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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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学級活動の仕方 3


 プヨンは飼育室の一つ、植物用の温室にいる。


 温室は広いがそれでもせいぜい教室程度。中にはターナと少し離れたところに華奢な青年が立っているのが見えた。

 種族のせいかターナにも上品な雰囲気があるが、それをはるかに凌駕するような神秘的な雰囲気の好青年だ。


 しかし、出てくる言葉は見た目に合わない毒々しさを含んでいた。


「ふ。言ってもわからぬ小娘め。そなたのような毒々しい女は、これで化粧するがよい。食らえサブフラーバ」

「うわっぷぷ」


 何やら茶色い粒子状のものを吹き付けている。


「ククク、ドクガ大好きフェロモンだ。しみるぞ。汝が瞳を涙で溢れさせてやろう。女の涙は最強の武器だからな」

「あんな熱に弱い毒。私の『ヒートデナチュレ』を使えば、ボボっと熱変性で分解解毒よ」


 何やら交戦状態のようだ。ターナは飼育相手と揉めていた。


 物理攻撃の応酬の代わりに舌戦が展開されている。かなりの接戦のようで甲乙つけがたかった。もちろん底辺レベルだが。


『もっとミネラルを入れろ』、『ほーら、夜ご飯の純水よ』、『冷や水は体に悪い。ちゃんとあっためろ』『わかったわ。あんたを薪にしてお湯にするわ」


などとやり合っている。


 面白がって見ていたが、


「なぁ、フィナツーはあれが何か知っているのか?」


 カバンから這い出てきて肩に座っているフィナツーにぼそっと聞いてみる。フィナツーの中身はフィナだから、何かしら知っていそうだ。


「あぁあの右側ね。あれはフラワーノーズね。匂いに敏感なの。臭い魔法も使うわよ。なぜかずっと前からこの学校にいついているって聞いたわね。なんでかしらね」


 フィナはどうやら存在を知っているようだ。


 そういえば飼育委員は何を飼育するのか全く知らなかった。

 まぁ、そのへんで人が飼う動物などの普通のものはいないと思っていたが、やはり癖があるし、擬態化や人語を話すとは、かなり知的生命のようだ。

 もちろん魔法も使っている。


 そうこうしていると奥からもう一人なのかもう一体なのか、今度は女神のような厳かな女性があらわれた。


「これは、ヴィーナストラップ様。目が覚められたので」

「さよう。低俗な叫びでわらわの眠りを覚ますとは、そろそろ食事の時間か。3分間待ってやるから準備するがいい」


 そういうと腕が真ん中から裂け、大きな棘のある葉になった。手の指が伸びて、まるでハエトリソウのような葉になると、何やら耳を澄ましているように見えた。


バクッ


 しばらく腕を振り回していたかと思うと、飛んでいた小鳥を捕まえる。葉の中で鳥がばたついているのが見えた。

 これも飼育対象なのだろうか。



「これが今日のエサかえ? ここはろくな食事が出ないから、こうせねばならぬ」

「くっ。二大やっかいものめ。そこまで言うなら、トイレ脇に植え替えてあげるわ」

「なんということ。汝らのような汚物内蔵タイプとは違い、わらわはトイレなど行かぬ」

「そうだ。腹黒い生き物よ、身の程をわきまえよ」


 ヴィーナストラップにフラワーノーズが同調し、それにターナがやり返している。


 新入りだから押し付けられたのか交代で対応しているのか、まわりには誰もおらず1人で対応していた。 

 ターナはプヨンの見る限り意外に働き者で、文句は言いながらも体は動いていた。



 しばらく野次馬しているとターナ達はこちらに気づいたようだ。まあ隠れもしないで突っ立っていたから当たり前だが。


「また、毒虫が湧いてきたな。くるなら土産に栄養剤の一つでも持って来い」

「さぁ、こっちにおいで、たべちゃうぞー」


 植物は大人しいという印象は間違いのようだ。はなっから好戦的だった。



「よかった。ちょっと、そこのプヨン。しっかり記憶して。これひどいでしょ。まったく私に好意を示さないのよ」


 ターナが文句を言うが、プヨンはまだどちらにつくか決めかねている。

 それとなく植物用の活力剤の瓶タイプ、モアナルア用に用意した残りのうちの一本をストレージから取り出して、チラチラと見せてみた。


「栄養剤ってこいつでいいのか? この『コンポスト』のことか?』


 植物用の活力剤の瓶タイプ、モアナルア用に用意した残りのうちの一本をストレージから取り出してチラチラと見せて見た。


ヒュッ、パシッ


 一瞬だった。数mは離れていたが、フィナツーが種族を教えてくれたフラワーノーズの指の一本がヒュッと伸びてきて、プヨンの手から薬瓶を奪っていった。


「うぉーー、これは、なんてうまいんだ」


 モアナルア用にプヨンがエネルギーを注いだ濃縮肥料を一気に飲んでしまった。


「見たでしょ、プヨン。ちょっと聞いて」

「え、いや、聞かなくてもいいから」

