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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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掃除の仕方 3

 呼ばれて振り返ったプヨンの頭に真っ先に思い浮かんだことは鎧を着ていたことだ。


「あぁ。確か鎧の。今日は鎧はないんだ?」

「そうです。鎧です……」


 プヨンの第一印象は鎧だった。たしか、名前を聞いていたはずだ。しばし、時間をかけて思い出す。


「うーん、ランカだったよね」


 第一印象は鎧ですという返事にランカは驚いたようだ。ランカは思わず噴き出していたが、プヨンが名前をいうと、こくこくとうなづいた。なんとか名前を憶えていてとにかくよかった。


 聞くと、どうやらそこの店まで荷物の運搬途中でたまたま見かけたそうだ。


「こんなところで、一人で危険ではないか?」

「あの時一緒だったタダンさんの口利きがあるんですよ。今はタダンさんもレスル付きなんで、相手が人間なら名前を出すだけで大丈夫です。獣とかはどうしようもないですけど」


 前回会ってからすぐ、タダンはうまくレスルに取り入って、盗賊対策を意識していたレスルから仕事を受けたようだ。


 もとが盗賊だったのもあって、ならずもの連中をうまくまとめ、今はレスルの後ろ盾も利用しながら治安維持にあたっている。


 おかげで一定の秩序があり、盗賊が街道警備をしているそうだ。


 とにかく、犯罪を起こしそうな同類を見分けるのが抜群にうまいとのランカ評価だった。


「ことが起こってからしか動かない警備隊と違って都合がいいんですよ」


 多少の怨恨があるはずのランカも今の方がいいと笑っていた。



 近況報告が終わる頃、ヴァクストの店に着いた。

 ヴァクストはプヨンとランカが同時にきたことに驚いていたが、最近ランカに消耗品の運搬をしてもらっているらしい。


 かさばるが単価の安い薪や飲料水、野菜類は、旅人には重要で需要があるが、単価が安くて運び手がないそうだ。


「この手のものを盗ったところで売り捌くにも手間がかかるだけだ」


 ヴァクストがいうのももっともだ。

 ランカにとっても、手頃な仕事になっているのだろう。


 ヴァクストの店はこのあたりで活動したり、ここから旅する者のいい休憩所になっている。特にこの辺りの森や山で狩りなどをしていたものは、キレイマスに戻らなくても半日早く補給できるメリットは大きかった。


「お前どうやってこれだけ取れたんだよ。いい方法でもあるのか?」

「ふふふ。それは秘密です」

「ふふふ、そうか。ならば教えてやろう。ここにはお前が思うほどの金はない。買い叩くぞ」


 買取を拒否された。道中の水爆で取得したカンデイルの尖晶石、錬成スピリットだ。欲望の結晶であるスピネルを買い取ってもらおうとしたが、即金買取はできないと言われる。

 

「うーん相場はわかんないや。売り上げ折半にしよう」

「な? いいのかそれで。よし、任せとけ。俺が高値で売り捌いてやろう。もっと持ってきてくれ」


 一転して、目が爛々と輝く魔商人ヴァクストだった。



 今日のプヨンはもともと湖を往復するだけのつもりだった。だから買取の目的が終わるとプヨンは手持ち無沙汰だ。まだ昼頃で、せっかくきたのだから元の寮に戻るにしてももったいない。


 だからといって働く気になるわけでもなかったが、なぜかランカの荷下ろしを手伝っていた。もちろんプヨンとランカは座ってお茶を飲みながら、プヨンが魔法で下ろすだけだ。


「ありがとうございます。私、どうしてか魔法がダメなんですよ。ほら、これで全力なんです」


 暇そうなランカが火炎放射を見せてくれるが、指先から大きめの蝋燭程度の炎が出るだけだった。たしかに一生懸命やっているのであれば火力が弱い。少なくとも戦闘にはまったく役に立たないだろう


「ちょっと試させてくれないか?」


 そう言うとプヨンはランカの背中に手をついてみた。


「ちょっともう一度さっきの炎を出してくれないか? いくよ、『オペレーションアンプ』」


 プヨンは自分の魔力を少しランカの背中越しに押し込むようにしてみた。すると、ランカの指先の炎が少し勢いを増す。

 長さが3倍程度になる。


「こ、これは?」

「ランカが精神の力で集めた魔力源に自分の魔力を上乗せしてみたけど、思ったほど増えなかったな」


 もっと増幅できるか思ったがこんなもんか。プヨンは拍子抜けしていた。


 プヨンの自己流学習の結果ではあるが、魔法の威力は水道の蛇口でイメージしていた。水道の水量が蛇口の太さと水圧で決まるように、魔法の威力も個人個人に蛇口と魔力圧があるような気がする。これがマジノの流れに相当するのだろうか。

