学校案内の仕方 3
時間になったが、残っているものはほとんどいなかった。残っていたのは取りまとめの上級生のモウロウと同級生ではヘリオンの二人だけだ。
「なあ。こっちにしたはいいけど、俺たちしかいないよ?」
「そ。そうね。でも仕方ないでしょ」
「もしかして俺たちが残らなかったら、全員校舎に行けたのでは?」
「その怒りをぶつけたらいいわ。いいところを見せましょう」
普通に考えたら、危険がないなら初見の場所に行く方が面白いだろう。校舎裏は危険が多いし、参加人数もあって上級生も多めに配分されたようだ。
「今回はできるところを見せたほうがいいかしら? それとも守りたくなるようなか弱さが大事かしら?」
サラリスはヘリオンにいいところを見せたいようだが、下手に強く出すぎて彼のプライドを傷つけてもいけないと悩み多き乙女を演じている。
いっそここは強きを助けて3:1でサラリスを挫くか、などとプヨンが考えていると、
「じゃあ、2:2でやりましょう。ルールは特にないけど、実体化系の魔法は危ないからやめておきましょう。威力よりは戦術で」
実体化というと語弊があるかもしれないが、要は触ることができるかだ。言い換えると気体か固体・液体かの違いといえる。
例えば同じ熱さにしても、炎だけなのか溶岩のように実体があるのかで全然違う。
吹雪にしても、冷風だけなのか氷が混ざるかで効果も必要なエネルギーも段違いだ。
当然、実体化の方が威力がある分、エネルギーも百~千倍はいる。空気はすぐ温まるが、水はなかなか温まらないのも同じ理由だ。
結局組んだのは、ヘリオン&モウロウ対サラリス&プヨンだ。
まぁモウロウからしたら、ヘリオンと打ち合うのは気が進まないのはわかる。いくら上級生でもヘリオンがニベロと親しいことは知っているだろう。そしてニベロが誰かも。
模擬演習や競技会の試合ではヒットさせた攻撃やダメージでポイントが入ったりもするが、今回は指導魔法に近い。お互いの手の内の見せ合い程度や手順を確認するようなものになるから、組み合わせとしては順当と思えた。
開始後しばらくは様子見だ。ヘリオンは口数少なくモウロウの動きに合わせてサポートに回り、火球や寒気弾、空気弾を撃ち込んできた。
「チルズダン」「アサップ」「ルフト―ン」
皆好き勝手に自分がもっともイメージ化しやすい名前を叫びながら、冷気砲や火球の撃ち合いを楽しんでいた。少なくともプヨンにはそう見えた。
お互いに本気ではなく、適当に手数を打ちながら腹の探り合いが続く。
ふいにサラリスが寄ってきて耳打ちしてくる。何か作戦でもあるのかと思うが、ボソボソ声の上に走り回っているからうまく聞き取れない。
「作戦行動中だ。不明瞭な会話は控えよ」
「プヨンよく言ったわ。昨日どこに行ったか明瞭に教えて」
うっと言葉に詰まる。なぜこのタイミングで聞いてくるのか。そんなことはすっかり忘れていた。
うかつに答えると厄介なことになりそうだ。ここはとりあえず濁しておく。
「……トイレと食堂は行った」
はぐらかすために適当に答えてみた。
それを聞いたサラリスは、飛んできた火球を全て遮るとモウロウの方を向き真顔になる。
「手ぬるいです。そんなことではプヨン如きに出し抜かれてしまいますよ」
「な、何?」
突然叫んだサラリスにプヨンは驚きの目を向ける。お前はいったい何を挑発してるんだと。
「全力で打ち込んでください!」
わざわざ念押しまでする。ヘリオンも面食らっているが、急にキリッとした表情になり、
「よく言った。直々に確かめてやろう。モウロウ二年生殿。受けて立ちましょう。次は全力で」
よくわからないままに、モウロウも気圧されたのか言われるがままにうなずいていた。
サラリスが宣言した手前、もう引くことはできない。
プヨンが雰囲気にのまれないように落ち着こうとしていると、サラリスがボソッと囁いてくる。
「知ってるかしら? 昨日侵入者が湖からきたらしいけど、侵入手段はやはり船かしら。どこに廃棄したのかしら?」
船という単語に、反射的に昨日脱出のとき使った氷船が頭に浮かんでしまい、ビクッとしてしまう。
一瞬サラリスが記憶を呼び覚ますために放った精神攻撃と思ったが、そんな魔法はないはずだ。
しかし、プヨンは顔に出たかとついあたふたと怪しい行動をしてしまう。サラリスのように少々のことには動じない強いメンタルが必要だ。
同時にヘリオンが大量の雹弾を放ち、モウロウも同数以上の岩石落としを仕掛けてくるのが見えた。
実態のある魔法だ。どうもサラリスの挑発を真に受けてしまったようだ。
「それにしても出入りの証拠とかもないらしいわよ。泳いできたわけじゃないだろうし、船ならどこに廃棄したんだろう?」
プヨンはサラリスが飛来する攻撃にどう対応するかを考えていて集中力が抜けていた。頭に浮かんだ自分の出した氷船についてつい答えてしまった。
「沈んだよ。潜行しすぎてな」
「ほう?」
「あっ」
しまった。さも知っていると思われてしまう。話題を変える必要がある。
「サラ、撃ってきたぞ。どうするんだ」
サラリスは構えなおし迎撃のため前方に目をやると
「連携もよくやりますね」
とつぶやいた。しかしサラリスは一瞬目を向けただけだ。こちらの方が重要とでも思っているのかサラリスは動じない。
「隠すことはありませんでしたね、プヨン」