「いいから聞いて」


 ここぞとばかりにターナがフラワーノーズのことを話しだす。


「あ、叔父のものをうばった……。あーあ、しーらない。」

 フィナツーも呆気に取られていた。



「他はいいんだけど、この500歳の老害じじぃが鬱陶しいの。年も覚えてないようならもう火葬でいいわよね。こいつに比べたらあっちの危険動物達の方がよっぽどいい子よ」

「へ。小娘が。こうやって土産を持ってくるのが世渡りの秘訣よ」

「ふん。今度塩水をもってきてやるわ」


 アルフ族のターナは百歳を超えているんだったか、プヨンは二人の年齢談義を黙って聞いていた。

 物理的な毒性生物もやっかいだが、こういった精神面が疲れるメンタル毒性生物もやっかいだ。

 飼育委員もいろいろと苦労しているようだ。


 だんだんエスカレートしていく。


「トランスピレーション」


 葉のあたりから蒸散を利用した高温水蒸気が襲い掛かる。それを中和しつつターナが応戦する。


「じゃあこれを馳走してやろう。ペッパーシャワー」

「うわーうわー」

「ふふふ、これはわずかだが、心ばかりの除染だ」


 消毒のつもりなのか、フラワーノーズの放つとうがらしのような赤い粉末がターナの顔に襲いかかる。


「目がー目がー。プヨン……きっと仇を取って……」


 唐辛子の粉末ようなものだろうか。ターナは涙を流しながら悶絶していた。必死で水を出して顔を洗う横で、


バシン


 何かが閉じる音がした。音の方向を見ると、外見だけ女神のヴィーナストラップが再び食虫葉で小さな鳥を捕まえていた。

 そのうちこの美貌で人も食べるんじゃないか?ターナの飼育委員活躍を祈るしかなかった。


「飼育委員もなかなか大変そうだな。こんだけ自由ならなんでこいつらは逃げないんだろう」


 居丈高な割に、フラワーノーズもヴィーナストラップも大人しく飼育されている。ここに留まっているのが不思議ではあった。



 ターナは放置して、フィナツーと中を散策していると、フラワーノーズが再び近づいてきた。


「さっきのはもうないのか?あれはどこで手に入れたのだ?」

「あーあれは人間用回復薬と同じだよ。魔力をぎゅーっと練り込んだやつだよ。モアナルア用に作ったやつだよ。まだあるけどいる?」


 そういうとフラワーノーズの葉色が一瞬で緑から赤くなる。ヴィーナストラップも震え出した。


「な、ん、だ、と。モアナルアとはモアナルア様か。おい、お前。いや、その飼育委員殿は、お会いになったことがあるので?」


 急に態度が変わる。


「別に行ったら誰でも会えるだろ?」

「あ、あの威圧風の中を近づくのは無理ですよ。普通は寄るなとばかりに吹き飛ばされますよ」


「そんなことなかったけどなー。フィナツー、どうなってるの?」

「それはフィナがきたからよ」


 それはそうか。身内の気配を感じたら、風も弱まるというものだ。しかし、フラワーノーズはその名を聞いて顔が引きつっていた。


「フィナ……嬢だと?」


 フラワーノーズはフィナの名前を聞いて、次の言葉が出てこない。


「フィナも有名人?有名木なのか?」

「モアナルアはこの辺の守護樹だからねー。わたしも顔見知りはいるけど」


「へーでも、さっきモアナルアへの貢物奪って飲んでたよ?」

「へ?」


 すでに根から吸い上げ、フラワーノーズはほぼ空になった瓶を見つめる。


「お、お返ししま、す」


 空き瓶に申し訳程度に残った栄養剤を返された。


「吐き戻すとかしたら燃やすからな。料金は後程フィナツー商会名で請求しますので」

「そ、そんな。おやすくしてください」


 フィナツーが秘書もどきとして概算を伝え請求金額を伝え、フラワーノーズは平身低頭し、金額に目を白黒させている。

 まあどこまで本気かは知らないが。


 フィナもそうだが、彼らはどこで金を手に入れているのだろうか。不思議だ。


 もっとも、いじめるのはほどほどにして、プヨン達はしばし歓談する。今日の3体の植物の中ではプヨンはマイノリティ、人外に囲まれて不思議な感覚だった。


 しばらく話をするとフィナも長寿樹として名は知られていることがわかる。まぁ、フィナの年齢からすると、知られていても不思議ではないのだろう。


 フラワーノーズは、


「くれぐれも薬瓶のことはご内密に。今度からお越しの際は是非お声がけを」


 と、目のあたりから水分を分泌し、涙目を演出していたが、飼育委員の言うことを聞くことを条件に折り合いをつける。


 一方のヴィーナストラップは今度美味しい蜜を用意しておくからねと、仕切りに色気を振りまき、胸先あたりを示していた。


 「花水じゃないから安心してねー」


 色気が充満したあたりは怪しいえちえちなオーラ、『えちーら』で満たされている。なんとなく空気がピンク色に見えてしまう。


 プヨンが雰囲気にのまれないようにする横で、


「あぁぁぁ、ぁあぁ」


 ターナはまだ目が痛そうだった。


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