レスリングの仕方3
目的も果たしたので帰ることになり、3人はもと来た道を引き返し始めた。
川の土手の上を歩く。
プヨンはさっきのアデルの肉体強化のことが気になっていたため、アデルにもう一度聞いてみた。
「アデル、さっき、気合を入れるって言ってたけど、どうやってるの?アデルは、もともと高く飛び上がれるの?それとも、もとは他の人と同じくらいだけど、気合入れたから高くなるの?」
「気合か?まぁ、もともと俺はけっこう体力はあるぞ。ふつうにしてても、まわりの人間よりは優秀なはずだ。一応こう見えても剣の教官ができるくらいだからな」
そう言うと軽く飛び上がってみせる。装備を身につけていても1mは余裕だ。
「だが何もしなければいいとこ2mくらいまでしか飛び上がれないが、本気出すと4mくらいまではいけるぞ。俺はできるぞ、絶対できるぞと念じるんだ。魔法も似たようなもんだろ」
(4mか。ちょっとにわかに信じられないけど、さっきもそれくらい飛び上がってたな。剣士同士の戦いって、もしかしてものすごいんじゃないか? もしかしたら俺にもできるのか?)
そう思っていると、アデルは気合を入れる前の入れないときの違いを見せてくれた。違いはなんとなくわかった。
「そういえば、プヨンはせっかく剣持ってきたのに、結局使わなかったな。ちょっと相手してやろうか。俺は教官クラスだが、特別にタダにしてやろう」
土手の上でアデルにそう言われた。
突然でちょっと戸惑ったけど、今まで剣を持ってみることはなかったし、これはいい機会だと思えた。
「え、いいの?でも、俺、剣を使ったことないよ。でも、ちょっとやってみたい」
と言いつつも腰に持っていた木剣をだして、構えてみた。アデルも自分の剣を抜く。
「おー、そんな感じだ。もうちょっと腰を落として、構えてみたらいい。まぁ、習うより慣れろでいこーぜ」
そう言って軽く剣を振り下ろす。
特に何か裏をかこうなどという意図もなく、すなおに振り下ろされた上、おそらくかなり手加減してくれているのか、ゆっくりとした動きだ。剣で軽く受けて流しながらよけることができた。
「お、やるじゃねーか。じゃぁ、こいつならどうだ」
アデルは笑いながら打ち込んでくる。それをなんとかよける。時々、こちらも試しに剣を振ってみる。当たり前だが、かすりもしなかった。アデルはあまり動き回らず、プヨンの攻撃を剣だけで捌いていた。
(あたりまえだけど、アデルは教官クラスだけあって、かすりもしないな。実際、盗賊とかで、アデルクラスにこんなふうに剣で襲われたら、逃げられないな)
そう思いながらも、せっかく初めて剣を扱うわけで、いろいろ攻め方を考える。フェイントや打ち込む方向を変えて試していった。
もちろん全部払われ避けられていたが。
アデルもまだ全力ではないが、少しずつスピードがあがってきている。それでもなんとか避けられていた。
アデルも少し息遣いが荒くなっている。
そうしていると、急にアデルの体がぽわっと輝くように感じられた。瞬間、さっきまでとは比べ物にならないスピードで打ち込みがきた。
プヨンは咄嗟のことで出遅れてしまい、体勢が崩れてよけきれず、かろうじて剣をあてることしかできなかった。
アデルの一撃は重く、プヨンの剣が木剣のせいもあり、ガスっと音がするとへし折れてしまった。
「あっ」
2人は同時に声を出した。
「ここまでだな」
どちらもプヨンの剣を折ってしまったことに気づき、反射的に声を出したようだ。アデルの言葉で訓練は終了だ。
アデルの最後の一撃はかなり強力だった。
「アデルさすがに強いね。歯がたたないし、剣が折れちゃったよ。」
「プ、プヨン、すまねぇ。ちょっときついの入れてしまったようだ」
アデルは今日剣を持ったばかりというプヨンに、剣を折るような一撃を与えてしまって申し訳なさそうにしていた。ただ心の中では少し驚いている。
(プヨン、こいつ初めてといいながらあそこまで避けるとはどういうことだ。素質があるのか。しかも最後、本気ではないが、けっこう気合入れたきつい一発を入れたのに、あれを受け止めてしまうとはな。その辺のふつうの剣使いのやつら相手なら、いい勝負するんじゃないか?)
やりすぎたという反面、なかなかやるなと感心していた。もちろんプヨンは気合なしの素の状態だったが、そこは気づいていないようだった。
アデルの好意の訓練も終わり、また3人は川の土手をとぼとぼと歩く。
やがて陽が傾きかけたころに町に着いた。
特に寄り道もせず、3人はレスルの建物に着き、中に入る。
室内は昼と違って一仕事終えたメンバーが戻ってきており、けっこう混んでいた。
その日の成果の報告という形の自慢や、明日の予定などを交えつつ、雑談してくつろいでいる数人のグループあちこちにある。
行きと同様、アデルはまっすぐカウンターにいき、受付のヒルマに話しかけた。
その日の成果のミメモム草を取ってきたということ、それをプヨンに教会に持ち帰ってもらうことを伝える。
また、朝方借りた木剣を折ってしまったことも詫びを入れていた。
もっとも剣自体はもともと放置品の木剣で、しかも使い込まれた老朽品だ。
ヒルマもそうですかと言ったくらいで、問題になっている感じではなかった。
そのあと、アデルは行きがけに頼んだ、プヨンの回復魔法の登録テストをしてくれるよう依頼した。
これも事前に連絡してあるので予定がされていたのかすんなりと進む。ヒルマはちょっと待つように言って、部屋の奥に入っていくと、すぐに戻ってきて用紙を渡された。
「これに、名前と年齢と書いて」
そう言われてプヨンは名前を書く。年齢は9だ。
ふと横を見るとフィナも書いている。
(へー、フィナも書けるんだな)
そう思って年齢を見ると、
(え?1536?)
なんかおかしな数字がある。
「フィナ、年齢って意味わかってる?」
「わかるよ。春がきた回数でしょ?」
「え、まぁ、そうなんだけど。じゃぁ、1536ってのは?」
プヨンはフィナの木の姿を思い出す。
プヨンと背丈が変わらない、1mちょっとくらいの背丈だったはずだ。
(フィナって、1m30cmくらいの木だったよね?あれで、1536? 1536年ってこと? 年齢おかしくないか? その年であんなちっさいの?いくら木でももっと育つんでは?)
いろいろ思うことがあったが、とりあえずフィナにはこれだけは言っておこうと思った。
「フィナ、同い年にしといたほうがいいと思うけど」
「え?ちゃんと書かなくていいの?」
「う、うん。ちょっとその数字はないと思う」
「わ、わかった。じゃあちょっとなおす」
フィナは数字をペンでぐちゃっと塗りつぶして9と書き直し、ヒルマに紙を渡した。
(なんていうか、間違いにしてもおかしいけど、まぁ、いいか)
深く考えないことにした。