 魔力圧は精神のおよぶ影響範囲、どのくらいの範囲からエネルギーがかき集められるかで決まると考えていた。


 それならとプヨンは意識してランカの圧力を高めてみたが、やっぱり個人差のせいなのかランカは蛇口が小さめなのだろう。圧力が上がった分、勢いは増したが限定的だった。


「そんな都合よく増えたりはしないよな。まあ仕方ないか」


「でも、すごいです。相手に上乗せして、こんなことができるんですね」


「うんうん。ほら、誰かのそばだといつも以上にがんばれたりするじゃない。あんな感じかな。まあ誰でも意識して助けはできるけど、出口の大きさは人それぞれだからなぁ。あまり効果はなかったね」


 荷物は積み終わった。


 帰りの荷は薪と蜂蜜、狩人系職業の者たちに狩られた動物たちの肉だそうだ。それも積み込み終わり、1人でどこかに行こうと思っていると、非常に申し訳なさそうにしながらランカが頼み事をしてきた。


「実はちょっと悩んでることがあるんです。いやそんな大したことじゃないんですけど、嫌ならいいですし。でも、あの、嫌じゃなければ」


 遠慮なのか要領を得ない。こっちの返事を待たずに勝手にやっぱりいいですとなりそうでじれったい。


「ランカ、とりあえず聞くから、遠慮しないで続けて。できることなら手伝うし」


 笑いながら言うと、ランカは照れながら続けた。


「実は道中でこの子を休ませるために道を外れて休むんですけど、よく小石をぶつけられるんです」


 この子というのは荷車を引く動物のことのようだ。それは、まぁ、確かに石を投げつけられたら悩むというか困るだろう。


「それは迷惑だけど、何故だろう。相手は人なの?」

「大きな人です。大男? といってもいいくらいなんです。危険はあまり感じないんですが」


 特徴を思い出しているのか、ゆっくり話すのを聞きながらプヨンは勝手に想像していた。


「うーん、動物ではないです。たまに言葉らしきもの? も叫びます。最初はこちらも見かけただけで逃げてたんですけど、でも、何故か怯えを感じるんです」


 少し思い出すような仕草をする。


「『怖くないよ』と落ち着かせたくて好意を示したんですけど、そうすると小石を投げてくるようになったんです。しかも狙って当てるというよりは、山なりにそばに落とすような感じです」


「??? 最初は投げてこなかったのに、しばらくしてから投げるようになったんだ? しかもそんな小石の投げ方じゃ攻撃じゃないよなぁ」


 ランカはその辺の石を摘まみ上げて、大きさはこのくらいと示してくれる。


 サラリスやユコナなら、ここぞとばかりに『お前らの好意に恐怖した』とか茶化すところだが、ランカからは慈愛の人徳があふれ出ている。あまり茶化す気にはならなかった。


「はい。そして、3回石を投げると、どこかに行ってしまいます」

「3回? 必ず3回?」

「はい。3回」


 ますますわからない。プヨンも別に急ぐ用事があるわけでもない。気になってしまうとどうしようもないので、時間もあることだしランカについて行くことにした。


「よし、ヴァクストからうまそうな食材を奪い取ろう」

「え? いいんですか?」

「ま、まぁ、そのくらいは仕方ないか。これだけ預かるんだしな」


 出発にあたってプヨンはヴァクストと交渉するが、ヴァクストも快諾ではないながらも承諾する。


 尖晶石の手付金として一番高い携帯食を奪い取り二人の弁当にすると、ランカの荷馬車に乗り込みキレイマスへの帰路に就いた。


 荷車に『クーシャフ』と呼ばれる牛と羊の混ざったような生き物を繋ぎ、ゆっくりと引っ張ってもらっていた。


 帰り道は順調だ。ふつうは1匹や2匹はいそうな肉食獣などもあらわれず、順調にすすむ。


 どうやらランカは時間短縮魔法の使い手のようで、道すがら紡ぎだす言葉には時間が経つのを早める効果があった。天気もよく荷車の上で会話をしていると、気が付いたときにはすっかり2時間ほど経っていた。


「この辺りなんです。ここから少しいくと池があるんです。そこでこの子の食事の間、休憩します」


 どうやらランカの言う休憩ポイントが近付いてきたようで街道を外れ出す。草地をゆっくりと進んで行くと、やがて池のふちにたどり着いた。


「では、わたしは、この子達に食事をさせてきます。問題のほうは、しばらくしたらやってくると思います」


 ランカがエサやりにつれだした後は、しばらくは一人でのんびりとした時間を過ごしていた。


 ランカが何かするわけでもないが不思議と和む。ぼーっとするには最適なのか、ランカのそばは不思議と居心地が良かった。



バサバサバサッ 


「プヨンさん寝てますか?」


 寝てた。完全に熟睡していた。鳥葬になる夢を見ていた気がする。急に鳥が飛び立つ音とランカの声で目を覚ますことができた。



 野原の真ん中、野生生物に襲われるリスクもあるのに、ベッドの中のようにくつろいでいるとはにわかに信じられなかった。ただ、急に眼が覚めた理由はプヨンにもすぐにわかった。


「もうきますよ。ほら、あれですよ」


 指差す丘の向こうに頭が見え、すぐに全身が現れた。たしかに人よりはずいぶん大きく思える。小さめの巨人が2人立っていた。

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