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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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警備活動の仕方 1


 休み明け、また学校の授業の日々が始まる。起きて同部屋のメサルを見ると、首筋のところに礼のマークがついていた。ユコナの『ち』スタンプだ。


「く、首のところどうしたんだ?」

「くび?」

「いや、な、なんでもない」


 プヨンはなぜスタンプがついているのかと思ったが、どうやらメサル本人は気づいていないようだ。誰の仕業かはわかっているが、プヨンも深く追求しないことにした。


 食堂脇の掲示板でそれとなく様子を探るが、石像を破壊した件や姿を見られたであろうマウアーも含め何も記載されていなかった。けっこう騒がしかったとも思うが、あれは通知するまでではないようだ。そこはプヨンはほっとしていた。まぁ、毎日遊び半分の挑戦者がいるんだから、いちいち書かないレベルのことかもしれないが。


 一方で、食堂、教室、屋外、移動しながら気にして見ていると、男女問わずすれ違う初年生の大半は『ち』付きになっている。


「うぉ、ユコナは手当たり次第だな。とうとう一線を越えてしまったのか」


 見たときは思わずつぶやいてしまったが、なんとヘリオンと二ベロにも印が見えた。


 誰がとは特定されていないが、それなりに話題なっていそうだ。もちろんユコナがやったのは間違い無いのだろう。

 少しやりすぎじゃないかとは思った。そこまでするユコナに何か心境の変化があったのかもしれない。ただ、ユコナなら準備次第ではやるかもしれない。そんな気がした。


 プヨンは慌てて自分の右手を見て『ち』がついていることを確認する。よかった。これで自分だけ浮かなくてすむ。自分もやられたと言えると思い、少し安心した。



 噂をしたわけではないが、ふと見ると目の前をユコナが通り過ぎていった。ユコナもプヨンに気づいたようで呼びかけてくる。


「あれ?ユコナ。首のところどうしたの?」


 ふと見るとユコナの首筋にも『ち』スタンプがある。一体どういうことかと思ったら、


「あぁ。誰かにやられたみたい。誰の悪戯なのかしらね。けっこうやられてるみたいだけどプヨンは?」

「え?あ、あぁ、俺も手のひらにあるよ。闇夜の男子トイレで怪しいものに襲われてね。気がつかなかったよ」

「え? 男子トイレで? いつの間に?」

 

 実際はユコナが油断しているときに、プヨンが自分でつけたものだ。

ただ、ユコナが一瞬あてが外れた顔をしたのをプヨンは見逃さない。天の声でも聞こえたのか、ユコナの計画がただの杞憂でないと確認した。プヨンを犯人に仕立てるつもりだったのだろう


「さすがホワイトクリミナルのユコナだ」


 『ホワイトカラークリミナル』が、以前ユコナがレスルに登録したグループ名だ。いつか知能犯罪・完全犯罪達成をするという野望からとったと言っていた。

 それを思い出してプヨンはつい呟いてしまったが、ボソッと漏れただけなのでもちろんユコナに聞こえていない。


 ユコナはプヨンの手を見て計画が狂ったのか動揺したようだが、即座に冷静に戻れる点、ユコナも智将にふさわしい素質があるのかもしれない。しかもその動揺はプヨンでないと見過ごすレベルだろう。


 あらためてついていない人間を見ると、パッと見渡せる範囲だとサラリスとマウアー、あと2、3人くらいだった。

 

 


 授業は前週と大きく内容は変わらない。午前は前週と変わらず力の加え方、かわし方が中心でより対戦式になったくらいだ。


 そして、午後は座学で屋内に戻る。


 待機していろとのことだったので、みな教室で待っていると、ついさっき食事をした後にもかかわらずまた料理が運ばれてきた。

 見たところ美味しそうなサラダではあるが材料が雑だ。生ハムと大根のような根野菜のサラダだが、ドレッシング等はなし。そして横にまな板と包丁もあった。

 

「さっき食ったばっかりだよ」

「もうお腹いっぱいなのに?」


 皆がいぶかしがっているなか、教官が入ってきた。


 先頭が変わっている。朝はハイルン教官だったが、いつもは後ろに控えているワイセ教官が意気揚々と歩いてくる。器用に、歩きながらくるくると指先で包丁を回転させている。すっとんできそうで怖いくらいの勢いだ。


「今からあなたたちの夕食を配ります」

「えぇぇ、もう?」「今は入らない。無理よー」


 どよめきが走るがワイセはざっと周りを見渡すだけだ。そんな声は想定通りとばかりに無視し、淡々と説明が続いていく。


「今日から回復力の訓練『3分クッキング』をします。やり方は簡単。クッキングされた料理を元の素材にもどしてください。今日は初回だから簡単ハムサラダよ。肉をつなげて元に戻す。また切る。余裕があるなら2回目からは焼いたり、みじん切りにしてもいいわよ。焼いて生に戻す。治療しすぎてバテないように気をつけてね。16時になったらドレッシングを配るから、最後は美味しく食べちゃってください」


 超ハードな回復魔法を3分間使い続け、治せるだけ治していく。言い換えると3分ダッシュをひたすら繰り返すような体力消耗と回復技術の向上両方を目的としたハードな授業だ。


 回復魔法は生まれながらにして本能で使える、基本中の基本だ。魔法をかける相手が自分で超スローでいいのであれば、誰にでも使える回復能力だ。あとは他人にも効果があるか、早いか遅いかをどう改善していくかだ。


