学級活動の仕方 2
今更ながら気づいたことだが、ここは広めの原っぱ、芝生のような場所だ。
どうやらここは旧校舎そばにあった広場のようだ。実習などにも使われていたのだろう。もともとそれ用の場所だから、モウロウはここで演習をと言い出したようだ。
プヨンは大地に寝そべったまま、水で鏡を作って景色を映しそれとなくまわりの様子を見る。
すでに小蜂はいない。本体の蜂二匹はまだ動いているが、飛ぶ気力はなさそうだ。もがいているが危険はないと思われた。
もうプヨンは何もしていないが、サラリスはじっと突っ立っている。この状態をヘリオンから見ると、プヨンは倒れて残って立っているサラリスがすべてを防いだように見えるだろう。
プヨンが防いだことは恐らく誰にもバレていないはずだ。
プヨンはうまく凌ぎ、結果的にヘリオンが危急に対応して、すべての蜂をを打ち落としたと見せることができた。
当のサラリスやヘリオンには何が起こったかわからないが、誰が見ても上級生とヘリオンが立っていて、プヨンは寝そべっている。功は彼らに帰するはずだ。
「ふふふ、これで能力は確認できて面倒ごとはなし」
実験も成功し、思惑どおりで笑みがこぼれるプヨンだった。
サラリスは恐らくプヨンとユコナが何か隠しているのは気づいているはずだ。確証はないだろうが、それが脱出関連だと疑っているだろう。その腹いせにヘリオンを挑発して、プヨンですべてを受け止めさせようとした気がした。
のけ者にされたと拗ねているのだろうか。かわいいといえばかわいいが、もしプヨンがヘリオンの一撃に耐えられなかったら相当痛い思いをしたはずだ。そんな悪女サラリスにはそれ相応のお礼をする必要があると思うプヨンだった。
一方モウロウ達も座り込んでしまっていた。誰も何も言わないがそろそろ潮時だろう。演習は終了のようだ。プヨン以外の3人はずいぶん疲れているのが一目でわかる。
さすがにこの状態からもう一戦はなさそうだ。もうそろそろ立ち上がってもいいかなと思ったプヨンは、ごく自然に何ごともなかったかのように立ち上がる。
「おぉ? なんだ? 大丈夫なのか?」
「いや、さすがですね。ありがとう。助かりました」
プヨンもすぐそばまでやってきていたヘリオンと目があった。もしかしたら、口をきくのはこれが初めてかもしれない。
ヘリオンは倒れていたプヨンの治療でもしてやるかと近づいてきたようだが、それなりの地位に立つ者の自覚からくるのか、誰も怪我をしていないことを見て安心したようだ。プヨンの謝意は軽く流され、何か納得いかなそうではあったが、ヘリオンはぶつぶつ言いながら元いた場所に戻っていった。
プヨンはヘリオンの反応を見て一瞬立ち上がるのが早過ぎたかと思ったが、下手に何かをしてもかえっておかしいと思う。
誰も怪我がなく、モウロウは怪我人を出さず、ヘリオンは攻撃力を、そしてサラリスは防御力を見せることができた。プヨンも目立つことなく生還した。みなそれぞれいいところが出たとプヨンは勝手に満足していた。
プヨンは立ち上がり、疲労回復のためサイドカバン内のフィナツーの脇においていた携帯の干し苺を取り口に含む。サラリスにも上げようかともおもったが、すでに誰かがかじった歯形がついていた。
フィナツーがかじったのだろうか。仕方なく自分で全部食べ、これで『干し苺作戦』完了だ。
一応、ちょっと脅しをかけるため、盾にしたサラリスを誉めそやす。
「やるなぁサラ。助けてくれてありがとう。怖かったから助かったよ」
「え、あ、うん。ちょっとびっくりしただけ。あんな程度ではなんともないわ」
ようやく落ち着いてきたサラリスが、とっさに強気で反応する。内心はわからないが、外見ではサラリスは精神、物理とも大してダメージは受けていないようだ。
ただ、『あんな程度』という言い方に、聞き耳を立てていたヘリオンがぴくっと反応する。
それでも、口ではそういうもののサラリスは相当焦り、恐怖を感じたようだが、そこは先に仕掛けてきたサラリスにそれ相応のお返しをしただけで問題ないはずだった。
念のためそっとサラリスに近づきぼそっとつぶやいた。追加効果のスキルを発動させる。
「びびって、ちびったなら言えよ」
無言のままサラリスの目が光る。
「するわけないでしょー」
目から怪しげな怪光線を放つと同時に、プヨンは吹きとばされた。空中飛行をプレゼントされ、3秒ほど飛行を楽しみ、旅先での右ひざの打ち身と擦り傷を土産にした。
プヨンが土産をすべて治療してしばらくすると、校舎探検組が戻ってきた。先ほどの『ワスプ』の死体を見て相当驚いている。
「も、申し訳ありません。遠くからの観察にとどめ、刺激を与えるつもりはなかったので、直掩蜂の警戒を怠ってしまいました」
「いや、いい。問題ない」
どうも巣の上空を警戒していた直掩蜂を刺激してしまったのかもしれない。彼らが襲われなくてよかった。
モウロウとヘリオンにはしきりと謝罪と感謝をしていた。
モウロウは上級生同士で話し合いをしている。
大型の蜂の巣がいくつか確認されたようで、他にも『グロスエイト』の巣が確認されたと報告していた。
低レベルだが正面の音を遮断したり迷彩能力が使える二年生がいたようで、偵察行動を行ってきたようだ。他にも弾丸ウサギでも突き破れないほどの強固な網を張る、大型クモの『クラウドワークス』の巣も除去してきたらしい。
「あっちはあっちで面白そうだったかもねー。討伐隊が出るなら応募しようかな」
さっきまで消耗していたサラリスだが、幾分気力が回復したようでいつもの陽気さに戻っていた。
再集合した後は無事に学校に戻り解散する。帰りも時々先頭付近が羽虫や大型のもぐらのような地中生物に出くわしたが、基本的に退治することはしない。追い払うだけでなんとかなった。
校舎エリアに戻るとサラリスは用事があるらしく、部屋に戻ると言ってさっさと行ってしまった。
まだ夕方には少しだが時間もあるので、まっすぐには戻らず周辺部をうろうろとする。ちょうどこのあたりは飼育エリアのはずだ。
「ぎゃー、さっさと動きなさい。このジベレリンの老いぼれが。炭焼きにするわよ」
「ふ。このかぐわしいフェロモンの香り。この俺の魅力がわからぬ胸なーしーめ。ガキンチョは乳母車もって来い。乗せてやる」
「ふん。毒蛾ばっかり招き寄せるくせに。根こそぎ葉を食われなさいよ。入れ葉にしてやるわ」
突然エリアのはずれにある温室から、ターナの罵声が聞こえてきた。老いぼれと乳母車とはおかしな問答だが、一体誰ともめているんだろう。そっと中を覗いてみた。
部屋の中には、ターナと少し離れたところに、ちょっと人とは違う変わった雰囲気の青年が立っているのが見えた。