ある程度分かった上で聞いているのだろうが、自白する気にはなれない。
「実は……昨日の晩飯は雑炊だった。苦手な山羊乳を残してしまった。見逃してくれ」
山羊乳はわりとあっさりした味わいではあるが、独特の匂いがあってプヨンは苦手だった。
しかし、事実を正しく伝えたにもかかわらず裏目に出たようだ。
「やむを得ないわね。焦点ずれの弁解工作が何になるか?」
サラリスは大きく息を吸い何かをしようとしている。プヨンはヘリオンの雹弾を防ぐべく身構えた。
「プヨンでできるもんね。プヨンシールド!」
とたんにプヨンは頭に強い力を感じた。
サラリスが何かしらでプヨンを抑え込んでいるのだろうか。プヨンの頭は空中で固定されたようになり、その場に立ったまま動けなくなってしまった。
そしてサラリスはプヨンの影に隠れる。
「ちょ。冗談はよせ!メシは雑炊だったんだ」
「意外とお料理がうまいようで」
ガシィ
サラリスがよくわからない返答をする中、さらに押さえつけられる。
目の前に軽く20発はある雹弾が迫る。
このままではプヨンに直撃だ。サラリスは本気でプヨンで防ぐ気のようだ。
「お慈悲を。助けてぃ」
「乳残しの罪はたとえ雑炊であっても免れることはできない」
「乳と雑炊とかそんな組み合わせで食えるか!」
「不服があるのなら、この戦い終了後、本棚の本を読めぃ。『食材ロスの重要性』だ」
バサバサバサッ
そんなやり取りの中、突然森の中から仔馬程度の大型の蜂が2匹現れた。
「あ、あれは、『ワスプ』だ。肉食性の蜂だ。腹に腹載蜂を抱えているぞ、気をつけろ」
モウロウの叫びが聞こえる。
ワスプは毒はほとんどないが、強力な顎で肉を引きちぎって食べる獰猛な蜂だ。
そして腹部のポケットに大量の腹載蜂、腹内に小蜂を抱え込み最高76蜂の記録がある。
本体は1匹でも小蜂に一斉に囲まれると危険この上なかった。
ヘリオンとモウロウは、プヨン達に魔力弾を打ち込んだばかりだ。即座に次に魔法で対応できず避難しはじめたようだが、疲労のためか驚きのためか動きが鈍い。
もちろん普通にしていても蜂のほうが速い。逃げても囲まれる危険性があった。
ちょうどサラリスの魔法のせいで、プヨンもサラリスを庇うように仁王立ちしている。
サラリスもワスプに気を取られて注意が散漫になっている。同時にワスプの両脇にある腹嚢から、大量のスモールボールと呼ばれる小蜂があらわれる。
プヨンはサラリスの足元を見つめふと気づく。サラリスは自分の足や体は固定していない。
「アサップ&スワップ」
「え? ちょっと待って」
蜂の動きを見ていたサラリスは、自分の足元が完全にお留守になっていることに気づいた。
足元に火球を打ち込んで砂埃をあげ、まわりの視界を遮った後、サラリスを持ち上げプヨンの目の前に移動させてやった。今度はサラリスが盾になる。
「待ってったら。ワスプよ。戦闘は中断でしょ」
「サラリスはやはり許せぬとわかった。そのケツでなんとか防げ!」
自分が盾にされる可能性は考えていなかったのだろう。サラリスが慌てたせいでプヨンへの縛りも完全に解けている。反撃の時だ。もちろん簡単に許してやるつもりはない。
前方の蜂がくる上に、横からは雹弾と石弾も目前に迫る。
「俺の脱出15秒後に降伏するがよい。どりゃー」
「降伏後、私の体は? 無事なのー?」
プヨンはサラリスの抗議は無視するが、動けず足が震えているサラリスには情けをかけてやる。
サラリスの前に薄い防御壁も張ってやった。
「ま、待って待って。っひゃー。私が生き延びねば……失われる……」
慌てふためくサラリスだが、モウロウとヘリオンの攻撃は打ちっぱなし弾のはずで、誘導攻撃ではない。
防御魔法訓練で授業があったように、軌道を変えられるはずだ。
「オートトラッキング」
蜂の羽音に向かうように、自動追尾をしかける。ヘリオン達の雹弾は途中で軌道を変え、全弾ワスプへと向かう。
大型のワスプ本体2匹はそれで打ち落とすが、それでもスモールボールはずいぶん数が残っていた。
火系魔法がないからだ。
「ブルーワール」
手加減しながら、窒素からエネルギーを取り出し完全燃焼の青い炎があがる。
幅20m程度の小さめの火災旋風を放ち、ほぼすべての小蜂を撃墜した。
全員の視線が蜂に集まる中、プヨンは地面に倒れていた。
風が吹き砂埃が晴れてくると、突っ立ったままのサラリスが現れる。
念のためサラリスの前には防御壁も張っておいたが必要なかったようだ。
サラリスは膝が震えているだけで、蜂からの実害はないようだ。
サラリスのため、初めて等身大サイズでシールドを張ってみたが予想どおり強度は申し分ない。
しかし少し集中力が落ちていることもあり、これを常時展開し続けるのは骨が折れそうなこともわかった。
プヨンは倒れたままの状態で状況を観察し続けていた。まだ起き上がらないほうがいい。
一方でヘリオン達から見ると自分の攻撃が勝手に曲がり、自動追尾のように蜂に向かっていったことになる。その結果、大型の蜂は石弾などで打ち抜かれ、地面に打ち落とされた。
そして小蜂もどこからともなく現れた青い炎で壊滅だ。残りはどこかに逃げていく。
モウロウがやったかと思ったが、あの狼狽した感じではどうやら本人でもなさそうだ。何がなにやらわからなかった。