皆、大なり小なり治療の心得があるのか、全く治療ができず、手が付けられないというものはいなかった。こまぎれの肉ハムがゆっくりとくっつき、大きな塊なっていく。


 ただどのくらいで治したらいいのかわからない。手近なものに合わせるのが無難と思えた。

プヨンも教会にいたときから回復練習をしていたが、メサルもなかなか動きが流れるようで無駄がなく洗練されていた。追い抜いてもよかったが、ちょっと距離をあけて流すにはちょうどいいペースだった。


メサルがずっと何か礼拝の祈りのような文言を呟く横で、


「クルッ」


 プヨン流回復魔法のクルをつぶやいてみる。


 へんに早すぎても目立つだけ。つい無意識にペースが早くならないように、横のメサルを見ながら治療のペースを合わす。走るときにトップにならないように真後ろに立つ感じだ。



「よっし、できた。どうよ」

「あ、うん。俺も、似たようなもんだな」

「そうか。まぁ、プヨンだしな」


 メサルのペースに合わせていたプヨンも2秒ほど遅れてできあがる。横を見るとメサルが納得したようにプヨンを見ている。何か期待していたようだ。


 メサルにあわすと30秒弱か。戦闘中では遅すぎて使い物にならない気がするが、怪我人を後方に下げた場合なら、切り刻まれた怪我を治すには使えなくもないだろう。


 しかし、やはり戦闘中なら3秒以内で治したい。


 現時点でも小さい怪我ならできないわけじゃないけど距離と範囲が全然足りない。治療速度と効果の改善は当面改良し続けないとな、などと考えているとまわりが注目していることに気づく。


「はやっ」「え? もう?」


 プヨンはメサルを甘く見ていたかもしれない。メサルのペース自体が速すぎる可能性をあまり考慮していなかった。


 そうするとメサルにあわせたプヨンも周りから見て早すぎたようだ。


 しかし当のメサルはちょっと照れている程度で余裕を感じる。


 言われ慣れているようで、プヨンからその余裕ぶりに貫禄があるように見えた。治療なら俺にまかせろとばかりの安心感がある。それがさらに治療効果を高めてくれそうに思えた。


 3分後にハムと野菜をくっつけてもとの形に戻せていたのは、メサル以外ではヘリオンくらいだ。さすが二ベロ殿下お付き。彼自信が相当高位な出自であるから、本来なら彼を護衛する人間がいてもよさそうなものだが。

 ユコナやサラリス、ターナ達はまだゴールも見えていそうにない。やはりメサルは断トツだった。



 3分間休憩をはさんで、2周目、3周目、だんだんというか、急激にまわりが疲労しているのがわかる。こんなペースでは1時間ですら授業ができそうにない疲労度だ。


15分経ち、3回目の治療がはじまった頃には、メサルも言葉遣いが怪しく、ほぼ無口になっていた。目も少しうつろだ。


 まだ、授業は午後全部だから、たっぷり2時間以上残っている。みなが無事今日の授業を生き残れるのか怪しいが、教官もあまり厳しくは指導していなかった。自分のペースでやればいいということなのだろう。全員が静かになっていく中、変わらず談笑し続けているのは、ユコナとサラリスだけだった。


 そうなるとみなの防衛方法はおさぼりモードとしかない。少しずつへたり込んでいく生徒も増えていく。


 プヨンもあまり目立たないようにメサルに合わせるのはやめた。自分の食材を治すのはほどほどにして、プヨンは少し離れたところにいる、バテバテの別生徒の食材をこっそりと回復させ、距離と時間を測りながら遠隔治療の効果を見究めていた。


「クルクルクルクルクルー」


 遠隔治療魔法クルの連打だ。クルクルといつもより余計に回してみた。


 思ったよりもできている。触れずに効果が届くのは15mくらいが限度のようだが初回にしては上出来かもしれない。3秒で治せりのはだいたい5mくらいが限界だとわかってきた。


「そうか。治すだけなら、生態組織があればこんなものでも練習できるんだな」


 これはいい練習になった。やろうと思えば自室でもどこでも簡単にできそうで、今までやっていたような痛い思いをしなくてもよくなりそうだ。



 日が暮れてきた。

 歩くだけでも半日歩くとそれなりに疲れる。夕方にはみなヘトヘトになっていた。というか数回切り傷を治すと皆疲れ果てていた。


 この時点で治療のペースは別にしても、多少なりとも治療を続けているのは数人。要領がいいのかサラリス、ユコナ、そしてメサルあたりが立っているだけだ。ヘリオンも含め、残りはそこかしこでへたり込んでいる。中には寝ているものもいるが、教官も黙認していた。


 唯一、メサルだけはプヨンと同じで普段から治療でもしていたのか、疲れにくいコツを掴んでいるようで、時折やすみながらも時間いっぱい治療し続けていた。

 もちろんプヨンも治してはいる。自分の肉は治さず他人の肉の治療だが。


 疲れて倒れているものの細切れになった肉をこそっと遠くから焼く。火傷部分を生に戻してくっつけるのが難易度が高かった。遠隔治療は、傷部分を寄せ集め、うまく縫合するのが難しい。

 これはプヨンでも時間がかかる。ひたすら何度も繰り返したが、切り傷以外の追加症状が加わると5秒は切れなかった。



 さぁ、もうそろそろ授業も終わりだ。


 そう思った頃、これ以上はやる気を感じられないサラリスがのんびりと近寄ってきた。


 最初はサボる気満々でしゃべりにきただけかと思ったが、何やら薄ら笑いを浮かべている。ただの雑談ではなさそうな気がした。


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