すでに意思疎通は問題なさそうだ。


 オロナの民が2人いるのも不思議といえば不思議だが、ランカは結局断りきれず好きにさせていた。オロナの民も行く当てがないから、立場を弁えつつうまくやっているようだ。




 上級生がいなくなって5週間ほどたち、学校の実戦経験支援もかねた特別教育実習も終わり、近いうちに戻ってくるかもしれないとの噂が立ち始めていた。

 そんなある日の週末、初級防御の授業も最終段階に入っていた。


「よし、今日はこれから抜き打ちのテストだ。戦いとは相手があってするものだ。お前たちの敵はなんだ」


 一度区切って生徒たちを見渡し、最後列でよそ見をしているプヨンを見つける。教官の検知能力は極めて高いのはどこも同じだ。


「一番後ろのプヨン、ちょっと出てこい、お前の敵はなんだ?」

「へっ?」


 慌てふためく。みんながクスクスと笑う中、とりあえず前に出る。


「よし、お前が想定する敵はなんだ?」


 教官は優しい。もう一度質問してくれて助かった。


「もちろん自分自身です。自分に打ち勝ってこそ真の勝利。それ以外は全てただの通り道に過ぎません」

 

 教官は大した感銘は受けなかったようだ。キャンセル技が発動し、プヨンが溢れさせた『オレスゲーラ』の効果は無効化されてしまった。


 そして少し離れたところにある藁人形を指差しながら、


「よし、あれがお前の宿敵『影プヨン』だ。全力で戦ってみせろ。それが小テストの課題だ」


 何が言いたいのか意味がわかった。


 要するに今から藁人形を仮想敵にみたて、これを相手に模擬戦をすればいいのだと理解した。


「わかりました」


 自分自身と全力で戦い、そして勝つ。簡単なようで難しい。どうしても楽をして、手加減してしまうからだ。


 まずは杭に軽く固定されている藁人形を浮かべて移動させてみた。20mほど離れて向かい合うとどよめきがあがる。


「藁人形が動いているぞ」「どうなっているんだ」


 散々石などを動かしてきたのに今さらとプヨンは思うが、それほど驚くことなのだろうか? 大きさと距離が少し違うくらいだ。


 これは以前『シャツハン』でやったような無生物の擬人化操作魔法だ。


 シャツハンとはユコナの服と剣を使って、プヨンが魔法で操作した擬似人形のことだ。


 あのときはユコナのシャツをボロボロにしたせいで、ユコナにたっぷりとお詫びをさせられた。よい思い出だ。


「ファイヤー&アイス」


 とりあえず手始めに一部地域で有名な儀式魔法を使う。『アキラクン』と同類の魔法ではあるが、一発一発の火球を、気力を込めて全力で作り出す。


 かなりの高エネルギー弾を藁人形の両手からプヨンに向かって打ち出し、連続して20発ほどの青い火球が空中を飛んできた。


 さらに周りがざわつく。


「なんで藁人形が火球を打つんだよ」

「あれどうなってるんだ」


 プヨンは飛んでくる火球に対し、相殺できる程度の固体化させた窒素、冷化窒素弾で応戦する。ネックは低温すぎてすぐに気化するので射程が短めで視界が悪くなることだ。


 藁人形がまるで人のように戦いだし、教官も驚いたようだが声も出さず見守っている。


 そして彼らの表情を見て、プヨンは驚きの理由を推測した。そうたしかにミスがあった。


(しまった。藁人形だったらあっちが氷だ。藁人形の手首が焦げてしまった)


 痛恨のミスだ。敵を知らない浅はかさがバレたのだろう。次からはもっと条件をよく考えないと操作しているのがばればれになってしまう。

 これじゃ驚かれても仕方ないと反省した。


 次にプヨンは浮遊魔法で藁人形を飛行させる。


「ウェルシークラス」


 空中の藁人形から水を凍らせた大量の氷爆撃を落下させる。


 一発一発はメロン大だが当たるとかなりダメージがありそうだ。そして自分でだした落ちてくる氷を瞬時に相殺して溶かし、これまた引き分けになっていた。


 藁人形だから失敗して墜落してもいいため、派手な動きで高速で動き回らせる。

 勢いあまって2度ほど地面をかすめ人形の右足が擦り切れてしまった。


 どよめきが上がる。


 その後も扇風機をイメージした炎の竜巻、火災扇風機をシールドで封じ込め、可視外の光子砲は鏡面反射で凌ぎその度に強風が巻き起こる。


 スカート派の女性徒からの冷視線ヒエーラも一部男子生徒の萌えるモエーラで相殺に成功。


 風が起こる以外は、時折、氷と炎が見える程度で、傍目には藁人形がひたすら派手に動き回り、プヨンは真ん中に立っているように見えていた。


 そろそろ潮時か、このくらいにしとこうと思った頃、


「いい加減にしなさい!」


 ドムドムッ


 スカートつきで臨んでいたサラリスが炸裂火球を撃ち込み、プヨンのすぐそばで炸裂する。


「むっ、伏兵か」


 思ったよりサラリスの横槍も威力が大きい。


 発生した熱は反射的に冷却用に作っていた液体窒素で相殺したが、風圧でプヨンの光子砲は軌道がズレてしまった。


 周りが気化した白い窒素に覆われており、ずいぶん減殺されてはいたが、藁人形の放つ光子砲がプヨンの肩口に当たり、服は一瞬で燃え上がる。


 プヨンが慌てて避けたため、光子砲も外れて空に向かい、雲に当たった所が気化して綺麗な円形の穴が開き、開いた穴あき雲から青空が見えていた。


「ぐぅ、影プヨン、なんて恐ろしい相手なのだ」


 服の火を消し、火傷の治療をするプヨン。藁人形に負け惜しみを言いつつ地面に倒れてみせると、あっけにとられていた教官がようやく我に返ったようだ。


「よ、よし。もういい。そこまで。交代だ」


 教官から声がかかりプヨンは大ダメージを受けた直後だが、スッと立って平然と列に戻った。


(思ったよりいい戦いだった)


 ほんの2分ほどだが結構しっかりと戦えた。プヨンは負けはしたが清々しい気持ちで引き揚げる。

 次はもう少し滑らかな動きにしようと思っていた。


「なんか派手に動いてた割に、ちょっと白い煙出して、自分の服を燃やして最後にダイブしただけよね。あんなんでいいんだ」


 そんな声の聞こえる中プヨンが振り返ると、ニベロとユコナだけが空を見て、空いた雲を見ているのが見えた。


「ちょっと外してしまったな。人に当てないようにしないとな」




 その後も順番に皆が藁人形と戦っていく。一通り藁人形テストが終わると、教官から総括と次回授業時の内容説明があった。


 プヨンのおかげか藁人形は大人しくなって、プヨンがたまにいたずら程度に入れる反撃以外は何もなく、すべてやられていった。


 無事終わり教官からの訓示がある。


「よし、ずいぶん防御も上達してきた。それで、来週からもう少し実戦向きの攻撃防御に取り組んでいく。そこでだ、来月から王国の飛兵教官による浮上攻撃の実践がある。楽しみにしてろ」


 今までは表立った攻撃訓練はなかったが、今度はそれがメイン。しかも浮上攻撃だ。皆が期待しているのが感じ取れていた。



 また週末がやってきた。


 今週末もプヨンはヴァクストの店だ。


 サラリスとマウアーは変わらず脱出練習をしているらしく、今日はユコナも掃除に忙しいらしい。皆それぞれ課題を作って頑張っている。


 最近、ヴァクストの店の周りは週ごとに変わっていく気がする。


 ランカの小屋には誰もいない。


 青色の薬瓶が並んでいるので、例の薬作りを手伝って魔力を注ぎ込み、暇つぶしも兼ねて薬瓶を紫にしているとなにやら小屋の前でもめている声が聞こえてきた。

 ヴァクスト+ランカと、服装から見るとどうもネタノ聖教の信徒のようだ。


 ランカは遠目にも魔法が使えるようになったのがよくわかる。

 先日プヨンが魔力経路のつまりを掃除したころから出力があがっているようで、ここにいるだけでもランカのマザーラが感じられた。

 以前は圧倒的にヴァクストのほうが威圧感があったが、今見ると霞んでいる。



 ヴァクスト達は困った顔をしながら、教会側の話を聞いていた。


「ランカ様、是非、町の教会の方にも顔をお出しください。皆が待っております」

「そ、その、あそこはどうも苦手で。私に癒しを期待されても困ります」

「そんなことおっしゃらず。それから、例の気力回復の霊薬を。あれもお願いします」

「霊薬なんてありませんよ。どこにでもある気力回復剤ですよ?」


 プヨンが祭壇の前で薬を作りながら何とはなしに聞いていると、信徒の一人が駆け込んできた。プヨンを無視して祭壇の薬瓶を2本ほど持ってすぐに出ていく。


「これ。これですよ。この薬瓶。色合いが違います。この青の濃さだ」

「おぉ。そうだ。これだ。では、さっそくいただきます」

「か、金は?」


ヴァクストが止めるのも聞かず、一気飲みする2人の信徒は飲み終えると、


「うぉぉぉーーきたきたー、腰痛が……うぁー」

「力が、みなぎってきたー」

 

 叫ぶだけ叫んで、どこかへ行ってしまった。


 なんだあれはと思っていると、疲れたランカが入ってきた。


「プヨンさん、きてたんですね。疲れました」

「ふーん、あれはなんだったの?」

「さぁ? 最近ちょくちょく来られるのです。ヴァクストさんが薬代を回収すると追いかけていきました」


 ランカは疲れ切っているようだ。


 しばらく話をしているが、どうやら教会に以前立ち寄ったランカに慈母を見たとかなんとかで、癒しを求めてくるようになったらしい。


「そんなこと言われても、できないものはできないんですけどね」

「そうだっけ? 薬瓶はいつもどうしているの?」


 そう言いつつプヨンはランカの背中に手をついて、以前魔力路のつまりを掃除してやったときのように少し手助けをしてやることにする。


「どうって、わかりませんよ。普段通りですけどね。こうですかね?」

 

 何やら礼拝でもしているようなので、そのタイミングで、『オペレーション・アンプ』を施してみる。


「あぁ、これ覚えています。前にもありましたよね。なんか安らぎます。ふー。元気が出てきました」


 ランカの顔色がよくなったようでよかった。あたりにランカ発する特有のマザーラがあふれていくため、プヨンもうれしい気持ちになる。


「じゃぁ、俺、帰るから。また、来週ね」

「はい。また、お待ちしています」


 プヨンが小屋を出て少しばかり歩くと、例の信徒2人が大急ぎで小屋に入っていく。


 バタバタ


「やはり、本来の姿を隠しておられましたね。さぁ、教会にお戻りください」

「えぇ? え?」

「さぁさぁ。さぁ」

「ひえーー」


 信徒達がランカを引っ張り出し、その後をついて行くオロナの民を、プヨンは温かく見守っている。

 プヨンも元気をもらえ、また一週間学校で頑張れそうだ。


 来月からはいよいよ浮上訓練。

 飛行は慣れておらず、ターナに教えてもらっているがなかなか上達はしていない。浮かぶのが精一杯だったが、頑張ろう思うプヨンだった。

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